第104回(H30) 保健師国家試験 解説【午後16~20】

 

16 業務上疾病で正しいのはどれか。

1.職業性疾病と同義である。
2.産業医によって認定される。
3.使用者は必要な療養の費用を負担しなければならない。
4.平成27年(2015年)はじん肺症およびじん肺合併症が最も多い。

解答

解説

業務上疾病とは?

業務上疾病とは、事業主の支配下にある状態において有害因子にばく露したことによって発症した疾病のことをいう。特定の業務に従事することによって罹患する、もしくは罹患する確率が非常に高くなる疾病のことであり、『労働基準法施行規則』35条に定義されている。業務上疾病として認定されると、『労働基準法』や『労働者災害補償保険法」によって、療養補償、休業補償、障害補償、遺族補償などの災害補償を受けられる。

1.× 職業性疾病と業務上疾病は異なる(※)。業務上疾病とは、事業主の支配下にある状態において有害因子にばく露したことによって発症した疾病のことをいう。特定の業務に従事することによって罹患する、もしくは罹患する確率が非常に高くなる疾病のことであり、『労働基準法施行規則』35条に定義されている。一方、職業性疾病(職業病)とは、特有な職業に従事する者に発生する疾病を指す医学用語で、定義や範囲があいまいである。引っ越し屋さんが、荷物を持つことが多いために腰痛が多い。この腰痛も職業性疾病に該当する。※ただし、職場によっては業務上疾病と職業性疾病とは同義に扱われる場合もあり、その場の雰囲気や流れで解釈する必要がある。今回は、選択肢3が確実に正しいといえる項目である。
2.× 「産業医」ではなく、労働基準監督署によって認定される。労働基準監督署とは、管轄内の事業所が労働関係法令を守って運用しているかを監督する機関である。業務上疾病の認定は、疾病の認定だけではなく、業務上か否かの認定も行わなければならない。ちなみに、産業医とは、労働安全衛生法に基づき、事業所や労働者に対して労働衛生について勧告・指導・助言を行う医師のことである。業種を問わず常時使用する労働者が50人以上の事業場で、事業所が産業医を選任することが義務付けられている。原則として、少なくとも毎月1回職場巡視をしなければならない。
3.〇 正しい。使用者は必要な療養の費用を負担しなければならない。『労働基準法』75条(療養補償)には、「労働者が業務上負傷し、または疾病にかかった場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、または必要な療養の費用を負担しなければならない」と定められている。(※一部引用:「労働基準法」e-GOV法令検索様HPより)
4.× 平成27 年(2015 年)に最も多いのは、「じん肺症およびじん肺合併症」ではなく、災害性腰痛(64.1%)である。ちなみに、じん肺およびじん肺合併症の発生割合は2.9%である。※データ引用:平成28年の業務上疾病発生状況等調査(厚生労働省)より。ちなみに、災害性腰痛(災害性の原因による腰痛)とは、腰に受けた外傷によって生じる腰痛のほか、外傷はないが突発的で急激な強い力が原因となって筋肉等(筋、筋膜、靭帯など)が損傷して生じた腰痛を含むものをいう。なお、ぎっくり腰(病名は急性腰痛症)は日常的な動作の中で生じるため、たとえ仕事中に発症したとしても労災補償の対象とは認めらない。

 

 

 

 

 

17 保健師が行う公衆衛生看護管理の事例管理はどれか。

1.子育ての支援者を育成する予算を確保する。
2.担当地域の地域診断を実施する。
3.対象者の支援計画を立案する。
4.地域の支援者を育成する。

解答

解説

保健師に求められる看護管理機能

保健師が担う管理機能には、キャリア発達の段階に沿って、新任期1年目から担うものと、中堅や管理者になってから担うものに分けられる。保健師が行う地域看護管理の機能として、①初任期にも事例管理、事業管理、地区管理等管理的な機能を果たす。②、①の延長線上に管理者の組織運営管理や人材育成管理そして地域管理等の機能がある。③管理的な機能は初任期から発揮されていることから、保健師の専門性の中核を成すものといえる。④地区管理も行うため、所属組織内の管理にとどまるものではない。

①事例管理:個々の事例のケアから始まり、それを地域の問題としてとらえ、ダイナミックな活動を展開する。
②地区管理:地域のニーズや課題から地域診断を行い、住民と協働した施策化を行う。
③事業・業務管理:地方自治体の上位計画や組織目標に基づく、事業計画策定や進行管理を行い、評価結果を次年度の計画等へ反映させる。
④組織運営管理:組織理念・目標や地域の課題を共有して組織としての方針を決定し、業務の効率化を高めながら組織体制を機能させる。
⑤予算編成:予算の仕組みを把握し、事業企画に伴う予算編成を行う。
⑥予算管理:新たな政策や人材確保等のための予算獲得および適切な執行と評価を行い、予算面から公衆衛生看護活動を担保する。
⑦人材育成:保健師の育成過程に応じて、中・長期的な研修計画および生涯学習企画と実施を行い、実践報告を評価する。
⑧人事管理:組織の目標を達成するため、組織に必要な保健師人員数を確保し、職員を計画的に適材適所へ配置するとともに、人事評価を行う。
⑨情報管理:地域の実態を把握するための情報収集・分析や正確な情報伝達のための体制整備、マスコミ対応、個人情報への配慮を行う。
⑩健康危機管理:危機発生を予測し、住民と協働する健康危機管理の体制づくり全般を行う。

(参考:「保健師に求められる看護管理のあり方」社団法人日本看護協会より)

1.× 子育ての支援者を育成する予算を確保するのは、公衆衛生看護管理の⑥予算編成にあたる。予算編成は、予算の仕組みを把握し、事業企画に伴う予算編成を行う。
2.× 担当地域の地域診断を実施するのは、公衆衛生看護管理の②地区管理にあたる。地区管理は、地域のニーズや課題から地域診断を行い、住民と協働した施策化を行う。
3.〇 正しい。対象者の支援計画を立案するのは、公衆衛生看護管理の①事例管理にあたる。事例管理では、個々の対象事例の看護過程の展開を行う。個々の事例のケアから始まり、それを地域の問題としてとらえ、ダイナミックな活動を展開する。
4.× 地域の支援者を育成するのは、公衆衛生看護管理の⑦人材育成にあたる。人材育成は、保健師の育成過程に応じて、中・長期的な研修計画および生涯学習企画と実施を行い、実践報告を評価する。

 

 

 

 

18 A市の地域包括支援センターの保健師が、担当する要支援1のBさん(70歳、男性)を訪問した。Bさんは68歳の妻と2人暮らしだが、孫のCさん(17歳、高校2年生)が数日前から滞在していた。Cさんは妊娠30週であった。Cさんは他県で両親と3人で暮らしているが、A市の総合病院で出産予定のため、しばらくの間Bさん宅に滞在することが分かった。
 現時点で保健師が連絡を取る先で最も適切なのはどれか。

1.A市の地区担当保健師
2.A市の総合病院の産婦人科
3.Cさんの高校の養護教諭
4.Cさんの住所地の地区担当保健師

解答

解説

本症例のポイント

・Bさん(70歳、男性、要支援1)
・2人暮らし:妻(68歳)、孫Cさん(17歳、高校2年生)が数日前から滞在。

・孫Cさん(妊娠30週)。
・本来3人暮らし:他県で両親と。
A市の総合病院で出産予定のため、しばらくの間Bさん宅に滞在している。
→A市はCさんの居住地ではないが、A市の総合病院で出産予定である。Cさんが安心かつ安全に出産できるよう支援していくことが必要である。ちなみに、地域包括支援センターとは、介護保険法に基づき各市町村によって設置されており、地域の高齢者の医療・福祉・介護・虐待など様々な事柄に関する相談窓口となっている。地域包括支援センターの人員基準は、「第1号被保険者(65歳以上の高齢者)3000人~6000人ごとに、保健師、社会福祉士及び主任介護支援専門員(準ずる者を含む)を最低限それぞれ各1人」である。

1.〇 正しい。A市の地区担当保健師に対し、現時点で保健師が連絡を取る先で最も優先度が高い。なぜなら、A市はCさんの居住地ではないが、A市の総合病院で出産予定であるため。また、Cさんは、若年妊婦(17歳)というハイリスクな状態にある。したがって、A市の保健師がCさんの状況を把握しているか確認し、Cさんが安心かつ安全に出産できるよう支援していくことが必要である。
2.× A市の総合病院の産婦人科は、優先度は低い。なぜなら、すでに出産予定としてA市の総合病院が決定しており、出産予定の病院に現時点で保健師から連絡をとらなければならない理由は少ないため。情報収集すべき情報は少ない。
3.× Cさんの高校の養護教諭は、優先度は低い。なぜなら、すでに出産予定としてA市の総合病院が決定しており、わざわざ高校に現時点で保健師から連絡をとらなければならない理由は少ないため。情報収集すべき情報は少ない。ちなみに、養護教諭とは主に、小・中・高校に配属されている「保健室の先生」のことである。 学校でケガをしたり体調を崩したりしたとき、保健室に行くと対応してくれるのが養護教諭である。養護教諭がいることで、生徒たちが安心して学校に通える環境が整えられている。
4.× Cさんの住所地の地区担当保健師は、優先度は低い。なぜなら、Cさんの住所地の地区担当保健師が、必ずしもCさんの状況を把握しているとは限らないため。

養護教諭とは?

養護教諭とは主に、小・中・高校に配属されている「保健室の先生」のことである。 学校でケガをしたり体調を崩したりしたとき、保健室に行くと対応してくれるのが養護教諭である。養護教諭がいることで、生徒たちが安心して学校に通える環境が整えられている。

①保健管理:救急処置、健康診断(実施計画立案、準備、指導、評価)、感染症予防、経過観察・配慮を必要とする子どもの支援、環境管理。
②保健教育:授業への参画、保健指導(個別の児童・生徒と保護者への指導・助言、集団への指導)
③健康相談:心身の健康問題への対応・支援
④保健室経営:保健室経営計画の作成、備品の管理
⑤保健組織活動学校保健委員会 等
⑥学校保健計画・学校安全計画策定への参画

 

 

 

 

 

 

19 耐糖能異常の頻度の地域比較調査を行ったところ、A地区では空腹時血糖で評価し、B地区では随時血糖で評価していたことが明らかになった。
 疫学調査法におけるこのような問題点はどれか。

1.交絡
2.偶然誤差
3.選択の偏り(バイアス)
4.情報の偏り(バイアス)

解答

解説

ポイント

【耐糖能異常の頻度の地域比較調査】
方法:A地区では空腹時血糖で評価、B地区では随時血糖で評価していた。
※空腹時血糖:空腹時に測定する。
※随時血糖:食事時間とは無関係に測定する。
→比較調査を実施する際は、方法を統一しておかないと、研究結果に誤差が生じる。研究結果に起こる誤差には、偶然起こる①誤差(ランダムエラー)と特定の要因が影響してある方向へ偏って生じる②誤差(バイアス)がある。

交絡とは?

交絡とは、ある危険因子の曝露と転帰結果の関連を考える際に、その危険因子に付随し表には現れていないその他の危険因子が直接転帰に関連し、観察している因子は直接的には関連していない場合があることをいう(例:喫煙と癌の関係を調べる時、実際には付随する他の因子が直接に癌の発生と関係あるような場合)。曝露と転帰に係わる因子を交絡因子という。曝露と転帰の因果関係の過程で生じるものではないこと、対象の選択や判定上で問題となるバイアスとも異なることに注意が必要である。観察的研究ではこの交絡が起こる可能性が常に存在するため、①研究デザインにおける交絡のコントロール、②データ分析における交絡のコントロールが必要になる。

①研究デザインにおける交絡のコントロール
限定:対象集団を制限すること。
マッチング:症例と対照の間で交絡因子となりそうな要因を一致させること。
無作為化:まったく交絡因子が不明の時に対象者を介入群、非介入群にランダムに割り付ける方法である。無作為化の目的は、比較する群の性別、年齢、重症度などの既知の交絡因子の分布を均等にするばかりでなく、未知の交絡因子の影響を低減させること。

②データ分析における交絡のコントロール
層化:対対象者をひと まとめにして分析せずに、そのサブグループごとに分けて分析すること。
多変量解析:統計学的モデルを用いて交絡因子も変数として含めることで、それぞれの変数の影響を見ていく方法である。

1.× 交絡とは、ある危険因子の曝露と転帰結果の関連を考える際に、その危険因子に付随し表には現れていないその他の危険因子が直接転帰に関連し、観察している因子は直接的には関連していない場合があることをいう(例:喫煙と癌の関係を調べる時、実際には付随する他の因子が直接に癌の発生と関係あるような場合)。曝露と転帰に係わる因子を交絡因子という。曝露と転帰の因果関係の過程で生じるものではないこと、対象の選択や判定上で問題となるバイアスとも異なることに注意が必要である。観察的研究ではこの交絡が起こる可能性が常に存在するため、①研究デザインにおける交絡のコントロール、②データ分析における交絡のコントロールが必要になる。
2.× 偶然誤差とは、理想的な状況でも偶然におこるものである。
3.× 選択の偏り(バイアス)とは、対象者の選び方により生じる偏りをいう。臨床試験で高いエビデンスを得るためには様々なバイアス(偏り)を排除しなければならない。そのため患者を無作為に抽出し、治療対照群と比較群で検討する無作為化(ランダム)比較試験の結果からは非常に有効なデータを得ることができる。半面、大規模になり時間がかかるため膨大な費用を要し容易には思考できないことがデメリットとしてあげられる。
4.〇 正しい。情報の偏り(バイアス)が今回の疫学調査法における問題点といえる。情報の偏り(バイアス)とは、情報収集が不適当で生じる偏りのことである。設問の方法は、A地区では空腹時血糖で評価、B地区では随時血糖で評価していた。B地区は、食事をしている者としていない者が混在しているため、A地区の空腹時血糖と同等に評価することは困難である。

誤差の種類

バイアス(系統誤差)とは、「曝露とアウトカムの関係を誤って評価してしまう研究デザインの不備」である。曝露とは、アウトカム発症の以前に存在する状態のことである。例えば、喫煙習慣や運動習慣、年齢、性別がこれにあたる。つまり、測りたい真の値(真値)と実際の測定値との差を誤差(エラー)をいう。誤差は2種類に大別される。

①偶然誤差:理想的な状況でも偶然におこるもの。
②系統誤差:データの収集方法が適切でないため系統的におこる一定の方向性をもつもの。

妥当性が高い測定は系統誤差が小さく、より真値に近い結果が得られる。妥当性とは、測定結果が全体として真値に比べてどの程度偏っているかの尺度である。信頼性とは、ある対象を測定するごとに、測定値が偶妹どの程度ばらつくかの尺度である。

 

 

 

 

20 地方自治体において、予算が会計年度の開始前に成立しないときに、必要な経費を支出できるよう組まれるのはどれか。

1.一般会計
2.暫定予算
3.特別会計
4.補正予算

解答

解説

地方自治体の予算

地方自治体の会計区分は、一般会計特別会計に分けられる。

一般会計:地方自治体の4月1日~翌年3月31日(一会計年度)の歳入・歳出を包括的に経理する会計を指す。特別会計に属さない地方自治体の基本的な行政活動を行うための会計を指す。単一予算主義の原則に基づく。
特別会計:地方自治体の特定の事業(介護保険、国民健康保険、水道事業 等)を行うための会計を指す。一般会計のように単一の会計では適切な処理が難しい事業について、効率性や運用の観点から一般会計とは別に扱う特別会計が設置される。
補正予算:予算製後の事由(災害対応等)によって、一般会計で予算化した事業に修正が見要になった場合に設定する。
暫定予算:予算が会計年度の開始前(3月31日)までに成立しない場合に、短期的に組まれる予算である。本予算が成立した後は、本予算に組み込まれる。

(※参考「用語の解説」財務省HPより)

1.× 一般会計とは、特別会計に属さない歳入・歳出を包括的・一般的に経理する会計を指す。地方自治体の4月1日~翌年3月31日(一会計年度)の歳入・歳出を包括的に経理する会計を指す。特別会計に属さない地方自治体の基本的な行政活動を行うための会計を指す。単一予算主義の原則に基づく。
2.〇 正しい。暫定予算とは、予算が会計年度の開始前(3月31日)までに成立しない場合に、暫定的に組まれる短期の予算をいう。本予算成立後は、本予算に吸収される。つまり、地方自治体において、予算が会計年度の開始前に成立しないときに、必要な経費を支出できるよう組まれる予算は、暫定予算である。
3.× 特別会計とは、方自治体の特定の事業(介護保険、国民健康保険、水道事業 等)を行うための会計を指す。一般会計のように単一の会計では適切な処理が難しい事業について、効率性や運用の観点から一般会計とは別に扱う特別会計が設置される。普通地方公共団体が特定の事業を行う場合などに設けられる。一般会計に属さない会計を指す。一般の歳入・歳出と区別して経理する必要がある場合におかれる。
4.× 補正予算とは、予算の調製後に生じた事由によって、既定の予算に追加などの変更を加える必要が生じたときに作られる予算をいう。予算製後の事由(災害対応等)によって、一般会計で予算化した事業に修正が見要になった場合に設定する。

 

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