第107回(R3) 保健師国家試験 解説【午前21~25】

 

21 児童相談所について正しいのはどれか。

1.市町村に設置義務がある。
2.養子縁組の相談に応じる。
3.母親を一時保護する機能を持つ。
4.児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)に基づき設置される。

解答

解説
1.× 設置義務があるのは、市町村ではなく「都道府県、指定都市」である。
2.〇 正しい。養子縁組の相談に応じる。平成28(2016)年の児童福祉法の改正で養子縁組里親が法定化されたことにより、養子緑組に関する相談・支援も都道府県・児童相談所の業務となっている。ちなみに「養子縁組」とは、民法に基づいて法的な親子関係を成立させる制度であり、養親が子の親権者となることである。 養子縁組が成立した家庭には、自治体などからの金銭的な支援はないことが多い。
3.× 一時保護する機能を持つのは、「母親」ではなく「児童」である。必要に応じて児童を家庭から一時保護する機能を持つ。
4.× 児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)ではなく、「児童福祉法」に基づき設置される。ちなみに、『児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)』は、児童虐待防止に関する施策を促進し、児童の権利・利益を擁護することを目的としている。一方、児童福祉法とは 児童が良好な環境において生まれ、且つ、心身ともに健やかに育成されるよう、保育、母子保護、児童虐待防止対策を含むすべての児童の福祉を支援する法律である。

児童相談所とは?

児童相談所は、「児童福祉法」に基づいて設置される行政機関であり、都道府県、指定都市で必置となっている。原則18歳未満の子供に関する相談や通告について、子供本人・家族・学校の先生・地域の方々など、どなたからも受け付けている。児童相談所は、すべての子供が心身ともに健やかに育ち、その持てる力を最大限に発揮できるように家族等を援助し、ともに考え、問題を解決していく専門の相談機関である。

職員:児童福祉司、児童心理司、医師または保健師、弁護士 等。所長は、医師で一定の者、大学等で心理学を専修する学科を卒業した者、社会福祉士、児童福祉司で一定の者 等。

【業務内容】
①助言指導 
児童の一時保護
③児童福祉施設等への入所措置
④児童の安全確保
⑤里親に関する業務
養子縁組に関する相談・支援

(参考:「児童相談所とは」東京都児童相談センター・児童相談所様HPより)

 

 

 

 

 

22 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)について正しいのはどれか。

1.入院勧告によって感染症指定医療機関で受ける入院治療の医療費は公費負担となる。
2.感染症まん延防止のために予防接種を勧奨する疾患について規定されている。
3.無症状病原体保有者についての届出は定められていない。
4.A型肝炎は三類感染症である。

解答

解説

1.〇 正しい。入院勧告によって感染症指定医療機関で受ける入院治療の医療費は公費負担となる。公費負担医療とは、医療費の全額もしくは大部分を公的管理された基金が負担する医療制度のことをいう。都道府県知事は、1類・2類感染症、新型インフルエンザ等感染症の患者に感染症指定医療機関に入院を勧告することができ、その費用は原則公費負担となる。
2.× 感染症まん延防止のために予防接種を勧奨する疾患について規定されているのは、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」ではなく『予防接種法』である。予防接種法とは、公衆衛生の観点から伝染のおそれがある疾病の発生・まん延を予防するためにワクチンの予防接種を行うとともに、予防接種による健康被害の迅速な救済を図ることを目的として制定された日本の法律である。予防接種法に基づく予防接種には、①定期予防接種と②臨時予防接種があり、定期予防接種の対象疾患には、①A類疾病と②B類疾病がある。さらに同法に基づかない任意接種もある。
3.× 無症状病原体保有者についての届出も定められている。第12条の1項には、「医一類感染症の患者、二類感染症、三類感染症又は四類感染症の患者又は無症状病原体保有者、厚生労働省令で定める五類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の患者及び新感染症にかかっていると疑われる者」と定められている。(※一部引用:「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」eーGOV法令検索様HPより)
4.× A型肝炎は、三類感染症ではなく四類感染症である。ちなみに、3類感染症(5疾患:・コレラ・細菌性赤痢・品管出血性大腸菌感染症(0157等)・腸チフス ・パラチフス)である。他の4類感染症(44疾患:※一部抜粋。・E型肝炎 ・黄熱・Q熱・狂犬病・チクングニア熱・鳥インフルエンザ(特定鳥インフルエンザを除く)・炭疽 ・ボツリヌス症 ・マラリア ・野兎病・重症熱性血小板減少症候群(SFTS)・デング熱・ジカウイルス感染症・日本脳炎・その他感染症(政令で指定))である。

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律とは?

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症予防法、感染症法、感染症新法)は、感染症の予防および感染症患者に対する医療に関する措置について定めた日本の法律である。平成10年(1998年)に制定された。主な内容は、①1~5類感染症の分類と定義、②情報の収集・公表、③感染症(結核を含む)への対応や処置。

【「感染症法」の対象となる感染症】
①1類感染症(7疾患:エボラ出血熱 ・クリミア・コンゴ出血熱・痘そう(天然痘) ・南米出血熱・ペスト・マールブルグ病・ラッサ熱)
対応:原則入院・消毒等の対物措置(例外的に建物への措置,通行制限の措置も適用対象とする)

②2類感染症(6疾患:・急性灰白髄炎(ポリオ)・結核 ・ジフテリア ・重症急性呼吸器症候群(SARS)・特定鳥インフルエンザ(H5N1, H7N9) ・中東呼吸器症候群(MERS))
対応:状況に応じて入院・消毒等の対物措置

③3類感染症(5疾患:・コレラ・細菌性赤痢・品管出血性大腸菌感染症(0157等)・腸チフス ・パラチフス)
対応:・特定職種への就業制限・消毒等の対物措置

④4類感染症(44疾患:※一部抜粋。・E型肝炎・A型肝炎 ・黄熱・Q熱・狂犬病・チクングニア熱・鳥インフルエンザ(特定鳥インフルエンザを除く)・炭疽 ・ボツリヌス症 ・マラリア ・野兎病・重症熱性血小板減少症候群(SFTS)・デング熱・ジカウイルス感染症・日本脳炎・その他感染症(政令で指定))
対応:・感染症発生状況の情報収集、分析とその結果の公開,提供・媒介動物の輸入規制・消毒等の対物措置

⑤5類感染症(46疾患:※一部抜粋。・インフルエンザ(鳥インフルエンザ・新型インフルエンザ等感染症を除く)・ウイルス性肝炎(E型・A型を除く)・クリプトスポリジウム症・後天性免疫不全症候群(AIDS)・性器クラミジア感染症 ・梅毒・麻疹・百日咳・メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症・その他感染症(省令で指定))
対応:・感染症発生状況の情報収集、分析とその結果の公開情報提供

予防接種法とは?

予防接種法とは、公衆衛生の観点から伝染のおそれがある疾病の発生・まん延を予防するためにワクチンの予防接種を行うとともに、予防接種による健康被害の迅速な救済を図ることを目的として制定された日本の法律である。予防接種法に基づく予防接種には、①定期予防接種と②臨時予防接種があり、定期予防接種の対象疾患には、①A類疾病と②B類疾病がある。さらに同法に基づかない任意接種もある。

A類疾病:主に集団予防、重篤な疾患の予防に重点を置き、国の積極的な勧奨があり、本人(保護者)に努力義務がある。
疾患:結核、ジフテリア、破傷風、百日咳、ポリオ、麻疹、風疹、日本脳炎、ヒブ(インフルエンザ菌b型)感染症、小児の肺炎球菌感染症、水痘、ヒトパピローマウイルス感染症、B型肝炎

B類疾病:主に個人予防に重点を置き、国の積極的な勧奨なく、本人(保護者)に努力義務はない。
疾患:季節性インフルエンザと高齢者の肺炎球菌感染症

(参考:「予防接種とは?」東京都医師会HPより)

 

 




 

 

23 災害拠点病院について正しいのはどれか。

1.東日本大震災を契機として整備を開始した。
2.災害対策基本法に指定要件が定められている。
3.地域災害拠点病院は各都道府県に1か所ずつ設置されている。
4.被災地へ災害派遣医療チーム(DMAT)を派遣する体制を備える。

解答

解説

災害拠点病院とは?

災害拠点病院とは、災害発生時(地震・津波・台風・噴火など)に災害医療を行う医療機関を支援する病院のことである。平成8年に当時の厚生省が定めた。医療救護活動の中核を担う病院で都道府県によって指定される。基幹災害医療センター(基幹災害拠点病院)は、各都道府県に原則1か所以上、地域災害医療センター(地域災害拠点病院)は、二次医療圏ごとに原則1カ所以上整備される。

【主な特徴】
・24時間緊急対応できる。
・被災地域内の傷病者の受け入れ・搬出が可能な体制を持つ。
・DMAT(災害派遣医療チーム)の派遣機能を持つ。
・搬送をヘリコプターなどを使用して行える。
・消防機関(緊急消防援助隊)と連携した医療救護班の派遣体制がある。
・自己完結型で医療チームを派遣できる資器材を備えている。

【DMAT(災害派遣医療チーム)の特徴】
定義:災害急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チーム。
医師、看護師、業務調整員(医師・看護師以外の医療職及び事務職員)で構成され、大規模災害や多傷病者が発生した事故などの現場に、急性期(おおむね48時間以内)から活動できる機動性を持った、専門的な訓練を受けた医療チームである。
①都道府県の派遣要請に基づく。
②災害の急性期(おおむね48時間以内)に活動できる機動性をもつ。
③主な活動は、広域医療搬送、病院支援、地域医療搬送、現場活動などである。※(参考:「DMATとは」厚生労働省HPより)

1.× 東日本大震災(平成23年:2011年)ではなく、阪神・淡路大震災(平成7年:1995年)を契機として整備を開始した。
2.× 災害対策基本法ではなく、「厚生労働省医政局長通知」に指定要件が定められている。ちなみに、『災害対策基本法』は、①防災計画の作成、②災害予防、③災害応急対策、④災害復旧および防災に関する財政金融措置など、災害対策の基本を定めている。具体的な住民の責務として生活必需物資の備蓄、自発的な防災活動への参加、過去の災害から得られた伝承などの努力義務が定められている。
3.× 地域災害拠点病院(地域災害医療センター)は、原則として「各都道府県」ではなく二次医療圏ごとに1か所ずつ設置されている。ちなみに、基幹災害拠点病院(基幹災害医療センター)は、原則として都道府県ごとに1か所整備することとされている。
4.〇 正しい。被災地へ災害派遣医療チーム(DMAT)を派遣する体制を備える。災害派遣医療チーム(DMAT)の派遣機能は、災害拠点病院指定要件のひとつである。そのほか、24時間の緊急対応や、災害発生時に被災地からの傷病者の受入れ拠点となることなどの要件がある。

 

 

 

 

 

24 成人男性の部位別にみた悪性新生物の年齢調整死亡率の推移のグラフを示す。
 Aの一次予防として正しいのはどれか。

1.肥満予防
2.減塩の推奨
3.野菜の摂取
4.受動喫煙防止
5.節度ある飲酒

解答

解説

疾病予防の概念

疾病の進行段階に対応した予防方法を一次予防、二次予防、三次予防と呼ぶ。

・一次予防:「生活習慣を改善して健康を増進し、生活習慣病等を予防すること」
・二次予防:「健康診査等による早期発見・早期治療」
・三次予防:「疾病が発症した後、必要な治療を受け、機能の維持・回復を図ること」と定義している。
(※健康日本21において)

ポイント

Aは「肺癌」である。
一次予防とは、「生活習慣を改善して健康を増進し、生活習慣病等を予防すること」である。
→肺癌の予防について選択する。

1.× 肥満予防で効果的なものは、大腸癌膵癌食道癌などといわれている。
2~3.× 減塩の推奨/野菜の摂取で効果的なものは、胃癌といわれている。他にも、ヘリコバクター・ピロリ感染、アルコール、喫煙、遺伝などがある。 一方、リスクを下げるものとして野菜・果物、緑茶などがある。
4.〇 正しい。喫煙や受動喫煙防止は、肺癌に効果的である。肺癌は、男性の悪性新生物で年齢調整死亡率が最も高い「令和元(2019)年人口動態統計(厚生労働省)」。したがって、受動喫煙の防止は、肺癌の一次予防となる。喫煙者が肺がんになる危険性は、非喫煙者に比べ男性で4.8倍、女性で3.9倍と報告されている。 喫煙本数や喫煙年数が増えるほど肺がんになる危険性が高くなる。 他にも、石綿(アスベスト)や大気汚染(排気ガス)などもあげられる。
5.× 節度ある飲酒に効果的なものは、大腸癌喉頭癌食道癌乳癌などといわれている。ちなみに、乳がんのリスク要因は、①初経年齢が早い、②閉経年齢が遅い、③出産歴がない、④初産年齢が遅い、⑤授乳歴がないことなどである。閉経後の肥満は乳がん発症の高リスクであると考え、 また閉経後の女性では運動による乳がんリスク減少の可能性が示されている。

 

 




 

 

25 Aさん(48歳、男性)。妻と2人暮らし。精神科に通院中であり、保健所のアルコール依存症者の自助グループに定期的に参加している。ある日、Aさんが担当保健師を訪ねてきたが、呼気にアルコール臭がした。Aさんに確認すると、「自助グループに参加してから断酒できていたが、今朝ビールを3缶飲んでしまった」と話した。
 担当保健師の対応で適切なのはどれか。

1.意志が弱いと注意する。
2.アルコールの害を説明する。
3.1日の適正飲酒量を説明する。
4.自助グループの参加を中断するよう勧める。
5.飲酒をしていない日に面接したいことを伝える。

解答

解説

本症例のポイント

・Aさん(48歳、男性、妻と2人暮らし、アルコール依存症
・アルコール依存症者の自助グループに定期的に参加。
・呼気にアルコール臭がした。
・Aさん「自助グループに参加してから断酒できていたが、今朝ビールを3缶飲んでしまった」と話した。
→本症例はアルコール依存症の再発例である。アルコール依存症とは、少量の飲酒でも、自分の意志では止めることができず、連続飲酒状態のことである。常にアルコールに酔った状態でないとすまなくなり、飲み始めると自分の意志で止めることができない状態である。【合併しやすい病状】
①離脱症状、②アルコール幻覚症、③アルコール性妄想障害(アルコール性嫉妬妄想)、④健忘症候群(Korsakoff症候群)、⑤児遺性・遅発性精神病性障害 などがあげられる。アルコール依存症の集団精神療法では、自己の飲酒問題を認め、断酒の継続を行うことが治療上極めて有効である。自助グループ(セルフヘルプグループ、当事者グループ)に、同じ問題や悩みを抱える者同士が集まり、自分の苦しみを訴えたり、仲間の体験談を聞いたりすることで問題を乗り越える力を養っていく。断酒継続のための自助グループ(当事者グループ)としてよく知られているものに、断酒会とAA(Alcoholics Anonymous:アルコール依存症者匿名の会)がある。断酒会は日本独自のもので、参加者は実名を名乗り、家族の参加も可能である。AAはアメリカで始まり、世界各地にある。匿名で参加し、家族は原則として同席しない。

1.× 意志が弱いと注意する必要はない。なぜなら、アルコール依存症とは、少量の飲酒でも、自分の意志では止めることができず、連続飲酒状態のことであるため。つまり、アルコール依存症の飲酒欲求は意志の強弱に関係なく、症状のひとつである。また、注意は本人の自尊感情を低下させる。
2.× アルコールの害を説明する必要はない。なぜなら、現在アルコール臭がしていることから、正常な思考や判断ができないことが多いため。また、本症例は精神科に通院中であり、保健所のアルコール依存症者の自助グループに定期的に参加していることから、すでにアルコールの害は身を持って理解している可能性が高い。
3.× 1日の適正飲酒量を説明する必要はない。なぜなら、現在アルコール臭がしていることから、正常な思考や判断ができないことが多いため。また、本症例は、1日の適正飲酒量を説明し守れていれば、今朝ビールを3缶飲むことは少ない。
4.× 自助グループの参加を中断するよう勧める必要はない。なぜなら、自助グループは再飲酒しても続けることで、アルコール依存症の回復につがるため。
5.〇 正しい。飲酒をしていない日に面接したいことを伝える。飲酒をした状態で正常な判断ができないおそれがあるため、飲酒をしていない日に面接を再設定することは有効な手段である。

 

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