第104回(H30) 保健師国家試験 解説【午後1~5】

 

※注意:解説はすべてオリジナルのものとなっています。私的利用の個人研究・自己研鑽のため作成いたしました。間違いや分からない点があることをご了承ください。またコメントにて解き方等教えてくださると幸いです。

※問題引用:第104回保健師国家試験、第101回助産師国家試験、第107回看護師国家試験の問題および正答について

 

 

1 公衆衛生看護の基本理念について正しいのはどれか。

1.プライマリヘルスケアはバンコク憲章で定義された。
2.生存権の保障は日本国憲法第11条に規定されている。
3.ノーマライゼーションは障害者福祉の基本理念となっている。
4.ヘルスプロモーションは日本では健康フロンティア戦略で初めて取り入れられた。

解答

解説

プライマリヘルスケアとは?

プライマリヘルスケアは、アルマ・アタ宣言(1978年)で提唱されたものである。地域住民が一次的に利用する保健医療サービスを指す。

提唱元:アルマ・アタ宣言(WHOとUNICEF)

概念:「すべての人々に健康を」を目標に、病気の治療よりも予防対策や健康管理に重点を置いた保健活動

【4つの原則】
①住民のニーズに基づくこと
②地域資源の有効活用
③住民参加
④農業・教育・通信・建設・水利等、多分野間の協調と統合

【8つの活動項目】
①健康教育(ヘルスプロモーション)
②食料の供給と栄養の改善子
③安全な飲料水の供給と基本的な環境衛生
④母子保健サービス(家族計画を含む)
⑤主要な感染症の対策(予防接種)
⑥風土病の対策
⑦簡単な病気やけがの治療(プライマリケア)
⑧必須医薬品の供給

(※参考:「プライマリ・ヘルス・ケア」特定非営利活動法人シェア様HPより)

1.× プライマリヘルスケアは、「バンコク憲章」ではなくアルマ・アタ宣言(1978年)で定義された。ちなみに、バンコク憲章は、第6回ヘルスプロモーション国際会議で採択された健康づくりに関する憲章である。国際化した社会での「健康の決定要因」への対処を述べている。オタワ憲章(1986年)のヘルスプロモーションの定義に健康の決定要因が加えられた。
2.× 生存権の保障は、日本国憲法「第11条」ではなく、25条に規定されている。ちなみに、日本国憲法第11条では、基本的人権の享有について規定されている。「第11条:国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。」(一部引用:「日本国憲法」e-GOV法令検索様HPより)
3.〇 正しい。ノーマライゼーションは、障害者福祉の基本理念となっている。ノーマライゼーションとは、「障害者が一般市民と同じ環境で、同じ条件で家庭や地域で共に生活すること」を目指す概念である。障害を持つ人が健常者と共存して「普通の社会生活」営めるように、当該社会から物心両面において改善しようという社会的志向である。
4.× ヘルスプロモーションは、日本では「健康フロンティア戦略」ではなく、健康日本21(2000年)で初めて取り入れられた。ヘルスプロモーションは、オタワ憲章(1986年)で提唱され、日本では、健康日本21(2000年)で基本理念に取り入れられている。ちなみに、健康フロンティア戦略(2004年)は、生活習慣病対策と介護予防の推進を中心とした政策提言である。

健康フロンティア戦略とは?

健康フロンティア戦略は、国民一人ひとりが生涯にわたり元気で活動的に生活できる「明るく活力ある社会」の構築のため、国民の健康寿命を延ばすことを基本目標に、「生活習慣病予防対策の推進」と「介護予防の推進」を柱とした平成17年からの10か年戦略のことである。その後、平成19年には健康フロンティア戦略をさらに発展させた新健康フロンティア戦略~健康国家への挑戦~が策定された。

ヘルスプロモーションとは?

ヘルスプロモーション(健康教育)は、「人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」と定義される。①健康な公共政策づくり、②健康を支援する環境づくり、③地域活動の強化、④個人技術の開発、⑤ヘルスサービスの方向転換などが挙げられる。保健部門だけの責任にとどまらず、人々のライフスタイルや生活の質(QOL)にかかわるものであり、個人の能力だけでなく環境の整備も含まれる。オタワ憲章(1986年)で提唱され、日本では、健康日本21(2000年)で基本理念に取り入れられている。

①健康的な公共政策づくり:健康は、人々の暮らしを支えている公共政策(道や諸施設、衛生上欠かせない上下水道の整備など)によって保証されるため、公共政策そのものを健康的なものにする必要がある。
②健康を支援する環境づくり:環境(ハード・ソフト面)を整備することで、住民一人ひとり健康づくりを支援する。
③地域活動の強化:住民組織を活性化することで健康づくりを地域での住民活動を強化するような働きかけを行う。
④個人技術の開発:住民一人ひとり、そして専門家が、健康づくりに取り組むために必要な技術を身につけられるような働きかけや取り組みを行う。
⑤ヘルスサービスの方向転換:これまで疾病対策として実施されてきた事業(ヘルスサービス)を、より積極的に健康づくりの場としてとらえ見直しを行う。

 

 

 

 

 

2 グループの発展過程を準備期、開始期、作業期、終結期に分類したとき、準備期における支援者の役割として最も適切なのはどれか。

1.グループの目的の共有を促す。
2.グループの相互作用を促進させる。
3.メンバー間の信頼関係の確立を図る。
4.グループに参加する対象を理解する。

解答

解説
1.× グループの目的の共有を促すのは、開始期の支援である。開始期とは、メンバーが集まってグループとして動き出すまでの段階である。【支援役割】①メンバーは緊張しているため、ワーカー自身が受容的な雰囲気を作っていく。②グループワークを実施する目的・意義・理由・背景等の説明する。③基本的なルールや民主的な態度でグループ運営を行っていく。
2~3.× グループの相互作用を促進させる/メンバー間の信頼関係の確立を図るのは、作業期の支援である。作業期とは、メンバーとグループ全体が、自分たちの課題に取り組み、目的達成のために成果が出るよう進めていく段階である。【支援役割】①メンバー個別に信頼関係を得ていく。②メンバーのプログラム参加の動機づけを高めるよう意見を反映する。③プログラム活動の目的を共有し、仲間意識を高める。④孤立するメンバーやサブグループが現われたら適切に対応する。⑤相互援助システムを形成する。
4.〇 正しい。グループに参加する対象を理解するのは、準備期の支援である。準備期とは、初めて顔を合わせる前に準備する段階である。【支援役割】①ニーズを探り援助対象を決定する。②組織のバックアップを受けて、メンバーは固定グループか開放グループか検討し、援助期間や頻度も決めておく。③メンバーの情報を集め理解をしておく。④記録用紙の様式も検討しておく。

グループの発展過程

①準備期:初めて顔を合わせる前に準備する段階である。
【支援役割】①ニーズを探り援助対象を決定する。②組織のバックアップを受けて、メンバーは固定グループか開放グループか検討し、援助期間や頻度も決めておく。③メンバーの情報を集め理解をしておく。④記録用紙の様式も検討しておく。

②開始期:メンバーが集まってグループとして動き出すまでの段階である。
【支援役割】①メンバーは緊張しているため、ワーカー自身が受容的な雰囲気を作っていく。②グループワークを実施する目的・意義・理由・背景等の説明する。③基本的なルールや民主的な態度でグループ運営を行っていく。

③作業期:メンバーとグループ全体が、自分たちの課題に取り組み、目的達成のために成果が出るよう進めていく段階である。【支援役割】①メンバー個別に信頼関係を得ていく。②メンバーのプログラム参加の動機づけを高めるよう意見を反映する。③プログラム活動の目的を共有し、仲間意識を高める。④孤立するメンバーやサブグループが現われたら適切に対応する。⑤相互援助システムを形成する。

④終結期:グループ援助を終わりにする段階である。
【支援役割】①今まで共有した時間を振り返り、共に経験した感情を分かち合い、グループワークの成果を今後どのように生かしていくか考える。②必要に応じてメンバー個別に援助を行っていく。③各メンバーのグループ経験を評価する。

(※参考「ループの発達段階@本八幡」就労移行支援事業所リバーサル本八幡様HPより)

 

 

 

 

3 市民と行政とのパートナーシップを基盤とした保健施策の推進について最も効果的なのはどれか。

1.保健福祉計画の策定を市民の代表と行う。
2.行政情報を複数の方法で市民に公開する。
3.市民の意見を受け付ける専門の部署を設ける。
4.市民の代表から地域の課題を聞き取る機会を設ける。

解答

解説

パートナーシップとは?

パートナーシップとは、英米法において2名以上の者が金銭・役務などを出資して共同して事業を営む関係をいう。当該関係に基づくパートナーの総体を指すこともあるが、英国ではこれを「ファーム」と呼び、契約関係を指すパートナーシップとは区別する。パートナーシップにおいて重要なことは、市民と行政が対等な関係で、協働し課題解決や保健施策の推進を行っていくことである。

1.〇 正しい。保健福祉計画の策定を市民の代表と行う。保健福祉計画の策定にあたって、公募市民、保健・医療・福祉関係者、学識経験者等から構成され、様々な意見を招集して行う。したがって、保健福祉計画の策定を市民の代表と行うことは、直接、市民の意見を行政施策に反映させる機会となるため、パートナーシップを基盤とした保健施策の推進において効果的である。
2.× 行政情報を複数の方法で市民に公開する優先度は低い。なぜなら、行政情報を公開するのみでは、行政から市民に対して一方向に情報が提供される方法であるため。パートナーシップにおいて重要なことは、市民と行政が対等な関係で、協働し課題解決や保健施策の推進を行っていくことである。行政と市民がお互い情報共有できるような方法が好ましい。
3~4.× 市民の意見を受け付ける専門の部署を設ける/市民の代表から地域の課題を聞き取る機会を設ける優先度は低い。なぜなら、市民/市民代表の意見を受け付けるのみでは、市民から行政に対して、情報が一方通行で終わる可能性が高いため。パートナーシップにおいて重要なことは、市民と行政が対等な関係で、協働し課題解決や保健施策の推進を行っていくことである。行政と市民がお互い情報共有できるような方法が好ましい。市民の意見を受け付け、保健施策にどのように反映させるかを行政と市民がともに検討しないと、パートナーシップを基盤とした効果的な方法とはいえない。

 

 

 

 

 

4 仕事が忙しく少し体調が優れないので、休日に十分な睡眠をとり静養した。
 この行動は健康段階別保健行動のどれか。

1.健康増進行動
2.予防的保健行動
3.病気回避行動
4.病気対処行動

解答

解説

健康段階別保健行動

保健医療行動とは、「人々がウェルビーイングで自分の人生を全うするために行う行動全般」である。従来の保健医療行動は、キャスルとコブ(Kasl, S. V. and Cobb, S. 1966)が示した 3 分類、すなわち、症状のない状態における病気予防を目的とする保健行動、症状を経験した後の病気対処行動、回復を目指して行われる病者役割行動と考えられてきた。

①健康増進行動:健康な状態にある人が、健康の保持や増進を目的に行う行動のこと。
②予防的保健行動:自覚症状はないが、病気につながる行動を避けたり、病気に対する予防措置をとったりする行動のこと。
③病気回避行動:病気の状態ではないものの、放置すると病気になるリスクに気づき、病気にならないように回避しようとする行動のこと。
④病気対処行動:病気の状態に気づき、その解決目指してとる行動のこと。

(※参考:「保健医療行動とは」日本保健医療行動科学会HPより)

1.× 健康増進行動とは、健康な状態にある人が健康の保持や増進を目的に行う行動である。
2.× 予防的保健行動は、自覚症状はないが、病気につながる行動を避けたり、病気に対する予防措置をとったりする行動である。
3.〇 正しい。病気回避行動は、病気の状態ではないものの、病気になるリスクに気づき、病気にならないようにしようとする行動である。本症例の「仕事が忙しく少し体調が優れないので、休日に十分な睡眠をとり静養した」ことと一致する。
4.× 病気対処行動は、病気の状態に気づき、その解決を目指してとる行動であり、専門機関への相談や受診といった行動が代表的な例である。

 

 

 

 

5 Aさん(80歳、男性)。民生委員から「最近、Aさんが老人クラブに参加しなくなったので心配している」と地区担当保健師に相談があった。民生委員から、Aさんは妻が亡くなって1人暮らしとなり食事や生活が不規則になっていることや、一人娘は結婚して遠方に住んでいることを聞いた。
 地区担当保健師の今後の支援として優先度が高いのはどれか。

1.家庭訪問でAさんの状況を確認する。
2.Aさんの娘に見守りを行うよう連絡する。
3.老人クラブのメンバーにAさんの参加の勧誘を依頼する。
4.地域包括支援センターの介護予防事業をAさんに紹介する。

解答

解説

本症例のポイント

・Aさん(80歳、男性)。
・民生委員「最近、Aさんが老人クラブに参加しなくなったので心配している」と。
・Aさん:妻が亡くなって1人暮らしとなり食事や生活が不規則になっている。
・一人娘:結婚して遠方に住んでいる。
→配偶者が死別した場合、喪失による悲嘆からの心理回復過程は個人差が大きいとされている。本症例の場合、①老人クラブの不参加、②食生活の乱れなど影響が見られている。今後、喪失体験から精神疾患(うつ病など)やさらなる活動量の低下を招きかねないため、まずは情報収集から支援が必要である。

1.〇 正しい。家庭訪問でAさんの状況を確認する。配偶者が死別した場合、喪失による悲嘆からの心理回復過程は個人差が大きいとされている。本症例の場合、①老人クラブの不参加、②食生活の乱れなど影響が見られている。今後、喪失体験から精神疾患(うつ病など)やさらなる活動量の低下を招きかねないため、まずは情報収集から支援が必要である。
2.× Aさんの娘に見守りを行うよう連絡する必要はない。なぜなら、Aさんの一人娘は結婚して遠方で生活を営んでいるため。Aさんの一人娘に負担を強要することになるだけではなく、Aさんがそのことを望んでいなかった場合は保健師との関係性の悪化にもつながりかねない。
3.× 老人クラブのメンバーにAさんの参加の勧誘を依頼する優先度は低い。なぜなら、老人クラブの不参加になっている理由が言及されていないため。現在、Aさんの食事や生活が不規則になっている。まずは生活基盤を安定してもらい、社会的交流を促すのは、Aさんが自身の生活を整えた後でよいと考えられる。
4.× 地域包括支援センターの介護予防事業をAさんに紹介する優先度は低い。なぜなら、Aさんの食事や生活が不規則になっている原因や対処が介護予防につながらないため。また、Aさんから介護予防の希望について聞かれていない。今後、喪失体験から精神疾患(うつ病など)やさらなる活動量の低下を招きかねないため、まずは情報収集から支援が必要である。ちなみに、地域包括支援センターとは、介護保険法に基づき各市町村によって設置されており、地域の高齢者の医療・福祉・介護・虐待など様々な事柄に関する相談窓口となっている。地域包括支援センターの人員基準は、「第1号被保険者(65歳以上の高齢者)3000人~6000人ごとに、保健師、社会福祉士及び主任介護支援専門員(準ずる者を含む)を最低限それぞれ各1人」である。

[/memo]

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)