第105回(H31) 保健師国家試験 解説【午後6~10】

 

6 Aさん(54歳、女性)。会社で実施した特定健康診査の結果、特定保健指導の積極的支援の対象者として、保健指導の予約を入れるように会社の健康管理の担当者から連絡を受けた。A さんは「保健指導を受けると、今までの食事の見直しを指導されるかもしれないが、病気を防いで健康に暮らすことができる」と考えた。
 Aさんの考えはヘルス・ビリーフ・モデルにおける構成要素のどれか。

1.疾病の重大さの自覚
2.予防行動の利益の自覚
3.疾病にかかる可能性の自覚
4.必要な行動をうまく実行できる確信の自覚

解答

解説

(図引用:SGS(商工技能振興会)株式会社様HPより)

ヘルス・ビリーフ・モデルとは?

ヘルス・ビリーフ・モデルは、行動変容に至る過程に影響する構成要素を説明するモデル理論である。対象者がモデルのどの段階にいるのかを、発言や態度からアセスメントし、適切な支援につなげることができる。

本症例のポイント

・Aさん(54歳、女性)
・特定保健指導の積極的支援の対象者。
・A さん「保健指導を受けると、今までの食事の見直しを指導されるかもしれないが、病気を防いで健康に暮らすことができる」。
→Aさんは、今までの食事を見直す「行動による負担」と、病気を防ぐ「行動による利益」を比較し病気を予防することで健康になれるという利益を感じている。

Aさんは、今までの食事を見直す「行動による負担」と、病気を防ぐ「行動による利益」を比較し病気を予防することで健康になれるという利益を感じている。これは「予防行動の利益の自覚」にあたる。したがって、選択肢2.予防行動の利益の自覚が正しい。

1.× 疾病の重大さの自覚は、設問上から読み取ることができない。疾病の重大さの自覚とは、「病気に罹ったら大変だ」という感情を抱くことである。
3.× 疾病にかかる可能性の自覚は、設問上から読み取ることができない。疾病にかかる可能性の自覚とは、「病気に罹ってしまうかもしれない」という感情を抱くことである。
4.× 必要な行動をうまく実行できる確信の自覚(自己効力感)は、設問上から読み取ることができない。自己効力感(セルフエフィカシー)とは、自分が行動しようと思っていること、変えようと思っている生活習慣などに対し、うまく達成できるという自信や確信のこと、自己効力感の理論はライフスタイル改善のプログラムに活用される。自己効力感を高める要因として、①成功体験、②代理的体験、③言語的説得、④生理的・情緒的状態(情緒的高揚)が挙げられる。

自己効力感とは?

①成功体験:例えば禁煙できた日をカレンダーに一日ずつ×を書いていき、「1週間禁煙できた」と自信をつけること。
②代理的体験:同じような状況にある他者が目標を達成している様子から「自分にもできそうだ」と思うこと。
③言語的説得:自分自身や周囲の人からの言語的な賞賛や励ましのこと。
④生理的・情緒的状態(情緒的高揚):行動の変化を促すような情報に触れ気づきを得ることで行動変容への関心をもつこと。例えば、タバコを吸わなくなってから「イライラしにくくなったきがするな」と気づきをえることで、行動がさらに変わっていくことである。

 

 

 

 

 

7 VDT作業における労働衛生管理のためのガイドラインに基づき、1日4時間以上のデータ入力を行う社員に対する産業保健師の指導で適切なのはどれか。

1.椅子には浅く腰かける。
2.ディスプレイからは30cm以内の視距離にする。
3.一連続作業時間が1時間を超えないようにする。
4.キーボードの周辺と部屋の明るさの差を大きくする。

解答

解説

VDT作業とは?

VDT作業とは、ディスプレイを持つ画面表示装置(VDT:Visual Display Terminals) を用いた作業のこと。コンピュータや監視カメラを用いた作業を指す。 VDT作業はVDT症候群のように、心身の負担を感じさせることにつながるため、厚生労働省においても「VDT作業における労働衛生環境管理のためのガイドライン」を定めている。

【作業環境管理】
(1)照明及び採光
①室内は、できるだけ明暗の対照が著しくなく、かつ、まぶしさを生じさせないようにすること。
②ディスプレイを用いる場合のディスプレイ画面上における照度は500ルクス以下、書類上及びキーボード上における照度は300ルクス以上とすること。また、ディスプレイ画面の明るさ、書類及びキーボード面における明るさと周辺の明るさの差はなるべく小さくすること。
③ディスプレイ画面に直接又は間接的に太陽光等が入射する場合は、必要に応じて窓にブラインド又はカーテン等を設け、適切な明るさとなるようにすること。

(2)一連続作業時間及び作業休止時間
一連続作業時間が1時間を超えないようにし、次の連続作業までの間に10分~15分の作業休止時間を設け、かつ、一連続作業時間内において1回~2回程度の小休止を設けること。 

(3)その他
換気、温度及び湿度の調整、空気調和、静電気除去、休憩等のための設備等について事務所
衛生基準規則に定める措置等を講じること。

(※一部引用:「VDT作業における労働衛生環境管理のためのガイドライン」厚生労働省HPより)

1.× 椅子には「浅く腰かける」のではなく深く腰かける。なぜなら、足の裏全体が床につくように高さを調整し背もたれに背を十分に当てることで腰の負担軽減へとつながるため。
2.× ディスプレイからは、「30cm以内」ではなくおおむね40cm以上の視距離にする。なぜなら、目の負担を減らすためである。
3.〇 正しい。一連続作業時間が1時間を超えないようにする。さらに、10~15分の作業休止時間を設けるとよい。一連続作業時間内において1回~2回程度の小休止を設けることが望ましい。
4.× キーボードの周辺と部屋の明るさの差は、「大きくする」のではなく小さくする。ディスプレイを用いる場合のディスプレイ画面上における照度は500ルクス以下、書類上及びキーボード上における照度は300ルクス以上とすること。また、ディスプレイ画面の明るさ、書類及びキーボード面における明るさと周辺の明るさの差はなるべく小さくすること。

 

 




 

 

8 労働安全衛生法に基づき、労働者50人未満の事業者に義務付けられているのはどれか。

1.産業医の選任
2.衛生委員会の設置
3.ストレスチェックの実施
4.長時間労働者への医師の面接指導

解答

解説

労働安全衛生法とは?

「労働安全衛生法」とは、労働者の安全と衛生についての基準を定めた日本の法律である。事業者は安全衛生管理体制を整備することが義務づけられており、それぞれの事業規模に応じた①衛生管理者、②総括安全衛生管理者などを選任しなければならない。

①衛生管理者
職場の衛生にかかわる技術的事項の管理を行う。少なくとも毎週1回作業場の巡視を行い、設備、作業方法または衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに健康障害防止措置を講じなければならない。

②総括安全衛生管理者
安全管理者、衛生管理者を指揮し、安全・衛生・健康・事故防止などの統括管理を行う。その事業場で統括管理する者(工場長、支店長 等)を充てなければならない。

1.× 産業医の選任が義務付けられているは、常時使用する労働者が50人以上の事業者である。産業医とは、労働安全衛生法に基づき、事業所や労働者に対して労働衛生について勧告・指導・助言を行う医師のことである。業種を問わず常時使用する労働者が50人以上の事業場で、事業所が産業医を選任することが義務付けられている。原則として、少なくとも毎月1回職場巡視をしなければならない。
2.× 衛生委員会の設置が義務付けられているは、常時使用する労働者が50人以上の事業者である。衛生委員会とは、労働安全衛生法において定められている、労働者の意見を事業者の行う安全衛生に関する措置に反映させる制度である。①労働者の健康障害の防止や②健康の保持増進に関する取り組みなどの重要事項について、労使一体となって調査審議を行う場である。
3.× ストレスチェックの実施が義務付けられているは、常時使用する労働者が50人以上の事業者である。ストレスチェック制度は、労働者に対して行う心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)や、検査結果に基づく医師による面接指導の実施などを事業者に義務づける制度である。平成26(2014)年6月の法改正で、労働者50人以上の事業所で毎年1回、すべての労働者に対してストレスチェックを実施することが義務づけられた。ストレスチェック後に「高ストレス判定」が出た場合、会社の対応が義務つけられている。①検査の結果「高ストレス者」と判定された労働者から申し出があった場合、産業医などの医師による面談(面接指導)を実施すること。②面接指導の結果に基づき、医師の意見を聞き、必要に応じ就業上の措置を講じることも義務となる。
4.〇 正しい。長時間労働者への医師の面接指導は、事業場の規模を問わず、実施が義務づけられている。長時間の労働により疲労が蓄積し健康障害発症のリスクが高まった労働者について、その健康の状況を把握し、これに応じて本人に対する指導を行うとともに、その結果を踏まえた措置を講じるものである。(参考:「長時間労働者への医師による面接指導制度について」厚生労働省HPより)

地域産業保健センターとは?

産業保健総合支援センターの目的は、事業主等に対し職場の健康管理への啓発を行うことで、事業者や産業保健スタッフ等を対象に、専門的な相談への対応や研修等を行う。主な業務内容として、①産業保健関係者からの専門的な相談への対応、②産業保健スタッフへの研修、③メンタルヘルス対策の普及促進のための個別訪問支援、④管理監督者向けメンタルヘルス教育、⑤事業者・労働者に対する啓発セミナー、⑥産業保健に関する情報提供、⑦地域窓口(地域産業保健センター)の運営である。

地域窓口(地域産業保健センター)は、労働基準監督署の管轄区域ごとに相談窓口を設置し、産業医の選任義務のない従業員50人未満の職場の事業主や従業員を対象に、医師・保健師による健康相談や面接指導などのサービスを無料で行っている。主な業務内容として、①相談対応(メンタルヘルスを含む労働者の健康管理、健康診断の結果について医師からの意見聴取、長時間労慟者に対する面接指導等)、②個別訪問指導(医師等による職場巡視)、③産業保健に関する情報提供である。

 

 

 

 

 

9 避難行動要支援者で、発災直後に最も優先して安否確認するのはどれか。

1.在宅人工呼吸療法をしている筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者
2.デイケアに通所している統合失調症患者
3.介護認定で要支援2の認知症高齢者
4.出産予定月の妊婦

解答

解説

避難行動要支援者とは?

避難行動要支援者とは、災害が発生し、または災害が発生するおそれがある場合、高齢者や障がいのある人など配慮が必要な人を「要配慮者」と言い、要配慮者のうち、自ら避難することが困難な人で、その円滑かつ迅速な避難の確保を図るために特に支援が必要な人を「避難行動要支援者」という。

例えば…
①要介護認定3~5を受けている者
②身体障害者手帳1・2級(総合等級)の第1種を所持する身体障害
者(心臓、じん臓機能障害のみで該当するものは除く)
③療育手帳Aを所持する知的障害者
④精神障害者保健福祉手帳1・2級を所持する者で単身世帯の者
⑤市の生活支援を受けている難病患者
⑥上記以外で自治会が支援の必要を認めた者

(参考:「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」内閣府HPより)

1.〇 正しい。在宅人工呼吸療法をしている筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者は、発災直後に最も優先して安否確認する必要がある。なぜなら、筋萎縮性側索硬化症(ALS)は難病患者に該当するため。在宅人工呼吸器など在宅で医療機器を使用している場合には、災害時の停電などが患者の生命に重大な影響を及ぼす可能性がある。
2~4.× デイケアに通所している統合失調症患者/介護認定で要支援2の認知症高齢者/出産予定月の妊婦は、いずれも要配慮者に該当する。いずれも配慮は必要であるが、安否確認の優先度は選択肢1より低い。

”筋萎縮性側索硬化症とは?”

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、主に中年以降に発症し、一次運動ニューロン(上位運動ニューロン)と二次運動ニューロン(下位運動ニューロン)が選択的にかつ進行性に変性・消失していく原因不明の疾患である。病勢の進展は比較的速く、人工呼吸器を用いなければ通常は2~5年で死亡することが多い。男女比は2:1で男性に多く、好発年齢は40~50歳である。
【症状】3型に分けられる。①上肢型(普通型):上肢の筋萎縮と筋力低下が主体で、下肢は痙縮を示す。②球型(進行性球麻痺):球症状(言語障害、嚥下障害など)が主体、③下肢型(偽多発神経炎型):下肢から発症し、下肢の腱反射低下・消失が早期からみられ、二次運動ニューロンの障害が前面に出る。
【予後】症状の進行は比較的急速で、発症から死亡までの平均期間は約 3.5 年といわれている。個人差が非常に大きく、進行は球麻痺型が最も速いとされ、発症から3か月以内に死亡する例もある。近年のALS患者は人工呼吸器管理(非侵襲的陽圧換気など)の進歩によってかつてよりも生命予後が延長しており、長期生存例ではこれらの徴候もみられるようになってきている。ただし、根治療法や特効薬はなく、病気の進行に合わせて薬物療法やリハビリテーションなどの対症療法を行うのが現状である。全身に筋委縮・麻痺が進行するが、眼球運動、膀胱直腸障害、感覚障害、褥瘡もみられにくい(4大陰性徴候)。終末期には、眼球運動と眼瞼運動の2つを用いたコミュニケーション手段が利用される。

(※参考:「2 筋萎縮性側索硬化症」厚生労働省様HPより)

 

 




 

 

10 A市では、自然災害によって一部の家屋に床上浸水の被害があった。
 住民やボランティアが泥のかき出しや片付けを行うにあたり、保健所の感染症担当の保健師が行う保健指導の内容で適切なのはどれか。

1.窓は閉めて行う。
2.次亜塩素酸ナトリウムの消毒液を噴霧する。
3.消毒液は使用する濃度に前日に作り置きしておく。
4.衣類は洗濯する前に80 ℃のお湯に10分以上つける。

解答

解説

ポイント

・A市:一部の家屋に床上浸水の被害があった。
・住民やボランティアが泥のかき出しや片付けを行う。
→衛生上気を付けなければならないタイミングは、①自宅に戻った時、②清掃時、③消毒時それぞれあげられる。今回は、②清掃時に該当する。

【清掃時に注意すること】
・室内を乾燥させるため、できる限り、ドアと窓を開放する。
・けがを防ぐために厚手のゴム手袋、ゴム長靴(あればゴーグルをつけて眼も保護します)、ほこりを吸い込まないためにマスクをつけて、清掃に当たる。
・(堅い)床、壁、金属部分、調理台、シンクなどは水と石けん(洗濯石けんや食器用洗剤)で洗い流し、泥や破片を取り除く。
・高圧洗浄機を用いると効果的に洗浄できるが、その際は、マスクを着用し、換気に気をつける。
・浸水して洗うことのできない家具(カーペット、布製ソファーなど)は撤去する。
・可能なら、扇風機を使い、乾燥を促す。
・浸水した衣類、布類は熱水洗濯、あるいは 80℃の熱水に 10 分以上漬けた後洗濯し、乾燥させる。
・終了後は、しっかり手を洗い、シャワーを浴びる。
・清掃時に着ていた服は、汚れていない服と区別して洗濯する。
(一部抜粋:「一般家屋における洪水・浸水など水害時の衛生対策と消毒方法(暫定版ガイダンス)」日本環境感染学会より)

1.× 窓は、「閉めて」ではなく開けて行う。なぜなら、室内を乾燥させるため。水害時は、下水の氾濫や腐敗物の漂着、カビの発生などにより、衛生状態が悪化する。したがって、換気や室内の乾燥のため、できる限りドアと窓を開放する。
2.× 次亜塩素酸ナトリウムの消毒液を噴霧する必要はない。なぜなら、吸い込むと健康障害につながる(皮膚に対しても刺激が強すぎる)ため。けがを防ぐために厚手のゴム手袋、ゴム長靴(あればゴーグルをつけて眼も保護します)、ほこりを吸い込まないためにマスクをつけて、清掃に当たる。ちなみに、次亜塩素酸ナトリウムは、台所用漂白剤に含まれ水で希釈して食器類の消毒に用いる。噴霧して使用してはならない。
3.× 消毒液は、使用する濃度に前日に作り置きしておく必要はない。なぜなら、消毒液は揮発性(液体の蒸発しやすい性質)のものもあり、時間とともに濃度が低下するため。
4.〇 正しい。衣類は、洗濯する前に80 ℃のお湯に10分以上つける。漬けた後洗濯し、乾燥させる。なぜなら、感染症の原因となる汚泥が付着した衣類を消毒するため。

 

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