第106回(R2) 保健師国家試験 解説【午後46~50】

 

次の文を読み45〜47の問いに答えよ。
 肥満者に対する新規の糖尿病発症予防プログラムを立案し、従来のプログラムと比較して新規のプログラムの効果を評価することとした。特定健康診査の受診者で糖尿病ではないことが確認できた肥満者200人を、従来のプログラム群と新規のプログラム群にそれぞれ100人ずつ登録してプログラムを実施し、その後年間の新規の糖尿病発症の有無を確認することとした。

46 従来のプログラム群と新規のプログラム群の2群間において、対象者の背景を均一にする必要があると考えられた。
 背景を均一にするための最も適切な方法はどれか。

1.制限
2.層化
3.マッチング
4.無作為抽出
5.無作為割付

解答

解説

ポイント

・従来のプログラム群と新規のプログラム群の2群間において、「対象者の背景を均一」にする。
→交絡とは、ある危険因子の曝露と転帰結果の関連を考える際に、その危険因子に付随し表には現れていないその他の危険因子が直接転帰に関連し、観察している因子は直接的には関連していない場合があることをいう(例:喫煙と癌の関係を調べる時、実際には付随する他の因子が直接に癌の発生と関係あるような場合)。曝露と転帰に係わる因子を交絡因子という。曝露と転帰の因果関係の過程で生じるものではないこと、対象の選択や判定上で問題となるバイアスとも異なることに注意が必要である。観察的研究ではこの交絡が起こる可能性が常に存在するため、①研究デザインにおける交絡のコントロール、②データ分析における交絡のコントロールが必要になる。

①研究デザインにおける交絡のコントロール
限定:対象集団を制限すること。
マッチング:症例と対照の間で交絡因子となりそうな要因を一致させること。
無作為化:まったく交絡因子が不明の時に対象者を介入群、非介入群にランダムに割り付ける方法である。無作為化の目的は、比較する群の性別、年齢、重症度などの既知の交絡因子の分布を均等にするばかりでなく、未知の交絡因子の影響を低減させること。

②データ分析における交絡のコントロール
層化:対象者をひとまとめにして分析せずに、そのサブグループごとに分けて分析すること。
多変量解析:統計学的モデルを用いて交絡因子も変数として含めることで、それぞれの変数の影響を見ていく方法である。

1.× 制限(限定)とは、研究対象者をある特定の特徴を有した集団に限定する方法である。
2.× 層化(そうか)とは、性別や年齢などの交絡因子となり得る因子について、男女別、年齢階層別など母集団をいくつかの均質な集団に分ける方法である。
3.× マッチングは、症例と対照の間で交絡因子となりそうな要因を一致させることである。比較する2群の対象者の交絡因子(性別、年齢、居住地域など)の分布が等しくなるように対象者を選び出す方法である。症例対照研究で用いられることがある。マッチさせる要因に応じて該当者を探す手間がかかり、膨大な人数が必要になる。
4.× 無作為抽出は、母集団から標本を無作為に選び出す方法である。母集団に属するどの単位体または単位量も、等しい確率で標本に入るように標本を抽出することである。こうして得られた標本は母集団全体の傾向を忠実に表し、また確率の法則を適用できる。 
5.〇 正しい。無作為割付(わりつけ)は、背景を均一できる。偏りを避けるために、研究対象者を介入群と非介入群にランダム(無作為)に割り付け、確率的に均等に割り振るものである。介入研究における交絡因子を制御する方法である。

 

 

 

 

 

次の文を読み45〜47の問いに答えよ。
 肥満者に対する新規の糖尿病発症予防プログラムを立案し、従来のプログラムと比較して新規のプログラムの効果を評価することとした。特定健康診査の受診者で糖尿病ではないことが確認できた肥満者200人を、従来のプログラム群と新規のプログラム群にそれぞれ100人ずつ登録してプログラムを実施し、その後年間の新規の糖尿病発症の有無を確認することとした。

47 それぞれのプログラムを実施し、その後3年間の新規の糖尿病発症の有無を確認した。結果を以下に示す。
新規のプログラム群の既存のプログラム群に対する新規の糖尿病発症の相対危険を求めよ。
ただし、小数点以下第2位を四捨五入すること。
 解答: ① .②
 ①:0~9
 ②:0~9

解答08

解説

本問では、従来のプログラム群に対する新規のプログラム群の新規糖尿病発症の相対危険度(リスク比)を求める。

相対危険度(リスク比)とは?

定義は、曝露群と非曝露群の疾病発症のリスクの比のこと、「陽露因子があると何倍危険か」を示す。因果関係を追及する際の重要な指標である。リスク比が大きいほど、因果関係が存在する可能性が高い。

計算式

コホート研究では、「対象者がある曝露を受けているか受けていないかによって、将来、疾病を発症するか/発症しないか」という検討が行われる。そのため、リスク比を計算する場合、分割表をみるときには「曝露因子の有無」から「疾病発症の有無」をみる。

相対危険度(リスク比)=曝露群での疾病発症リスク ÷ 非曝露群での疾病発症リスク

したがって、

相対危険度 = {20 ÷(20 + 80)} ÷ {25 ÷ (25 + 75)}

0.8

したがって、①0 となる。

 

 




 

 

次の文を読み48、49の問いに答えよ。
 人口40万人のA市。3年前から出生数が増加傾向にある。最近、乳幼児相談時に、保健師に対しておやつの時間や指しゃぶりなど育児に関する細かな相談をする母親や育児不安を訴える母親が増えている。

48 A市の育児に関する健康課題を明確にするため保健師が優先して行うのはどれか。

1.新生児家庭訪問結果の分析
2.両親学級の参加者情報の確認
3.乳幼児相談の内容のカテゴリー化
4.母子健康手帳交付時の面接内容の分析
5.4か月児健康診査に対する母親へのアンケートの実施

解答

解説

ポイント

・人口40万人の市。
・3年前:出生数が増加傾向。
・最近:乳幼児相談時に、育児に関する細かな相談をする母親や育児不安を訴える母親が増えている。
・(おやつの時間や指しゃぶりなど)

→目的は、A市の育児に関する健康課題を明確にすることである。保健師は、乳幼児相談時に、細かな相談や育児不安を訴える母親が増えていることに問題意識を抱えている。A市の育児に関する健康課題を明確化するためには、まずは乳幼児相談において、どのような相談内容があるのかを分析する必要がある。そのため、乳幼児相談時の相談の内容を質的に分析し、相談内容ごとに分類するカテゴリー化が最も優先される。カテゴリー化とは、2つ以上の異なる対象物を等価であると認識し、その等価性に基づいて対象のまとまり(カテゴリー)を形成する過程である。そして、カテゴリー化は概念や概念形成を含む認知過程の基礎をなすものである。

1~2.4~5.× 新生児家庭訪問結果の分析/両親学級の参加者情報の確認/母子健康手帳交付時の面接内容の分析/4か月児健康診査に対する母親へのアンケートの実施は、優先度は低い。なぜなら、対象が限定的であるため。ちなみに、母子手帳は、医療機関で妊娠していることが確認されたら交付してもらえる。赤ちゃんの心拍が確認できる妊娠5~6週目以降が多い。母子手帳の取得には「何日以内に交付すること」といった厳密な期限はない。
3.〇 正しい。乳幼児相談の内容のカテゴリー化は、A市の育児に関する健康課題を明確にできる。保健師は、乳幼児相談時に、細かな相談や育児不安を訴える母親が増えていることに問題意識を抱えている。A市の育児に関する健康課題を明確化するためには、まずは乳幼児相談において、どのような相談内容があるのかを分析する必要がある。そのため、乳幼児相談時の相談の内容を質的に分析し、相談内容ごとに分類するカテゴリー化が最も優先される。カテゴリー化とは、2つ以上の異なる対象物を等価であると認識し、その等価性に基づいて対象のまとまり(カテゴリー)を形成する過程である。そして、カテゴリー化は概念や概念形成を含む認知過程の基礎をなすものである。

 

 

 

 

 

次の文を読み48、49の問いに答えよ。
 人口40万人のA市。3年前から出生数が増加傾向にある。最近、乳幼児相談時に、保健師に対しておやつの時間や指しゃぶりなど育児に関する細かな相談をする母親や育児不安を訴える母親が増えている。

49 A市では1年前に新しく建設された大規模マンションがあり、出産を控えた妊婦や乳幼児のいる家族が多く居住していた。地区担当保健師はこの地区で安心して子育てができるよう、新たな事業を計画することとした。
 地区担当保健師が最初に計画する内容で最も適切なのはどれか。

1.市内の産婦人科医療機関との連携を強化する。
2.乳幼児を持つ親と妊婦との交流会を開催する。
3.要保護児童対策地域協議会で事例検討を行う。
4.転入してきた妊婦の家庭訪問を行う。

解答

解説

ポイント

・最近、乳幼児相談時に、保健師に対しておやつの時間や指しゃぶりなど育児に関する細かな相談をする母親や育児不安を訴える母親の増加。

・1年前:新しく建設された大規模マンションがあり、出産を控えた妊婦や乳幼児のいる家族が多く居住していた。
・この地区で安心して子育てができるよう、新たな事業を計画する。
→設問文に記載されていた乳幼児相談時での相談内容と一緒に、安心して子育てができる新たな事業を計画する。ちなみに、乳幼児は、乳児と幼児を合わせた呼び名である。乳児は児童福祉法では、生後0日から満1歳未満までの子をいい、幼児は、満1歳から小学校就学までの子供のことをいう。

1.× 市内の産婦人科医療機関との連携を強化する優先度は低い。なぜなら、不安の訴える母親の根本的解決には結び付きにくいため。設問から「最近、乳幼児相談時に、保健師に対しておやつの時間や指しゃぶりなど育児に関する細かな相談をする母親や育児不安を訴える母親の増加」していることからも、妊娠期からの連携は制優先事項とはいえない。
2.〇 正しい。乳幼児を持つ親妊婦との交流会を開催する。なぜなら、乳幼児をもつ親と妊婦の交流会は、育児情報の交換や相互交流、不安や悩みを相談できる場となるため。「この地区で安心して子育てができるようになる」ことを目的にした事業において、最初に計画する内容として最も適切である。おやつの時間や指しゃぶりなど育児に関する細かな相談をする母親や育児不安にも対応できる。
3.× 要保護児童対策地域協議会で事例検討を行う優先度は低い。なぜなら、要保護児童対策地域協議会は、児童虐待の対応について検討が必要な事例がある場合に行うものであるため。要保護児童対策地域協議会(子どもを守る地域ネットワーク)は、虐待予防対策のなかで、重要な役割を担う。要保護児童等のへの適切な支援を図ることを目的に地方公共団体が設置・運営する組織である。『児童福祉法』で設置が規定されている。
4.× 転入してきた妊婦の家庭訪問を行う優先度は低い。なぜなら、対象者が限定されており、すでに子育てをしている家庭は支援を受けられないことから、地区全体への波及効果は低いため。ただし、転入してきたばかりの妊婦への家庭訪問の実施は、個別のニーズ把握や支援には有効である。

要保護児童対策地域協議会(子どもを守る地域ネットワーク)の機能

要保護児童対策地域協議会(子どもを守る地域ネットワーク)は、虐待予防対策のなかで、重要な役割を担う。要保護児童等のへの適切な支援を図ることを目的に地方公共団体が設置・運営する組織である。『児童福祉法』で設置が規定されている。

【要保護児童対策地域協議会の業務内容】
①代表者会議:年1~2回程度の開催で、各関係機関の責任者(管理職)レベルで連携を深め、実務者会議の円滑な運営の環境整備を行う。
②実務者会議:3か月に1回程度の開催で、実務者により、すべてのケースの定期的な状況確認、主担当機関の確認、支援方針の見直し等を行う。
③個別ケース検討会議:適時開催され、個別のケースについて、直接かかわっている担当者や今後かかわる可能性のある関係機関の担当者が、危険度や緊急度の判断、具体的な支援の内容を検討する。

(※参考:「要保護児童対策地域協議会設置・運営指針」厚生労働省HPより)

 

 

 




 

 

次の文を読み50、51の問いに答えよ。
 Aさん(32歳、男性)。父親は死去し、母親は隣の市で生活している。Aさんは26歳の頃に会社で「自分は何でもできる」と言い、話がすぐに飛躍し強引な契約やミスが続き、27歳で退職となった。翌年、無理な自動車運転による交通事故を起こし、入院先の病院で双極性障害と診断された。1か月の入院ののち退院したが、その後はアルバイトを転々としながら1人で暮らしていた。

50 ある日、母親が来所し「Aの自宅に行ったら、ずっと布団に入ったまま、食事もちゃんと摂っていないようだ。Aは眠れない、死にたいと言っている。どうしたら良いか」と相談があった。保健センターの地区担当保健師が母親と一緒にAさん宅を訪問した。Aさんは、痩身で顔は青白く、表情は乏しい。
 保健師が確認するAさんの情報で優先されるのはどれか。

1.自殺企図
2.睡眠の状況
3.食事の摂取量
4.布団から出ない理由

解答

解説

本症例のポイント

・Aさん(32歳、男性、双極性障害)。
・父親は死去し、母親は隣の市で生活している。
・26歳:会社で「自分は何でもできる」と言い、話がすぐに飛躍し強引な契約やミスが続く。
・27歳:退職。
・翌年:無理な自動車運転による交通事故を起こす。
・1か月の入院ののち退院:アルバイトを転々としながら1人暮らし。

・母親「Aの自宅に行ったら、ずっと布団に入ったまま、食事もちゃんと摂っていないようだ。Aは眠れない、死にたいと言っている。どうしたら良いか」。
・保健師と母親が訪問:Aさんは痩身で顔は青白く、表情は乏しい
→本症例は、双極性障害のうつ症状が強く急性期に該当する。双極性障害(繰うつ病)では、繰状態とうつ状態が現れるのが特徴である。繰状態が生活の破綻につながり、社会生活に支障が生じるおそれがあるため、注意が必要である。

1.〇 正しい。自殺企図は最も優先される。なぜなら、Aさんから「死にたい」という訴えもあり、自殺企図がみられるため。自殺とは、首つり、リストカット、大量服薬など様々な手段により自ら自分の生命を絶つ行為であるが、実際に自殺を企てることを自殺企図という。うつ病の症状の一つである。
2~3.× 睡眠の状況/食事の摂取量より選択肢が高いものがほかにある。なぜなら、自殺リスク(ただちに人命)には及ばないため。
4.× 布団から出ない理由より選択肢が高いものがほかにある。なぜなら、本症例は双極性障害とすでに診断されており、布団から出ないことは、病気の症状による抑うつ気分気力減退の影響が大きいと考えられるため。

うつ病の症状について

感情面:抑うつ、不安、焦燥。
意欲面:意欲低下(日内変動があり特に朝が悪い)、自殺念慮。
思考面:微小妄想(罪業、貧困、心気)、思考抑止、離人。
身体面:不眠(早期覚醒が多い)、頭重感、めまい、倦怠感。

 

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