第106回(R2) 保健師国家試験 解説【午前36~40】

 

36 業務上取り扱う物質で、労働安全衛生法に基づき健康管理手帳の交付対象となるのはどれか。2つ選べ。(※採点対象外)

1.石綿
2.ベンゼン
3.カドミウム
4.トリクロロエチレン
5.1,2-ジクロロプロパン

解答1・5(採点対象外)
理由:問題として適切であるが、受験生レベルでは難しすぎるため。

解説

健康管理手帳とは?

健康管理手帳とは、がんその他の重度の健康障害を生ずるおそれのある業務に従事していた者が必要な健康診断を国費で受診できるよう、国が手帳を交付する制度である。職業がんの潜伏期間は長く、離職後に発病することが多い。そのため、癌原性物質に曝露される作業に一定期間以上従事した者については、離職の際、または離職の後であっても、申請により健康管理手帳が交付される。手帳所持者に対しては、指定医療機関において、国が無料定期的な健康診断の受診機会を供与している。

1.5.〇 正しい。石綿(アスベスト)/1,2-ジクロロプロパンは、健康管理手帳の交付対象である。ちなみに、石綿曝露作業に従事していたことが原因で中皮腫や肺癌などを発症したと認められた場合は、『労働者災害補償保険法(労災保険法)』に基づく各種の労災保険給付や『石綿による健康被害の救済に関する法律(石綿救済法)』に基づく特別遺族給付金が支給される。1,2-ジクロロプロパンは、胆管がん事案の原因物質の1つである。
2~4.× ベンゼン/カドミウム/トリクロロエチレンは、健康管理手帳の交付対象ではない。ベンゼンの長期間の吸い込みで白血病を引き起こす可能性がある。カドミウムは腎機能障害を引き起こす可能性がある。トリクロロエチレンは、洗浄剤として使われたが、発がん性がある。

健康管理手帳の交付対象となる業務

ベンジン、ベリリウム、β-ナフチルアミン、ベンゾトリクロリド、粉じん作業、塩化ビニル、クロム酸,重クロム酸、石綿の製造,取扱い、無機砒素化合物,三酸化砒素、ジアニシジン、コークス, 製鉄用発生炉ガス、1,2-ジクロロプロパン、ビス(クロロメチル)エーテル、オルトートルイジン

(※参考:「健康管理手帳が交付される業務及び交付要件」厚生労働省HPより)

 

 

 

 

 

37 労働者におけるハラスメントの防止措置を規定しているのはどれか。2つ選べ。

1.介護保険法
2.健康増進法
3.労働基準法
4.雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)
5.育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)

解答4・5

解説

ハラスメントとは?

ハラスメントとは、人に対する「嫌がらせ」や「いじめ」などの迷惑行為を指す。 具体的には、属性や人格に関する言動などによって相手に不快感や不利益を与え、尊厳を傷つけることである。社会問題化され、令和元(2019)年改正の「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)」では、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動に起因する問題(パワーハラスメント)について事業主は雇用管理上必要な措置を講じなればならないとされた。

1.× 介護保険法は、介護保険のしくみを定めるものである。要介護者等について、介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定めることを目的とする法律である。
2.× 健康増進法は、国民の健康増進を図る措置などを定めるものである。国民の健康維持と現代病予防を目的として制定された日本の法律である。都道府県と市町村は、地域の実情に応じた健康づくりの促進のため、都道府県健康増進計画(義務)および市町村健康増進計画(努力義務)を策定する。
3.× 労働基準法は、労働条件に関する最低限の基準を定めるものである。労働者の生存権の保障を目的として、①労働契約や賃金、②労働時間、③休日および年次有給休暇、④災害補償、⑤就業規則といった労働者の労働条件についての最低基準を定めた法律である。
4.〇 正しい。雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)は、労働者におけるハラスメントの防止措置を規定している。男女雇用機会均等法は、職場における性的な言動に起因する問題(セクシャル・ハラスメント)と、職場における妊娠・出産などに関する言動に起因する問題(マタニティ・ハラスメント)について事業主が雇用管理上必要な措置を講じなければならないことが定められている。これは11条に規定されている。(※参考:「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」e-GOV法令検索様HPより)
5.〇 正しい。育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)は、労働者におけるハラスメントの防止措置を規定している。育児・介護休業法は、職場における育児休業等に関する言動に起因する問題(ハラスメント)について、事業主が雇用管理上必要な措置を講じければならないことが定められている。これは25条に規定されている。(※参考:「育児・介護休業法のあらまし」厚生労働省HPより)

健康増進法とは?

健康増進法は、国民の健康維持と現代病予防を目的として制定された日本の法律である。都道府県と市町村は、地域の実情に応じた健康づくりの促進のため、都道府県健康増進計画(義務)および市町村健康増進計画(努力義務)を策定する。平成14(2002)年に制定された。

【市町村が行う健康増進事業】
①健康手帳、②健康教育、③健康相談、④訪問指導、⑤総合的な保健推進事業、⑥歯周疾患検診、⑦骨粗鬆症検診、⑧肝炎ウイルス検診、⑨がん検診、⑩健康検査、⑪保健指導などである。

【都道府県の役割】
都道府県は、都道府県健康増進計画において、管内市町村が実施する健康増進事業に対する支援を行うことを明記する。都道府県保健所は、市町村が地域特性等を踏まえて健康増進事業を円滑かつ効果的に実施できるよう、必要な助言、技術的支援、連絡調整及び健康指標その他の保健医療情報の収集及び提供を行い、必要に応じ健康増進事業についての評価を行うことが望ましい。都道府県は、保健・医療・福祉の連携を図るとともに、市町村による健康増進事業と医療保険者による保健事業との効果的な連携を図るために、地域・職域連携推進協議会を活性化していくことが望ましい。

 

 




 

 

38 高齢者が入所している施設で、ノロウイルスによる感染性胃腸炎症状が複数の入所者と職員に発生している。
 施設が行うべき感染拡大防止のための対応で適切なのはどれか。2つ選べ。

1.発症者と未発症者で居室を分ける。
2.入所者に提供する食事は十分に加熱する。
3.発症者の嘔吐物は十分に乾燥させてから清掃する。
4.手指の消毒に次亜塩素酸ナトリウム溶液を使用する。
5.発症した食品調理従事者の業務への復帰は胃腸炎症状が消失した日からとする。

解答1・2

解説

ノロウイルスとは?

ノロウイルスは、もっとも一般的な胃腸炎の原因である。感染者の症状は、非血性下痢、嘔吐、胃痛(悪心・嘔吐、水様性下痢腹痛、発熱等の急性胃腸炎)が特徴である。発熱や頭痛も発生する可能性がある。症状は、通常ウイルス曝露後12〜48時間で発症し、回復は通常1〜3日以内である。合併症はまれだが、特に若人、年配者、他の健康上の問題を抱えている人では、脱水症状が起こることがある。原因として、①カキ等の二枚貝、②感染者の嘔吐物等への接触や飛沫による二次感染である。感染経路は、経口感染、接触感染、飛沫感染、空気(飛沫核)感染による。

【予防・拡大防止】
①感染源となる二枚貝等は、中心部まで十分に加熱(85~95℃以上、90秒以上)する。
②消毒には、通常のアルコール製剤や逆性石鹸は有効でないため、塩素系消毒剤(0.1%次亜塩素酸ナトリウム)を用いる。
③ノロウイルスは乾燥に強く、感染者の嘔吐物等が乾燥して空気中に飛散することで感染拡大するため完全に拭き取る。
④嘔吐物等の処理時には手袋、ガウンマスクを装着する。

(※参考:「ノロウイルスに関するQ&A」厚生労働省HPより)

1.〇 正しい。発症者と未発症者で居室を分ける。なぜなら、ノロウイルスの主な感染経路は経口感染・接触感染・飛沫感染・空気(飛沫核)感染であるため。嘔吐物等の処理時には手袋、ガウンマスクを装着する。
2.〇 正しい。入所者に提供する食事は十分に加熱する。なぜなら、加熱処理はウイルスの活性を失わせる有効な手段であるため。ノロウイルスの汚染の恐れのある二枚貝などの食品の場合は、中心部85~90℃で90秒以上の加熟が必要とされている。
3.× 発症者の嘔吐物は、「十分に乾燥させてから」清掃するのは不適切である。なぜなら、感染者の嘔吐物や糞便が乾燥して空気中に飛散し、感染が拡大するため。ノロウイルスの主な感染経路は経口感染・接触感染・飛沫感染・空気(飛沫核)感染であるため。室内にノロウイルスを浮遊させないためには、完全に拭き取り、窓を開放して換気を確保する。
4.× 手指の消毒には、「次亜塩素酸ナトリウム溶液」は使用しない。なぜなら、皮膚(ヒト)に対しての刺激が強すぎるため。ノロウイルス汚染を受けた手指の消毒には、消毒用エタノールが有効である。ただ、机などのものに対しての次亜塩素酸ナトリウムによる消毒は、ノロウイルスが有効である。
5.× 発症した食品調理従事者の業務への復帰は、胃腸炎症状が消失した日からは不適切である。なぜなら、ノロウイルスは、下痢などの症状がなくなっても、通常1週間程度ウイルスの排泄が続くため。したがって、症状が改善した後も約1週間程度は直接食品を取り扱う作業をさせないことが望ましい。

 

 

 

 

 

39 生活保護制度で正しいのはどれか。2つ選べ。(※不適切問題:解3つ)

1.生活扶助は現金給付である。
2.分娩費用は医療扶助である。
3.被保護人員は減少傾向である。
4.被保護世帯には障害者世帯が最も多い。
5.最低限度の生活を保障することが目的に含まれている。

解答1・3・5(3通りの解答が正解として採点する)
理由:3つの選択肢が正解であるため。

解説

1.〇 正しい。生活扶助は現金給付である。生活保護は、公的扶助の一種で、公助に該当し、8種類の扶助がある。原則は現金給付だが、医療扶助と介護扶助は現物給付である。
2.× 分娩費用は、医療扶助であるはなく、出産扶助である。ちなみに、医療扶助は、疾病の治療のための診察・薬剤・処置・手術・治療・入院などが対象である。
3.〇 正しい。被保護人員は減少傾向である。被保護人員は増加傾向にあったが、平成26(2014)年度をピークとして、平成27(2015)年から減少傾向に転じている。
4.× 被保護世帯に、最も多いのは障害者世帯ではなく高齢者世帯である。高齢者世帯が53.0%で最も多く、次いで障害者・傷病者世帯が25.7%となっている。
5.〇 正しい。最低限度の生活を保障することが目的に含まれている。生活保護は、『日本国憲法』25条(生存権)の理念に基づき、国が最低限の生活を保障するとともにその自立を助長することを目的としている。

生活保護制度とは?

生活保護制度は、『日本国憲法』25条の理念に基づき、生活困窮者を対象に、国の責任において、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、その自立を助長することを目的としている。8つの扶助(生活扶助、住宅扶助、教育扶助、医療扶助、介護扶助、出産扶助、生業扶助、葬祭扶助)があり、原則現金給付であるが、医療扶助と介護扶助は現物給付である。被保護人員は約216.4万人(平成27年度,1か月平均)で過去最高となっている。

生活扶助:日常生活に必要な費用
住宅扶助:アパート等の家賃
教育扶助:義務教育を受けるために必要な学用品費
医療扶助:医療サービスの費用
介護扶助:介護サービスの費用
出産扶助:出産費用
生業扶助:就労に必要な技能の修得等にかかる費用
葬祭扶助:葬祭費用

【生活保護法の4つの基本原理】
①国家責任の原理:法の目的を定めた最も根本的原理で、憲法第25条の生存権を実現する為、国がその責任を持って生活に困窮する国民の保護を行う。
②無差別平等の原理:全ての国民は、この法に定める要件を満たす限り、生活困窮に陥った理由や社会的身分等に関わらず無差別平等に保護を受給できる。また、現時点の経済的状態に着目して保護が実施される。
③最低生活の原理:法で保障する最低生活水準について、健康で文化的な最低限度の生活を維持できるものを保障する。
④保護の補足性の原理:保護を受ける側、つまり国民に要請される原理で、各自が持てる能力や資産、他法や他施策といったあらゆるものを活用し、最善の努力をしても最低生活が維持できない場合に初めて生活保護制度を活用できる。

【4つの原則】
①申請保護の原則:保護を受けるためには必ず申請手続きを要し、本人や扶養義務者、親族等による申請に基づいて保護が開始。
②基準及び程度の原則:保護は最低限度の生活基準を超えない枠で行われ、厚生労働大臣の定める保護基準により測定した要保護者の需要を基とし、その不足分を補う程度の保護が行われる。
③必要即応の原則:要保護者の年齢や性別、健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して、有効且つ適切に行われる。
④世帯単位の原則:世帯を単位として保護の要否及び程度が定められる。また、特別な事情がある場合は世帯分離を行い個人を世帯の単位として定めることもできる。

(※参考:「生活保護制度」厚生労働省HPより)
(※参考:「生活保護法の基本原理と基本原則」室蘭市HPより)

 

 




 

 

40 がん登録等の推進に関する法律(がん登録推進法)で正しいのはどれか。2つ選べ。

1.がん診療連携拠点病院を2次医療圏に整備する。
2.がん登録届出の際は患者の同意が必要である。
3.がんの罹患に関する情報のデータベース化は国が行う。
4.全国がん登録データベースは一般に公開されている。
5.病院には罹患情報の届出義務がある。

解答3・5

解説

がん登録推進法とは?

平成25(2013)年12月に 「 がん登録等の推進に関する法律 (がん登録推進法) 」が成立、平成28(2016)年1月から施行された。この法律は、 全国がん登録の実施やこれらの情報の利用及び提供、保護等について定めるとともに、院内がん登録等の推進に関する事項等を定められた。
・全国がん登録:国・都道府県による利用・提供の用に供するため、国が国内におけるがんの罹患、診療、転帰等に関する情報をデータベースに記録し、保存すること。
・院内がん登録:病院において、がん医療の状況を適確に把握するため、がんの罹患、診療、転帰等に関する情報を記録し、保存すること。

【がん登録とは?】
がんの罹患や転帰(最終的にどうなったか)という状況を登録・把握し、分析する仕組みであり、がんの患者数や罹患率、生存率、治療効果の把握など、がん対策の基礎となるデータを把握するために必要なものである。がん対策を推進するためには、正確ながんの実態把握が必要であり、その中心的な役割を果たすのが、がん登録である。

(※参考:「がん登録」厚生労働省HPより)

1.× がん診療連携拠点病院は、『がん登録推進法』に規定されているものではない。がん診療連携拠点病院は、日本において、質の高いがん医療の全国的な均てん化(医療サービスなどの地域格差などをなくし、全国どこでも等しく高度な医療をうけることができるようにすることを指す語)を図ることを目的に整備された病院である。がん対策基本法に基づく。がん診療連携拠点病院には、①都道府県に1か所の「都道府県がん診療連携拠点病院」、②都道府県が医療計画に定めるがんの医療圏に1か所程度の「地域がん診療連携拠点病院」がある。
2.× がん登録届出の際は、患者の同意は必要ない。『がん登録推進法』において、がんの初回診断をした医療機関は、都道府県知事に届け出なければならないものと規定されている。これは『個人情報保護法』における法令に基づく場合には同意の必要はないという規定に該当する。これは6条に規定されている。(参考:「がん登録等の推進に関する法律」e-GOV法令検索様HP)
3.〇 正しい。がんの罹患に関する情報のデータベース化は、国(厚生労働大臣)が行う。国立がん研究センターが、医療機関から都道府県への提出を経て、都道府県から集められた患者のがんに関する情報を全国がん登録データベースにおいて一元管理している。
4.× 全国がん登録データベースは、一般に公開されていない。なぜなら、全国がん登録データベースには個人情報が含まれているため。データベースを操作できるのは、全国がん登録業務に携わる職員に限られており、データベースにある情報の利用についても、国・地方自治体などのがん対策の企画立案や調査研究、がんに係る調査研究を行う研究者に限られ、厳格な管理が行われている。
5.〇 正しい。病院には罹患情報の届出義務がある。病院と指定された診療所の管理者は、がんについて、初回の診断が行われたときに、がんに関する罹患情報を都道府県知事に届け出なければならないとしており、届け出は義務である。

 

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