第105回(H31) 保健師国家試験 解説【午前41~45】

 

次の文を読み41〜43の問いに答えよ。
 A市内にある入所定員100人の介護老人保健施設。ショートステイも実施している。2月3日(月)に入所者と職員の13人が嘔吐と下痢などの症状を発症した。発症した入所者は全員、施設内の厨房で調理された給食を各階の食堂で食べており、食中毒の発生を疑った施設長から、保健所に電話で相談があった。相談を受けた保健所は、医師を含む調査チームを組んで施設に現地調査に向かうことにした。

41 調査チームのメンバーで適切なのはどれか。2つ選べ。

1.薬剤師
2.保健師
3.管理栄養士
4.環境衛生監視員
5.食品衛生監視員

解答2・5

解説

ポイント

・介護老人保健施設(入所定員100人、ショートステイも実施)。
・2月3日(月):13人が嘔吐下痢などの症状。
・発症した入所者全員:給食を各階の食堂で食べている。
・相談を受けた保健所は、医師を含む調査チームを組んで施設に現地調査に向かうことにした。
→本問では、「食中毒の発生」が疑われる。食中毒とは、食中毒を起こすもととなる細菌やウイルス、有毒な物質がついた食べ物を食べることによって、下痢や腹痛、発熱、吐き気などの症状が出る病気のこと。 

1.× 薬剤師は、主に調剤・医薬品に関する情報提供および指導が業務内容である。薬局や医療機関(病院)で処方せんに基づく調剤や患者への服薬説明を行うほか、医療用医薬品から一般用医薬品まで、すべての薬を販売したり、相談にのることができる。
2.〇 正しい。保健師を調査チームのメンバーに加える。保健所の保健師は、感染症対策や健康危機管理を行う。したがって、保健師が食中毒の調査チームのメンバーとして参加する。
3.× 管理栄養士は、主に傷病者に対し、療養のため必要な栄養の指導や、健康の保持増進のための指導などが業務内容である。食品衛生に関する部署に所属している可能性はあるが、業務内容や専門性の観点から選択肢の中に優先度が高い職種がほかにある。
4.× 環境衛生監視員は、主に理美容所などの立入検査、旅館やホテルの構造設備の検査、公衆浴場の衛生措置などを行う。保健所に所属する職種ではあるが、食中毒の調査チームのメンバーとして優先度は低い。
5.〇 正しい。食品衛生監視員を調査チームのメンバーに加える。食品衛生監視員は、保健所などに所属し、食中毒の調査、営業施設の監視、指導などを行っている。したがって、食中毒の調査チームのメンバーとして適切である。食品衛生監視員とは、行政警察活動として、食品衛生法に規定された職務及び食品衛生に関する指導を行う技術系公務員である。主に国の検疫所と地方自治体の保健所に所属し、食品の収去や検査、食中毒等の調査、食品製造業者や飲食店の監視、指導及び教育を行っている。

 

 

 

 

 

次の文を読み41〜43の問いに答えよ。
 A市内にある入所定員100人の介護老人保健施設。ショートステイも実施している。2月3日(月)に入所者と職員の13人が嘔吐と下痢などの症状を発症した。発症した入所者は全員、施設内の厨房で調理された給食を各階の食堂で食べており、食中毒の発生を疑った施設長から、保健所に電話で相談があった。相談を受けた保健所は、医師を含む調査チームを組んで施設に現地調査に向かうことにした。

42 施設への現地調査の結果、調理従事者の直近の検便結果に異常はなく、冬期のため乳幼児の面会は制限していたことがわかった。また、通常、職員は1階と2階とで担当が分かれているが、2月1日(土)に1階のショートステイで嘔吐・下痢の発症者が増えたため、2階の職員が1階のショートステイ利用者の吐物の処理や介護を行っていた。ショートステイ利用者と入所者、職員等について、発症日と発症者数等を表に示す。
 今回の感染経路で「ショートステイ利用者からの感染」のほかに可能性が高いのはどれか。

1.面会者からの感染
2.給食食材からの感染
3.介護職員からの感染
4.調理従事者からの感染

解答

解説

ポイント

・調査の結果:調理従事者の直近の検便結果に異常はなく、乳幼児の面会は制限していた。
・職員は1階と2階とで担当が分かれている。
・2月1日(土):1階のショートステイで嘔吐・下痢の発症者が増えたため、2階の職員が1階のショートステイ利用者の吐物の処理や介護を行っていた
・表:2月2日(日)に1階の入居者から1名で出てからを契機に、2月3日(月)には感染者が急増している。
→今回の感染経路で「ショートステイ利用者からの感染」以外を考えた場合、「①2階の職員が1階のショートステイ利用者の吐物の処理や介護を行っていたこと」「②2月2日(日)に1階の入居者から1名で出てからを契機に、2月3日(月)には感染者が急増していること」から考えると、介護職員からの感染経路である可能性は高い。

1.× 面会者からの感染経路である可能性は低い。なぜなら、①最初(1月30日)に発症しているのが、ショートステイ利用者で施設の入所者ではないこと、②乳幼児の面会は制限していたため。
2.× 給食食材からからの感染経路である可能性は低い。なぜなら、給食の食材が感染源であるとすれば、入所者や介護職員も1月30日に発症する可能性が高いため。また、1月30日に発症した入所者や介護職員はいないため。
3.〇 正しい。介護職員からの感染経路である可能性は高い。なぜなら、ショートステイの利用者が発症し、その利用者の介護を担っていた介護職員が感染し、その介護職員によって感染が拡大した可能性が高いため。設問文から「①2階の職員が1階のショートステイ利用者の吐物の処理や介護を行っていたこと」「②2月2日(日)に1階の入居者から1名で出てからを契機に、2月3日(月)には感染者が急増していること」が記載されている。
4.× 調理従事者からの感染経路である可能性は低い。なぜなら、調理従事者が感染源であるとすれば、入所者や介護職員も1月30日に発症する可能性が高いため。1月30日に発症した入所者や介護職員はいないこと、調理従事者の直近の検便結果に異常はなかったことから考えて、調理従事者からの感染である可能性は低い。

 




 

 

次の文を読み41〜43の問いに答えよ。
 A市内にある入所定員100人の介護老人保健施設。ショートステイも実施している。2月3日(月)に入所者と職員の13人が嘔吐と下痢などの症状を発症した。発症した入所者は全員、施設内の厨房で調理された給食を各階の食堂で食べており、食中毒の発生を疑った施設長から、保健所に電話で相談があった。相談を受けた保健所は、医師を含む調査チームを組んで施設に現地調査に向かうことにした。

43 今回の感染症は、ノロウイルスによる感染と判明した。2月10日(月)に、施設から保健所に「8日(土)以降は新たな発症者もなく、患者も快方に向かっている」と報告があり、集団発生の終息の時期について相談があった。
 終息時期で適切なのはどれか。

1.初発患者の発生から1年後
2.最後に症状のあった患者の発生から1か月後
3.施設から提出された報告書によって保健所が判断
4.一定期間、新たな患者が発生しないことを確認して保健所が判断

解答

解説

ポイント

・感染症は、ノロウイルスによる感染と判明した。
・2月10日(月):施設から保健所に「8日(土)以降は新たな発症者もなく、患者も快方に向かっている」
・集団発生の終息の時期について相談があった。
→ノロウイルスは、もっとも一般的な胃腸炎の原因である。感染者の症状は、非血性下痢、嘔吐、胃痛(悪心・嘔吐、水様性下痢腹痛、発熱等の急性胃腸炎)が特徴である。発熱や頭痛も発生する可能性がある。症状は、通常ウイルス曝露後12〜48時間で発症し、回復は通常1〜3日以内である。合併症はまれだが、特に若人、年配者、他の健康上の問題を抱えている人では、脱水症状が起こることがある。原因として、①カキ等の二枚貝、②感染者の嘔吐物等への接触や飛沫による二次感染である。感染経路は、経口感染、接触感染、飛沫感染、空気(飛沫核)感染による。

【予防・拡大防止】
①感染源となる二枚貝等は、中心部まで十分に加熱(85~95℃以上、90秒以上)する。
②消毒には、通常のアルコール製剤や逆性石鹸は有効でないため、塩素系消毒剤(0.1%次亜塩素酸ナトリウム)を用いる。
③ノロウイルスは乾燥に強く、感染者の嘔吐物等が乾燥して空気中に飛散することで感染拡大するため完全に拭き取る。
④嘔吐物等の処理時には手袋、ガウンマスクを装着する。(※参考:「ノロウイルスに関するQ&A」厚生労働省HPより)

1~3.× 初発患者の発生から1年後/最後に症状のあった患者の発生から1か月後/施設から提出された報告書によって保健所が判断することは、終息時期として不適切である。なぜなら、感染の状況を確認せず、初発患者の発生からの「時間経過や報告書のみ」で、終息時期を決めているため。ノロウイルスは、下痢などの症状がなくなっても、通常1週間程度ウイルスの排泄が続く。一定期間、新たな患者が発生しないことを確認して保健所が終息時期を判断するのが一般的な流れである。
4.〇 正しい。一定期間、新たな患者が発生しないことを確認して保健所が判断することは、終息時期として適切である。また、スタッフも症状が改善した後、約1週間程度は作業しないことが望ましい。

(※図引用:「ノロウイルスに関するQ&A」厚生労働省HPより)

 

 




 

 

次の文を読み44〜46の問いに答えよ。
 人口10万人のA市では、脳血管疾患の死亡割合が全国と比較して大きいことが明らかになった。そこで、脳血管疾患の予防対策の一環として血圧に注目し、一部の市民を対象とした塩分摂取量の把握のための聞き取りによる食事調査を行うこととした。

44 調査者の主観が影響しにくい標本を選ぶ方法はどれか。

1.制限
2.応募法
3.無作為抽出
4.マッチング
5.無作為化(割付)

解答

解説

ポイント

・A市:「脳血管疾患の死亡割合が全国と比較して大きい」
・脳血管疾患の予防対策の一環(血圧に着目):塩分摂取量の把握のための聞き取りによる食事調査。
→「調査者の主観が影響しにくい標本」を選択する必要がある。「主観的」とは、自分の好みなど、自分だけが感じるものの見方のことである。「客観的」とは、調査データなどが存在したり数値で測れるため、誰もが納得できるものの見方である。

1.× 制限(限定)は対象集団を制限することである。母集団となるA市民から、調査対象となる一部の市民を募集する際に、一定の条件を設けて、その条件に合致する人を選ぶ方法である。「条件の設定方法によって」は、母集団を代表せず、調査者の主観が含まれる可能性がある。
2.× 応募法は、非確率抽出法のひとつで調査を行う際に、自ら応募してきた人を対象とする方法である。応募法を作成しているときには、調査者の主観が含まれやすく、また「募集方法によって」は、調査者の主観が含まれる可能性がある。
3.〇 正しい。無作為抽出は、調査者の主観が影響しにくい。なぜなら、無作為抽出は、母集団から調査対象者を無作為(ランダム)に抽出することを指すため。調査対象者は、乱数表などを用いて確率的に標本が抽出される。
4.× マッチングは、研究デザインにおける交絡のコントロールのひとつで、症例と対照の間で交絡因子となりそうな要因を一致させることである。調査において、あるグループと、比較するもう一方のグループの間で、性別・年齢などの背景因子に関する分布を、類似させたり同一にする方法である。つまり、調査者の主観の影響を減らすためでなく、交絡を減らすための方法であり、調査の仮説や対象集団の特徴にあわせて、事前に決定される事項である。
5.× 無作為化(割付)は、研究デザインにおける交絡のコントロールのひとつで、まったく交絡因子が不明の時に対象者を介入群、非介入群にランダムに割り付ける方法である。すでに抽出された標本に対して行う方法である。

交絡とは?

交絡とは、ある危険因子の曝露と転帰結果の関連を考える際に、その危険因子に付随し表には現れていないその他の危険因子が直接転帰に関連し、観察している因子は直接的には関連していない場合があることをいう(例:喫煙と癌の関係を調べる時、実際には付随する他の因子が直接に癌の発生と関係あるような場合)。曝露と転帰に係わる因子を交絡因子という。曝露と転帰の因果関係の過程で生じるものではないこと、対象の選択や判定上で問題となるバイアスとも異なることに注意が必要である。観察的研究ではこの交絡が起こる可能性が常に存在するため、①研究デザインにおける交絡のコントロール、②データ分析における交絡のコントロールが必要になる。

①研究デザインにおける交絡のコントロール
限定:対象集団を制限すること。
マッチング:症例と対照の間で交絡因子となりそうな要因を一致させること。
無作為化:まったく交絡因子が不明の時に対象者を介入群、非介入群にランダムに割り付ける方法である。無作為化の目的は、比較する群の性別、年齢、重症度などの既知の交絡因子の分布を均等にするばかりでなく、未知の交絡因子の影響を低減させること。

②データ分析における交絡のコントロール
層化:対象者をひとまとめにして分析せずに、そのサブグループごとに分けて分析すること。
多変量解析:統計学的モデルを用いて交絡因子も変数として含めることで、それぞれの変数の影響を見ていく方法である。

 

 

 

次の文を読み44〜46の問いに答えよ。
 人口10万人のA市では、脳血管疾患の死亡割合が全国と比較して大きいことが明らかになった。そこで、脳血管疾患の予防対策の一環として血圧に注目し、一部の市民を対象とした塩分摂取量の把握のための聞き取りによる食事調査を行うこととした。

45 調査の対象者の塩分摂取量を評価するため、平成28年(2016年)の全国の結果と比較することにした。
  比較するのに有用な統計資料はどれか。

1.国勢調査
2.医療施設調査
3.国民生活基礎調査
4.国民健康・栄養調査

解答

解説

ポイント

・調査の対象者の塩分摂取量を評価するため、平成28年(2016年)の全国の結果と比較することにした。
→比較するのに有用な統計資料は、塩分摂取量の調査結果を公表している調査である。

1.× 国勢調査は、比較するのに有用な統計資料といえない。国勢調査とは、日本に住んでいるすべての人を対象に5年に1回行う調査で、国内の人口や世帯の実態を把握するために行われる。
2.× 医療施設調査は、比較するのに有用な統計資料といえない。医療施設調査とは、全国の医療施設から提出された開設・廃止などの申請・届出を基に、毎月「動態調査」として、医療施設数、病床数、診療科目などの動向を把握し、集計・公表を行うとともに、3年ごとに「静態調査」として、検査・手術の実施状況や診療設備の保有状況などの診療機能の詳細な調査を実施し、集計・公表を行っている。
3.× 国民生活基礎調査は、比較するのに有用な統計資料といえない。国民生活基礎調査とは、国民生活の基礎的事項(保健・医療・福祉・年金・所得など)を調査し、厚生労働行政の企画及び運営に必要な基礎資料を得るとともに、各種調査の調査客体を抽出するための親標本を設定することを目的とし、厚生労働省が行う基幹統計調査である。
4.〇 正しい。国民健康・栄養調査は、比較するのに有用な統計資料である。国民健康・栄養調査とは、国民の健康状態、生活習慣や栄養素摂取量を把握するための調査である。 毎年、食生活状況、各種身体・血液検査や飲酒、喫煙、運動習慣などを調べており、国における健康増進対策や生活習慣病対策に不可欠な調査となっている。国民健康・栄養調査は、『健康増進法』に基づき、国民の身体の状況、栄養素等摂取状況および生活習慣の状況についての調査で、標本調査により実施される。つまり、調査結果に食塩摂取量の状況を公表している。

国民健康・栄養調査とは?

国民健康・栄養調査とは、国民の健康状態、生活習慣や栄養素摂取量を把握するための調査である。 毎年、食生活状況、各種身体・血液検査や飲酒、喫煙、運動習慣などを調べており、国における健康増進対策や生活習慣病対策に不可欠な調査となっている。国民健康・栄養調査は、『健康増進法』に基づき、国民の身体の状況、栄養素等摂取状況および生活習慣の状況についての調査で、標本調査により実施される。

【国民健康・栄養調査の調査項目】
1)身体状況調査票
ア.身長、体重(満1歳以上)
イ.腹囲(満6歳以上)
ウ.血圧測定(満20歳以上)
エ.血液検査(満20歳以上)
オ.問診<服薬状況、糖尿病の治療の有無、運動>(満20歳以上)

2)栄養摂取状況調査票
満1歳以上の世帯員の食品摂取量、栄養素等摂取量、食事状況(欠食・外食等)、1日の身体活動量(歩数:満20歳以上)

3)生活習慣調査票
満20歳以上が対象。食生活、身体活動・運動、休養(睡眠)、飲酒、喫煙、歯の健康等に関する生活習慣全般を把握。

(※参考「国民健康・栄養調査」厚生労働省HPより)

 

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