11 Aさん(92歳、女性)。1人暮らし。近所と良好な関係を築いていた。1か月前から姿を見せなくなったため、近隣者がAさんの自宅を訪ねた。Aさんはどこも悪くないと言うが、近隣者は不安を感じて、地域包括支援センターに連絡した。
近隣者への保健師の対応で最も適切なのはどれか。
1.「一緒にAさん宅へ行きましょう」
2.「民生委員に連絡を取ってみます」
3.「地域包括支援センターで対応します」
4.「Aさんの主治医に連絡を取ってみます」
解答1
解説
・Aさん(92歳、女性、1人暮らし)
・近所と良好な関係を築く。
・1か月前:姿を見せなくなったため、近隣者がAさんの自宅を訪ねた。
・A さん「どこも悪くない」
・近隣者は不安を感じた。
→近隣者の不安はなぜなのか?極端なことを言えば、Aさんはその近隣者が「おせっかいで嫌いなだけ」の可能性もある。とはいえ、Aさんは一人暮らしで近所との良好な関係を築くことができており、近隣者の不安も傾聴・共感も重要である。Aさんの個人情報の取り扱いも慎重に対応する。『個人情報』とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名・生年月日その他の記述などにより特定の個人を識別できるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む)をいう。
1.〇 正しい。一緒にAさん宅へ行く。なぜなら、近隣者の不安に寄り添うとともに、高齢で1人暮らしをしているAさんの健康状態や生活状況を確認できるため。近隣者と協働して家庭訪問を行うことが、保健師の対応として最も適切である。
2〜3.× 民生委員/地域包括支援センターと連携を取ることは優先度が低い。なぜなら、それぞれと連携をとったことを近隣者に伝えても、直接的な解決(近隣者の不安を解消する)ことはできないため。ちなみに、地域包括支援センターは、介護保険法で定められた、地域住民の保健・福祉・医療の向上、虐待防止、介護予防マネジメントなどを総合的に行う機関である。
4.Aさんの主治医に連絡を取る優先度は低い。なぜなら、A さんは「どこも悪くない」と言っている状態で、主治医と連絡を取り合うことは、Aさんの信頼の低下や疑念を抱きやすいため。
民生委員は、日本独自の制度化されたボランティアである。地域社会の福祉の増進図っている。任期は3年で都道府県知事の推薦を受けて厚生労働大臣に委嘱されたものである。市町村の各地区に配置され、①住民の生活状況の把握、②関係機関との連携、③援助を要するものヘの相談援助を主な役割とする。根拠法令は「民生委員法」で給与の支給はない。
12 難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)に基づく指定難病で正しいのはどれか。
1.治療方法が確立している。
2.発病の機構が明らかである。
3.客観的な指標による一定の診断基準が定まっている。
4.患者数が日本の人口のおおむね百分の一程度に相当する。
解答3
解説
難病と指定難病の定義は『難病法』に定められている。
【難病】
・発病の機構が明らかでない。
・治療方法が確立していない。
・希少な疾病である。
・長期の療養を必要する。
(患者数の限定は行わず、他の施策体系が樹立されていない疾患を幅広く対象とし、調査研究・患者の支援を推進する。例:悪性腫瘍はがん対策基本法において体系的な施策の対象となっている。)
【指定難病】
難病のうち、以下の要件のすべてを満たすものを、患者の置かれている状況からみて、良質かつ適切な医療の確保を図る必要性が高いものとして、厚生科学審議会の意見を聞いて厚生労働大臣が指定する。
・患者数が一定の人数(※)に達しない。
・客観的な診断基準が確立してない。
(※)人口の概ね千分の一(0.1%)程度に相当する数と厚生労働省令において規定している。
(※参考「指定難病の要件について」厚生労働省HPより)
1.治療方法が「確立している」のではなく確立されていない。難病とは、「発病の機構が明らかでなく、かつ、治療方法が確立していない希少な疾病であって、当該疾病にかかることにより長期にわたり療養を必要とすることとなるもの」である。
2.発病の機構が「明らか」ではなく明らかではない。難病とは、「発病の機構が明らかでなく、かつ、治療方法が確立していない希少な疾病であって、当該疾病にかかることにより長期にわたり療養を必要とすることとなるもの」である。
3.〇 正しい。客観的な指標による一定の診断基準が定まっている。指定難病とは、「難病のうち患者の置かれている状況からみて、良質かつ適切な医療の確保を図る必要性が高いものとして、①患者数が一定の人数に達しない、②客観的な診断基準が確立しているという2つの要件を満たす疾病」である。
4.× 患者数が日本の人口のおおむね「百分の一程度」ではなく、千分の一程度に相当する。指定難病の定義にある「患者数が一定の人数に達しない」の一定の人数とは、患者数が日本の人口のおおむね千分の一程度に相当する数と定められている。
『難病法』とは、難病の患者に対する医療などに関する施策を定め、良質・適切な医療の確保、療養生活の質の維持向上を図ることを目的としている。この目的に沿って定められている8つの基本方針は以下のとおりである。
【難病の患者に対する医療等の総合的な推進を図るための基本的な方
①医療等の推進の基本的な方向
②医療を提供する体制の確保に関する事項
③医療に関する人材の養成に関する事項
④調査及び研究に関する事項
⑤医療のための医薬品及び医療機器に関する研
⑥療養生活の環境整備に関する事項
⑦医療等と福祉サービスに
⑧その他、医療等の推進に関する重要事項
【難病と指定難病の定義】
・発病の機構が明らかでない。
・治療方法が確立していない。
・希少な疾病である。
・長期の療養を必要する。
【指定難病】
・患者数が一定の人数に達しない。
・客観的な診断基準が確立してない。
【医療費助成制度について】
①都道府県・指定都市の窓口に申請する。
②医療費助成の対象者:指定難病に罹患し、重症度分類等による病状の程度が一定以上であるとして認定を受けた者。
③患者の自己負担は2割で、自己負担上限額(月額)が設定されている。
④自己負担上限額は、応能負担(世帯の所得に応じて設定)されている。
⑤医療費助成は、都道府県・指定都市が指定する指定医療機関が行う特定医療に対して行われる。
⑥特定医療費の支給に要する費用は、都道府県と国が50%ずつ負担している。
(※参考「指定難病の要件について」厚生労働省HPより)
13 感染症サーベイランスで、医療機関、保健所、都道府県を経て厚生労働省に報告されるのはどれか。
1.積極的疫学調査
2.感染症発生動向調査
3.感染症流行予測調査
4.院内感染サーベイランス事業
解答2
解説
感染症サーベイランスとは、感染症の発生状況を調査・集計することにより、感染症の蔓延と予防に役立てるシステムのことである。感染症法(第12条及び第14条)に基づき、診断医療機関から保健所へ届出のあった情報について、保健所から都道府県庁、厚生労働省を結ぶオンラインシステムを活用して収集し、専門家による解析を行い、国民、医療関係者へ還元(提供・公開)することで、感染症に対する有効かつ的確な予防対策を図り、多様な感染症の発生・拡大を防止するものとなっている。患者の発生情報を統一的な手法で持続的に収集・分析し得られた情報を「疾病の予防と対策」のために迅速に還元するものである。
(参考:「サーベイランスについて」厚生労働省HPより)
1.× 積極的疫学調査とは、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(第15条)に基づき、感染症の発生を予防し、又は感染症の発生の状況、動向及び原因を明らかにするための調査を指す。感染拡大防止対策に用いることを目的として行われる調査であり、保健所や国立感染症研究所などの公的な機関が行う。
2.〇 正しい。感染症発生動向調査は、感染症サーベイランスで、「医療機関→保健所→都道府県→厚生労働省」に報告される。感染症サーベイランスとは、感染症の発生状況を調査・集計することにより、感染症の蔓延と予防に役立てるシステムのことである。感染症法(第12条及び第14条)に基づき、診断医療機関から保健所へ届出のあった情報について、保健所から都道府県庁、厚生労働省を結ぶオンラインシステムを活用して収集し、専門家による解析を行い、国民、医療関係者へ還元(提供・公開)することで、感染症に対する有効かつ的確な予防対策を図り、多様な感染症の発生・拡大を防止するものとなっている。
3.× 感染症流行予測調査とは、『予防接種法』に基づき集団免疫の現況把握および病原体の検索などの調査を行い、各種疫学資料と併せて検討し、予防事業の効果的な運用を図り、さらに長期的視野に立ち総合的に疾病の流行を予測することを目的としている。厚生労働省、国立感染症研究所、道府県・都道府県衛生研究所などが協力して行う。
4.× 院内感染サーベイランス事業は、厚生労働省が実施している事業である。医療機関の院内感染対策の推進を目的とした改善方策を支援するため、院内感染の発生状況、薬剤耐性菌の分離状況や薬剤耐性菌による感染症の発生状況などの監視や分析、情報提供などを行う。
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症予防法、感染症法、感染症新法)は、感染症の予防および感染症患者に対する医療に関する措置について定めた日本の法律である。平成10年(1998年)に制定された。主な内容は、①1~5類感染症の分類と定義、②情報の収集・公表、③感染症(結核を含む)への対応や処置。
【「感染症法」の対象となる感染症】
①1類感染症(7疾患:エボラ出血熱 ・クリミア・コンゴ出血熱・痘そう(天然痘) ・南米出血熱・ペスト・マールブルグ病・ラッサ熱)
対応:原則入院・消毒等の対物措置(例外的に建物への措置,通行制限の措置も適用対象とする)
②2類感染症(6疾患:・急性灰白髄炎(ポリオ)・結核 ・ジフテリア ・重症急性呼吸器症候群(SARS)・特定鳥インフルエンザ(H5N1, H7N9) ・中東呼吸器症候群(MERS))
対応:状況に応じて入院・消毒等の対物措置
③3類感染症(5疾患:・コレラ・細菌性赤痢・品管出血性大腸菌感染症(0157等)・腸チフス ・パラチフス)
対応:・特定職種への就業制限・消毒等の対物措置
④4類感染症(44疾患:※一部抜粋。・E型肝炎・A型肝炎 ・黄熱・Q熱・狂犬病・チクングニア熱・鳥インフルエンザ(特定鳥インフルエンザを除く)・炭疽 ・ボツリヌス症 ・マラリア ・野兎病・重症熱性血小板減少症候群(SFTS)・デング熱・ジカウイルス感染症・日本脳炎・その他感染症(政令で指定))
対応:・感染症発生状況の情報収集、分析とその結果の公開,提供・媒介動物の輸入規制・消毒等の対物措置
⑤5類感染症(46疾患:※一部抜粋。・インフルエンザ(鳥インフルエンザ・新型インフルエンザ等感染症を除く)・ウイルス性肝炎(E型・A型を除く)・クリプトスポリジウム症・後天性免疫不全症候群(AIDS)・性器クラミジア感染症 ・梅毒・麻疹・百日咳・メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症・その他感染症(省令で指定))
対応:・感染症発生状況の情報収集、分析とその結果の公開情報提供
感染症発生動向調査は、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」に基づく施策として位置づけられた調査で、感染症の発生情報の正確な把握と分析、その結果の国民や医療機関への迅速な提供・公開により、感染症に対する有効かつ的確な予防・診断・治療に係る対策を図り、多様な感染症の発生及びまん延を防止することを目的としている。
【感染症発生動向調査による全数把握対象疾患】
全数把握対象疾患を診断したすべての医師が、患者の発生について届け出なければならない。
①新感染症の疑い
②新型インフルエンザ等感染症
③指定感染症
④1~4類までの全疾患と5類の一部疾患
定点把握対象疾患とは、5類感染症の定点把握対象疾患を指す。都道府県知事により指定された医療機関(指定届出機関)のみ、医療機関の管理者が患者の発生について届け出なければならない。主な疾患として、インフルエンザ(鳥インフルエンザ、新型インフルエンザ等感染症を除く)、性器クラミジア感染症、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症、その他の感染症(各省で指定)である。
(※参考:「感染症発生動向調査について」厚生労働省HPより)
14 2か月前に発生した大規模災害後に設置された仮設住宅を巡回訪問中の保健師に、Aさん(16歳、高校生)の母親から、娘が登校中に被災し、被災後3週から不眠を訴え、泣いたり怒鳴ったり感情の起伏が激しく、ほとんど部屋から出ず、学校に行かないため心配だとの相談があった。訪問時は、Aさんには会えなかった。
保健師が行う母親への助言で適切なのはどれか。
1.「このまま見守りましょう」
2.「精神科医に相談しましょう」
3.「学校のカウンセラーに相談しましょう」
4.「被災時にどのような体験をしたのか聞いてみましょう」
解答2
解説
・2か月前:大規模災害発生。
・仮設住宅を巡回訪問中の保健師への相談。
・母親:「娘(16歳、高校生)が登校中に被災し、被災後3週から不眠を訴えている。泣いたり怒鳴ったり感情の起伏が激しい。ほとんど部屋から出ず、学校に行かないため心配」
・訪問時:Aさんには会えなかった。
→本症例は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)が疑われる。なぜなら、2ヶ月前からの大規模災害で、不眠や情緒不安定部屋から出ないといったストレス反応が1か月以上継続しているため。心的外傷後ストレス障害(PTSD)とは、極めて強烈なストレスを受けた後、数週間から数ヵ月を経て(6ヵ月以上潜伏期間があることはまれ)、再体験、回避、認知や気分の異常、過覚醒の各症状が4週間以上持続し、著しい苦痛や社会的障害を生じている状態をいう。
1.× このまま見守る必要はない。なぜなら、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発症が疑われ、早期に専門的治療が必要な状態と考えられるため。
2.〇 正しい。精神科医に相談を勧める。なぜなら、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発症が疑われ、早期に専門的治療が必要な状態と考えられるため。PTSD(Post Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)は、強烈なショック体験、強い精神的ストレスが、こころのダメージとなって、時間がたってからも、その経験に対して強い恐怖を感じるものである。 震災などの自然災害、火事、事故、暴力や犯罪被害などが原因になるといわれている。
3.× 学校のカウンセラーに相談を勧める優先度は低い。なぜなら、設問文から本症例は「ほとんど部屋から出ず、学校に行かない」と記載されているため。学校に出て、学校カウンセラーに受けることは、本症例にも負担である。ちなみに、学校カウンセラーは、児童生徒の問題行動の防止・早期発見や、学校での災害・事件・事故時の心のケアを担う職種である。
4.× 被災時にどのような体験をしたのか聞く必要はない。なぜなら、災害時の体験を聞くことは、Aさんに災害時の恐怖を再現(フラッシュバック)させることにつながるため。特徴的な症状として、①外傷的な出来事の再現(フラッシュバックや夢など)、②外傷と関連した刺激の持続的回避と全般的反応性の麻痺、③覚醒亢進症状があげられる。
15 自治体で働く保健師が、新任期1年目から担う管理機能はどれか。
1.人材管理
2.人事管理
3.地区管理
4.組織運営管理
解答3
解説
1.× 人材管理は、新任期1年目ではなく、管理職が担う管理機能である。人材管理は、人材(人的資源)を効率的に活用するための取り組みである。
2.× 人事管理は、新任期1年目ではなく、管理職が担う管理機能である。人事管理は、採用・配置・教育訓練・労働時間の管理などを指し、組織が労働力の効果的な利用を図るために行う。
3.〇 正しい。地区管理は、新任期1年目が担う管理機能である。地区管理は、地区活動をもとに地域診断を行い、地域の健康課題や不足する社会資源について把握し、住民や関係機関と協働しながら、地域の支援者の発掘や、地域の課題解決に向けた施策化につなげるものである。
4.× 組織運営管理は、新任期1年目ではなく、管理職が担う管理機能である。組織運営管理は、組織を円滑に運営管理することであり、さまざまな知識やノウハウが必要となる。
保健師が担う管理機能には、キャリア発達の段階に沿って、新任期1年目から担うものと、中堅や管理者になってから担うものに分けられる。保健師が行う地域看護管理の機能として、①初任期にも事例管理、事業管理、地区管理等管理的な機能を果たす。②、①の延長線上に管理者の組織運営管理や人材育成管理そして地域管理等の機能がある。③管理的な機能は初任期から発揮されていることから、保健師の専門性の中核を成すものといえる。④地区管理も行うため、所属組織内の管理にとどまるものではない。
①事例管理:個々の事例のケアから始まり、それを地域の問題としてとらえ、ダイナミックな活動を展開する。
②地区管理:地域のニーズや課題から地域診断を行い、住民と協働した施策化を行う。
③事業・業務管理:地方自治体の上位計画や組織目標に基づく、事業計画策定や進行管理を行い、評価結果を次年度の計画等へ反映させる。
④組織運営管理:組織理念・目標や地域の課題を共有して組織としての方針を決定し、業務の効率化を高めながら組織体制を機能させる。
⑤予算編成:予算の仕組みを把握し、事業企画に伴う予算編成を行う。
⑥予算管理:新たな政策や人材確保等のための予算獲得および適切な執行と評価を行い、予算面から公衆衛生看護活動を担保する。
⑦人材育成:保健師の育成過程に応じて、中・長期的な研修計画および生涯学習企画と実施を行い、実践報告を評価する。
⑧人事管理:組織の目標を達成するため、組織に必要な保健師人員数を確保し、職員を計画的に適材適所へ配置するとともに、人事評価を行う。
⑨情報管理:地域の実態を把握するための情報収集・分析や正確な情報伝達のための体制整備、マスコミ対応、個人情報への配慮を行う。
⑩健康危機管理:危機発生を予測し,住民と協働する健康危機管理の体制づくり全般を行う。
(参考:「保健師に求められる看護管理のあり方」社団法人日本看護協会より)