第106回(R2) 保健師国家試験 解説【午後36~40】

 

次の文を読み36〜38の問いに答えよ。
 11月4日、特別養護老人ホームの看護師から「施設の入所者Aさん(87歳、女性、要介護4)に2日前から微熱があり、食欲がないため受診したところ、医師から結核の疑いがあると言われた」と保健所に相談があった。保健師が状況を確認したところ、現在はAさんを個室に移動し、介護にあたる職員はマスクを着用している。Aさんに呼吸器症状はない。特別養護老人ホームでは毎年1回健康診断を実施しており、半年前に実施した健康診断の結果では、Aさんに特に異常はなかったという。

36 この時の保健師の対応で適切なのはどれか。

1.Aさんに結核専門病院の受診を促す。
2.Aさんの居室を消毒するよう指導する。
3.特別養護老人ホームを11月4日に訪問する。
4.特別養護老人ホームの全入所者の面会を制限するよう伝える。

解答

解説

本症例のポイント

・入所者Aさん(87歳、女性、要介護4)
・2日前から、結核の疑い
・現在:Aさんを個室に移動し、介護にあたる職員はマスクを着用。
・Aさんに呼吸器症状はない。
・毎年1回健康診断を実施、半年前に実施した健康診断の結果では、Aさんに特に異常なし。
→肺結核とは、結核菌による感染症で、体の色々な臓器に起こることがあるが多くは肺のことである。結核菌は、喀痰の中に菌が出ている肺結核の患者と密閉空間で長時間(一般的には数週間以上)接触することにより空気感染でうつる。リンパ節結核や脊椎カリエス(骨の結核)など、肺に病気のない結核患者からはうつらない。また肺結核でも、治療がうまくいって喀痰の中に菌が出ていない患者さんからはうつることはない。また、たとえ感染しても、発病するのはそのうち1割ぐらいといわれており、残りの9割の人は生涯何ごともなく終わる。感染してからすぐに発病することもあるが、時には感染した後に体の免疫が働いていったん治癒し、その後数ヶ月から数十年を経て、免疫が弱ったときに再び結核菌が増えて発病することもある。結核の症状には、咳、痰、血痰、熱、息苦しさ、体のだるさなどがある。

1.〇 正しい。Aさんに結核専門病院の受診を促す。なぜなら、今後の対応方法を明確にするため、確定診断が必要であるため。
2.× Aさんの居室を消毒するよう指導する必要はない。なぜなら、結核は空気(飛沫核)感染する疾患であるため。居室を消毒しても、Aさんがいる限り菌が蔓延する。
3.× 特別養護老人ホームを11月4日に訪問する必要はない。なぜなら、現在Aさんを個室に移動し、介護にあたる職員はマスクを着用し、結核の疑いがある患者への対応ができているため。特別養護老人ホームでの対応が困難な場合には訪問することもある。
4.× 特別養護老人ホームの全入所者の面会を制限するよう伝える必要はない。なぜなら、他の入所者については、現時点で結核を疑うような症状の情報はないため。

 

 

 

 

 

次の文を読み36〜38の問いに答えよ。
 11月4日、特別養護老人ホームの看護師から「施設の入所者Aさん(87歳、女性、要介護4)に2日前から微熱があり、食欲がないため受診したところ、医師から結核の疑いがあると言われた」と保健所に相談があった。保健師が状況を確認したところ、現在はAさんを個室に移動し、介護にあたる職員はマスクを着用している。Aさんに呼吸器症状はない。特別養護老人ホームでは毎年1回健康診断を実施しており、半年前に実施した健康診断の結果では、Aさんに特に異常はなかったという。

37  11月6日の夕方、Aさんを診察した結核専門病院の医師から保健所に、結核の発生届が提出された。診断名は肺結核で、喀痰塗抹検査陽性、喀痰培養検査中、核酸増幅法で結核菌が確認された。胸部エックス線撮影で空洞病変が認められた。感染症対策担当の保健師は主治医に連絡し、届出内容の確認を行った。Aさんには抗結核薬3剤による薬物治療が開始された。
 この時の感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)に基づく保健所の対応で、優先度が高いのはどれか。

1.Aさんとの面接
2.入院勧告の手続き
3.医療費公費負担の手続き
4.特別養護老人ホームへの積極的疫学調査

解答

解説

本症例のポイント

・11月6日:医師から結核の発生届が提出。
・診断名:肺結核
・感染症対策担当の保健師:主治医に連絡し、届出内容の確認を行った。
・Aさん:抗結核薬3剤による薬物治療が開始。
→本症例は、肺結核と確定診断された。まずは、『感染症法』に基づく入院勧告が必要となる。『感染症法』に基づく入院勧告制度とは?『感染症法』が制定される以前は感染症による入院勧告制度がなく、患者の意思に関係なく、入院命令が出されるなどの人権を尊重する手続きが十分ではなかった。そのため、現在の『感染症法』においては、強制的な入院の措置を行うのではなく、入院勧告制度により、患者の意思を尊重した入院手続きをとることが定められている。

1.× Aさんとの面接は選択肢2の後に行う。Aさんは診察の結果感染性のある肺結核と診断されたため、まずは『感染症法』に基づく「選択肢2.入院勧告」を行う必要がある。入院勧告制度とは、患者の人権を尊重し、入院の必要性などを患者に説明し、患者の理解を得るよう努め患者の意思による入院を促すものである。勧告による入院は72時間を超えてはならないこととなっており保健師は、入院勧告の手続きにより、Aさんの入院に対する同意を確認し、その後、「選択肢1.Aさんとの面談」で、認め患者登録に必要な情報を得る。
2.〇 正しい。入院勧告の手続きは、感染症法に基づく保健所の対応で優先度が高い。本症例は、肺結核と確定診断された。まずは、『感染症法』に基づく入院勧告が必要となる。
3.× 医療費公費負担の手続きは、選択肢1の後に行う。この場合の入院は、『感染症法』に基づく医療費公費負担の対象となるため、保健師は申請に必要な書類の説明や準備などの「選択肢3.医療費公費負担の手続き」を行う。したがって、「選択肢2.入院勧告の手続き→選択肢1.Aさんとの面接→3.医療費公費負担の手続き」の順の優先度となる。
4.× 特別養護老人ホームへの積極的疫学調査の優先度は低い。なぜなら、現時点では、『感染症法』に基づいたAさんの入院勧告などの入院や患者登録に関する手続きが優先されるため。

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律とは?

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症予防法、感染症法、感染症新法)は、感染症の予防および感染症患者に対する医療に関する措置について定めた日本の法律である。平成10年(1998年)に制定された。主な内容は、①1~5類感染症の分類と定義、②情報の収集・公表、③感染症(結核を含む)への対応や処置。

【「感染症法」の対象となる感染症】
①1類感染症(7疾患:エボラ出血熱 ・クリミア・コンゴ出血熱・痘そう(天然痘) ・南米出血熱・ペスト・マールブルグ病・ラッサ熱)
対応:原則入院・消毒等の対物措置(例外的に建物への措置,通行制限の措置も適用対象とする)

②2類感染症(6疾患:・急性灰白髄炎(ポリオ)・結核 ・ジフテリア ・重症急性呼吸器症候群(SARS)・特定鳥インフルエンザ(H5N1, H7N9) ・中東呼吸器症候群(MERS))
対応:状況に応じて入院・消毒等の対物措置

③3類感染症(5疾患:・コレラ・細菌性赤痢・品管出血性大腸菌感染症(0157等)・腸チフス ・パラチフス)
対応:・特定職種への就業制限・消毒等の対物措置

④4類感染症(44疾患:※一部抜粋。・E型肝炎・A型肝炎 ・黄熱・Q熱・狂犬病・チクングニア熱・鳥インフルエンザ(特定鳥インフルエンザを除く)・炭疽 ・ボツリヌス症 ・マラリア ・野兎病・重症熱性血小板減少症候群(SFTS)・デング熱・ジカウイルス感染症・日本脳炎・その他感染症(政令で指定))
対応:・感染症発生状況の情報収集、分析とその結果の公開,提供・媒介動物の輸入規制・消毒等の対物措置

⑤5類感染症(46疾患:※一部抜粋。・インフルエンザ(鳥インフルエンザ・新型インフルエンザ等感染症を除く)・ウイルス性肝炎(E型・A型を除く)・クリプトスポリジウム症・後天性免疫不全症候群(AIDS)・性器クラミジア感染症 ・梅毒・麻疹・百日咳・メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症・その他感染症(省令で指定))
対応:・感染症発生状況の情報収集、分析とその結果の公開情報提供

 

 

 

 

 

次の文を読み36〜38の問いに答えよ。
 11月4日、特別養護老人ホームの看護師から「施設の入所者Aさん(87歳、女性、要介護4)に2日前から微熱があり、食欲がないため受診したところ、医師から結核の疑いがあると言われた」と保健所に相談があった。保健師が状況を確認したところ、現在はAさんを個室に移動し、介護にあたる職員はマスクを着用している。Aさんに呼吸器症状はない。特別養護老人ホームでは毎年1回健康診断を実施しており、半年前に実施した健康診断の結果では、Aさんに特に異常はなかったという。

38 感染症対策担当の保健師はAさんの接触者健康診断の対象者を選定するため、特別養護老人ホームの職員および入所者の接触状況を確認することとした。Aさんは1年前の11月1日から入所している。
 他者への感染の可能性がある期間の始期の設定で正しいのはどれか。

1.Aさんの特別養護老人ホーム入所日
2.半年前の健康診断実施日
3.結核専門病院初診日の3か月前
4.微熱の出現日
5.結核の診断日

解答

解説

ポイント

・Aさん:肺結核喀痰塗抹検査陽性、喀痰培養検査中、核酸増幅法で結核菌が確認。胸部エックス線撮影で空洞病変が認められている。

・感染症対策担当の保健師:Aさんの接触者健康診断の対象者を選定する。
・接触状況を確認する。
・Aさんの入所:1年前11月1日から。
→他者への感染の可能性がある期間の始期の設定は、感染症法に基づく結核の接触者健康診断の手引きに記載されている。

患者の症状出現時期を基本とした方法では感染性期間を適切に推定できない事例があることから、喀痰塗抹陽性(または胸部X線検査で空洞あり)の患者については、過去のX線所見や菌検査所見等を遡って分析することにより感染性期間の始期の推定が可能である場合を除いて、基本的に「結核診断日の3ヶ月前、又は初診時の胸部X線検査で既に空洞所見を認めた例では初診日の3ヶ月前」を始期とする。「※参考:感染症法に基づく結核の接触者健康診断の手引き(厚生労働省HPより)」したがって、始期の設定としては、選択肢3.結核専門病院初診日の3か月前が適切である。

 

 




 

 

次の文を読み39〜41の問いに答えよ。
 Aさん(35歳、男性)は、従業員約500人の企業に勤務している。先日、Aさんの上司から社内の健康管理課の保健師に電話があり「Aさんは4月に他部署から異動してきましたが、最近休みがちで、月曜日は遅刻が多く表情も硬い。仕事中ウトウトすることもあるため声をかけたら『医療機関に通院しているから大丈夫です』としか言わない。どう対応すればよいか」との相談があった。

39 Aさんの上司への保健師の助言で適切なのはどれか。

1.「医療機関を変えるように勧めてください」
2.「Aさんの仕事の量を減らすようにしてください」
3.「健康管理課に相談に来るように勧めてください」
4.「ご家族に電話をして、家庭での様子を確認してください」

解答

解説

本症例のポイント

・Aさん(35歳、男性)
・従業員約500人の企業に勤務。
・健康管理課の保健師「Aさんは4月に他部署から異動してきましたが、最近休みがちで、月曜日は遅刻が多く表情も硬い。仕事中ウトウトすることもあるため声をかけたら『医療機関に通院しているから大丈夫です』としか言わない。どう対応すればよいか」との相談があった。
→客観的にAさんは、遅刻疲労感があるように観察できる。『医療機関に通院しているから大丈夫です』と心配をかけないようにしているのか定かではないが、まずは、Aさんに話を聞き、現在の体調仕事の状況を保健師が確認する必要がある。

1.× 医療機関を変えるように勧める必要はない。なぜなら、現時点では、Aさんがどの医療機関に通っているかはわからない状況であるため。まずは、Aさんに話を聞き、現在の体調仕事の状況を保健師が確認し、必要であれば適切な科の医者に受診するよう支援する。
2.× Aさんの仕事の量を減らす必要はない。なぜなら、現時点では、体調不良の原因が、仕事量だと断定できていないため。最近休みがちで、月曜日は遅刻が多い原因を探るためにも、まずは、Aさんに話を聞く必要がある。
3.〇 正しい。健康管理課に相談に来るように勧める。最近休みがちで、月曜日は遅刻が多い原因を探るためにも、まずは、Aさんに話を聞き、現在の体調や仕事の状況を保健師が確認する必要があるため。
4.× ご家族に電話をして、家庭での様子を確認する優先度は低い。なぜなら、家族から情報収集する際には原則、本人の同意を得る必要があるため。Aさんは『医療機関に通院しているから大丈夫です』と言っている。また、家族にも心配かけることにもつながりかねず、Aさんの本意ではない。

 

 

 

 

 

次の文を読み39〜41の問いに答えよ。
 Aさん(35歳、男性)は、従業員約500人の企業に勤務している。先日、Aさんの上司から社内の健康管理課の保健師に電話があり「Aさんは4月に他部署から異動してきましたが、最近休みがちで、月曜日は遅刻が多く表情も硬い。仕事中ウトウトすることもあるため声をかけたら『医療機関に通院しているから大丈夫です』としか言わない。どう対応すればよいか」との相談があった。

40 Aさんはうつ病で、6か月の休職が必要と診断された。休職して4か月後、保健師が定期連絡をした際にAさんから「体調も良くなったので早く仕事に復帰したい。復職手続きとして何をしたらよいか教えてほしい」との発言があった。
 Aさんへの保健師の対応で適切なのはどれか。

1.「産業医に相談しましょう」
2.「上司に復職の意思を伝えてください」
3.「保健師が復職に向けた調整を行います」
4.「復職について主治医の診断書を提出してください」

解答

解説

本症例のポイント

・Aさん:うつ病6か月の休職が必要。
・休職して4か月後、Aさん「体調も良くなったので早く仕事に復帰したい。復職手続きとして何をしたらよいか教えてほしい」との発言があった。

→本症例は、うつ病の回復前期に該当する。徐々に生活に関連した活動を行えるようになってきた時期であるが、仕事復帰など焦りも見られる時期である。復職の時期を見誤ると、症状がさらに悪化し、復職が遅れてしまう可能性もある。したがって、本人の気持ちと同時に医師の判断も重要である。休業中の労働者から事業者に対して職場復帰の意思が伝えられた場合、事業者は労働者に対して主治医による職場復帰が可能という判断が記された診断書の提出を求めることになる。(※参考:「厚生労働省心の健康問題により体業した労働者の職場復帰支援の手引き」厚生労働省HPより)

1.× 産業医に相談する優先度は低い。産業医とは、労働安全衛生法に基づき、事業所や労働者に対して労働衛生について勧告・指導・助言を行う医師のことである。業種を問わず常時使用する労働者が50人以上の事業場で、事業所が産業医を選任することが義務付けられている。原則として、少なくとも毎月1回職場巡視をしなければならない。
2~3.× 上司に復職の意思を伝える/保健師が復職に向けた調整を行う優先度は低い。なぜなら、復職は上司や保健師の判断で行うものではないため。
4.〇 正しい。復職について主治医の診断書を提出する。本症例は、うつ病の回復前期に該当する。徐々に生活に関連した活動を行えるようになってきた時期であるが、仕事復帰など焦りも見られる時期である。復職の時期を見誤ると、症状がさらに悪化し、復職が遅れてしまう可能性もある。したがって、本人の気持ちと同時に医師の判断も重要である。休業中の労働者から事業者に対して職場復帰の意思が伝えられた場合、事業者は労働者に対して主治医による職場復帰が可能という判断が記された診断書の提出を求めることになる。(※参考:「厚生労働省心の健康問題により体業した労働者の職場復帰支援の手引き」厚生労働省HPより)Aさんは復帰の意思を示しているため、まずは主治医の診断書の提出を求めることが、保健師の対応として適切である。

 

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