第105回(H31) 保健師国家試験 解説【午後11~15】

 

11 県の保健所に住民から「うつ病で通院中なので、医療費を公費で負担してくれる制度の内容や手続きについて知りたい」という電話相談があった。
 保健所保健師の説明で適切なのはどれか。

1.「県の保健所が申請窓口です」
2.「精神保健福祉法に基づく制度です」
3.「世帯の所得に応じて負担上限額があります」
4.「お住まいの市が医療費受給の判定を行います」

解答

解説

ポイント

県の保健所に住民から「うつ病で通院中なので、医療費を公費で負担してくれる制度の内容や手続きについて知りたい」という電話相談があった。
→電話相談の主訴が精神通院医療(自立支援医療)である。精神通院医療(自立支援医療)とは、公費負担医療のひとつであり、精神疾患の治療のため通院による精神医療を継続的に要する病状にある者に対して医療費の自己負担を軽減するものである。

(※図引用:「総合的な自立支援システムの構築」厚生労働省HPより)

1.× 申請窓口は、「県の保健所」ではなく市町村の担当窓口で行う。ちなみに、自立支援医療(精神通院医療)の実施主体は都道府県(指定都市)であるが、申請窓口は市町村である。
2.× 精神保健福祉法ではなく『障害者総合支援法』に基づく制度である。自立支援給付に含まれる。ちなみに、自立支援医療には、精神通院医療のほかに、更生医療・育成医療がある。
3.〇 正しい。世帯の所得に応じて負担上限額がある。自己負担は原則1割であるが、この負担が過大なものとならないよう世帯の所得に応じて負担上限額が設定されている(応能負担:所得に応じて自己負担額が変わること)。
4.× 精神通院医療の医療費受給の判定は、「お住まいの市」ではなく、都道府県が行う。ちなみに、自立支援医療(精神通院医療)の実施主体は都道府県(指定都市)であるが、申請窓口は市町村である。

障害者総合支援法とは?

障害者総合支援法は、2013年に障害者自立支援法から障害者総合支援法へと改正され、障害者と障害児を対象とした障害保健福祉施策についてまとめられた法律である。これにより障害者の範囲が拡大され、身体障害者、精神障害者、知的障害者、障害児の全てが対象とされている。そして、対象となっている者は、認定調査というものを受け「障害支援区分」という障害の重症度分類によって7区分(非該当、区分1~6)に分けられる。それにより受けられるサービス内容が変わってくる。

①障害者も難病患者も自立できる社会をめざす。
応能負担(所得に応じて自己負担額が変わること)が原則
③あらゆる障害(身体・知的・精神+難病)についてこの法律で対応する。
④市区町村が事業の母体である。

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)とは?

①精神障害者の医療及び保護を行うこと、②障害者総合支援法とともに、精神障害者の社会復帰の促進、自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な援助を行うこと、③精神疾患の発生の予防や、国民の精神的健康の保持及び増進に努めることによって、精神障害者の福祉の増進及び国民の精神保健の向上を図ることを目的とした法律である。(参考:「精神保健福祉法について」厚生労働省HPより)

 

 

 

 

 

12 公衆衛生看護管理の機能と内容の組合せで正しいのはどれか。

1.人事管理:計画的人員配置
2.事業管理:指示命令系統の形成
3.予算管理:人材育成方針の作成
4.情報管理:地区活動計画の進捗状況の把握

解答

解説
1.〇 正しい。人事管理は、計画的人員配置が含まれる。人事管理は、組織の目標を達成するため、組織に必要な保健師人員数を確保し、職員を計画的に適材適所へ配置するとともに、人事評価を行う。他にも、主な内容はキャリアパス、ワークライフバランス、人事評価などである。
2.× 事業・業務管理は、地方自治体の上位計画や組織目標に基づく、事業計画策定や進行管理を行い、評価結果を次年度の計画等へ反映させる。事業管理の主な内容は、必要量と稼働量、業務計画の作成・遂行管理・評価、業務委託の管理である。ちなみに、指示命令系統の形成は、組織運営管理に含まれる。組織運営管理は、組織理念・目標や地域の課題を共有して組織としての方針を決定し、業務の効率化を高めながら組織体制を機能させる。
3.× 予算編成は、予算の仕組みを把握し、事業企画に伴う予算編成を行う。予算管理の主な内容は、予算編成・確保、予算の執行管理と評価である。ちなみに、人材育成方針の作成は、人事管理に含まれる。
4.× 情報管理は、地域の実態を把握するための情報収集・分析や正確な情報伝達のための体制整備、マスコミ対応、個人情報への配慮を行う。情報管理の主な内容は、情報管理に関する法制度、個人情報の保護、情報通信技術(ICT)活用の推進に伴う個人情報保護への対応、看護活動に関する地域情報管理、情報の収集・活用・発信、情報公開、情報開示である。ちなみに、活動計画の進捗状況の把握は、業務管理に含まれる。

保健師に求められる看護管理機能

保健師が担う管理機能には、キャリア発達の段階に沿って、新任期1年目から担うものと、中堅や管理者になってから担うものに分けられる。保健師が行う地域看護管理の機能として、①初任期にも事例管理、事業管理、地区管理等管理的な機能を果たす。②、①の延長線上に管理者の組織運営管理や人材育成管理そして地域管理等の機能がある。③管理的な機能は初任期から発揮されていることから、保健師の専門性の中核を成すものといえる。④地区管理も行うため、所属組織内の管理にとどまるものではない。

①事例管理:個々の事例のケアから始まり、それを地域の問題としてとらえ、ダイナミックな活動を展開する。
②地区管理:地域のニーズや課題から地域診断を行い、住民と協働した施策化を行う。
③事業・業務管理:地方自治体の上位計画や組織目標に基づく、事業計画策定や進行管理を行い、評価結果を次年度の計画等へ反映させる。
④組織運営管理:組織理念・目標や地域の課題を共有して組織としての方針を決定し、業務の効率化を高めながら組織体制を機能させる。
⑤予算編成:予算の仕組みを把握し、事業企画に伴う予算編成を行う。
⑥予算管理:新たな政策や人材確保等のための予算獲得および適切な執行と評価を行い、予算面から公衆衛生看護活動を担保する。
⑦人材育成:保健師の育成過程に応じて、中・長期的な研修計画および生涯学習企画と実施を行い、実践報告を評価する。
⑧人事管理:組織の目標を達成するため、組織に必要な保健師人員数を確保し、職員を計画的に適材適所へ配置するとともに、人事評価を行う。
⑨情報管理:地域の実態を把握するための情報収集・分析や正確な情報伝達のための体制整備、マスコミ対応、個人情報への配慮を行う。
⑩健康危機管理:危機発生を予測し、住民と協働する健康危機管理の体制づくり全般を行う。

(参考:「保健師に求められる看護管理のあり方」社団法人日本看護協会より)

 

 

 

 

13 人口(集団)寄与危険割合を直接計算するのに必要な情報はどれか。

1.全死亡数
2.累積罹患数
3.平均有病期間
4.対象集団の疾病頻度

解答

解説

人口寄与危険割合とは?

人口寄与危険割合(集団寄与危険割合)とは、疫学における指標の1つであり、集団全体と非曝露群における疾病の頻度の差である人口寄与危険度が、集団全体における疾病の頻度に占める割合である。寄与危険度(リスク差)とは、曝露群と非曝露群の疾病発症リスクの差のこと。「曝露因子があるとどれだけ危険度が増すか」を示す。何らかの介入を行った場合にどれだけの人が疾病を予防できるかが予測できるため、健康政策を進めるうえで重要な指標となる。

したがって、人口(集団)寄与危険割合は、人口集団(曝露群+非曝露群)の疾病の発生率から非曝露群の発生率を引くことで曝露による増加分が占める割合を示す。

人口(集団)寄与危険割合 =(人口集団の発生率一非曝露群の発生率)÷ 人口集団の発生率 × 100(%)】で表される。

よって、対象集団での発生率を意味する疾病頻度が必要な情報となる選択肢4.対象集団の疾病頻度が正しい。

1.× 全死亡数とは、ある集団に属する人のうち、一定期間中に死亡したすべての人数のこと。
2.× 累積罹患数とは、0歳から74歳までに、がんに罹患する確率の近似値である。0-74歳累積罹患率がよく用いられ、0歳から74歳までの年齢階級別罹患率に、その年齢階級に含まれる年数(通常は5歳階級)をかけあわせたもの。通常、人口千人で示される。
3.× 平均有病期間とは、発病してから治癒または死亡するまでの期間である。

 

 

 

 

 

14 大腸がんの危険因子はどれか。

1.肥満
2.熱い飲食物
3.アフラトキシン
4.ヘリコバクター・ピロリ

解答

解説

大腸がんの危険因子

大腸がんとは、大腸(結腸・直腸・肛門)に発生するがんである。この20年で大腸がんによる死亡数は1.5倍に拡大していてがんによる死亡数でも胃がんを抜いて第2位になっている。生活習慣に関わる大腸がんのリスク要因として、運動不足、野菜や果物の摂取不足、肥満、飲酒などが挙げられる。生活習慣の欧米化(高脂肪・低繊維食)が関与していると考えられている。

1.〇 正しい。肥満は、食道癌・大腸癌・膵癌・子宮体癌などの危険因子である。肥満は、糖尿病や高血圧などの生活習慣病の大きな要因であるだけでなく、上記のがんのリスクを高める。 食べ過ぎや運動不足によって、体内に余った糖を処理するために、大量のインスリンが分泌され、このインスリンの過剰分泌が、がん細胞を増殖しやすくするといわれている。
2.× 熱い飲食物は、食道癌の危険因子である。食道癌の危険因子として、ほかにも喫煙があげられる。
3.× アフラトキシンは、肝癌の危険因子である。アフラトキシンは、穀類・落花生・ナッツ類などに寄生するかびが産生するかび毒である。ほかにも肝癌の危険因子として、肝硬変、肝炎、アルコール摂取があげられる。
4.× ヘリコバクター・ピロリは、胃癌の危険因子である。ほかにも胃癌の危険因子として、食塩、アルコール、喫煙、遺伝などがあげられる。

 

 

 

15 2群間の平均の差の検定に用いるのはどれか。

1.t 検定
2.回帰分析
3.χ2(カイ2乗)検定
4.Fisher(フィッシャー)の直接確率法

解答

解説

検定とは?

 検定とは、統計学的手法を用いて、帰無仮説が正しいか、正しくないかを判断することである。

「検定の方法」

①パラメトリック検定(母集団が正規分布をするという仮説のもとに行う)
例:パラメトリック検定には、①t検定(2群の平均値の差を検定する)、②分散分析(3群以上の平均値に差があるかどうかを検定する)などがある。

②ノンパラメトリック検定(母集団の分布にかかわらず用いることのできる)に大別される。
例:ノンパラメトリック検定には、①Mann-Whitney検定(2群の中央値の差を検定する)、②X2検定(割合の違いを求める)、③Wilcoxon符号付順位検定(一対の標本による中央値の差を検定する)などがある。

1.〇 正しい。t 検定は、2群間の平均の差の検定に用いる。t 検定とは、2群の平均値に統計学的な有意差があるかを検定する方法である。
2.× 回帰分析とは、変数(xとy)の関係を式に当てはめ、1つ以上の説明変数(独立変数)xを用いて、結果変数(従属変数)yを予測する方法である。つまり、標本の分布を最もよく表す直線(回帰式)を求め、それを使って従属変数が説明変数によってどれくらい説明できるかを分析するこという。観察された関連が統計学的に有意であるかは検定によって検証する。
3.× χ2(カイ2乗)検定とは、2群の割合に統計学的な有意差があるかを検定する方法である。χ2(カイ2乗)検定とは、2つの変数のカテゴリー同士の観察された頻度に理論値との差(割合の差)があるかどうかを検定するものである。
4.× Fisher(フィッシャー)の直接確率法は、2群の割合に統計学的な有意差があるかを検定する方法である。Fisherの直接確率法は、標本数が少ないときによく用いられる。両群をクロス集計で2×2などの分割表に入れたとき、両群間の関連が統計的に優位であるかを見る。(χ2乗検定とほぼ同じであり、違いは数値の算出方法が違うのみである。)

 

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