第105回(H31) 保健師国家試験 解説【午前11~15】

 

11 平成28年(2016年)の女性の労働に関する説明で正しいのはどれか。

1.育児休業取得率は90%を超えている。
2.労働力人口比率は60%を超えている。
3.30歳代の就業率は40歳代よりも低い。
4.平均勤続年数は20年前よりも短くなっている。

解答

解説

(図引用:「第1 就業状態の動向」総務省統計局HPより)

1.× 育児休業取得率は、「90%を超えておらず」81.8%である。一方、男性は3.1%である。(※参考:「少子化対策の取組」内閣府HPより)
2.× 労働力人口比率は、「60%を超えておらず」50.3%である。一方、男性は70.4%である。「労働力人口比率」とは、15歳以上人口に占める労働力人口の割合である。(参考:「第1 就業状態の動向」総務省統計局HPより)
3.〇 正しい。30歳代の就業率(30~34歳が72.9%、35~39歳が71.4%)は、40歳代の就業率(40~44歳が75.1%、45~49歳が77.5%)よりも低い。就業率とは、15歳以上の人口における就業者の割合のことである。
4.× 平均勤続年数は、20年前よりも「短くなっている」のではなく長くなっている。平成29年は、9.4年である。一方、平成9年(20年前)の女性の一般労働者の平均勤続年数は、8.4年であった。(※参考:「賃金構造基本統計調査」厚生労働省HPより)

 

 

 

 

 

12 Aさん(25歳、男性)。1人暮らし。1か月前から、自宅で大声を出したり、独り言を言っている。近隣住民3名が保健所に来所し「Aさんの状況が悪化し住民に危害があったら大変だ。精神科に入院させてほしい」と訴えた。保健師は、Aさんの家族からも相談を受けていた。
 近隣住民3名に保健師が伝えることで適切なのはどれか。

1.保健師がAさん宅を訪問する予定であること
2.Aさんの家族からも相談を受けていること
3.保健所では入院の相談に応じられないこと
4.保健師が把握しているAさんのこれまでの経緯

解答

解説

MEMO

・Aさん(25歳、男性、1人暮らし)
・1か月前:自宅で大声を出したり、独り言あり。
・近隣住民3名が「Aさんの状況が悪化し住民に危害があったら大変だ。精神科に入院させてほしい」と訴えた。
・保健師は、Aさんの家族からも相談を受けていた。
→本症例は、何らかの精神疾患を呈している可能性がある。統合失調症の可能性が高い。近隣住民からの相談で大切なことは、①本人のプライバシーに十分配慮すること、②住民のコマっていることを具体的に詳しく傾聴し相談に乗ること、③精神疾患の理解を求めることがあげられる。

1.〇 正しい。保健師がAさん宅を訪問する予定であることは、近隣住民3名に保健師が伝えることとして適切である。本問は、家族・近隣住民3名から相談を受けている。また、Aさんの年齢や現在の状態から、精神疾患を発症している可能性がある。したがって、まずは家庭訪問でAさんの状態の確認を行うことの優先度が高い。つまり、訪問予定であること近隣住民3名を伝えることは、現実的かつ住民の不安にも配慮した対応である。
2.4.× Aさんの家族からも相談を受けていること/保健師が把握しているAさんのこれまでの経緯を近隣住民3名に伝える必要はない。なぜなら、個人情報保護の観点があるため。本人以外にも家族のプライバシーにも配慮する必要がある。個人情報とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名・生年月日その他の記述などにより特定の個人を識別できるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む)をいう。
3.× 保健所では入院の相談に応じられないと伝える必要はない。なぜなら、入院の必要性は医師が判断するため。近隣住民が何人で「入院させてほしい」と懇願しても、近隣住民や保健師の判断で入院させることは難しい。まずは家庭訪問でAさんの状態の確認・情報収集を行い、必要であれば精神科病院への受診を促す。

”統合失調症とは?”

統合失調症とは、幻覚・妄想・まとまりのない発語および行動・感情の平板化・認知障害ならびに職業的および社会的機能障害を特徴とする。原因は不明であるが、遺伝的および環境的要因を示唆する強固なエビデンスがある。好発年齢は、青年期に始まる。治療は薬物療法・認知療法・心理社会的リハビリテーションを行う。早期発見および早期治療が長期的機能の改善につながる。統合失調症患者の約80%は、生涯のある時点で、1回以上うつ病のエピソードを経験する。統合失調症患者の約5~6%が自殺し,約20%で自殺企図がみられる。したがって、うつ症状にも配慮して、工程がはっきりしたものや安全で受け身的で非競争的なものであるリハビリを提供する必要がある。

(※参考:「統合失調症」MSDマニュアル様HPより)

 

 




 

 

13 平成28年(2016年)1月から12月の感染症発生動向調査報告において、国内で発生が報告されているのはどれか。

1.エボラ出血熱
2.腸管出血性大腸菌感染症
3.中東呼吸器症候群(MERS)
4.重症急性呼吸器症候群(SARS)

解答

解説

腸管出血性大腸菌(ベロ毒素産生性大腸菌、志賀毒素産生性大腸菌)とは?

腸管出血性大腸菌(ベロ毒素産生性大腸菌、志賀毒素産生性大腸菌)は、赤痢菌が産生する志賀毒素類似のベロ毒素を産生し、激しい腹痛、水様性の下痢、血便を特徴とする。特に、小児や老人では、溶血性尿毒症症候群や脳症(けいれんや意識障害など)を引き起こしやすいので注意が必要である。原因食品は、ハンバーグ、生肉、生レバー、井戸水などである。

(※参考:「腸管出血性大腸菌感染症」厚生労働省HPより)

1.× エボラ出血熱は、日本では今のところ確定例の報告はない。エボラ出血熱は、主にアフリカ大陸で散発的に発生しており、欧米でも輸入例の報告はある。主として患者の体液等(血液、分泌物、吐物・排泄物)に触れることにより感染する疾病である。
2.〇 正しい。腸管出血性大腸菌感染症(O157など)は、平成29年には3904件の報告があった。腸管出血性大腸菌とは、ベロ毒素 、または志賀毒素 と呼ばれている毒素を産生することで病原性を持った大腸菌である「病原性大腸菌」の一種である。無症候性から軽度の下痢、激しい腹痛、頻回の水様便、さらに、著しい血便とともに重篤な合併症を起こし死に至るものまで様々である。
3.× 中東呼吸器症候群(MERS)は、日本では今のところ確定例の報告はない。サウジアラビアなどの中東で多くの症例が報告されている。咳などによる飛沫感染や接触感染によるものであると考えられています。
4.× 重症急性呼吸器症候群(SARS)は、日本では今のところ確定例の報告はない(日本でも可能性例と疑い例が報告されたが、いずれも否定されている)。2002~2003年にかけて世界的に流行した。(※引用先:平成28年(2016年)1月から12月の感染症発生動向調査報告

感染症発生動向調査事業とは

感染症発生動向調査は、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」に基づく施策として位置づけられた調査で、感染症の発生情報の正確な把握と分析、その結果の国民や医療機関への迅速な提供・公開により、感染症に対する有効かつ的確な予防・診断・治療に係る対策を図り、多様な感染症の発生及びまん延を防止することを目的としている。

【感染症発生動向調査による全数把握対象疾患】
全数把握対象疾患を診断したすべての医師が、患者の発生について届け出なければならない。
①新感染症の疑い
②新型インフルエンザ等感染症
③指定感染症
④1~4類までの全疾患と5類の一部疾患

定点把握対象疾患とは、5類感染症の定点把握対象疾患を指す。都道府県知事により指定された医療機関(指定届出機関)のみ、医療機関の管理者が患者の発生について届け出なければならない。主な疾患として、インフルエンザ(鳥インフルエンザ、新型インフルエンザ等感染症を除く)、性器クラミジア感染症、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症、その他の感染症(各省で指定)である。

(※参考:「感染症発生動向調査について」厚生労働省HPより)

 

 

 

 

 

14 産業保健における作業管理に該当するのはどれか。

1.定期的に健康診断を行う。
2.工場内の騒音を測定する。
3.労働時間内に休憩時間をとる。
4.作業場に排気装置を設置する。

解答

解説

労働衛生の3管理

①作業環境管理:作業環境中の有機溶剤や粉じんなど有害因子の状態を把握して、できる限り良好な状態で管理していくこと。
②作業管理:作業時間・作業量・作業方法・作業姿勢などを適正化したり、保護具を着用して作業者への負荷を少なくすること。
③健康管理:作業者の健康状態を健康診断で把握して、その結果に基づいて適切な措置や保健指導などを実施し、作業者の健康障害を未然に防ぐこと。

(※参考「労働衛生の3管理」厚生労働省HPより)

1.× 定期的に健康診断を行うのは、健康管理である。
2.4.× 工場内の騒音を測定する/作業場に排気装置を設置するのは、作業環境管理である。
3.〇 正しい。労働時間内に休憩時間をとるのは、作業管理である。

 

 




 

 

15 法令に定められた有害業務従事者に対する特殊健康診断の平成27年(2015年)と平成28年(2016年)の有所見率を表に示す。
 【A】の種別はどれか。

1.除染等電離放射線
2.高気圧
3.じん肺
4.鉛

解答

解説

有所見率とは?

【有所見率=有所見者数/受診者数×100】

有所見者数については、医師の診断が異常なし、要精密検査、要治療等のうち、異常なし以外の者を有所見者とする。
また、同一の労働者が年2回以上定期健康診断を受診している場合、そのうち1回以上「有所見」と診断された労働者を1人としている。

1.× 除染等電離放射線の健康診断における有所見率は、平成28年が8.2%である。
2.× 高気圧の健康診断における有所見率は、平成28年が5.3%である。
3.〇 正しい。じん肺の健康診断における有所見率は、平成28年が0.7%である。したがって、表中の【A】は、じん肺である。じん肺とは、主に小さな土ホコリや金属の粉などの無機物または鉱物性の粉塵の発生する環境で仕事をしている人が、その粉塵を長い年月にわたって多量に吸い込むことで肺組織が線維化してしまった状態である。
4.× 鉛の健康診断における有所見率は、平成28年が1.8%である。

(※引用先:平成28年業務上疾病発生状況等調査

特殊健康診断とは?

特殊健康診断とは、労働衛生対策上特に有害であるといわれている業務に従事する労働者等を対象として実施する健康診断である。

特殊健康診断実施を義務付けられている業種
①粉じん作業
②高圧室内業務と潜水業務
③電離放射線業務
④特定化学物質の製造・取り扱い業務
⑤鉛業務
⑥四アルキル鉛等業務
⑦有機溶剤業務
⑧石綿(アスベスト)取り扱い業務

 

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