第105回(H31) 保健師国家試験 解説【午前36~40】

 

36 予防接種法で正しいのはどれか。2つ選べ。

1.予防接種を受けることは国民の義務である。
2.定期予防接種の実施責任者は都道府県知事である。
3.定期予防接種は一類疾病と二類疾病に類型化されている。
4.定期予防接種の副反応による健康被害の救済が規定されている。
5.予防接種の総合的な推進を図るための予防接種基本計画が定められている。

解答4・5

解説

予防接種法とは?

予防接種法とは、公衆衛生の観点から伝染のおそれがある疾病の発生・まん延を予防するためにワクチンの予防接種を行うとともに、予防接種による健康被害の迅速な救済を図ることを目的として制定された日本の法律である。予防接種法に基づく予防接種には、①定期予防接種と②臨時予防接種があり、定期予防接種の対象疾患には、①A類疾病と②B類疾病がある。さらに同法に基づかない任意接種もある。

A類疾病:主に集団予防、重篤な疾患の予防に重点を置き、国の積極的な勧奨があり、本人(保護者)に努力義務がある。
疾患:結核、ジフテリア、破傷風、百日咳、ポリオ、麻疹、風疹、日本脳炎、ヒブ(インフルエンザ菌b型)感染症、小児の肺炎球菌感染症、水痘、ヒトパピローマウイルス感染症、B型肝炎

B類疾病:主に個人予防に重点を置き、国の積極的な勧奨なく、本人(保護者)に努力義務はない。
疾患:季節性インフルエンザと高齢者の肺炎球菌感染症

(参考:「予防接種とは?」東京都医師会HPより)

1.× 予防接種を受けることは、国民の義務ではない。しかし、『予防接種法』ではA類の定期予防接種は国民に接種の努力義務がある。ちなみに、B類の定期予防接種には努力義務がない。
2.× 定期予防接種の実施責任者は、「都道府県知事」ではなく市町村長である。これは5条に規定されており、「市町村長は、A類疾病及びB類疾病のうち政令で定めるものについて、当該市町村の区域内に居住する者であって政令で定めるものに対し、保健所長(特別区及び地域保健法(昭和二十二年法律第百一号)第五条第一項の規定に基づく政令で定める市(第十条において「保健所を設置する市」という。)にあっては、都道府県知事)の指示を受け期日又は期間を指定して、予防接種を行わなければならない。」とされる。(※引用:「予防接種法」e-GOV法令検索様HPより)
3.× 定期予防接種は、「一類疾病と二類疾病」ではなくA類B類に類型化されている。ちなみに、平成25年の『予防接種法』の改正に伴い、一類疾病はA類疾病、二類疾病はB類疾病に変更された。
4.〇 正しい。定期予防接種の副反応による健康被害の救済が規定されている。これは15条に規定されている。救済措置の給付額は約2年ごとに見直され、例えば、子どもが定期接種によって不幸にも死亡することがあれば、4,280万円(2020年現在)が支払われることになる。(※参考:「予防接種法」e-GOV法令検索様HPより)
5.〇 正しい。予防接種の総合的な推進を図るための予防接種基本計画が定められている。『予防接種法』において、「厚生労働大臣は、予防接種に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、予防接種に関する基本的な計画(予防接種基本計画)を定めなければならない」と規定されている。

 

 

 

 

 

37 市町村保健師における業務管理に該当するのはどれか。2つ選べ。

1.保健事業の質的評価
2.担当する支援対象者の評価
3.計画的人員配置の成果評価
4.地方公務員としての能力評価
5.協働して事業実施をした関係者に及ぼした影響評価

解答1・5

解説

業務管理とは?

 業務管理とは、地方自治体の上位計画や組織目標に基づく、事業計画策定や進行管理を行い、評価結果を次年度の計画に反映させることである。業務を効率的に進め、自社のさまざまな経営資源を適切に管理することで、自社の利益を最大限に追求できる。 社内ではさまざまな業務が複雑に関連しているため、全体の業務をまとめて管理しなければならない。 業務管理は、自社の業務をスムーズに進めるうえで重要な役割を果たす。

1.〇 正しい。保健事業の質的評価は、市町村保健師における業務管理に該当する。質的評価とは、数値だけでは把握できず、柔軟で自然主義的な手法を用いて、結果を主に文章などによって質的に表現するものである。住民や関係者の幅広い意見などから事業を評価し、次年度の計画へ反映する。
2.× 担当する支援対象者の評価は、事例管理に該当する。事例管理とは、個々の事例のケアから始まり、それを地域の問題としてとらえ、ダイナミックな活動を展開することである。
3.× 計画的人員配置の成果評価は、人事管理に該当する。人事管理とは、組織の目標を達成するため、組織に必要な保健師人員数を確保し、職員を計画的に適材適所へ配置するとともに、人事評価を行うことである。
4.× 地方公務員としての能力評価は、人事管理に該当する。人事管理とは、組織の目標を達成するため、組織に必要な保健師人員数を確保し、職員を計画的に適材適所へ配置するとともに、人事評価を行うことである。
5.〇 正しい。協働して事業実施をした関係者に及ぼした影響評価は、市町村保健師における業務管理に該当する。影響評価とは、事業の参加者や協働した関係者が事業前後でどのように変化したかを測定し、事業の効果を評価する。プログラムによって得られた対象者の行動の変化や知識の向上などの影響を評価する。これらの評価を、次年度の計画へ反映する。例:教育によってみられた対象者の行動の変化や知識の習得として、「適正な体重を保つための食事に関する知識が増えた」、「アルコールの適量が分かった」、「野菜を毎食食べるようになった」など。

保健師に求められる看護管理機能

保健師が担う管理機能には、キャリア発達の段階に沿って、新任期1年目から担うものと、中堅や管理者になってから担うものに分けられる。保健師が行う地域看護管理の機能として、①初任期にも事例管理、事業管理、地区管理等管理的な機能を果たす。②、①の延長線上に管理者の組織運営管理や人材育成管理そして地域管理等の機能がある。③管理的な機能は初任期から発揮されていることから、保健師の専門性の中核を成すものといえる。④地区管理も行うため、所属組織内の管理にとどまるものではない。

①事例管理:個々の事例のケアから始まり、それを地域の問題としてとらえ、ダイナミックな活動を展開する。
②地区管理:地域のニーズや課題から地域診断を行い、住民と協働した施策化を行う。
③事業・業務管理:地方自治体の上位計画や組織目標に基づく、事業計画策定や進行管理を行い、評価結果を次年度の計画等へ反映させる。
④組織運営管理:組織理念・目標や地域の課題を共有して組織としての方針を決定し、業務の効率化を高めながら組織体制を機能させる。
⑤予算編成:予算の仕組みを把握し、事業企画に伴う予算編成を行う。
⑥予算管理:新たな政策や人材確保等のための予算獲得および適切な執行と評価を行い、予算面から公衆衛生看護活動を担保する。
⑦人材育成:保健師の育成過程に応じて、中・長期的な研修計画および生涯学習企画と実施を行い、実践報告を評価する。
⑧人事管理:組織の目標を達成するため、組織に必要な保健師人員数を確保し、職員を計画的に適材適所へ配置するとともに、人事評価を行う。
⑨情報管理:地域の実態を把握するための情報収集・分析や正確な情報伝達のための体制整備、マスコミ対応、個人情報への配慮を行う。
⑩健康危機管理:危機発生を予測し,住民と協働する健康危機管理の体制づくり全般を行う。

(参考:「保健師に求められる看護管理のあり方」社団法人日本看護協会より)

評価指標

①企画評価:教育プログラムの企画は、適切であったか。
②過程評価:教育プログラムは、企画通りに実施できているか。
③影響評価:教育プログラムによって、対象者にどのような良い影響を与えたか。
④結果評価:教育プログラムの目標は、どの程度達成されたか。
⑤経済評価:教育プログラムに要した費用と、その効果はどうだったか。
⑥総合評価:すべての評価を含めて総合的な評価する。

 

 




 

 

38 日本の人口に関する指標のうち、平成23年(2011年)以降、増加傾向にあるのはどれか。2つ選べ。

1.総人口
2.老年化指数
3.従属人口指数
4.年少人口割合
5.生産年齢人口割合

解答2・3

解説
1.× 総人口は、平成23年以降、減少傾向である。
2.〇 正しい。老年化指数は、増加傾向である。老年化指数とは、年齢構造指数の一種で、年少人口(通常15歳未満人口)に対する老年人口(65歳以上人口)の比率をいう。
3.〇 正しい。従属人口指数は、増加傾向である。従属人口指数とは、生産年齢人口(15~64歳人口)が年少人口(15歳未満人口)と老年人口(65歳以上人口)をどれだけ扶養しているかを示した指数である。
4.× 年少人口割合は、減少傾向である。年少人口割合とは、15歳未満人口のことである。
5.× 生産年齢人口割合は、減少傾向にある。生産年齢人口割合とは、15歳~64歳の人口のことである。

(※参考:「人口推計」総務省統計局より)

 

 

 

 

 

39 地域保健・健康増進事業報告で把握されるのはどれか。2つ選べ。

1.糖尿病の総患者数
2.エイズに関する相談件数
3.退院患者の平均在院日数
4.乳児の健康診査の受診率
5.脳血管疾患の年齢調整死亡率

解答2・4

解説

地域保健・健康増進事業報告とは?

 地域保健・健康増進事業報告は、地域住民の健康の保持および増進を目的とし、地域の特性に応じた保健施策の展開などを、実施主体である保健所および市町村ごとに把握するものである。

【地域保健】①母子保健、②健康増進、③歯科保健、④精神保健福祉、⑤エイズ、⑥予防接種、⑦職員の配置状況

【健康増進編】①健康診査、②歯周疾患検診・骨粗鬆症検診、③健康教育、④健康相談、⑤訪問指導、⑥がん検診、⑦肝炎ウイルス検診

「※参考:「地域保健・健康増進事業報告」厚生労働省HPより」

1.3.× 糖尿病の総患者数/退院患者の平均在院日数は、患者調査によって把握できる。
2.〇 正しい。エイズに関する相談件数は、地域保健・健康増進事業報告によって把握できる。保健所は、エイズに関する相談、検査および衛生教育などを行っている。
4.〇 正しい。乳児の健康診査の受診率は、地域保健・健康増進事業報告によって把握できる。市町村は、乳幼児の健康診査の受診状況の把握など行っている。
5.× 脳血管疾患の年齢調整死亡率は、人口動態統計調査によって把握できる。人口動態調査は、人口動態事象を把握する上で重要な統計調査である。 同調査は戸籍法及び死産の届出に関する規程により届け出られた出生、死亡、婚姻、離婚及び死産の全数を対象として、毎月実施される。

患者調査とは?

目的:病院・診療所を利用する患者について、傷病状況の実態を明らかにする。
調査頻度:3年に1回、医療施設静態調査と同時期に実施している。
調査対象:標本調査(全国の病院、一般診療所、歯科診療所から層化無作為により抽出した医療施設の患者)
調査項目:患者の性別、出生年月日、住所、入院・外来の種別、受療の状況等。
調査方法:医療施設の管理者が記入。

(参考:「患者調査(基幹統計)」厚生労働省HPより)

 

 




 

 

40 健康増進法に基づき市町村が実施するのはどれか。2つ選べ。

1.栄養指導員の任命
2.健康手帳の交付
3.骨粗鬆症検診
4.特定健康診査
5.妊婦健康診査

解答2・3

解説

健康増進法とは?

健康増進法は、国民の健康維持と現代病予防を目的として制定された日本の法律である。都道府県と市町村は、地域の実情に応じた健康づくりの促進のため、都道府県健康増進計画(義務)および市町村健康増進計画(努力義務)を策定する。平成14(2002)年に制定された。

【市町村が行う健康増進事業】
①健康手帳、②健康教育、③健康相談、④訪問指導、⑤総合的な保健推進事業、⑥歯周疾患検診、⑦骨粗鬆症検診、⑧肝炎ウイルス検診、⑨がん検診、⑩健康検査、⑪保健指導などである。

【都道府県の役割】
都道府県は、都道府県健康増進計画において、管内市町村が実施する健康増進事業に対する支援を行うことを明記する。都道府県保健所は、市町村が地域特性等を踏まえて健康増進事業を円滑かつ効果的に実施できるよう、必要な助言、技術的支援、連絡調整及び健康指標その他の保健医療情報の収集及び提供を行い、必要に応じ健康増進事業についての評価を行うことが望ましい。都道府県は、保健・医療・福祉の連携を図るとともに、市町村による健康増進事業と医療保険者による保健事業との効果的な連携を図るために、地域・職域連携推進協議会を活性化していくことが望ましい。

1.× 栄養指導員の任命は、「市町村」ではなく都道府県知事が任命する。栄養指導員は『健康増進法』に基づき、医師または管理栄養士の資格を有する都道府県などの職員のなかから、都道府県知事が任命すると規定されている。これは19条に規定されている。(※参考:「健康増進法」e-GOV法令検索様HPより)栄養指導員は、専門的な栄養指導や特定給食施設への指導、立入調査などを担う。
2.〇 正しい。健康手帳の交付は、健康増進法に基づき市町村が実施する。健康手帳は、自らの健康管理のために必要な事項を記載する手帳である。市町村が、区域内に居住する40歳以上の者を対象に交付する。
3.〇 正しい。骨粗鬆症検診は、健康増進法に基づき市町村が実施する。市町村が行う健康増進事業は、①健康手帳、②健康教育、③健康相談、④訪問指導などがある。市町村が行う健康増進事業による検診は、①歯周疾患検診、②骨粗鬆症検診、③肝炎ウイルス検診、④がん検診、⑤特定健診非対象者の健康診査・保健指導がある。骨粗鬆症とは、骨量が減って骨が弱くなり、骨折しやすくなる病気である。原因として、閉経による女性ホルモンの低下や運動不足・喫煙・飲酒・栄養不足・加齢などである。
4.× 特定健康診査は、健康増進法ではなく『高齢者の医療の確保に関する法律(高齢者医療確保法)』に基づき、医療保険者が実施する。『高齢者の医療の確保に関する法律(高齢者医療確保法)』は、国民保健の向上および高齢者の福祉の増進を図ることを目的とする法律である。
5.× 妊婦健康診査は、健康増進法ではなく『母子保健法』に基づき、市町村が必要に応じて行う。母子保健法は、母性並びに乳児及び幼児の健康の保持及び増進を図るため、母子保健に関する原理を明らかにするとともに、母性並びに乳児及び幼児に対する保健指導、健康診査、医療その他の措置を講じ、もって国民保健の向上に寄与することを目的として制定された法律である。妊婦健診は、妊婦さんや赤ちゃんの健康状態を定期的に確認するために行うものである。

 

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