次の文を読み50、51の問いに答えよ。
Aさん(52歳、女性)。1人暮らし。5年前に仕事を解雇されて以降、自宅に引きこもっている。母親は2年前に他界し、その頃より「外出するとストーカーに追われる」「赤外線で狙われて怖い」と他県に住む姉に訴えるようになった。姉が受診を勧めたが「私は病気じゃない」と言う。
Aさんは、3日前に隣人宅に来た郵便配達員を見て「お前がストーカーだな」と隣人宅に怒鳴り込み、警察に通報された。
51 その後、Aさんは統合失調症と診断され入院した。徐々に症状も落ち着き、2か月後には退院が決まったが「外出するとストーカーに追われないか心配です」と話した。退院に向け、病院の相談員から保健師に相談があった。保健師は退院後の生活について、Aさんを含めたケア会議を開催することとした。
Aさんにケア会議の出席者として提案する者で適切なのはどれか。
1.隣人
2.警察官
3.公共職業安定所の相談員
4.訪問看護ステーションの看護師
5.地域生活定着支援センターの職員
解答4
解説
・統合失調症と診断され入院した。
・2か月後:退院が決まったが、妄想がみられる。
→本症例は、退院が決まっていることから統合失調症の回復期と考えられる。この時期は、生活リズムの確立を図り、活動量を少しずつ増やしていく支援が必要になる。また、まだ妄想が見られていることからも、現実世界へ関心を向けていく必要がある。
ケア会議とは、具体的な治療・援助対象ケースについて、その支援にかかわる多職種の専門職が一堂に会し、今後の在り方について専門的見地から意見交換をすることである。ケア会議を行うことで他職種との連携・協力が深まり、情報の共有と今後の方向性について明確な相互理解が得られ関係者間での情報および目標の共有、理解を深めることができる。
1.× 隣人の優先度は低い。なぜなら、Aさんの個人情報保護の観点を重視する必要があるため。
2.× 警察官の優先度は低い。なぜなら、警察官が参加しても統合失調症に関する専門的見地は得られにくいため。ケア会議とは、具体的な治療・援助対象ケースについて、その支援にかかわる多職種の専門職が一堂に会し、今後の在り方について専門的見地から意見交換をすることである。
3.× 公共職業安定所の相談員の優先度は低い。なぜなら、本症例の就労の意向や希望は現在聞かれていないため。ちなみに、公共職業安定所(ハローワーク)は、仕事関係に関する業務をしているところである。
4.〇 正しい。訪問看護ステーションの看護師は、Aさんにケア会議の出席者として提案する者で適切である。なぜなら、本症例は、妄想が残存している統合失調症の回復期と考えられ、退院してもAさんは専門的なかかわりが必要であるため。訪問看護ステーション(訪問看護)とは、在宅医療の一つで、看護師などが療養を必要とする者の自宅や老人ホームなどの施設を訪問すること。またはその訪問時に行われるサービスのこと。退院後のAさんの症状管理・服薬管理の支援や日常生活の支援など、定期的な看護を導入する必要がある。
5.× 地域生活定着支援センターの職員の優先度は低い。なぜなら、地域生活定着支援センターは、高齢または障害により支援を必要とする矯正施設(刑務所、少年院等)の退所者に対して支援を行う機関であるため。地域生活定着支援センターは、高齢又は障害を有するため、福祉的な支援を必要とする矯正施設退所者について、退所後直ちに福祉サービス等につなげるために設置されている支援機関である。
統合失調症とは、幻覚・妄想・まとまりのない発語および行動・感情の平板化・認知障害ならびに職業的および社会的機能障害を特徴とする。原因は不明であるが、遺伝的および環境的要因を示唆する強固なエビデンスがある。好発年齢は、青年期に始まる。治療は薬物療法・認知療法・心理社会的リハビリテーションを行う。早期発見および早期治療が長期的機能の改善につながる。統合失調症患者の約80%は、生涯のある時点で、1回以上うつ病のエピソードを経験する。統合失調症患者の約5~6%が自殺し,約20%で自殺企図がみられる。したがって、うつ症状にも配慮して、工程がはっきりしたものや安全で受け身的で非競争的なものであるリハビリを提供する必要がある。
(※参考:「統合失調症」MSDマニュアル様HPより)
次の文を読み52、53の問いに答えよ。
A市B地区。県庁所在地のベッドタウンであり市外に通勤・通学する者が多く居住している地区である。B地区の1990年から2018年までの人口と高齢者人口に関するグラフを示す。
52 B地区の高齢者について正しいのはどれか。
1.1990年の老年人口割合は2018年より高い。
2.2000年には前期高齢者人口が人口の30%を超えた。
3.2015年の高齢者人口における後期高齢者の占める割合はおよそ20 %である。
4.2018年の高齢化率は全国の高齢化率よりも高い。
解答3
解説
・県庁所在地のベッドタウン。
・市外に通勤・通学する者が多く居住している地区。
→ベッドタウンとは、都心へ通勤する人の住宅地を中心に発達した、大都市周辺の郊外化した衛星都市を指す言葉である。
1.× 1990年の老年人口割合は2018年より、「高い」のではなく低い。老年人口割合(%)は、『老年人口 ÷ 総人口 × 100』で求めることができる。1990年が「600 ÷ 6200 × 100 = 9.7%」、2018年が「1200 ÷ 6000 × 100 = 20%」である。ちなみに、老年人口割合(高齢化率)とは、総人口に占める65歳以上の人口割合をという。
2.× 2000年には前期高齢者人口が、人口の「30%以上」ではなく、9.6%である。2000年の人口6250人のうち、前期高齢者は約600人である。したがって、前期高齢者の占める割合は、「600 ÷ 6250 × 100 = 9.6%」である。ちなみに、前期高齢者の年齢は、前期高齢者医療制度に沿うと65歳~74歳である。 後期高齢者は、後期高齢者医療制度に沿うと満75歳以上を指している。
3.〇 正しい。2015年の高齢者人口における後期高齢者の占める割合は、およそ20%である。2015年の高齢者人口1000人のうち後期高齢者は約200人である。したがって、後期高齢者が占める割合は、「200 ÷ 1000 × 100 = 20%」である。
4.× 2018年の高齢化率は、全国の高齢化率よりも「高い」のではなく低い。高齢化率の求め方は、老年人口割合と同様である。B地区の高齢化率は、約20%である。2018年の全国における高齢化率は28.1%(※引用データ:「高齢化の状況」内閣府HPより)。
次の文を読み52、53の問いに答えよ。
A市B地区。県庁所在地のベッドタウンであり市外に通勤・通学する者が多く居住している地区である。B地区の1990年から2018年までの人口と高齢者人口に関するグラフを示す。
53 A市のB 地区を担当する保健師は、地区住民の自治会加入率が減少しており、自治会が主催している高齢者サロンの参加者が減っていることが気になっていた。そこで地域包括支援センターと協働し、サロンの活性化とともにB地区全体の地区組織活動の促進につなげていくことができないか検討していくことにした。
保健師が最初に取り組むこととして最も適切なのはどれか。
1.サロンのチラシを住民に配布する。
2.サロンと地域の子ども会との交流会を企画する。
3.サロン及び自治会の担当者と話し合う場を設定する。
4.自治会と一緒に住民向けの介護予防の講演会を開催する。
解答3
解説
・地区住民の自治会加入率が減少している。
・自治会主催の高齢者サロンの参加者減少。
・地域包括支援センターと協働し、①サロンの活性化、②B地区全体の地区組織活動の促進につなげていく。
→保健師が最初に取り組むこととして、地域包括支援センターと協働しているためお互いのバラバラに活動しないようにする必要がある。まず課題を明確にするとともに、情報共有や話し合いの場が必要である。自治会とは、同一地域の居住者たちによって共通利益の実現と生活の向上を目的としてつくられた組織であり、地域に住んでいる人々が快適に過ごせるよう地域の清掃活動や消防訓練、祭りなどの企画・運営を担っている。高齢者サロンとは、地域で自主的に運営されている高齢者が気軽に集まれる交流の場・仲間づくりの場である。引きこもりや閉じこもり、孤独といった状況を未然に防ぐ効果もあり、地域のニーズが高まっている。地域包括支援センターとは、介護保険法に基づき各市町村によって設置されており、地域の高齢者の医療・福祉・介護・虐待など様々な事柄に関する相談窓口となっている。地域包括支援センターの人員基準は、「第1号被保険者(65歳以上の高齢者)3000人~6000人ごとに、保健師、社会福祉士及び主任介護支援専門員(準ずる者を含む)を最低限それぞれ各1人」である。地区組織活動とは、住民自らが組織的に地域の健康課題を解決していけるように、住民のもつ力を引き出し、支援する活動である。
1~2.4.× サロンのチラシを住民に配布する。/サロンと地域の子ども会との交流会を企画する。/自治会と一緒に住民向けの介護予防の講演会を開催する。これらの選択肢は、対象が限定的である。また、目的に効果的に働かない。「地域包括支援センターと協働し、①サロンの活性化、②B地区全体の地区組織活動の促進につなげていく」という目的に向かって、まずは課題を明確にするとともに、情報共有や話し合いの場が必要である。ちなみに、講演会とは、あるテーマに従って大勢に向かって話をすることである。そのテーマについて詳しい話ができる著名人や先生を講演者として招き、そこに参加した聴衆に対してテーマに沿った演説を行う。
3.〇 正しい。サロン及び自治会の担当者と話し合う場を設定する。なぜなら、保健師が最初に取り組むこととしてサロンを運営する自治会が、課題を明確にして解決策討するため。
次の文を読み54、55の問いに答えよ。
人口2万人のA市。高齢化率が34.7%で、高齢者福祉計画では「高齢者が安心・安全に暮らせるまちづくり」を目標に掲げている。A市の高齢者対策を担当するのは高齢福祉課、市直営の地域包括支援センターと社会福祉協議会であり、実務担当者が参加する地域ケア会議は毎月開催している。A市では、認知症高齢者の増加と徘徊などの問題が増えている。
54 A市の課題に対する地域包括支援センターの取り組みで、優先するのはどれか。
1.地域ケア会議に参加する関係者を増やす。
2.認知症高齢者の見守り体制を強化する。
3.高齢者の健康増進対策を推進する。
4.介護予防事業を拡大する。
解答2
解説
・人口2万人のA市(高齢化率34.7%)
・高齢者福祉計画の目標「高齢者が安心・安全に暮らせるまちづくり」。
・高齢者対策の担当:高齢福祉課、市直営の地域包括支援センター、社会福祉協議会。
・実務担当者が参加する地域ケア会議は毎月開催。
・A市での問題:認知症高齢者の増加と徘徊など。
→A市の課題「認知症高齢者の増加と徘徊など」に対する地域包括支援センターの取り組みを優先する。地域包括支援センターとは、地域包括支援センターとは、介護保険法に基づき各市町村によって設置されており、地域の高齢者の医療・福祉・介護・虐待など様々な事柄に関する相談窓口となっている。地域包括支援センターの人員基準は、「第1号被保険者(65歳以上の高齢者)3000人~6000人ごとに、保健師、社会福祉士及び主任介護支援専門員(準ずる者を含む)を最低限それぞれ各1人」である。
1.× 地域ケア会議に参加する関係者を増やすのは優先度は低い。なぜなら、地域ケア会議は、個々の介護予防に関するマネジメントを行う会議であり、A市での問題である「認知症高齢者の増加と徘徊」の対応への直接的解決とはなりにくいため。ケア会議とは、具体的な治療・援助対象ケースについて、その支援にかかわる多職種の専門職が一堂に会し、今後の在り方について専門的見地から意見交換をすることである。ケア会議を行うことで他職種との連携・協力が深まり、情報の共有と今後の方向性について明確な相互理解が得られ関係者間での情報および目標の共有、理解を深めることができる。
2.〇 正しい。認知症高齢者の見守り体制を強化するのは優先度が最も高い。なぜなら、A市の課題は、認知症高齢者の増加と徘徊対策であるため。
3.× 高齢者の健康増進対策を推進するのは優先度は低い。なぜなら、高齢者の健康増進対策は、認知症予防の観点も含まれるが、徘徊対策にはつながりにくいため。
4.× 介護予防事業を拡大するのは優先度は低い。なぜなら、介護予防事業には認知症予防の事業も含まれるが、徘徊対策にはつながりにくいため。認知症の発症後の対策が必要である。
次の文を読み54、55の問いに答えよ。
人口2万人のA市。高齢化率が34.7% で、高齢者福祉計画では「高齢者が安心・安全に暮らせるまちづくり」を目標に掲げている。A市の高齢者対策を担当するのは高齢福祉課、市直営の地域包括支援センターと社会福祉協議会であり、実務担当者が参加する地域ケア会議は毎月開催している。A市では、認知症高齢者の増加と徘徊などの問題が増えている。
55 A市は、今年度から、住民が携帯電話から登録できる「安心・安全ネット」を導入した。このシステムでは災害情報、行方不明者の情報、不審者・空き巣の発生など多様な情報を発信できる。システム始動から半年、「安心・安全ネット」の登録者は住民の約2割で、毎日メールが配信され、認知症高齢者を探している内容が多かった。
行方不明になった認知症高齢者を保護するためにA市が取り組む事業で適切なのはどれか。2つ選べ。
1.認知症予防教室を開催する。
2.認知症の家族会を立ち上げる。
3.広報誌に「安心・安全ネット」の登録方法を掲載する。
4.認知症高齢者を発見したときの連絡先をポスターで掲示する。
5.高齢者にMini-Mental State Examinations(MMSE)の質問紙を郵送する。
解答3・4
解説
・住民が携帯電話から登録できる「安心・安全ネット」を導入。
・災害情報、行方不明者の情報、不審者・空き巣の発生など多様な情報を発信できる。
・半年:「安心・安全ネット」の登録者は住民の約2割。
・認知症高齢者を探している内容が多かった。
→「安心・安全ネット」は、様々な情報を登録でき便利なものであるが、登録者は住民の約2割にとどまっており、なおかつ認知症高齢者を探している内容が多かった。今後、さらに「行方不明になった認知症高齢者を保護する」ための手段を考える必要がある。具体的な今後の課題としては、①登録者を増やす。②認知症高齢者を探している情報に対応できるよう「認知症高齢者を見つけたときの対応」も考える。
1.× 認知症予防教室を開催する必要はない。なぜなら、認知症予防教室は、その名の通り認知症の予防を目的とした教室であるため。
2.× 認知症の家族会を立ち上げる必要はない。なぜなら、認知症の家族会の主な目的は、介護者間の交流や情報取得・交換であるため。家族会とは、精神障害者(例えば、アルコール依存症など)を家族にもつ人たちが、お互いに悩みを分かちあい、共有し、連携することでお互いに支えあう会である。 支えあいを通して、地域で安心して生活できるための活動を行っている。
3.〇 正しい。広報誌に「安心・安全ネット」の登録方法を掲載する。なぜなら、登録者は住民の2割にとどまっているため。そもそも「安心・安全ネット」を知らない層や、登録方法が分からない層にも伝えることで、登録者数を増やせることが見込める。また、行方不明の情報を住民に周知するためには、広報誌に登録方法を掲載することで、より多くの住民の目に留まり登録してもらえる。
4.〇 正しい。認知症高齢者を発見したときの連絡先をポスターで掲示する。なぜなら、「安心・安全ネット」は認知症高齢者を探している内容が多かったため。認知症高齢者を探している情報に対応できるよう「認知症高齢者を見つけたときの対応」も考える必要がある。未登録の住民が認知症高齢者を発見した際に、連絡先がわかるようにポスターで掲示する対応は必要である。
5.× 高齢者にMini-Mental State Examinations(MMSE)の質問紙を郵送する必要はない。なぜなら、行方不明になった認知症高齢者の保護にはつながらないため。MMSE(Mini-Mental State Examination)は、認知障害(認知症・せん妄・健忘性障害)のスクリーニングとして国際的によく用いられている検査である。内容は、見当識・記銘力・注意と計算・想起・言語・組み立ての各項目があり、30点満点で評価する。26点以下で軽度認知障害の疑いを示し、23点以下では認知障害の可能性が高いことを示す。