第106回(R2) 保健師国家試験 解説【午前16~20】

 

16 市町村保健師が家庭訪問時に知り得た個人情報の取り扱いで正しいのはどれか。

1.地域保健法に基づき個人情報を取り扱う。
2.記録の廃棄は担当保健師に一任されている。
3.記録は担当保健師の机の鍵付引き出しに保管する。
4.人の生命の保護のために必要であって、本人の同意を得ることが困難な場合は本人以外に提供できる。

解答

解説

個人情報保護法とは?

個人情報保護法とは、個人情報の保護に関する法律の略称である。個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とした個人情報の取扱いに関連する日本の法律である。定義(第2条)には、「この法律において『個人情報』とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述などにより特定の個人を識別できるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む)をいう」とされている。

1.× 市町村保健師が家庭訪問時に知り得た個人情報の取り扱いは、「地域保健法」ではなく「各地方自治体の個人情報保護条例」に基づき個人情報を取り扱う。ちなみに、地域保健法は、地域保健対策の総合的な推進の確保、地域住民の健康の保持増進を図るための法律である。保健所や市町村保健センターの設置や業務内容などを規定している。
2.× 記録の廃棄は、「担当保健師に一任されている」のではなく、組織としての保管期間と廃棄方法を遵守する必要がある。
3.× 記録は、「担当保健師の机の鍵付引き出し」ではなく、「すべての職員が必要時に取り出せる場所」に保管する。保健師が作成した記録は公文書であり、地方自治体ごとに文書管理規定がある。ちなみに、公文書とは政府や官庁を含む地方公共団体の公務員が職務上作成した文書のことをさす。また、文書管理規程とは、社内の文書管理について統一的なルールを定めたものである。文書管理規程では、文書の発生から廃棄まで、文書のライフサイクルに沿った管理ルールを定める。
4.〇 正しい。人の生命の保護のために必要であって、本人の同意を得ることが困難な場合(例えば、虐待時)は本人以外に提供できる。個人情報を第三者に提供する場合は、あらかじめ本人からの同意を得る必要があるが、人の生命の保護のために必要で、かつ本人の同意を得ることが困難な場合は、例外として、本人以外に提供できる。

本人の同意を必要としない4つの例外

①法令に基づく場合:税務署の所得税に関する調査や弁護士会からの照会など。
②人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合:虐待、大規模災害、急変など。
③公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合:健康保険組合の保険者が実施する健康診断の結果を保健事業の効果の向上などに利用する場合や、児童虐待のおそれのある家庭情報を警察や学校が共有する必要がある場合など。
④国の機関などの法令の定める事務の遂行に事業者が協力する必要がある場合

 

 

 

 

 

17 A市保健センターの新たな事業として、B地区で発達障害児の子育て教室を実施することになった。
 教室を開始する際の組織の在り方で適切なのはどれか。

1.障害福祉部門の保健師の役割は障害福祉部門が決める。
2.B地区担当以外の職員は事業開始後から携わる。
3.A市保健センター長が活動目標を設定する。
4.地区担当保健師の地区活動と連動させる。

解答

解説

保健センターとは?

保健センターとは、市町村が設置・運営している。地域住民に対して直接的な保健サービスを提供することを目的としている。保健センターは設置することが義務ではないため、市町村に保健センターがない場合もある。名称についても「保健福祉センター」、「健康センター」などと称する場合がある。

1.× 障害福祉部門の保健師の役割は、「障害福祉部門が決める」のではなく保健センターと障害福祉部門の保健師が話し合ったうえで決定する。なぜなら、障害福祉部門の保健師の役割を独断で決めた場合、保健センターと障害福祉部門の保健師でバラバラに活動しかねないため。
2.× B地区担当以外の職員は、「事業開始後」のではなく、事業開始前から携わる。むしろ、計画の段階から活動を共有しておくと事業開始後もスムーズに活動できる。
3.× 活動目標は、「A市保健センター長」ではなく保健センターの職員で検討して設定する。なぜなら、活動目標をA市保健センター長が独断で決め、活動目標が未達だった場合は、A市保健センター長が負い目を感じてしまったり、責任を追及しかねないため。
4.〇 正しい。教室を開始する際の組織の在り方として「地区担当保健師の地区活動と連動させる」。保健師が行う地区活動とは、一人ひとりの健康課題を地域社会の健康課題と切り離さずに捉え、個人や環境、地域全体に働きかけ、個別及び地域の動きを作り出す活動であり、地域の健康格差を縮小させ、健康水準の向上を目指している。具体的な活動としては、家庭訪問によって、発達障害児の子育てに悩む保護者に教室の参加を提案したり、子育て教室に参加している保護者の様子からアセスメントを深めるなどである。

 

 




 

 

18 がんと危険因子の組合せで正しいのはどれか。

1.胃がん:高塩分食
2.肺がん:運動不足
3.乳がん:ヘリコバクター・ピロリ
4.肝臓がん:ヒトパピローマウイルス

解答

解説
1.〇 正しい。胃がんは、高塩分食が危険因子となる。他にも、ヘリコバクター・ピロリ感染、アルコール、喫煙、遺伝などがある。 一方、リスクを下げるものとして野菜・果物、緑茶などがある。
2.× 肺がんは、「運動不足」ではなく喫煙が主である。喫煙者が肺がんになる危険性は、非喫煙者に比べ男性で4.8倍、女性で3.9倍と報告されている。 喫煙本数や喫煙年数が増えるほど肺がんになる危険性が高くなる。 他にも、石綿(アスベスト)や大気汚染(排気ガス)などもあげられる。ちなみに、運動不足は生活習慣病や肝臓がん、肥満などである
3.× 乳がんは、「ヘリコバクター・ピロリ」ではなく①初経年齢が早い、②閉経年齢が遅い、③出産歴がない、④初産年齢が遅い、⑤授乳歴がないことなどである。閉経後の肥満は乳がん発症の高リスクであると考え、 また閉経後の女性では運動による乳がんリスク減少の可能性が示されている。ちなみに、ヘリコバクター・ピロリは胃癌である。
4.× 肝臓がんは、「ヒトパピローマウイルス」ではなく、B型・C型肝炎ウイルスの持続感染(85%)、残り15%程度は「生活習慣に関連する要因(飲酒、肥満、糖尿病)」などである。ちなみに、ヒトパピローマウイルスが危険因子となるのは子宮頚癌である。

 

 

 

 

 

19 健康寿命の都道府県格差を評価するための指標で適切なのはどれか。

1.範囲
2.最頻値
3.中央値
4.幾何平均

解答

解説

ポイント

健康寿命の都道府県格差を評価するための指標
→都道府県ごとの健康寿命のばらつき(散布度)を評価することで都道府県格差が、「どの程度あるのか」を評価することができる。健康寿命が最も低い都道府県(最小値)と最も高い都道府県(最大値)の範囲が広いほど格差が大きく、範囲が狭いほど格差が小さいことがわかる。

1.〇 正しい。範囲は、健康寿命の都道府県格差を評価するための指標で適切である。都道府県ごとの健康寿命のばらつき(散布度)を評価することで都道府県格差が、「どの程度あるのか」を評価することができる。健康寿命が最も低い都道府県(最小値)と最も高い都道府県(最大値)の範囲が広いほど格差が大きく、範囲が狭いほど格差が小さいことがわかる。
2.× 最頻値とは、データや確率分布で頻度が最大の値のことである。
3.× 中央値とは、集合の代表値の一つで、順位が中央である値のことである。
4.× 幾何平均(きかへいきん、乗平均)とは、変化率で表されるデータの代表値として用いられることが多い。幾何平均は、毎年の売上の伸び率や金利の変化の平均を計算するときに用いられることが多く、例えば、売上が1年目100万円、2年目200万円、3年目400万円の場合、前年と比べると、2年目は200%(2.0倍)、3年目は200%(2.0倍)となる。

 

 




 

 

20 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)に基づく精神保健福祉センターで正しいのはどれか。

1.設置主体は市町村である。
2.地域生活支援事業を実施する。
3.社会復帰の促進のための啓発活動を行う。
4.自立支援医療(精神通院医療)の申請窓口である。

解答

解説

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)とは?

①精神障害者の医療及び保護を行うこと、②障害者総合支援法とともに、精神障害者の社会復帰の促進、自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な援助を行うこと、③精神疾患の発生の予防や、国民の精神的健康の保持及び増進に努めることによって、精神障害者の福祉の増進及び国民の精神保健の向上を図ることを目的とした法律である。(参考:「精神保健福祉法について」厚生労働省HPより)

1.× 設置主体は、「市町村」ではなく都道府県(指定都市を含む)である。
2.× 地域生活支援事業を実施するのは、『障害者総合支援法』に基づく事業である。地域生活支援事業には、地域活動支援センターコミュニケーション支援などが含まれる。ちなみに、障害者総合支援法は、2013年に障害者自立支援法から障害者総合支援法へと改正され、障害者と障害児を対象とした障害保健福祉施策についてまとめられた法律である。これにより障害者の範囲が拡大され、身体障害者、精神障害者、知的障害者、障害児の全てが対象とされている。そして、対象となっている者は、認定調査というものを受け「障害支援区分」という障害の重症度分類によって7区分(非該当、区分1~6)に分けられる。それにより受けられるサービス内容が変わってくる。①障害者も難病患者も自立できる社会をめざす。②応能負担(所得に応じて自己負担額が変わること)が原則。③あらゆる障害(身体・知的・精神+難病)についてこの法律で対応する。④市区町村が事業の母体である。
3.〇 正しい。社会復帰の促進のための啓発活動を行う。精神保健福祉センターは、地域住民に対して精神保健福祉の知識精神障害についての正しい知識、精神障害者の権利擁護などの普及啓発を行っており精神障害者の社会復帰の促進のための啓発活動も含まれる。④精神保健に関する普及啓発以外の他の業務内容としては、①企画立案。②保健所と精神保健関係諸機関に対する技術指導と技術援助。③精神保健関係諸機関の職員に対する教育研修。⑤調査研究。⑥精神保健福祉相談(複雑または困難なもの)⑦協力組織の育成。⑧精神医療審査会に関する事務。⑨自立支援医療(精神通院医療)の支給認定、精神障害者保健福祉手帳の判定があげられる。
4.× 自立支援医療(精神通院医療)の申請窓口が規定されているのは、「精神保健福祉法」ではなく「障害者総合支援法」である。ちなみに、自立支援医療(精神通院医療)の実施主体は都道府県(指定都市)であるが、申請窓口は市町村である。

 

精神保健福祉センターとは?

根拠法令:精神保健福祉法(6条)
目的:地域住民の精神的健康の保持増進、精神障害の予防、適切な精神医療の推進、自立と社会経済活動の促進のための援助等。
設置基準:都道府県、指定都市
配置職員:精神科医、精神保健福祉士(精神保健福祉相談員)、臨床心理技術者、保健師等

業務内容
①企画立案。
②保健所と精神保健関係諸機関に対する技術指導と技術援助。
③精神保健関係諸機関の職員に対する教育研修。
④精神保健に関する普及啓発。
⑤調査研究。
⑥精神保健福祉相談(複雑または困難なもの)
⑦協力組織の育成。
⑧精神医療審査会に関する事務。
⑨自立支援医療(精神通院医療)の支給認定、精神障害者保健福祉手帳の判定。

(参考:「精神保健福祉センターと保健所」厚生労働省HPより)

 

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