第107回(H30) 看護師国家試験 解説【午後96~100】

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次の文を読み94〜96の問いに答えよ。
 Aさん(52歳、女性)。自宅で突然激しい頭痛と悪心が出現し、自力で救急車を要請し、搬送された。ジャパン・コーマ・スケール(JCS)Ⅰ-2で頭痛を訴えており、発汗著明であった。瞳孔径は両側3.0 mm。上下肢の麻痺はない。Aさんは頭部CTでくも膜下出血と診断され、ICUに入室した。入室時のバイタルサインは、体温36.8 ℃、呼吸数24/分、脈拍92/分、血圧156/98 mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)95%であった。

96 手術後14日、頭部CTで右大脳半球に小範囲の脳梗塞が認められた。Aさんは、左上肢の挙上はできるが維持が困難であり、左膝の屈曲はできるが左下肢の挙上は困難である。意識は清明であるが、Aさんは左片麻痺があるため動こうとしない。
 Aさんへの看護で最も適切なのはどれか。

1.日常生活動作(ADL)の自立度をアセスメントする。
2.歩行訓練のときは杖の使用を勧める。
3.左上肢の筋力増強運動を指導する。
4.車椅子への移乗は全介助で行う。

解答1

解説

本症例のポイント

手術後14日:右大脳半球に小範囲の脳梗塞。
・左上肢の挙上はできるが維持が困難。
・左膝の屈曲はできるが左下肢の挙上は困難。
・意識:清明である
・左片麻痺があるため動こうとしない
→本症例は、意識清明であるが、離床が進んでいない。左片麻痺を呈したが、早期離床は将来の日常生活活動の予後に大きく関わる。現在、どこまでできるのか評価し、リハビリテーションを行うことで回復を図ることが可能である。

1.〇 正しい。日常生活動作(ADL)の自立度をアセスメントする。なぜなら、早期離床は将来の日常生活活動の予後に大きく関わるため。
2.× 歩行訓練のときは、「杖の使用」を勧めることは難しい。なぜなら、本症例は、左膝の屈曲はできるが左下肢の挙上は困難な状態である。まずは、平行棒や長下肢装具を使用した歩行練習が適応となる可能性が高い。歩行訓練の細かなアドバイスは、理学療法士が行うことが多い。
3.× 左上肢の筋力増強運動を指導する優先度は低い。なぜなら、何の目的で左上肢の筋力増強運動を行うのか明確ではないため。例えば、「上衣の裾に手を入れる動作の獲得のため」に左上肢の筋力増強運動を行うことがある。目的もなく、筋力トレーニングを指導することは、Aさんにとって無駄な努力となってしまう可能性がある。ただし、病棟でも運動を行ってほしいのであれば、理学療法士に相談するとよい。理学療法士とは、医師の指示のもとに治療体操や運動・マッサージ・電気刺激・温熱などの物理的手段を用いて、運動機能の回復を目的とした治療法・物理療法(理学療法)を行う専門職である。
4.× 車椅子への移乗は、「全介助」で行う必要はない。なぜなら、介助量が過介助となれば、自立能力をそいでしまう一因となるため。まずは、程度介助が必要か把握するためにも、まずはADLの自立度をアセスメントする必要がある。

障害受容の過程とは?

障害受容の過程は、「ショック期→否認期→混乱期→解決への努力期(再起)→受容期」の順に現れる。5段階のプロセスは順序通りに進むわけはなく、また障害受容に至らない障害者も存在する。

①ショック期:感情が鈍磨した状態
②否認期:現実に起こった障害を否認する
③混乱期:攻撃的あるいは自責的な時期
④解決への努力期(再起):自己の努力を始める時期
⑤受容期:新しい価値観や生きがいを感じる時期

 

 

 

 

次の文を読み97〜99の問いに答えよ。
 Aさん(87歳、男性)。3年前にAlzheimer(アルツハイマー)型認知症と診断された。1年前に妻が亡くなってから1人で暮らしている。日常生活は問題なく送れていたが、最近Aさんは薬を飲み忘れることが増えてきたり、電話の応対ができなかったりすることがあり、日常生活に支障が出るようになった。

97 Aさんの状態に該当する認知症高齢者の日常生活自立度判定基準のランクはどれか。

1.ランクⅡ a
2.ランクⅡ b
3.ランクⅢ a
4.ランクⅢ b
5.ランクM

解答2

解説

本症例のポイント

・Aさん(87歳、男性、3年前:アルツハイマー型認知症)
・1年前:妻が亡くなり、1人暮らし。
・日常生活:問題なく送れていた。
・最近、薬を飲み忘れ電話の応対ができない
日常生活に支障が出るようになった。

Aさんは、「薬を飲み忘れることが増えてきたり、電話の応対ができなかったりすることがあり、日常生活に支障が出るようになった」ことより、家庭内で日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが多少みられる状態(服薬管理ができない、電話の対応や訪問者との対応など一人で留守番ができないなど)と判断し、選択肢2.ランクⅡ bとなる。

1.× ランクⅡaは、家庭内で日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが多少みられても、誰かが注意していれば自立できる状態で、たびたび道に迷うとか、買い物や事務、金銭管理などそれまでできたことにミスが目立つなど。
3.× ランクⅢaは、「日中」を中心として、日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが見られ、介護を必要とする。
4.× ランクⅢbは、「夜間」を中心として、日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが見られ、介護を必要とする。
5.× ランクMは、著しい精神症状や問題行動あるいは危篤な身体疾患が見られ、専門医療を必要とする状態である。

 

 

 

 

次の文を読み97〜99の問いに答えよ。
 Aさん(87歳、男性)。3年前にAlzheimer(アルツハイマー)型認知症と診断された。1年前に妻が亡くなってから1人で暮らしている。日常生活は問題なく送れていたが、最近Aさんは薬を飲み忘れることが増えてきたり、電話の応対ができなかったりすることがあり、日常生活に支障が出るようになった。

98 その後、Aさんは、コンロの火を消し忘れることや、買い物に行って自宅に戻れないことが何度もあり、在宅での生活が困難になったため、介護老人福祉施設に入所した。Aさんは自分の思い通りにならないときに、大声を出して暴れることがあった。時折落ち着かない様子で施設内を徘徊することがあったが、看護師が話しかけると、立ち止まり「散歩しています」と笑顔で話していた。ある日、Aさんがエレベーター前に1人で立っていたため、看護師がどこへ行くのか尋ねると、Aさんは「家に帰ります」と言った。
 このときの看護師の対応として最も適切なのはどれか。

1.「一緒に出かけましょう」としばらく周囲を歩く。
2.「トイレに行きましょう」とトイレに誘導する。
3.「転んだら危ないですよ」と車椅子に誘導する。
4.「入所中なので家には帰れません」と説明する。

解答1

解説

本症例のポイント

・Aさん(87歳、男性、3年前:アルツハイマー型認知症)
・在宅での生活が困難になり、介護老人福祉施設に入所。
・自分の思い通りにならないとき、大声を出して暴れる。
・時折落ち着かない様子で施設内を徘徊する。
・看護師には、立ち止まり「散歩しています」と笑顔で話していた。
・ある日、Aさんは「家に帰ります」と。
→認知症の患者に対する対応では、バリデーション(本人の思いを肯定し、共感的・受容的態度で安心感を与えることを基本とし、信頼関係を構築すること)という考え方を用いると良いとされている。
【バリデーションを構成する要素】
・傾聴する(相手の言葉を聞いて、反複する。)
・共感する(表情や姿勢で感情を汲み取り、声のトーンを合わせる)
・誘導しない(患者にペースを合わせる。)
・受容する(強制しない、否定しない)
・嘘をつかない、ごまかさない

1.〇 正しい。「一緒に出かけましょう」としばらく周囲を歩く。なぜなら、Aさんの「家に帰ります」という発言に対し、最もバリデーションの対応ができているため。バリデーションとは、本人の思いを肯定し、共感的・受容的態度で安心感を与えることを基本とし、信頼関係を構築することを指す。Aさんの思いに共感的・受動的な態度で接し、安心感を与える対応である。

2.× 「トイレに行きましょう」とトイレに誘導する必要はない。なぜなら、Aさんからトイレへの希望は聞かれていないため。Aさんの「家に帰ります」という発言に対し返答になっていない
3.× 「転んだら危ないですよ」と車椅子に誘導する必要はない。なぜなら、設問文から、Aさんは歩行機能に障害をきたしているといった記載は見当たらないため。
4.× 「入所中なので家には帰れません」と説明する必要はない。なぜなら、Aさんの言動を否定する対応であるため。バリデーションを構成する要素として、受容することが一つの要素である。

Alzheimer型認知症とは?

アルツハイマー病とは、認知症の中で最も多く、病理学的に大脳の全般的な萎縮、組織学的に老人斑(アミロイドβの蓄積)・神経原線維変化の出現を特徴とする神経変性疾患である。特徴は、①初期から病識が欠如、②著明な人格崩壊、③性格変化、④記銘力低下、⑤記憶障害、⑥見当識障害、⑦語間代、⑧多幸、⑨抑うつ、⑩徘徊、⑩保続などもみられる。Alzheimer型認知症の患者では、現在でもできる動作を続けられるように支援する。ちなみに、休息をとることや記銘力を試すような質問は意味がない。

 

 

 

 

次の文を読み97〜99の問いに答えよ。
 Aさん(87歳、男性)。年前にAlzheimer(アルツハイマー)型認知症と診断された。1年前に妻が亡くなってから1人で暮らしている。日常生活は問題なく送れていたが、最近Aさんは薬を飲み忘れることが増えてきたり、電話の応対ができなかったりすることがあり、日常生活に支障が出るようになった。

99 普段は入浴を楽しみにしていたAさんが、1週前に浴室で誤って冷たい水をかぶってしまい、それ以来「お風呂に入ると寒いから嫌だ」と言って、入浴を拒否するようになった。この日も「お風呂は寒い」と言って入浴を拒否している。看護師が浴室と脱衣室の室温を確認すると26℃〜28℃にあたためられていた。また、施設内の温度は一定に設定されており、浴室から部屋まで移動する間も寒さを感じることはなかった。
 Aさんへの対応として適切なのはどれか。

1.入浴の必要性を説明する。
2.特殊浴槽での入浴を勧める。
3.一緒に湯の温度を確認する。
4.今日は入浴しなくてよいと伝える。

解答3

解説

本症例のポイント

・普段:入浴を楽しみにしていた
・1週前:浴室で誤って冷たい水をかぶってしまった
・それ以来「お風呂に入ると寒いから嫌だ」と入浴拒否。
・浴室と脱衣室の室温:26℃〜28℃にあたためられていた。
・施設内の温度:一定に設定されている。
・浴室から部屋まで移動する間も寒さを感じない。
→本症例が入浴を拒否している理由は、「以前に冷たい水をかぶってしまったこと」や「お風呂に入ると寒い」などの理由があげられる。その心配や経験を払拭できる解決策を選択することが大切である。

1.× 入浴の必要性を説明する必要はない。なぜなら、本症例が入浴を拒否している理由は、「以前に冷たい水をかぶってしまったこと」や「お風呂に入ると寒い」などの理由があげられるため。つまり、入浴の必要性を説明しても直接的な解決とは言えない。
2.× 特殊浴槽での入浴を勧める必要はない。なぜなら、本症例は普段は「入浴を楽しみにしており」、設問文からは入浴に介助を要すような記載はないため。ちなみに、特殊浴槽とは、専用のストレッチャーなどを用いて、寝たままや座ったまま入浴できる浴槽である。対象者は、麻痺などによって通常の浴槽が利用できない場合に用いられる。
3.〇 正しい。一緒に湯の温度を確認する。なぜなら、本症例が入浴を拒否している理由は、「以前に冷たい水をかぶってしまったこと」や「お風呂に入ると寒い」などの理由があげられるため。一緒に湯の温度を確認することで、その心配や経験を払拭できると考えられる。
4.× 今日は入浴しなくてよいと伝える必要はない。なぜなら、本症例は普段は「入浴を楽しみにしているため。また、入浴は、一日のリズムの獲得、精神的な安定のほかにも清潔を保つために必要である。

 

 

 

 

次の文を読み100〜102の問いに答えよ。
 A君(14歳、男子)は、夏休みのサッカー部の部活動で、朝10時から12時まで屋外で練習した。昼食時におにぎり2個とお茶を500mL摂取し、休憩後の13時から15時まで再び練習した。この日は晴天で、外気温は32℃であった。15分休憩し練習を再開したところ、A君は突然頭痛と悪心とを訴え、グラウンドの隅に座り込んだ。サッカー部担当のB 教諭が、A君を日陰で横にして休ませ様子をみていたが、症状が改善せず、顔面蒼白、冷汗が出現した。A君は「気持ち悪い」と言った後に嘔吐した。

100 B教諭が病院に電話連絡したところ、熱中症の疑いがあるため、A君をタクシーで病院に連れて行くこととなった。このときのA君の意識は清明で、体温は38.7℃であった。
 病院到着までに、看護師がB教諭に指示する処置として適切なのはどれか。

1.A君の体を冷やす。
2.A君に水を飲ませる。
3.A君の上体を高くする。
4.中枢から末梢に向けてA君の手足をマッサージする。

解答1

解説

本症例のポイント

・A君(14歳、男子、熱中症の疑い
・夏休みのサッカー部の部活動
・晴天、外気温32℃。
・突然頭痛、悪心あり。
・症状が改善せず、顔面蒼白冷汗が出現した。
・A君「気持ち悪い」と言った後に嘔吐した。
・タクシー内:意識清明、体温38.7℃
熱中症とは、高温多湿な環境に長時間いることで、体温調節 機能がうまく働かなくなり、体内に熱がこもった状態を指す。屋外だけでなく室内で何もしていないときでも発症し、 救急搬送されたり、場合によっては死亡することもある。主な初期症状として、めまい(目眩、眩暈)や立ちくらみ、一時的な失神などがあげられる。

1.〇 正しい。A君の体を冷やす。なぜなら、本症例は熱中症の疑いで、現在のタクシー内でも体温が38.7であるため。熱中症は、体内に熱がこもった状態であるため、「脱衣と冷却」が応急処置としてあげられる。また、タクシー内のクーラーをなるべく使うのも効果的である。
2.× A君に水を飲ませるより優先度が高いものが他にある。なぜなら、本症例は、嘔吐しているため。熱中症の応急処置として、「水分と塩分を補給する」こともあげられるが、吐き気や嘔吐の症状がある場合には、すでに胃腸の動きが鈍っていると考えられるので、口から水分を入れることは避ける必要がある。また、嘔吐だけではなく、誤嚥予防の観点からも吐き気や嘔吐の症状がある場合には、すでに胃腸の動きが鈍っていると考えられるので、口から水分を入れることは避ける。
3.× A君の「上体」ではなく下肢を高くする。応急的な治療は、日陰で頭を低く足を20~30cmほど挙上させたショック体位をとり、締め付けている衣類があればゆるめた上で、水に濡らしたタオルなどを用いて全身を冷やすことが望ましい。また、熱中症は、放熱しようと皮膚の血管拡張により血圧が低下し熱失神を起こしやすい。したがって、静脈還流量を増やすため足を高くするとよい。
4.× 逆である。「中枢から末梢」に向けてではなく、末梢から中枢にむけて手足をマッサージする。なぜなら、熱中症では静脈還流量が低下するため。ただし、熱中症において効果が高いとはいえず、主にリンパ浮腫に対する処置である。あくまでも熱中症に対する応急処置において、マッサージが第一選択肢とはなりにくい。

ショック体位とは?

ショック体位とは、ショック症状がある場合に仰向けの状態で下肢を15~30cm挙上する体位のことである。 心不全や頭部外傷の患者には、下肢を挙上することで悪影響を与えるため、通常は行わない。

 

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