第104回(H30) 保健師国家試験 解説【午後41~45】

 

次の文を読み39〜41の問いに答えよ。
 A市にある定員80人の保育所。乳児保育も実施している。8月1日(金)に、腹痛と下痢症状で4人の園児が欠席した。8月5日(火)に、新たに4人の園児が同様の症状で欠席した。さらに、8月1日(金)から欠席していた園児4人のうち2人は症状が落ち着いたが、他の2人が重篤な下痢症状によって入院したと保護者から連絡が入った。保育所長は感染症の発生を疑い、保健所の感染症担当の保健師に相談した。

41 8月6日(水)に、新たに2人の園児が下痢症状で欠席したと保育所から保健所に連絡があった。
 このときの保健所の対応で適切なのはどれか。

1.排泄習慣が確立していない園児に対する登園停止の指示
2.欠席していない園児の保護者との個別面接
3.保育所職員に対する汚物処理方法の指導
4.患児の担任保育士への就業制限

解答

解説

ポイント

8月5日(火):病院から、園児2人の腸管出血性大腸菌感染症の発生届が提出された。
8月6日(水):新たに2人の園児が下痢症状で欠席したと保育所から保健所に連絡があった。
→腸管出血性大腸菌感染症は三類感染症に位置づけられている。三類感染症には腸管出血性大腸菌感染症のほか、二類感染症から移行したコレラ、細菌性赤痢、腸チフス、パラチフスが指定されている。 感染症例への入院勧告規定はないが、飲食物にかかわる就業が制限される。 三類感染症では糞便由来の接触伝播に対する対策が重要である。三類感染症の患者に対しては、就業制限は課せられるが、外出制限は課せられない。

1.× 排泄習慣が確立していない園児に対する登園停止の指示は必要ない。なぜなら、腸管出血性大腸菌感染症は三類感染症に位置づけられているため。三類感染症の患者に対しては、就業制限は課せられるが、外出制限は課せられない
2.× 欠席していない園児の保護者との個別面接は必要ない。なぜなら、有症状患者からの聞き取りが優先されるため。現状、複数の患者が出ており、症状のない保護者への個別面談までは必要ない。
3.〇 正しい。保育所職員に対する汚物処理方法の指導を行う。腸管出血性大腸菌感染症の感染経路は、水系感染や食物感染などの経口感染である。経口摂取物が患者の微量の糞便で汚染されている場合でも感染が成立し得る。つまり、人から人へ直接伝播する。したがって、保育所での汚物処理の際の標準予防策の徹底を指導する。標準予防策(standard precaution)とは、院内感染の防止策として推奨されている方法であり、感染の有無に関わらず入院患者すべてに適用される予防対策であり、患者の血液や体液、分泌、排泄されるすべての湿性物質、粘膜、創傷の皮膚は感染のおそれがあるとみなして、対応、行動する方法である。
4.× 患児の担任保育士への就業制限は必要ない。なぜなら、無症状である担任保育士への就業制限を行う理由はないため。ちなみに、腸管出血性大腸菌感染症は三類感染症に位置づけられているため。三類感染症の患者に対しては、就業制限は課せられるが、外出制限は課せられない。

腸管出血性大腸菌(ベロ毒素産生性大腸菌、志賀毒素産生性大腸菌)とは?

腸管出血性大腸菌(ベロ毒素産生性大腸菌、志賀毒素産生性大腸菌)は、赤痢菌が産生する志賀毒素類似のベロ毒素を産生し、激しい腹痛、水様性の下痢、血便を特徴とする。特に、小児や老人では、溶血性尿毒症症候群や脳症(けいれんや意識障害など)を引き起こしやすいので注意が必要である。原因食品は、ハンバーグ、生肉、生レバー、井戸水などである。

(※参考:「腸管出血性大腸菌感染症」厚生労働省HPより)

 

 




 

 

次の文を読み42〜44の問いに答えよ。
 糖尿病の有無とがん発症との関連を検討するために、地域における特定健康診査の受診者の中でがんの既往がない男女1万人ずつの2万人を登録し、糖尿病の有無を調査した。この調査から5年後に新規のがん発症の有無を確認した。

42 この調査の研究デザインはどれか。

1.横断研究
2.介入研究
3.生態学的研究
4.症例対照研究
5.コホート研究

解答

解説

ポイント

・テーマ:糖尿病の有無とがん発症との関連を検討する。
・方法:特定健康診査の受診者の中でがんの既往がない男女1万人ずつの2万人を登録し、糖尿病の有無を調査した。
・研究:5年後に新規のがん発症の有無を確認した。
→研究の種類には、研究者が調査対象集団に対して何らかの働きかけ(介入)を行うか否かで、介入を行う「介入研究」と、介入を行わない「観察研究」とに大きく分類される。介入研究には、「臨床試験・地域研究」などがある。一方、観察研究には、大きく「①記述疫学・②分析疫学」に大別され、①記述疫学には、横断研究・時系列研究などがある。②分析疫学には、生態学的研究・横断研究・症例対照研究・コホート研究などがある。本研究は、「5年後に新規のがん発症の有無」を研究するため、時間軸は前向き研究である。例えば、現時点(または過去のある時点)で、研究対象とする病気にかかっていない人を大勢集め、将来にわたって長期間観察し追跡を続けることで、ある要因の有無が、病気の発生または予防に関係しているかを調査する方法である。

1.× 横断研究とは、ある一時点での調査である。横断研究とは、一時点での疾病の頻度と分布をありのままに記述し、疾病の発生要因の仮説を立てる方法である。
2.× 介入研究とは、一部の対象者に何らかの働きかけ(介入)を行い、介入群と非介入群に分けて研究する調査である。
3.× 生態学的研究とは、要因の有無と発生頻度を異なる地域で比較、あるいは特定の地域で時間的変化を比較し観察する調査である。特徴の異なる集団間で疾病の量が異なるかというように、集団を要約した指標を調べるものである。
4.× 症例対照研究とは、集団を症例群と対照群に分け、両群の過去の曝露状況を比較する後ろ向き研究である。結果と捉えられる事象が発生した者と発生していない者を設定し、過去の要因への曝露状況を調べる研究デザインである。
5.〇 正しい。コホート研究とは、時間軸:前向き研究で、観察期間は長期間行う。信頼性は高いが費用・労力が大きい。例えば、現時点(または過去のある時点)で、研究対象とする病気にかかっていない人を大勢集め、将来にわたって長期間観察し追跡を続けることで、ある要因の有無が、病気の発生または予防に関係しているかを調査する方法である。

コホート研究と症例対照研究の比較

コホート研究とは、時間軸:前向き研究で、観察期間は長期間行う。信頼性は高いが費用・労力が大きい。

症例対照研究とは、時間軸:後ろ向き研究で、観察期間はない。信頼性は低いが費用・労力が小さい。症例群と対照群に分け、両群の過去の曝露状況を比較する方法である。曝露と疾患発症の関連を明らかにする。

 

 

 

 

 

 

次の文を読み42〜44の問いに答えよ。
 糖尿病の有無とがん発症との関連を検討するために、地域における特定健康診査の受診者の中でがんの既往がない男女1万人ずつの2万人を登録し、糖尿病の有無を調査した。この調査から5年後に新規のがん発症の有無を確認した。

43 この集団では、がんの発症に男女差があることが分かった。そのため、男女別に結果を分析することにした。
 この制御方法はどれか。

1.限定
2.層化
3.標準化
4.無作為化
5.マッチング

解答

解説

ポイント

・がんの発症に男女差があることが分かった。
・男女別に結果を分析することにした。
→交絡の制御法のうち、限定、無作為化、マッチングは調査の計画段階で用いられる手法であるのに対し、層化、標準化は調査後の解析段階で用いられる手法である。ちなみに、交絡とは、ある危険因子の曝露と転帰結果の関連を考える際に、その危険因子に付随し表には現れていないその他の危険因子が直接転帰に関連し、観察している因子は直接的には関連していない場合があることをいう(例:喫煙と癌の関係を調べる時、実際には付随する他の因子が直接に癌の発生と関係あるような場合)。曝露と転帰に係わる因子を交絡因子という。曝露と転帰の因果関係の過程で生じるものではないこと、対象の選択や判定上で問題となるバイアスとも異なることに注意が必要である。観察的研究ではこの交絡が起こる可能性が常に存在するため、①研究デザインにおける交絡のコントロール、②データ分析における交絡のコントロールが必要になる。

1.× 限定とは、研究対象者を特定の特徴を持つ集団に限定する手法である。例えば、「女性のみ」とすることなどである。
2.〇 正しい。層化とは、対象者をひとまとめにして分析せずに、そのサブグループごとに分けて分析することである。つまり、解析の段階で交絡因子の層ごとに分析する手法である。男女別に結果を分析することは「層化」に該当する。
3.× 標準化とは、2つ以上の集団において性別などの主な交絡因子の影響を調整し、観察される事象の発生頻度を計算する。2つ以上の集団において観察されるイベント(死亡や罹患)の発生頻度を比較する場合に、基準集団を定め、性別や年齢などの主な交絡因子の影響を排除した指標を計算する方法である。基準となる集団を定めるところが層化と異なり、本調査では基準集団を設定していない。
4.× 無作為化とは、まったく交絡因子が不明の時に対象者を介入群、非介入群にランダムに割り付ける方法である。無作為化の目的は、比較する群の性別、年齢、重症度などの既知の交絡因子の分布を均等にするばかりでなく、未知の交絡因子の影響を低減させること。
5.× マッチングとは、症例と対照の間で交絡因子となりそうな要因を一致させることである。要因を有する群と有しない群で交絡因子の分布が同じになるように研究対象者を選ぶ方法である。本調査では、それぞれの群の男女比を揃えるわけではない。

交絡とは?

交絡とは、ある危険因子の曝露と転帰結果の関連を考える際に、その危険因子に付随し表には現れていないその他の危険因子が直接転帰に関連し、観察している因子は直接的には関連していない場合があることをいう(例:喫煙と癌の関係を調べる時、実際には付随する他の因子が直接に癌の発生と関係あるような場合)。曝露と転帰に係わる因子を交絡因子という。曝露と転帰の因果関係の過程で生じるものではないこと、対象の選択や判定上で問題となるバイアスとも異なることに注意が必要である。観察的研究ではこの交絡が起こる可能性が常に存在するため、①研究デザインにおける交絡のコントロール、②データ分析における交絡のコントロールが必要になる。

①研究デザインにおける交絡のコントロール
限定:対象集団を制限すること。
マッチング:症例と対照の間で交絡因子となりそうな要因を一致させること。
無作為化:まったく交絡因子が不明の時に対象者を介入群、非介入群にランダムに割り付ける方法である。無作為化の目的は、比較する群の性別、年齢、重症度などの既知の交絡因子の分布を均等にするばかりでなく、未知の交絡因子の影響を低減させること。

②データ分析における交絡のコントロール
層化:対象者をひとまとめにして分析せずに、そのサブグループごとに分けて分析すること。
多変量解析:統計学的モデルを用いて交絡因子も変数として含めることで、それぞれの変数の影響を見ていく方法である。

 

 

 

 

 

次の文を読み42〜44の問いに答えよ。
 糖尿病の有無とがん発症との関連を検討するために、地域における特定健康診査の受診者の中でがんの既往がない男女1万人ずつの2万人を登録し、糖尿病の有無を調査した。この調査から5年後に新規のがん発症の有無を確認した。

44 脱落例がなかったと仮定して、男性1万人におけるベースライン時の糖尿病の有無別の5年間のがんの新規発症の有無を表に示す。
  「糖尿病なし」に対する「糖尿病あり」のがん発症の累積罹患率比を求めよ。
  ただし、小数点以下第2位を四捨五入すること。解答: ① .②
 ①:0~9
 ②:0~9

解答12

解説

累積擢患率とは、一定期間において、観察集団のなかで新たに疾病を有した人の割合である。
つまり、【一定期間(5年間)に新規発症したがん患者数をベースライン時の曝露人口で割る】ことで求められる。

各群の累積罹患率を算出し、その比を計算する。

①「糖尿病なし」群の累積罹患率は、
300 ÷ (300 + 8700)= 300 ÷ 9000

②「糖尿病あり」群の累積罹患率は、
40 ÷ (960 + 40) = 40 ÷ 1000

③「糖尿病なし」に対する「糖尿病あり」のがん発症の累積催患率比は、
(40 ÷ 1000) ÷ (300 ÷ 9000)
= (40 × 9000) ÷ (1000 x 300)
= 36 ÷ 30
= 1.2

 

 

 




 

 

次の文を読み45〜47の問いに答えよ。
 人口3万人のA市。市の面積の70%を山間部が占めており、主要産業は農業と畜産業などで、一次産業従事者が多い。人口の分布は市街地のB地区に集中しており、市役所、公共施設、医療施設および商業施設が集中している。高齢化率は38%、国民健康保険加入者は1万人である。平成20年度から導入された特定健康診査の受診実績は、事業開始時から現在まで20%台を推移しており県内最下位である。

45 A市の国民健康保険加入者の生活習慣病を改善するために見直すべき計画はどれか。2つ選べ。

1.医療計画
2.地域福祉計画
3.データヘルス計画
4.介護保険事業計画
5.特定健康診査等実施計画

解答3・5

解説

ポイント

・人口3万人のA市(高齢化率38%、国民健康保険加入者1万人)
・市の面積の70%を山間部が占めている。
・人口の分布は市街地のB地区に集中。
・市役所、公共施設、医療施設および商業施設が集中している。
・特定健康診査の受診実績:20%台を推移。
課題:A市の国民健康保険加入者の生活習慣病を改善するために見直すべき計画

1.× 医療計画とは、地域における体系的な医療の提供を実現することを目的として、都道府県が策定する計画である。医療計画は6年ごと(平成29年度までは5年ごと)に見直される。各都道府県が、地域の実情に応じて、当該都道府県における医療提供体制の確保を図るために策定のことで、「地域医療構想に基づく切れ目のない在宅医療と介護の提供体制の構築」の基礎資料として活用はできる。
2.× 地域福祉計画とは、行政と地域住民が協働して、すべての住民が生涯を通して生き生きと自分らしく安心して暮らせる地域づくりを進めるための計画である。地域福祉計画における地域福祉推進の理念とは、参加型協働社会の形成である。市町村地域福祉計画及び都道府県地域福祉支援計画からなる。
3.〇 正しい。データヘルス計画は、国民健康保険加入者の生活習慣病を改善するために見直すべき計画である。データヘルス計画とは、各健康保険組合が健康診査・レセプト情報などのデータ分析に基づき、保健事業をPDCAサイクルで効果的・効率的に実施するための事業計画である。国民健康保険の保険者である市町村においても、加入者の生活習慣病の改善に活用できる。
4.× 介護保険事業計画とは、介護保険法に基づき地方自治体が策定する介護保険の保険給付を円滑に実施するための計画である。市町村が策定する「市町村介護保険事業計画」と都道府県が策定する「都道府県介護保険事業支援計画」がある。
5.〇 正しい。特定健康診査等実施計画は、国民健康保険加入者の生活習慣病を改善するために見直すべき計画である。特定健康診査等実施計画は、生活習慣病の予防を目的としている。また、メタボリックシンドロームの概念に基づく特定健康診査・特定保健指導の実施の取り組みをさらに推進し、健康づくりの機運を高め、特定健康診査・特定保健指導の実施率の向上を目指している。データヘルス計画との関係について、データヘルス計画は、健康保険組合が保有する健診結果と医療費データ(レセプト)の情報に基づいて保健事業をPDCAのサイクルで効果的・効率的に実施するための事業計画である。効果的な事業を実施するために、データヘルス計画と特定健康診査等実施計画とは相互に連携して策定することが望ましいとされている。

データヘルス計画とは?

 近年、特定健康診査(以下「特定健診」という。)の健診結果や診療報酬明細書(以下「レセプト」という。)等の電子化の整備の進展、国保データベースシステム等の構築により、保険者が健康や医療に関する情報を活用して国民健康保険被保険者の健康課題の分析、保健事業の評価等を行うための基盤整備が進んでいます。

 こうした中、「日本再興戦略」において、「全ての健康保険組合に対し、レセプト等のデータ分析、それに基づく加入者の健康保持増進のための事業計画として「データヘルス計画」の作成・公表、事業実施、評価等の取組を求めるとともに、市区町村国保が同様の取組を行うことを推進する。」と示されました。

 このことを踏まえ、保健事業の実施計画(以下「データヘルス計画」という。)については、「国民健康保険法に基づく保健事業の実施等に関する指針」及び「高齢者の医療の確保等に関する法律に基づく保健事業の実施等に関する指針」において、保険者等は、データヘルス計画を策定し、PDCA サイクル(Plan-Do-Check-Actionサイクル)に沿った効果的かつ効率的な保健事業の実施及び評価等を行うこととなりました。

 小平市国民健康保険においては、これらの背景から、平成27年(2015)年度から平成29(2017)年度までの3か年を計画期間とする第一期データヘルス計画を策定し、小平市国民健康保険の被保険者の方を対象に、事業を実施してきました。

(※引用:「データヘルス計画とは」小平市HPより)

 

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