第104回(H30) 保健師国家試験 解説【午前1~5】

 

※問題引用:第104回保健師国家試験、第101回助産師国家試験、第107回看護師国家試験の問題および正答について

※注意:解説はすべてオリジナルのものとなっています。私的利用の個人研究・自己研鑽のため作成いたしました。間違いや分からない点があることをご了承ください。またコメントにて解き方等教えてくださると幸いです。

 

1 保健師に関する歴史上の出来事と社会的背景の組合せで正しいのはどれか。

1.開拓保健婦の設置:外地からの引き揚げ
2.駐在保健婦制度の創設:社会恐慌や凶作による農村の荒廃
3.国保保健婦の市町村移管:第一次ベビーブーム
4.小児保健所での保健婦活動:富国強兵策

解答

解説
1.〇 正しい。「開拓保健婦の設置」と「外地からの引き揚げ」の組み合わせは正しい。開拓保健婦の設置期間は昭和22~45(1947~1970)年であり、戦後、海外からの引揚者や帰還兵の増加は食糧難をもたらし、開拓は国策として重要な課題となった。各地で増加しつつあった開拓農民(入植者)の健康管理を目的に、農林省の管轄で北海道や東北地方の開拓地に配置された。外地とは、朝鮮半島や台湾など、第二次世界大戦前の本土以外の領土を指す。業務内容として、①人々の保健・医療のニーズへの対応などである。開拓農民とともに暮らしながら業務にあたった背景がある。農民の生活水準の向上に伴い、都道府県保健婦に身分移管した。
2.× 「駐在保健婦制度の創設」は、昭和23~平成6(1948~1994)年であり、戦後、GHQの指導のもと、広く保健サービスを行き渡らせるため、保健所保健婦を市町村役場内に駐在させ、住民の健康相談、家庭訪問などの活動を行った。地域保健法の制定を気に駐在制は廃止された。地域保健法とは、地域保健対策の推進に関する基本指針、保健所の設置その他地域保健対策の推進に関し基本となる事項を定めることにより、母子保健法その他の地域保健対策に関する法律による対策が地域において総合的に推進されることを確保し、地域住民の健康の保持及び増進に寄与することを目的として制定された法律である。ちなみに、「社会恐慌や凶作による農村の荒廃」に組み合わさるのが、選択肢3「国保保健婦」である。
3.× 国保保健婦の市町村移管は、昭和53(1978)年である。第一次ベビーブームは、昭和22~24(1947~1949)年である。国保保健婦(国民健康保険保健婦)の設置期間は、昭和13~53(1938~1978)年であり、昭和4(1929)年からの世界大恐慌への対策として、「国民健康保険法」の交付とともに設置された。業務内容としては、①疾病の早期発見と衛生思想の普及、②学校における看護活動、③健康相談や家庭訪問、④急病人への対応などである。第一次国民健康づくり対策に伴い、市町村保健婦に身分移管した。ちなみに、ベビーブームとは、赤ちゃんの出生が一時的に急増することをいう。日本では、第2次世界大戦後、2回のベビーブームがあった。第1次ベビーブームは1947(昭和22)年から1949(昭和24)年、第2次ベビーブームは1971(昭和46)年から1974(昭和49)年である。第1次ベビーブーム世代は「団塊の世代」、第2次ベビーブーム世代は「団塊ジュニア」と呼ばれている。
4.小児保健所での保健婦活動は、昭和3(1928)年に日本で初めて大阪に設置され、保健婦が妊婦や乳幼児の保健指導を行った。目的は、小児保健所は乳幼児死亡の減少のためである。この保健所には、嘱託医1人と保健婦2名が配属され、来所相談と保健婦の家庭訪問による育児指導が行われた。対象者には貧困家庭が多く、生活全般にわたる援助が必要だった。富国強兵策は、明治時代(1868~1912年)である。経済を発展させて軍事力の増強を図る政策をいう。

 

 

 

 

 

2 保健師について正しいのはどれか。

1.保健師の記録の保存について保健師助産師看護師法に規定されている。
2.管轄する保健所長の指示を受けた場合はそれに従わなければならない。
3.保健師免許の申請には看護師免許の写しが必要である。
4.保健指導を業務独占としている。

解答

解説
1.× 保健師助産師看護師法に規定されているのは、「保健師」ではなく助産師の記録の保存についてである。ちなみに、『保健師助産師看護師法』では、助産録に記載し5年間保存する義務を助産師に課しているが、保健師・看護師については定められていない。保健師助産師看護師法(通称:保助看法)とは、保健師・助産師及び看護師の資質を向上し、もって医療及び公衆衛生の普及向上を図ることを目的とする日本の法律である。また、病院における診療に関する諸記録の保存は「医療法施行規則」に定められている。医療法施行規則とは、医療法に基づき、病院、診療所及び助産所の開設、病院、診療所及び助産所の管理、病院、診療所及び助産所の構造設備、診療用放射線の防護、医療計画、医療法人、雑則等について定めた規則である。また、地方公務員である保健師の記録は、その地方公共団体の管理施策に定められていることが多い。
2.〇 正しい。管轄する保健所長の指示を受けた場合は、それに従わなければならない。なぜなら、『保健師助産師看護師法36条』には「その業務に関して就業地を管轄する保健所の長の指示を受けたときは、これに従わなければならない」と規定されている(一部引用:「保健師助産師看護師法」e-GOV法令検索様HPより)。
3.× 保健師免許の申請には、看護師免許の写しは不要である。保健師の免許申請は、①保健師国家試験および看護師国家試験の合格証書の写しと②戸籍謄本または戸籍抄本を添付する。ただし、①保健師国家試験および看護師国家試験の合格証書の写しは、受験番号などを記載して省略も可能である。
4.× 保健指導を「業務独占」ではなく名称独占である。業務独占とは、国家資格を持たないものがその名称を用いて当該業務に従事することはできないこと。名称独占とは、無資格者は当該の名称を用いて当該業務につくことができないが、無資格者であってもその名称を用いなければ当該業務につくことができること。保健師の名称を用いなければ、看護師や管理栄養士などの資格でも保健指導ができる。

保健師助産師看護師法

第三十五条 保健師は、傷病者の療養上の指導を行うに当たつて主治の医師又は歯科医師があるときは、その指示を受けなければならない。
第三十六条 保健師は、その業務に関して就業地を管轄する保健所の長の指示を受けたときは、これに従わなければならない。ただし、前条の規定の適用を妨げない。
第三十七条 保健師、助産師、看護師又は准看護師は、主治の医師又は歯科医師の指示があつた場合を除くほか、診療機械を使用し、医薬品を授与し、医薬品について指示をしその他医師又は歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない。ただし、臨時応急の手当をし、又は助産師がへその緒を切り、浣かん腸を施しその他助産師の業務に当然に付随する行為をする場合は、この限りでない。

(一部引用:「保健師助産師看護師法」e-GOV法令検索様HPより)

 

 

 

 

3 市では、発達障害がある者の家族から、特別支援学校卒業後に地域で働きたいと希望しても周囲の理解が得られないので悩んでいるとの相談が増加した。保健師は発達障害がある者を支援する地域ケアシステムが必要と考えた。
 地域ケアシステムの構築を最も推進する活動はどれか。

1.家族会の設立
2.就労相談会の開催
3.ボランティアの育成
4.ネットワーク会議の開催

解答

解説

(図引用:「地域包括ケアシステムの構築に向けて都道府県と市町村に求められる役割」厚生労働省HPより)

ポイント

発達障害がある者の家族からの相談が増えた。
・内容:特別支援学校卒業後に地域で働きたいと希望しても周囲の理解が得られないので悩んでいる。
・保健師は発達障害がある者を支援する地域ケアシステムが必要と考えた。
→地域ケアシステムとは、住民が住み慣れた地域で暮らせるようにケアシステムを構築することである。地域ケアシステムの構築を推進するためには、保健・医療・福祉などのサービスを一体として提供することによって、対象者の支援と問題解決を図ることが必要となる。

第1段階:フォーマルなサービスの充実。
第2段階:関係機関及び地域住民の組織化。
第3段階:地域での支援のネットワーク化。

1.× 家族会の設立は優先度が低い。なぜなら、家族会は、同じ悩みを分かち合うための会であり、就労や周囲の理解を得られるよう外部に働きかけることは少ないため。家族会とは、精神障害者(例えば、アルコール依存症など)を家族にもつ人たちが、お互いに悩みを分かちあい、共有し、連携することでお互いに支えあう会である。 支えあいを通して、地域で安心して生活できるための活動を行っている。一方的に講談するのではなく、それぞれが相互的に話し合う会である。
2.× 就労相談会の開催は優先度が低い。なぜなら、設問特有の「周囲の理解が得られない」ことの直接的な解決とはなりにくいため。ちなみに、就労相談とは、専門の相談員が仕事探しの方法や心構え、資格・技能取得講座、履歴書の書き方や面接の受け方など就労に関するさまざまなことについて、相談に応じ助言を行うものである。
3.× ボランティアの育成は優先度が低い。なぜなら、設問特有の「周囲の理解が得られない」ことの直接的な解決とはなりにくいため。ボランティアのひとつに民生委員があげられる。民生委員とは、日本独自の制度化されたボランティアである。地域社会の福祉の増進図っている。任期は3年で都道府県知事の推薦を受けて厚生労働大臣に委嘱されたものである。市町村の各地区に配置され、①住民の生活状況の把握、②関係機関との連携、③援助を要するものヘの相談援助を主な役割とする。根拠法令は「民生委員法」で給与の支給はない。
4.〇 正しい。ネットワーク会議の開催は優先度が高い。ネットワーク会議とは、地域住民や関係機関が集まり、現状の把握と共有および問題解決のための共通認識が図られる会議のことである。会議の開催により、既存のフォーマル、インフォーマルなサービスを含めたさまざまなサービスがネットワーク化され、地域ケアシステムの構築が推進される。

 

 

 

 

 

4 平成27年(2015年)の労働力調査について正しいのはどれか。

1.女性の労働力人口は前年に比べ減少した。
2.女性の雇用形態は正規の雇用が約6割である。
3.労働力人口の総数に占める女性の割合は約4割である。
4.女性雇用者数に占める割合で最も多い産業は製造業である。

解答

解説

労働力調査とは?

労働力調査とは、総務省統計局が毎月実施しており、労働市場における就業状況、失業者、失業率の統計が公表されている。労働力とは、財・サービスという生産物を作るために投入される人間の能力のことで、肉体的なもののみならず、知的なものも含む。 

(※図引用:「労働力調査(基本調査)」総務省統計局より)

1.× 女性の労働力人口は、前年に比べ増加した。女性の労働力人口は2.883万人で、前年に比べ41万人増加している。労働力人口(15歳以上人口のうち、就業者と完全失業者を合わせた人口)は、2021年平均で 6860万人と、前年に比べ8万人の減少(2年連続の減少)となった。男女別にみると、男性は 3803万人と20万人の減少、女性は 3057万人と13万人の増加となった。また、15~64歳の労働力人口は、2021年平均で 5931万人と、前年に比べ15万人の減少となった。男女別にみると、男性は3252万人と20万人の減少、女性は2679万人と6万人の増加となった。
2.× 女性の雇用形態は、正規の雇用が「約6割」ではなく約4割(44.1%)である。女性の正規雇用の職員・従業員は1.078万人(44.1%)で、非正規雇用の職員・従業員1.367万人(55.9%)よりも少ない。
3.〇 正しい。労働力人口の総数に占める女性の割合は、約4割(43.4%である。総務省「労働力調査」によると、令和2年の女性の労働力人口は3,044万人と前年に比べ14万人減少(前年比0.5%減)し、平成24年以来8年ぶりに対前年比減となった。男性は3,823万人と、前年に比べ5万人減少(同 0.1%減)し、平成 27年以来5年ぶりに対前年比減となった。この結果、労働力人口総数は前年より18万人減少(同0.3%減)し6,868万人となり、労働力人口総数に占める女性の割合は44.3%(前年差 0.1 ポイント低下)となった。 
4.× 女性雇用者数に占める割合で最も多い産業は、「製造業」ではなく、医療・福祉である。女性雇用者数を産業別にみると、医療・福祉が594万人(女性雇用者総数に占める割合23.5%)と最も多く、次いで卸売業、小売業が503万人(同19.9%)、製造業が294万人(同11.6%)、宿泊業、飲食サービス業が210万人(同8.3%)の順となっている。

(※図引用:「令和2年の働く女性の状況」厚生労働省HPより)

 

 

 

 

5  Aちゃん(1歳8か月、女児)は、1歳6か月児健康診査を受診した。1人で歩けるが有意語の発語はなく、絵本の指さしはしない。個別相談で言葉の発達について経過を観察したいと保健師が伝えると、母親は「そのうち言葉は出ると思うので心配はしていません。今、妊娠7か月で、疲れたので早く帰りたいです」と言う。
 Aちゃんのフォローアップをするための保健師の対応で最も適切なのはどれか。

1.「出産後に連絡してください」
2.「3歳児健康診査のときに確認します」
3.「病院の発達相談を受診してください」
4.「1か月後に電話でAちゃんの様子を聞かせてください」

解答

解説

本症例のポイント

・Aちゃん(1歳8か月、女児)
・1歳6か月児健康診査:独歩可能、有意語の発語はなく絵本の指さしなし
・母親「そのうち言葉は出ると思うので心配はしていません。今、妊娠7か月で、疲れたので早く帰りたいです」と。
→本症例は、言葉の発達が遅く、自閉症など発達障害の可能性が考えられる。ただ母親は「そのうち言葉は出ると思うので心配はしていません」と、母親からの積極的な行動は見込めない可能性が高い。したがって、保健師からアプローチする必要がある。ちなみに、広汎性発達障害とは、相互的な社会関係とコミュニケーションのパターンにおける質的障害、および限局した常同的で反復的な関心と活動の幅によって特徴づけられる一群をいう。現在の分類では「自閉スペクトラム症/自閉スペクトラム障害」に含まれている。

1.3.× 「出産後に連絡してください」「病院の発達相談を受診してください」と伝えるのは優先度が低い。なぜなら、母親は「そのうち言葉は出ると思うので心配はしていません」と、母親からの積極的な行動は見込めない可能性が高いため。したがって、保健師からアプローチする必要がある。そのような母親にいきなり病院受診を提案しても、解決にはつながらない可能性が高い。
2.× 「3歳児健康診査のときに確認します」と伝えるのは優先度が低い。なぜなら、現在のAちゃんは、3歳児健康診査まで1年以上の期間があるため。地域によっては、1歳6ヵ月健診で問題を指摘された時点で、医療機関の受診を勧められることがある。
4.〇 正しい。「1か月後に電話でAちゃんの様子を聞かせてください」と伝えるのは優先度が高い。母親は「そのうち言葉は出ると思うので心配はしていません」と、母親からの積極的な行動は見込めない可能性が高い。したがって、保健師からアプローチする必要がある。また、母親は妊娠7か月の妊婦であり、母親の疲労度などを考慮したほうが、信頼関係を築くことができる。

子どもの発達のポイント

【1歳6か月】
・コップで水を飲む。
・スプーンを使って食べようとする。
・積み木を2~3個積むことができる。
・意味のある言葉を2~3語話す(パパ, ママ, ブーブー)。
・簡単な指示に従うことができる(おいで、○○をとって)。
・離乳が完了する。

【3歳】
・自分の名前を言う。
・簡単な文章を話す。
・指示に従う。
・物の大小や長短、色を区別できる。
・箸を持って食べる。
・手を洗う。
・ままごとやごっこ遊びをする。

 

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