問題引用:第106回保健師国家試験、第103回助産師国家試験、第109回看護師国家試験の問題および正答について
※注意:解説はすべてオリジナルのものとなっています。私的利用の個人研究・自己研鑽のため作成いたしました。間違いや分からない点があることをご了承ください。またコメントにて解き方等教えてくださると幸いです。
1 国際連合児童基金(UNICEF)の説明で正しいのはどれか。(※不適切問題:高難易度問題)
1.活動資金は国際連合から拠出されている。
2.2国間援助の形態で技術協力を担っている。
3.万人のための教育の促進を戦略目標として掲げている。
4.各国の事業計画に基づき、女性が地域社会の経済発展に全面的に参加できるようにすることを支援している。
解答4(採点対象から除外)
理由:問題としては適切であるが、受験生レベルでは難しすぎるため。
解説
国連児童基金とは、第二次世界大戦によって荒廃した国々の子どもたちに緊急の食料を与え、健康管理を行う目的で1946年に設立された。 ユニセフは開発途上国の子どもや母親に長期の人道援助や開発援助を行う。 ユニセフは緊急援助基金から開発機関へと発展した。
設置年:昭和21(1946)年
本部:ニューヨーク
協力形態:多国間協力
事業内容:①開発途上国や紛争中の国の子供の支援、②児童の権利に関する条約(子供権利条約)の普及
備考:保健、栄養、水・衛生、教育、HIV/エイズ、保護、緊急支援、アドボカシー(政策提言)などの活動を実施している。
(※「UNICEFについて」UNICEF東京事務所様HPより)
1.× 活動資金は、「国際連合から」ではなく、①各国政府から任意拠出金と②民間からの寄付金より成り立っている。2020年、ユニセフの総収入は75億4,800万米ドル。このうち、政府や政府間組織から寄せられた資金は約49億2,900万米ドル(66%)、民間部門(各国のユニセフ協会、民間企業、個人のご支援者、NGO、財団)から寄せられた資金は16億1,000万米ドル(21%)、国際組織間協力からの資金は7億6,700万米ドル(10%)、その他の収入は2億4,200万米ドル(3%)にのぼる(参考:「ユニセフの財政」UNICEF様HPより)。
2.× 「2国間援助」の形態で技術協力を担っているのは、国際協力機構(JICA)である。国際協力機構(JICA)の目的は、①開発途上地域に対する技術協力の実施、②無償資金協力の実施の促進、③開発途上地域の住民を対象とする国民等の協力活動の促進に必要な業務等を行い、これらの地域等の経済及び社会の発展または復興に寄与し、国際協力の促進に資することを目的とする。国際連合児童基金(UNICEF)は、国連機関であるため「多国間協カ」の一環として活動している。
3.× 万人のための教育の促進を戦略目標として掲げているのは、UNESCO:ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)である。国際連合児童基金(UNICEF)の事業内容は、①児童の権利に関する条約の普及、②開発途上国や紛争中の国の子供の支援などである。つまり、子どもたちに特化している。
4.〇 正しい。各国の事業計画に基づき、女性が地域社会の経済発展に全面的に参加できるようにすることを支援している。女性が地域社会の政治・社会経済発展に全面的に参加できるようにすることを目指している。
国際協力機構とは、開発途上地域に対する技術協力の実施、無償資金協力の実施の促進、開発途上地域の住民を対象とする国民等の協力活動の促進に必要な業務等を行い、これらの地域等の経済及び社会の発展または復興に寄与し、国際協力の促進に資することを目的とする。
設置年:昭和49(1974)年
協力形態:二国間協力
事業内容:①技術協力(専門家の派遣、研究員の受け入れ)、②有償・無償資金協力、③ボランティア派遣(青年海外協力隊など)、④国際緊急援助
備考:国際緊急援助では、大規模災害時、被災国政府等の要請に応じ、国際緊急援助隊が派遣されている。
青年海外協力隊とは、日本国政府が行う政府開発援助 の一環として、外務省所管の独立行政法人国際協力機構 が実施する海外ボランティア派遣制度である。
(※参考:「(1)独立行政法人 国際協力機構(JICA)」外務省HPより)
2 親による子への虐待発生の可能性を高める要因はどれか。
1.高齢出産
2.経済的問題
3.共働き世帯
4.祖父母が同居する世帯
解答2
解説
【保護者側のリスク要因】保護者側のリスク要因には、妊娠、出産、育児を通して発生するものと、保護者自身の性格や精神疾患等の身体的・精神的に不健康な状態から起因するものがある。リスク要因と考えられているものを挙げると、まず望まぬ妊娠や10代の妊娠であり、妊娠そのものを受容することが困難な場合である。また、望んだ妊娠であったとしても、妊娠中に早産等何らかの問題が発生したことで胎児の受容に影響が出たり、妊娠中又は出産後に長期入院により子どもへの愛着形成が十分行われない場合がある。また、保護者が妊娠、出産を通してマタニティブルーズや産後うつ病等精神的に不安定な状況に陥ったり、元来性格が攻撃的・衝動的であったり、医療につながっていない精神障害、知的障害、慢性疾患、アルコール依存、薬物依存等がある場合や保護者自身が虐待を受けたことがある場合が考えられる。特に、保護者が未熟である場合は、育児に対する不安やストレスが蓄積しやすい。
【子ども側のリスク要因】子ども側のリスクとして考えられることは、乳児期の子ども、未熟児、障害児、何らかの育てにくさを持っている子ども等である。
【養育環境のリスク要因】リスキーな家庭環境として考えられるものは、未婚を含む単身家庭、内縁者や同居人がいる家庭、子ども連れの再婚家庭、夫婦を始め人間関係に問題を抱える家庭、転居を繰り返す家庭、親族や地域社会から孤立した家庭、生計者の失業や転職の繰り返し等で経済不安のある家庭、夫婦の不和、配偶者からの暴力等不安定な状況にある家庭である。また、リスキーな養育環境として考えられるものは、妊娠中であれば定期的な妊婦健康診査を受診しない等胎児及び自分自身の健康の保持・増進に努力しないことが考えられる。出産後であれば、定期的な乳幼児健康診査を受診しない等が考えられる。
(※引用:「 子ども虐待対応の手引き > 第2章 発生予防」厚生労働省様HPより)
1.× 高齢出産は、虐待発生のリスクを高める要因とはいえない。高齢出産ではなく「望まぬ妊娠や10代の妊娠」がリスク要因である。なぜなら、妊娠そのものを受容することが困難な場合となることが多いため。
2.〇 正しい。経済的問題は、親による子への虐待発生の可能性を高める要因である。なぜなら、経済的問題を抱える家庭では生活に困窮し、時間的・精神的余裕がないストレス状況にあるため。養育環境のリスク要因に分類され、他にも、未婚を含む単身家庭、内縁者や同居人がいる家庭、子ども連れの再婚家庭、夫婦を始め人間関係に問題を抱える家庭、転居を繰り返す家庭、親族や地域社会から孤立した家庭、夫婦の不和、配偶者からの暴力等不安定な状況にある家庭などがあげられる。
3.× 共働き世帯は、虐待発生のリスクを高める要因とはいえない。なぜなら、共働きの場合には夫婦で協力したり、育児サービスを利用する機会があると考えられるため。一方で、「転居を繰り返す家庭、親族や地域社会から孤立した家庭」は親による子への虐待発生の可能性を高める要因である。
4.× 祖父母が同居する世帯は、虐待発生のリスクを高める要因とはいえない。なぜなら、同居家族がいる場合には、周囲からの育児支援が得られる機会があると考えられるため。一方で、「親族や地域社会から孤立した家庭」は親による子への虐待発生の可能性を高める要因である。
3 保健師は、住民が自分の生活を振り返り、必要な情報を集め、自己決定できることを目指した健康教育を実施した。
この健康教育の参加者の行動変容に関係するのはどれか。
1.リスクコミュニケーション
2.コンプライアンス
3.ヘルスリテラシー
4.リーダーシップ
解答3
解説
1.× リスクコミュニケーション(リスクの意見交換)とは、個人・集団・組織間でリスクやその管理手法について相互に意見交換をすることである。交換のプロセスを通してリスクの受け止めしつつ、相互の信頼を深めることを目的としている。
2.× コンプライアンス(遵守行動)とは、法令や指示に従うこと(法令遵守)である。専門職が健康のために必要であると勧めた指示を患者が遵守する行動のことである。
3.〇 正しい。ヘルスリテラシー(健康の情報理解)とは、健康の保持増進に役立つ情報にアクセスし、情報を理解・活用して、よりよい意思決定をする力のことである。したがって、設問の「保健師は、住民が自分の生活を振り返り、必要な情報を集め、自己決定できることを目指した健康教育を実施した」行動は、ヘルスリテラシーといえる。
4.× リーダーシップとは、集団の目標が達成されるように働きかけるとともに、集団が全体としてまとまりを保ちながら機能するように支援することである。「指導力・統率力」などと表現される。
ヘルスリテラシーとは、WHOによると「健康の増進や維持に役立つ情報にアクセスし、理解し、利用する個人の意欲や能力となる認知的で社会的なスキル」とされる。
4 Aさん(78歳、女性)。1人暮らし。別居する息子から「最近、母は買い物以外は外出せず、物忘れもひどくなっているようだ。どうしたらよいか」と、市の保健センター保健師に相談があった。保健師が状況把握を目的に息子と一緒に初回訪問をしたところ、Aさんに「私は何も困っていないし、家事も全部できている。来ないでほしい」と言われた。
息子への保健師の対応で適切なのはどれか。
1.「Aさんとの同居を検討しましょう」
2.「近隣の住民に見守りを依頼しましょう」
3.「Aさんが医療機関を受診できるよう一緒に考えましょう」
4.「Aさんの意思を尊重して保健師の訪問は控えたいと思います」
解答3
解説
・Aさん(78歳、女性、1人暮らし)
・別居の息子:「最近、母は買い物以外は外出せず、物忘れもひどくなっている。」
・息子と一緒に初回訪問:Aさん「私は何も困っていないし、家事も全部できている。」
→本症例は、認知症が疑われる。初期であれば薬物療法により改善がみられるケースも多い。したがって、医療機関へつなぐのが好ましい。
1.× Aさんとの同居を検討する必要はない。なぜなら、Aさんも息子さんも別居の希望は聞かれておらず、根本的な解決にならないため。また、息子がAさんと同居可能か、それを希望しているかといったことを確認せずに同居を勧めることは適切な対応とはいえない。いずれにしても、本人の状態だけではなく、家族の意向を確認したうえで対応を決める必要がある。
2.× 近隣の住民に見守りを依頼する必要はない。なぜなら、Aさんは「何も困っていないし、家事も全部できている」と言っており、この段階で見守りをつけることは、Aさんの自尊心を傷つけたり、さらなる反抗心を抱きやすいため。また、Aさんのようにまだ初回訪問の場合(十分な評価ができていない場合)、専門職ではない近隣住民に見守りを依頼することが、Aさんへの有効な支援につながるとは考えにくく、またトラブルも起こる可能性がある。
3.〇 正しい。Aさんが医療機関を受診できるよう一緒に考える。なぜなら、Aさんは外出頻度の低下や物忘れの進行などの認知症を疑う症状があるため。初期であれば薬物療法により改善がみられるケースも多い。医療機関受診に向けて家族と協力していく。
4.× Aさんの意思を尊重して、保健師の訪問は控える必要はない。なぜなら、Aさんは、自分自身の症状や置かれている状況、支援の必要性などを正確に把握できない状態である可能性が高いため。本人のみの希望に基づいて訪問を控えることは、息子さんの不安の解決にならず、Aさんの医療機関受診や介護支援につながりにくくなる。
2012年の日本の65歳以上の高齢者における、認知症有病率推定値は15%で、認知症有病者数は約462万人と推計されている。軽度認知障害(MCI)の有病率は、13%と推定され、約400万人の軽度認知症の方がいると推計されている。ちなみに、軽度認知障害(MCI)とは、認知症と正常な状態の中間と定義され、時間経過とともにアルツハイマー型認知症を発症すると言われている。軽度認知障害(MCI)とアルツハイマー型認知症の違いは、日常生活を独立して行えるかどうかとされているが、その境界線は曖昧である。
【軽度認知障害〈MCI〉の診断基準】(Winblad B ら、2004)
1.認知症または正常のいずれでもないこと
2.客観的な認知障害があり、同時に客観的な認知機能の経時的低下、または、主観的な低下の自己報告あるいは情報提供者による報告があること
3.日常生活能力は維持されており、かつ、複雑な手段的機能は正常か、障害があっても最小であること
(※引用:「認知症と軽度認知機能障害と軽度認知機能障害について」厚生労働省様HPより)
5 市のがん検診の受診率が伸びないため、事業担当保健師は、受診率向上に向けた取り組みを検討している。
最も効果的な取り組みはどれか。
1.広報誌による受診勧奨
2.医療機関でのポスターの掲示
3.がん予防に関する講演会の開催
4.未受診者への個別通知による受診の再勧奨
解答4
解説
・課題:市のがん検診の受診率が伸びない。
→事業担当保健師は、受診率向上に向けた取り組みを検討している。受診率向上施策ハンドブックとして、厚生労働省の「がん検診受診率向上施策ハンドブック」が参考になる。①選ばない、②簡単に、③得るように、④個別で、⑤約束的に、⑥その瞬間が重要なキーワードである。
選択肢4.未受診者への個別通知による受診勧奨は、再勧奨で個別通知の回数を増やす方法であり、がん検診の受診率向上に効果的な取り組みである。厚生労働省の「がん検診受診率向上施策ハンドブック」において、検診の従来の受診勧奨(コール)のあとに、行動を促すためのきっかけづくりとして再勧奨(リコール)を行うことが、受診率向上に最も効果的な方法として紹介されている。したがって、選択肢4.未受診者への個別通知による受診の再勧奨が最も効果的な取り組みといえる。
1~3.× 広報誌による受診勧奨/医療機関でのポスターの掲示/がん予防に関する講演会の開催/は、がん検診の未受診者の受診率向上に最も効果的な取り組みとはいえない。なぜなら、いずれも不特定多数を対象とした介入方法であるため。厚生労働省の「がん検診受診率向上施策ハンドブック」において、勧奨メッセージで受診率改善市の紹介もされている。