第107回(R3) 保健師国家試験 解説【午後51~55】

 

次の文を読み51〜53の問いに答えよ。
 肥満の既往の有無と大腸癌との関連を検証するための疫学研究を行うこととした。A病院において大腸癌と診断された患者100人を登録した。また、同院で人間ドックを受検し大腸癌が無いことを確認できた100人を選定し登録することとした。次に、これらの対象者の肥満の既往を確認することとした。

51 この研究デザインはどれか。

1.介入研究
2.横断研究
3.症例対照研究
4.生態学的研究
5.コホート研究

解答

解説

ポイント

・目的:肥満の既往の有無と大腸癌との関連を検証する。
・方法:疫学研究
・A病院において大腸癌と診断された患者100人を登録した。
・同院で人間ドックを受検し大腸癌が無いことを確認できた100人を選定し登録した。
・これらの対象者の肥満の既往を確認する。
→疫学研究とは、疾病の罹患を始め健康に関する事象の頻度や分布を調査し、その要因を明らかにする科学研究である。 疾病の成因を探り、疾病の予防法や治療法の有効性を検証し、又は環境や生活習慣と健康とのかかわりを明らかにするために、疫学研究は欠くことができず、医学の発展や国民の健康の保持増進に役割を果たしている。

1.× 介入研究とは、研究者が意図的に一部の対象者に何らかの働きかけ(介入)を実施して、介入を受けた人たち(介入群)と受けなかった人たち(非介入群)を比較し、その影響を検討する研究である。
2.× 横断研究とは、一時点における曝露と疾病発症との関連について調査する方法である。
3.〇 正しい。症例対照研究とは、時間軸:後ろ向き研究で、観察期間はない。信頼性は低いが費用・労力が小さい。症例群と対照群に分け、両群の過去の曝露状況を比較する方法である。曝露と疾患発症の関連を明らかにする。
4.× 生態学的研究とは、疾病と曝露の関連について、国や地域といった集団単位で検討する方法である。要因の有無と発生頻度を異なる地域で比較、あるいは特定の地域で時間的変化を比較し観察する調査である。
5.× コホート研究とは、コホート研究とは、時間軸:前向き研究で、観察期間は長期間行う。信頼性は高いが費用・労力が大きい。分析疫学における手法の1つであり、特定の要因に曝露した集団と曝露していない集団を一定期間追跡し、研究対象となる疾病の発生率を比較することで、要因と疾病発生の関連を調べる観察研究の一種である。将来に向かって追跡し比較する方法である。

コホート研究と症例対照研究の比較

研究の種類には、研究者が調査対象集団に対して何らかの働きかけ(介入)を行うか否かで、介入を行う「介入研究」と、介入を行わない「観察研究」とに大きく分類される。介入研究には、「臨床試験・地域研究」などがある。一方、観察研究には、大きく「①記述疫学・②分析疫学」に大別され、①記述疫学には、横断研究・時系列研究などがある。②分析疫学には、生態学的研究・横断研究・症例対照研究・コホート研究などがある。

コホート研究とは、時間軸:前向き研究で、観察期間は長期間行う。信頼性は高いが費用・労力が大きい。

症例対照研究とは、時間軸:後ろ向き研究で、観察期間はない。信頼性は低いが費用・労力が小さい。症例群と対照群に分け、両群の過去の曝露状況を比較する方法である。曝露と疾患発症の関連を明らかにする。

 

 

 

 

 

 

次の文を読み51〜53の問いに答えよ。
 肥満の既往の有無と大腸癌との関連を検証するための疫学研究を行うこととした。A病院において大腸癌と診断された患者100人を登録した。また、同院で人間ドックを受検し大腸癌が無いことを確認できた100人を選定し登録することとした。次に、これらの対象者の肥満の既往を確認することとした。

52 大腸癌の発症には性別や年齢の影響が知られている。そのためこれらの要因を調整する必要があると考えた。登録された大腸癌患者1人に対して性別および年齢を対応させた人間ドック受検者1人を選定することとした。
 この方法はどれか。

1.層化
2.標準化
3.無作為化
4.マッチング
5.多変量解析

解答

解説

ポイント

・大腸癌の発症:性別や年齢の影響が知られている。
これらの要因を調整する必要があると考えた。
・登録された大腸癌患者1人に対して「性別および年齢」を対応させた人間ドック受検者1人を選定することとした。
→疫学調査において、調査しようとする因子以外で、結果に影響を与える因子を交絡因子という。交絡因子を制御させる必要がある。

1.× 層化とは、対象者をひとまとめにして分析せずに、そのサブグループごとに分けて分析することである。性別や年齢などの交絡因子となり得る因子について、男女別・年齢階層別など母集団をいくつかの集団に分けて解析を行う方法である。
2.× 標準化とは、層化と同様、解析の段階で交絡因子の影響を制御する手法であるが、2つ以上の集団において性別などの主な交絡因子の影響を調整し、観察される事象の発生頻度を計算する。具体的には、2つ以上の集団において観察されるイベント(死亡や罹患)の発生頻度を比較する場合に、基準集団を定め、性別や年齢などの主な交絡因子の影響を排除した指標を計算する方法である。
3.× 無作為化とは、まったく交絡因子が不明の時に対象者を介入群、非介入群にランダムに割り付ける方法である。無作為化の目的は、比較する群の性別、年齢、重症度などの既知の交絡因子の分布を均等にするばかりでなく、未知の交絡因子の影響を低減させること。
4.〇 正しい。マッチングとは、症例と対照の間で交絡因子となりそうな要因を一致させることである。登録された大腸癌患者1人に対して「性別および年齢」を対応させた人間ドック受検者1人を選定することとしたことはマッチングに該当する。
5.× 多変量解析は、統計学的モデルを用いて交絡因子も変数として含めることで、それぞれの変数の影響を見ていく方法である。性別や年齢などの交絡因子となり得る因子について、データ収集後、分析の段階で調整する解析手法のひとつである。

交絡とは?

交絡とは、ある危険因子の曝露と転帰結果の関連を考える際に、その危険因子に付随し表には現れていないその他の危険因子が直接転帰に関連し、観察している因子は直接的には関連していない場合があることをいう(例:喫煙と癌の関係を調べる時、実際には付随する他の因子が直接に癌の発生と関係あるような場合)。曝露と転帰に係わる因子を交絡因子という。曝露と転帰の因果関係の過程で生じるものではないこと、対象の選択や判定上で問題となるバイアスとも異なることに注意が必要である。観察的研究ではこの交絡が起こる可能性が常に存在するため、①研究デザインにおける交絡のコントロール、②データ分析における交絡のコントロールが必要になる。

①研究デザインにおける交絡のコントロール
限定:対象集団を制限すること。
マッチング:症例と対照の間で交絡因子となりそうな要因を一致させること。
無作為化:まったく交絡因子が不明の時に対象者を介入群、非介入群にランダムに割り付ける方法である。無作為化の目的は、比較する群の性別、年齢、重症度などの既知の交絡因子の分布を均等にするばかりでなく、未知の交絡因子の影響を低減させること。

②データ分析における交絡のコントロール
層化:対象者をひとまとめにして分析せずに、そのサブグループごとに分けて分析すること。
多変量解析:統計学的モデルを用いて交絡因子も変数として含めることで、それぞれの変数の影響を見ていく方法である。

 

 

 

 

 

次の文を読み51〜53の問いに答えよ。
 肥満の既往の有無と大腸癌との関連を検証するための疫学研究を行うこととした。A病院において大腸癌と診断された患者100人を登録した。また、同院で人間ドックを受検し大腸癌が無いことを確認できた100人を選定し登録することとした。次に、これらの対象者の肥満の既往を確認することとした。

53 大腸癌患者100 人と大腸癌が無いことを確認できた人間ドック受検者100人の肥満の既往の調査結果を以下に示す。 肥満の既往ありの肥満の既往なしに対する大腸癌ありのオッズ比を求めよ。
 ただし、小数点以下第2位を四捨五入すること。
   解説: ① .②
①:0~9
②:0~9

解答13

解説

オッズ比とは?

オッズ:ある事象が起こる確率を起こらない確率で割ったもの。

オッズ比:集団Aのオッズと集団Bのオッズを比較したもの。オッズ比は、症例対照研究の結果から求められ、疾病発生の相対的危険度の数値となる。オッズ比が1のとき、両集団には差がないということになり、1から離れると何らかの差異が存在することになる。

肥満の「既往あり」の肥満の「既往なし」に対する「大腸癌あり」のオッズ比を求める。
オッズとは、ある事象が起こる確率を起こらない確率で割ったものである。

本設問は、大腸癌あり・なしのそれぞれの群で、「肥満の既往あり」の「肥満の既往なし」に対するオッズをとり、オッズ比を求める。オッズ比は、ある事象の起こりやすさを2つの群で比較して示す統計学的な尺度である。

オッズ比は、以下の計算式で求めることができる。

【大腸癌あり:「肥満の既往あり」の「既往なし」に対するオッズ】=25 ÷ 75

【大腸癌なし:「肥満の既往あり」の「既往なし」に対するオッズ】=20 ÷ 80

【大腸癌ありで「肥満の既往あり」の「既往なし」に対するオッズ(25 ÷ 75)】÷②【大腸癌なしで、「肥満の既任あり」の「既往なし」に対するオッズ(20 ÷ 80)】

≒ 13

 

 




 

 

次の文を読み54、55の問いに答えよ。
 A君(中学1年生)は、母親と養父、最近生まれた妹と4人家族である。学校には休まず通っており、クラスでは無口だが暴力的になることがあった。ある日の朝、A君の顔に片目全体を覆うようなあざがあることに気づいて学級担任や複数の教員が声をかけたところ、A君は「自転車に乗っていてぶつけた」と答えた。昼休みに、掃除当番で保健室にきたA君に、養護教諭がそれとなく「どんなふうにけがをしたの?」と尋ねた。すると、A君は養父からよく殴られることを打ち明けて「このことは誰にも言わないでほしい」と言った。養護教諭は虐待の可能性があると考えて、A 君が打ち明けてくれたことを肯定しながらA君の目の周りや心身の状態を観察しつつ、話を聴いた。

54 話を聴いた後のA君への養護教諭の対応で、適切なのはどれか。

1.殴られていることを母親に話すよう促す。
2.あざの写真を記録として撮らせてもらう。
3.虐待にあたることを告知する。
4.学級担任に話すよう勧める。

解答

解説

本症例のポイント

・A君(中学1年生)
・4人家族:母親、養父、最近生まれた妹。
・学校に休まず通うが、クラスでは無口、暴力的になることがあり。
・顔に片目全体を覆うようなあざがあり。
・養父からよく殴られ、「このことは誰にも言わないでほしい」と。
・養護教諭は「虐待の可能性がある」と。
→児童虐待には4つの種類がある。①身体的虐待、②性的虐待、③保護の怠慢・拒否(ネグレクト)、④心理的虐待である。どの種類に当てはまるかということよりも、子どもに対する養育者の不適切な対応は虐待ととらえ早期に対応することが必要である。まずは、子どもの状況を速やかに把握し、安全の確保が最優先となる。

1.× 殴られていることを母親に話すよう促す優先度は低い。なぜなら、片目全体を覆うほどのあざを作ってきたこと、また「よく殴られる」という発言から、養父からの暴力を母親が認識している可能性が高いため。
2.〇 正しい。あざの写真を記録として撮らせてもらう。なぜなら、A君の許可を得てあざの写真を記録として残しておくことは、虐待の証拠となるため。虐待から子供を守るためには、加害者から子供を遠ざけるしかないが、虐待が原因で家を離れようと考えても、虐待加害者は自らの行為を虐待だと思っていないケースも多く、虐待を認めさせるには明確な証拠が必要である。他にも虐待の証拠となるものは、病院での診断書、子供を罵倒する加害者の声を録音したもの、親が残した日記などがあげられる。
3.× 虐待にあたることを告知する優先度は低い。なぜなら、A君に虐待にあたることを告知しても根本的な解決にならないため。むしろ、A君が養父に「虐待だ」と反抗したところで、さらに養父との関係性の悪化につながる可能性がある。
4.× 学級担任に話すよう勧める優先度は低い。なぜなら、A君は「このことは誰にも言わないでほしい」と言っていることからもことを大きくしたくないことが読み取れる。A君の同意を得て、養護教諭から情報共有を行っていく。

養護教諭の主な職務

養護教諭とは主に、小・中・高校に配属されている「保健室の先生」のことである。 学校でケガをしたり体調を崩したりしたとき、保健室に行くと対応してくれるのが養護教諭である。養護教諭がいることで、生徒たちが安心して学校に通える環境が整えられている。

①保健管理:救急処置、健康診断(実施計画立案、準備、指導、評価)、感染症予防、経過観察・配慮を必要とする子どもの支援、環境管理。
②保健教育:授業への参画、保健指導(個別の児童・生徒と保護者への指導・助言、集団への指導)
③健康相談:心身の健康問題への対応・支援
④保健室経営:保健室経営計画の作成、備品の管理
⑤保健組織活動学校保健委員会 等
⑥学校保健計画・学校安全計画策定への参画

 

 

 

 

 

次の文を読み54、55の問いに答えよ。
 A君(中学1年生)は、母親と養父、最近生まれた妹と4人家族である。学校には休まず通っており、クラスでは無口だが暴力的になることがあった。ある日の朝、A君の顔に片目全体を覆うようなあざがあることに気づいて学級担任や複数の教員が声をかけたところ、A君は「自転車に乗っていてぶつけた」と答えた。昼休みに、掃除当番で保健室にきたA君に、養護教諭がそれとなく「どんなふうにけがをしたの?」と尋ねた。すると、A君は養父からよく殴られることを打ち明けて「このことは誰にも言わないでほしい」と言った。養護教諭は虐待の可能性があると考えて、A 君が打ち明けてくれたことを肯定しながらA君の目の周りや心身の状態を観察しつつ、話を聴いた。

55 養護教諭は、A君の状況を校長に伝え、その日の午後に開かれた校内委員会で共有した。これまでのA君の家庭に関する情報を集約した結果、虐待の疑いが強まり、児童相談所に通告することになった。また、養護教諭から母親に電話し、A君の目の周りのあざについて眼科医療機関の受診を勧めた。
翌日、A君は普段通りに登校し学級担任に受診報告があった。その後、養父から学校に電話があり、学級担任に「Aは家の中でケガをしただけだ。なにか家のことを話したのではないか。話した内容を教えるように」と威圧的な態度で要求してきた。
 この後、養護教諭や教職員が行う学校の対応で、最も優先されるのはどれか。

1.A君に眼科受診後の養父の様子を聞く。
2.養父の言動を児童相談所と情報共有する。
3.目の周りのあざの経過観察を両親に依頼する。
4.養父に学校に来てもらいA君の学校生活について話をする。

解答

解説

本症例のポイント

・養護教諭:校長、校内委員会で共有した。
・A君の家庭:虐待の疑いが強まり、児童相談所に通告することになった。
・養護教諭から:母親に電話し、A君を眼科医療機関の受診を勧めた。
・翌日:A君は普段通りに登校し学級担任に受診報告があった。
養父から学級担任に「Aは家の中でケガをしただけだ。なにか家のことを話したのではないか。話した内容を教えるように」と。
→たとえ養父から「話した内容を教えるように」と言われても、第一優先はA君の身の安全である。学級担任は、どうすればA君の保護につながるか考える。養父は、「Aは家の中でケガをしただけだ。」と言っていることと、前の設問文のA君は「自転車に乗っていてぶつけた」と答えたことと矛盾している。

1.× A君に眼科受診後の養父の様子を聞くことの優先度は低い。なぜなら、①学校に電話をしてきていること、②電話では威圧的な態度であることからも、養父の様子はある程度把握できるため。
2.〇 正しい。養父の言動を児童相談所と情報共有する。なぜなら、養父の話や威圧的な態度は、A君への今後の虐待リスクを判断する材料となるため。児童相談所とは、「児童福祉法」に基づいて設置される行政機関であり、都道府県、指定都市で必置となっている。原則18歳未満の子供に関する相談や通告について、子供本人・家族・学校の先生・地域の方々など、どなたからも受け付けている。児童相談所は、すべての子供が心身ともに健やかに育ち、その持てる力を最大限に発揮できるように家族等を援助し、ともに考え、問題を解決していく専門の相談機関である。
3.× 目の周りのあざの経過観察を両親に依頼することの優先度は低い。なぜなら、虐待が疑われている養父に依頼することは、さらに養父を刺激しかねないため。A君の虐待リスクを高めてしまう可能性がある。
4.× 養父に学校に来てもらいA君の学校生活について話をすることの優先度は低い。なぜなら、虐待・虐待発生の抑止にならないため。むしろ学校の説明によっては、養父を刺激し、A君への虐待リスクを高めてしまう可能性がある。

児童相談所とは?

児童相談所は、「児童福祉法」に基づいて設置される行政機関であり、都道府県、指定都市で必置となっている。原則18歳未満の子供に関する相談や通告について、子供本人・家族・学校の先生・地域の方々など、どなたからも受け付けている。児童相談所は、すべての子供が心身ともに健やかに育ち、その持てる力を最大限に発揮できるように家族等を援助し、ともに考え、問題を解決していく専門の相談機関である。

職員:児童福祉司、児童心理司、医師または保健師、弁護士 等。所長は、医師で一定の者、大学等で心理学を専修する学科を卒業した者、社会福祉士、児童福祉司で一定の者 等。

【業務内容】
①助言指導 
②児童の一時保護
③児童福祉施設等への入所措置
④児童の安全確保
⑤里親に関する業務
⑥養子縁組に関する相談・支援

(参考:「児童相談所とは」東京都児童相談センター・児童相談所様HPより)

 

 

 

 

問題の引用:第107回保健師国家試験、第104回助産師国家試験及び第110回看護師国家試験の合格発表

※注意:解説はすべてオリジナルのものとなっています。私的利用の個人研究のため作成いたしました。間違いや分からない点があることをご了承ください。コメント欄にて誤字・脱字等、ご指摘お待ちしています。よろしくお願いいたします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)