第106回(R2) 保健師国家試験 解説【午後41~45】

 

次の文を読み39〜41の問いに答えよ。
 Aさん(35歳、男性)は、従業員約500人の企業に勤務している。先日、Aさんの上司から社内の健康管理課の保健師に電話があり「Aさんは4月に他部署から異動してきましたが、最近休みがちで、月曜日は遅刻が多く表情も硬い。仕事中ウトウトすることもあるため声をかけたら『医療機関に通院しているから大丈夫です』としか言わない。どう対応すればよいか」との相談があった。

41 この企業では、過去2年間で5名の職員がメンタルヘルスの不調で休職となっている。今回の経験を踏まえ、保健師は従業員のメンタルヘルスケアに取り組む必要があると考え、心の健康づくり計画を策定することとした。
 計画の策定にあたり社内で話し合う場として適切なのはどれか。

1.安全衛生委員会
2.管理監督者会議
3.業務改善委員会
4.人事評価委員会

解答

解説

ポイント

・過去2年間:5名の職員がメンタルヘルスの不調で休職。
・従業員のメンタルヘルスケアに取り組む必要がある。
心の健康づくり計画を策定する。
→心の健康づくり計画とは、事業場のメンタルヘルスケアを効果的に推進するための計画であり、心の健康づくり計画を策定する際には、事業者は、安全衛生委員会において調査・審議を行い、事業場における問題点の把握やメンタルヘルスケアの実施心の健康づくりの体制整備などについて話し合う。

1.〇 正しい。安全衛生委員会は、計画の策定にあたり社内で話し合う場である。安全衛生委員会は、衛生委員会と安全委員会をひとつにまとめた委員会で、労働者の安全と健康の確保に必要なことを調査・審議する。労働安全衛生法において定められている。
2.× 管理監督者会議の優先度は低い。管理監督者とは、労働基準法第41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」のことをいう。具体的には、企業の中で相応の地位と権限が与えられ、経営者と一体的な立場と評価することができる従業員が管理監督者に該当する。
3.× 業務改善委員会の優先度は低い。業務改善委員会はその名の通り、業務改善を行う委員会のことであるが、他にも接遇やマニュアル更新と整備などを行う。
4.× 人事評価委員会の優先度は低い。人事評価委員会とは、社長や役員、部長等の上級管理者が集まり、全社的な見地から評価の調整や最終決定の場を設ける。これをさらに発展させて社員の能力開発に主眼を置いたものである。

ストレスチェックとは?

心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック制度)は、労働者に対して行う心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)や、検査結果に基づく医師による面接指導の実施などを事業者に義務づける制度である。平成26(2014)年6月の法改正で、労働者50人以上の事業所で毎年1回、すべての労働者に対してストレスチェックを実施することが義務づけられた。ストレスチェック後に「高ストレス判定」が出た場合、会社の対応が義務つけられている。①検査の結果「高ストレス者」と判定された労働者から申し出があった場合、産業医などの医師による面談(面接指導)を実施すること。②面接指導の結果に基づき、医師の意見を聞き、必要に応じ就業上の措置を講じることも義務となる。

 

 




 

 

次の文を読み42〜44の問いに答えよ。
 A市(人口5万人)では、大規模災害発生に備えた医療体制の確保等のため、地域の関係機関を集めた検討を行うことになった。A市内には地域医療の中核となるB病院を含め複数の病院があるが、大規模災害の発生を想定すると、軽症者から重症者までの傷病者全てをそれらの病院で受け入れることは困難と予想される。

42 この傷病者受け入れの課題への対応で最も適切なのはどれか。

1.発災前に応急手当用品を各家庭に配布する。
2.緊急度に応じた搬送ができる体制を整備する。
3.発災後にB病院の医師が市内全域を往診する。
4.傷病者が診察を待つ場所を病院の隣に設置する。

解答

解説

ポイント

・目的:大規模災害発生に備えた医療体制の確保等。
・手段:地域の関係機関を集めた検討。
・課題:大規模災害の発生を想定すると、軽症者から重症者までの傷病者全てをそれらの病院で受け入れることは困難と予想される。
→主な課題は、「軽症者から重症者までの傷病者全てをそれらの病院で受け入れること」である。これに適切に対応できるものを選ぶ。平常時(災害静穏期・準備期)の保健活動として、災害時地域応急体制の樹立、避難行動要支援者のリスト化、災害対策マニュアル作成、生活用品・防災用品の備蓄、避難場所、災害時の連絡方法の確認、住民の自助・共助の支援、近瞬ボランティアの育成、防災訓練、災害時対応のための研修、関係機関との定期的な連絡会議があげられる。

1.× 発災前に応急手当用品を各家庭に配布する必要ない。なぜなら、主な課題は「傷病者全てをそれらの病院で受け入れること」であるため。発災前に応急手当用品を各家庭に配布しても、病院への受診を控える手段となりえない。
2.〇 正しい。緊急度に応じた搬送ができる体制を整備する。平常時(災害静穏期・準備期)の保健活動として、災害時地域応急体制の樹立、避難行動要支援者のリスト化、災害対策マニュアル作成、生活用品・防災用品の備蓄、避難場所、災害時の連絡方法の確認、住民の自助・共助の支援、近瞬ボランティアの育成、防災訓練、災害時対応のための研修、関係機関との定期的な連絡会議があげられる。
3.× 発災後にB病院の医師が市内全域を往診する必要ない。なぜなら、B病院の医師に負担がかかるだけでなく、B病院の入院患者や病院自体の運営にも支障をきたしかねないため。
4.× 傷病者が診察を待つ場所を病院の隣に設置する必要ない。なぜなら、待ち時間と待つ場所が増えるだけで、「傷病者全てをそれらの病院で受け入れること」の根本的解決にはならないため。発災時にそのような対応をしなくて済むように、平常時にA市内の傷病者の受け入れの課題について話し合う必要がある。

 

 

 

 

 

次の文を読み42〜44の問いに答えよ。
 A市(人口5万人)では、大規模災害発生に備えた医療体制の確保等のため、地域の関係機関を集めた検討を行うことになった。A市内には地域医療の中核となるB病院を含め複数の病院があるが、大規模災害の発生を想定すると、軽症者から重症者までの傷病者全てをそれらの病院で受け入れることは困難と予想される。

43 A市には、食品加工工場があり、従業員の多くがA市内に在住している。また、A市の上水道の普及率は約95%であり、未整備の家庭では、生活用水として井戸水を使用している。
 大規模災害時の健康危機に備えA市の保健師が平常時に実施すべき事項として適切なのはどれか。

1.断水時に利用可能な井戸の水質検査をする。
2.食品関連事業者に衛生管理指導を実施する。
3.災害医療に必要な医薬品の供給体制を確保する。
4.定期的に医療福祉機関との連携会議を開催する。

解答

解説

ポイント

・食品加工工場があり、従業員の多くが市内に在住。
・上水道の普及率:約95%
・未整備の家庭:生活用水として井戸水を使用。
→平常時(災害静穏期・準備期)の保健活動として、災害時地域応急体制の樹立、避難行動要支援者のリスト化、災害対策マニュアル作成、生活用品・防災用品の備蓄、避難場所、災害時の連絡方法の確認、住民の自助・共助の支援、近瞬ボランティアの育成、防災訓練、災害時対応のための研修、関係機関との定期的な連絡会議があげられる。

1.× 断水時に利用可能な井戸の水質検査をする必要はない。断水時=大規模災害時は、①野外への避難、②通信・交通・ライフラインの途絶、③避難所生活が開始される。約5%の未整備家庭の井戸水の水質検査を災害応急対応期に行うのは困難である。また、平常時の井戸の水質検査も、大規模災害後(地震など)壊れて使えなくなってしまう可能性のほうが高い。
2.× 食品関連事業者に衛生管理指導を実施する必要はない。なぜなら、大規模災害時の健康危機と関連が薄いため。
3.× 災害医療に必要な医薬品の供給体制を確保する優先度は低い。医薬品とは、ヒトや動物の疾病の診断・治療・予防を行うために与える薬品のことである。医師の診察によって処方および薬剤師の調剤により投与される処方箋医薬品、薬局で買える一般用医薬品がある。
4.〇 正しい。定期的に医療福祉機関との連携会議を開催する。平常時(災害静穏期・準備期)の保健活動として、災害時地域応急体制の樹立、避難行動要支援者のリスト化、災害対策マニュアル作成、生活用品・防災用品の備蓄、避難場所、災害時の連絡方法の確認、住民の自助・共助の支援、近隣ボランティアの育成、防災訓練、災害時対応のための研修、関係機関との定期的な連絡会議があげられる。平常時から関係機関と、会議の場を活用して災害対策の啓発を行う。

 

 

 

 

 

次の文を読み42〜44の問いに答えよ。
 A市(人口5万人)では、大規模災害発生に備えた医療体制の確保等のため、地域の関係機関を集めた検討を行うことになった。A市内には地域医療の中核となるB病院を含め複数の病院があるが、大規模災害の発生を想定すると、軽症者から重症者までの傷病者全てをそれらの病院で受け入れることは困難と予想される。

44 A市では、大規模災害を想定した災害時保健活動のマニュアルを作成することになった。
 発災から72時間経過した時期の保健師活動としてマニュアルに記載する内容で適切なのはどれか。

1.生活習慣病予防教室の開催
2.住民へのハザードマップの配布
3.災害対応にあたる職員の健康管理
4.災害時保健活動全体のまとめと評価

解答

解説

ポイント

・A市:災害時保健活動のマニュアルを作成する。
・発災から72時間経過した時期の保健師活動。
→72時間経過した時期は、急性期(~2,3日)と亜急性期(~2,3週間)の移行時期である。急性期(~2,3日)の災害状況は、野外への避難、通信・交通・ライフラインの途絶、避難所生活開始である。主な保健活動として、①救急対応(救護所の開設、必要な医療物品の準備)、②地域の被害状況、ライフライン、衛生状態の把握、③住民の安否確認と身元確認、④避難行動要支援者の安否確認と移動、⑤健康危機管理、⑥避難所準備と周知、⑦救護所や避難所の巡回健康相談と衛生管理および環境整備、⑧職員の健康管理(急性期)である。

1.× 生活習慣病予防教室の開催は亜急性期や災害復旧・復興期が望ましい。亜急性期(~2.3週間)は「食中毒や感染症等の二次的な健康障害の予防活動」を、復興期は「廃用症候群・閉じこもり・孤立死の予防・対策」を行う。ちなみに、亜急性期(~2.3週間)は他にも、①巡回健康相談、②生活用品の確保、③エコノミークラス症候群(深部静脈血栓症・肺塞栓症)の合併症対策、④こころのケア対策の実施、⑤派遣保健師配置やボランティアの活用、⑥職員の健康管理、⑦通常業務の調整があげられる。また、復興期は他にも、①巡回健康相談、②心的外傷後ストレス障害(PTSD)への対応、③新たなコミュニティづくりの支援、④職員の健康管理、⑤通常業務の再開があげられる。
2.× 住民へのハザードマップの配布するのは平常時が望ましい。平常時は、主に①災害時地域応急体制の樹立、②避難行動要支援者のリスト化、③災害対策マニュアル作成、④生活用品・防災用品の備蓄、⑤避難場所、災害時の連絡方法の確認、⑥近隣ボランティアの育成、⑦防災訓練、⑧災害時対応のための研修があげられる。
3.〇 正しい。災害対応にあたる職員の健康管理は、発災から72時間経過した時期の保健師活動としてマニュアルに記載する内容で適切である。72時間経過した時期は、急性期(~2,3日)と亜急性期(~2,3週間)の移行時期である。急性期(~2,3日)の災害状況は、野外への避難、通信・交通・ライフラインの途絶、避難所生活開始である。主な保健活動として、①救急対応(救護所の開設、必要な医療物品の準備)、②地域の被害状況、ライフライン、衛生状態の把握、③住民の安否確認と身元確認、④避難行動要支援者の安否確認と移動、⑤健康危機管理、⑥避難所準備と周知、⑦救護所や避難所の巡回健康相談と衛生管理および環境整備、⑧職員の健康管理(急性期)である。
4.× 災害時保健活動全体のまとめと評価するのは災害復旧・復興期以降が望ましい。災害復旧・復興期~災害前の状態に戻るまでの保健活動は、①巡回健康相談、②廃用症候群・閉じこもり・孤立死の予防・対策、③心的外傷後ストレス障害(PTSD)への対応、④新たなコミュニティづくりの支援、⑤職員の健康管理、⑥通常業務の再開があげられる。

亜急性期(~2,3週間)における保健活動

【災害状況】
避難所生活の継続
水や食料の不足
衛生環境の悪化

【保健活動】
巡回健康相談
食中毒や感染症等の二次的な健康障害の予防活動
生活用品の確保
エコノミークラス症候群(深部静脈血栓症・肺塞栓症)の合併症対策
こころのケア対策の実施
派遣保健師配置やボランティアの活用
職員の健康管理
通常業務の調整

 

 




 

 

次の文を読み45〜47の問いに答えよ。
 肥満者に対する新規の糖尿病発症予防プログラムを立案し、従来のプログラムと比較して新規のプログラムの効果を評価することとした。特定健康診査の受診者で糖尿病ではないことが確認できた肥満者200人を、従来のプログラム群と新規のプログラム群にそれぞれ100人ずつ登録してプログラムを実施し、その後年間の新規の糖尿病発症の有無を確認することとした。

45 この研究デザインはどれか。

1.横断研究
2.介入研究
3.コホート研究
4.症例対照研究
5.生態学的研究

解答

解説

ポイント

・立案:肥満者に対する新規の糖尿病発症予防プログラム
・評価:従来のプログラムと比較して新規のプログラムの効果。
・対象:特定健康診査の受診者で糖尿病ではないことが確認できた肥満者200人
・方法:従来のプログラム群と新規のプログラム群にそれぞれ100人ずつ登録してプログラムを実施し、その後3年間の新規の糖尿病発症の有無を確認することとした。
→研究の種類には、研究者が調査対象集団に対して何らかの働きかけ(介入)を行うか否かで、介入を行う「介入研究」と、介入を行わない「観察研究」とに大きく分類される。介入研究には、「臨床試験・地域研究」などがある。一方、観察研究には、大きく「①記述疫学・②分析疫学」に大別され、①記述疫学には、横断研究・時系列研究などがある。②分析疫学には、生態学的研究・横断研究・症例対照研究・コホート研究などがある。

1.× 横断研究は、ある一時点における集団の状況を観察する研究方法である。例えば、健康診断時に日ごろから運動をする習慣が有るか無いかを調査し、運動習慣の有無と肥満度に関連があるかを調べるといった方法である。
2.〇 正しい。介入研究は、介入群に何らかの働きかけ(介入)を行って、その介入の効果について介入群と非介入群の比較を行う研究方法である。本問では新規のプログラム介入の効果について、従来のプログラム群(非介入群)と新規のログラム群(介入群)の比較を行うため、介入研究に該当する。
3.× コホート研究とは、分析疫学における手法の1つであり、特定の要因に曝露した集団と曝露していない集団を一定期間追跡し、研究対象となる疾病の発生率を比較することで、要因と疾病発生の関連を調べる観察研究の一種である。将来に向かって追跡し比較する方法である。たとえば、調査対象を「平成27年生まれ」と決め、該当者から無作為抽出した一定数の個人に対して、5年ごとに同じ調査を続けることがこれに該当する。
4.× 症例対照研究は、対象集団をすでに疾病に罹患している症例群と疾病に罹患していない対照群に分け過去の要因の曝露状況を調べる方法である。つまり、症例対照研究とは、時間軸:後ろ向き研究で、観察期間はない。信頼性は低いが費用・労力が小さい。症例群と対照群に分け、両群の過去の曝露状況を比較する方法である。曝露と疾患発症の関連を明らかにする。一方で、コホート研究とは、時間軸:前向き研究で、観察期間は長期間行う。信頼性は高いが費用・労力が大きい。
5.× 生態学的研究とは、要因の有無と発生頻度を異なる地域で比較、あるいは特定の地域で時間的変化を比較し観察する調査である。つまり、生態学的研究は分析対象を個人でなく、地域または集団単位(国、県、市町村)とし、異なる地域や国の間での要因と疾病の関連を検討する方法である。

 

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