第108回(R4)保健師国家試験 解説【午後1~5】

 

1 保健師が行うアウトリーチはどれか。

1.吃音がある幼児の言葉の相談
2.ダウン症児の家族会の設立支援
3.前期高齢者への認知症予防教室の開催
4.4か月児健康診査未受診者の家庭訪問

解答

解説

アウトリーチとは?

アウトリーチとは、「困難を抱えながらも支援の必要性を自覚していない、あるいは支援を求められない人々に、こちらから手を差し伸べて支援を届けること」である。例えば、治療を中断している精神障害者への家庭訪問や4か月児健康診査未受診者の家庭訪問が保健師の行うアウトリーチに該当する。保健師には、自ら担当する地域に出向き、潜在化しているニーズを積極的に発見して必要な支援につなげる役割がある。

1.× 吃音がある幼児の言葉の相談は、保健師が行うアウトリーチに該当しない。なぜなら、「吃音」に対する相談を希望している支援であるため。吃音とは、普通に話したいのに途中で語句が途切れたり、繰り返したりして流暢さを欠くものをいう。小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害である。
2.× ダウン症児の家族会の設立支援は、保健師が行うアウトリーチに該当しない。なぜなら、「ダウン症」に対する家族会の設立の支援であるため。ちなみに、家族会とは、アルコール依存症者の家族のための自助グループである。
3.× 前期高齢者への認知症予防教室の開催は、保健師が行うアウトリーチに該当しない。なぜなら、教室に来ることのできる高齢者を対象とした支援であるため。認知症予防教室とは、潜在的・顕在的な健康課題を抱える個人から、共通の課題をもつ集団・地域を対象とする健康教育である。
4.〇 正しい。4か月児健康診査未受診者の家庭訪問は保健師が行うアウトリーチである。アウトリーチとは、「困難を抱えながらも支援の必要性を自覚していない、あるいは支援を求められない人々に、こちらから手を差し伸べて支援を届けること」である。例えば、治療を中断している精神障害者への家庭訪問や4か月児健康診査未受診者の家庭訪問が保健師の行うアウトリーチに該当する。保健師には、自ら担当する地域に出向き、潜在化しているニーズを積極的に発見して必要な支援につなげる役割がある。

 

 

 

 

 

 

2 A市の地区担当保健師は、最近、家にひきこもっている40〜50代の子をもつ高齢者からの相談が増えていると感じている。
この現状を地域の課題として明らかにするために優先して収集する情報はどれか。

1.A市の人口の推移
2.相談記録からの情報
3.地区視診からの情報
4.市民へのアンケートからの情報

解答

解説

本問題のポイント

・「家にひきこもっている40〜50代の子をもつ高齢者からの相談が増えている」
→地域の課題として明らかにするために優先して収集する情報は?同様の事例や個別事例のニーズの把握が必要になる。

1.× A市の人口の推移は優先度が低い。なぜなら、「A市の人口の推移」と「引きこもりの増加」は関連性が低いと考えられるため。まずは、同様の事例や個別事例のニーズの把握が必要になる。
2.〇 正しい。相談記録からの情報は優先して収集する情報である。本問題の「家にひきこもっている40〜50代の子をもつ高齢者からの相談が増えている」といった地域の課題を明らかにする必要がある。そのために、同様の事例や個別事例のニーズの把握が必要であるため、相談記録からの情報は優先して収集する。
3.× 地区視診からの情報優先度が低い。なぜなら、地区視診は、地域の環境や人々の生活の様子を観察するものであるため。①住宅の状況(マンション・一軒家が多いなど)、②公共交通機関の状況(電車バスの本数など)、③人々の様子(若い世代・高齢者が多いなど)が把握できる。外に出ている人々の様子は把握できるが、本問題のように「ひきこもりに対する地域の課題」の情報収集は難しい。
4.× 市民へのアンケートからの情報優先度が低い。なぜなら、「ひきこもり」の情報は個人情報と関連し、世間にはなかなか公表できない情報になるので、正確な情報は聞き出せない可能性が高いため。また、市民へのアンケートは、市民の意向などを把握する目的で行うことが多い。

地域における保健師の保健活動に関する指針

地域における保健師の保健活動に関する指針
①地域診断に基づくPDCAサイクルの実施
②個別課題から地域課題への視点及び活動の展開
③予防的介入の重視
④地区活動に立脚した活動の強化
⑤地区担当制の推進
⑥地域特性に応じた健康なまちづくりの推進
⑦部署横断的な保健活動の連携及び協働
⑧地域のケアシステムの構築
⑨各種保健医療福祉計画の策定及び実施
⑩人材育成

【活動領域に応じた保健活動の推進】
~都道府県保健所等~
都道府県保健所等に所属する保健師は、所属内の他職種と協働し、管内市町村及び医療機関等の協力を得て広域的に健康課題を把握し、その解決に取り組むこと。また、生活習慣病対策、精神保健福祉対策、自殺予防対策、難病対策、結核・感染症対策、エイズ対策、肝炎対策、母子保健対策、虐待防止対策等において広域的、専門的な保健サービス等を提供するほか、災害を含めた健康危機への迅速かつ的確な対応が可能になるような体制づくりを行い、新たな健康課題に対して、先駆的な保健活動を実施し、その事業化及び普及を図ること。加えて、生活衛生及び食品衛生対策についても、関連する健康課題の解決を図り、医療施設等に対する指導等を行うこと。さらに、地域の健康情報の収集、分析及び提供を行うとともに調査研究を実施して、各種保健医療福祉計画の策定に参画し、広域的に関係機関との調整を図りながら、管内市町村と重層的な連携体制を構築しつつ、保健、医療、福祉、介護等の包括的なシステムの構築に努め、ソーシャルキャピタルを活用した健康づくりの推進を図ること。市町村に対しては、広域的及び専門的な立場から、技術的な助言、支援及び連絡調整を積極的に行うよう努めること。

~市町村~
市町村に所属する保健師は、市町村が住民の健康の保持増進を目的とする基礎的な役割を果たす地方公共団体と位置づけられ、住民の身近な健康問題に取り組むこととされていることから、健康増進、高齢者医療福祉、母子保健、児童福祉、精神保健福祉、障害福祉、女性保護等の各分野に係る保健サービス等を関係者と協働して企画及び立案し、提供するとともに、その評価を行うこと。その際、管内をいくつかの地区に分けて担当し、担当地区に責任を持って活動する地区担当制の推進に努めること。また、市町村が保険者として行う特定健康診査、特定保健指導、介護保険事業等に取り組むこと。併せて、住民の参画及び関係機関等との連携の下に、地域特性を反映した各種保健医療福祉計画を策定し、当該計画に基づいた保健事業等を実施すること。さらに、各種保健医療福祉計画の策定にとどまらず、防災計画、障害者プラン及びまちづくり計画等の策定に参画し、施策に結びつく活動を行うとともに、保健、医療、福祉、介護等と連携及び調整し、地域のケアシステムの構築を図ること。

(一部抜粋:「地域における保健師の保健活動に関する指針」厚生労働省HPより)」

 

 




 

 

 

3 アルコール依存症について正しいのはどれか。

1.肝障害になることはない。
2.離脱症状は飲酒を止めて1週後に現れる。
3.一度断酒が成功すれば繰り返すことはない。
4.イネイブラーの存在によって本人の飲酒の状況が維持される。

解答

解説

アルコール依存症とは?

アルコール依存症とは、少量の飲酒でも、自分の意志では止めることができず、連続飲酒状態のことである。常にアルコールに酔った状態でないとすまなくなり、飲み始めると自分の意志で止めることができない状態である。

【合併しやすい病状】
①離脱症状
②アルコール幻覚症
③アルコール性妄想障害(アルコール性嫉妬妄想)
④健忘症候群(Korsakoff症候群)
⑤児遺性・遅発性精神病性障害 など

1.× 肝障害になることが多い。大量の中性脂肪やコレステロールを肝臓に蓄積した「アルコール性脂肪肝」、炎症を起こしている状態の「アルコール性肝炎」、脂肪肝や肝炎が進行して肝臓内に繊維が蓄積される「アルコール性肝線維症」などがある。
2.× 離脱症状は飲酒を止めて、「1週後」ではなく「20時間後がピーク」に現れる。離脱症状とは、飲酒中止後に生じ、精神的、肉体的な症状を呈する。最終飲酒から数時間後から出現し、20時間後にピークを迎える早期離脱症候群(振戦、自律神経症状、発汗、悪心・嘔吐、けいれん、一過性の幻覚)と最終飲酒後72時間頃から生じ数日間持続する後期離脱症候群(早期離脱症状に加え意識変容を呈したもの、振戦せん妄といわれる。小動物幻視や日頃槍慣れた動作、例えば運転動作を繰り返す、夜間に目立つ)に分けられる
3.× 一度断酒が成功しても繰り返すこともある。断酒とは、自らの意思で、ずっと一切の酒を断つことである。 アルコール依存症から回復する方法は、断酒だけであるが、断酒後も続く強い飲酒欲求から、再飲酒をしてしまうことが多い。
4.〇 正しい。イネイブラー(enabler)の存在によって本人の飲酒の状況が維持される。イネイブラー(enabler)とは、嗜癖その他の問題行動を陰で助長している身近な人のことを指す。「世話焼き人」などと訳されることが多い。アルコール依存症は、イネイブラー(enabler)である家族と患者との共依存が問題となる疾患である。アルコール依存症者が飲み続けることを可能にする(周囲の人の)行為を「イネイブリング(enabling)」、それをしてしまう人(後援者)のことを「イネイブラー(enabler)」という。責任の肩代わりをすると本人が感じるべき後悔や痛みを軽減してしまうため、本人は嫌な思いをせずに済む。その結果、「喉元過ぎれば」で、飲み続けることを可能にしてしまう悪循環になる。家族、友人、同僚、上司など、本人のことを大切に思っている人ほど「イネイブラー(enabler)」になりやすい。そのため、アルコール依存症の家族がイネイブラーにならないように、セルフヘルプグループや家族会に参加し、アルコール依存症を正しく理解できるよう支援することが重要となる。

 

 

 

 

 

 

4 保健所に民生委員から電話があり、「近所のアパートで1人暮らしをしているAさんが、大声で独り言を言って歩いているのを見かけます。心配なので保健所で対応してほしい」と相談があった。Aさん(男性、32歳)は5年前に保健所のデイケアを一時的に利用し、現在は利用を中断している記録があった。保健師はAさん宅を訪問し、精神科に定期受診し内服していること、母親が食事を届けていることを確認した。
保健師が民生委員に、Aさん宅に訪問したことを伝えた上で行う説明として適切なのはどれか。

1.「Aさんはお母さんの支援があるので心配ありません」
2.「Aさんは病院から薬をもらって飲んでいるようです」
3.「これからもAさんを訪問して様子を見ます」
4.「Aさんにデイケアに通うよう伝えました」

解答

解説

本問題のポイント

保健所に民生委員から電話があり、「近所のアパートで1人暮らしをしているAさんが、大声で独り言を言って歩いているのを見かけます。心配なので保健所で対応してほしい」と相談があった。
→民生委員といえども、Aさんの個人情報に考慮しなければならない。民生委員は、日本独自の制度化されたボランティアである。地域社会の福祉の増進図っている。任期は3年で都道府県知事の推薦を受けて厚生労働大臣に委嘱されたものである。市町村の各地区に配置され、①住民の生活状況の把握、②関係機関との連携、③援助を要するものヘの相談援助を主な役割とする。根拠法令は「民生委員法」で給与の支給はない。

1.× 「Aさんはお母さんの支援があるので心配ありません」と説明するのは不適切である。なぜなら、Aさんの個人情報を漏えいしている恐れがあるため。また、お母さんの支援がないとAさんは生活できないのか?とさらなる不安を招く恐れもある。「お母さんの支援があるので心配ありません」と言い切ってしまうと、その後何か問題があるとも言い切れないため不適切である。
2.× 「Aさんは病院から薬をもらって飲んでいるようです」と説明するのは優先度が低い。なぜなら、Aさんの個人情報を漏えいしている恐れがあるため。また、薬を服用するということとAさんには何か重大な病気があるのではないか?とさらなる不安を招く恐れもある。
3.〇 正しい。「これからもAさんを訪問して様子を見ます」と保健師が民生委員に、Aさん宅に訪問したことを伝えた上で行う説明として適切である。なぜなら、Aさんだけでなく、Aさんの家族の個人情報もしっかり保護できているため。また、今後の保健所の対応も話すことができているため、民生委員も安心できる可能性が高い。
4.× 「Aさんにデイケアに通うよう伝えました」と説明するのは優先度が低い。なぜなら、設問には「デイケアに通うよう伝えた」という記載はなく、虚偽の報告になりかねないため。また、Aさんの治療状況やサービス利用に関する情報は、Aさんの個人情報を漏えいしている恐れがある。

 

 

 




 

 

 

5 保健師は担当地区の実態把握のため、地区視診を実施することにした。
地区視診の説明として正しいのはどれか。

1.二次資料を用いて行う。
2.地区の量的データを集計する。
3.地区に出向いて自分で観察する。
4.計画的なインタビュー調査を行う。

解答

解説

地区視診とは?

地区視診(地区踏査)とは、実際に地域に出向き、①地域の環境や②人々の様子を観察することである。①住宅の状況(マンション・一軒家が多いなど)、②公共交通機関の状況(電車バスの本数など)、③人々の様子(若い世代・高齢者が多いなど)が把握できる。外に出ている人々の様子は把握できる。

1~2.× 二次資料を用いて行う/地区の量的データを集計することは、「①既存資料」による地域診断の情報収集である。二次資料とは、オリジナルの情報源ではなく、内容を要約した抄録誌、論文題目や著者名などが掲載された素引誌が該当する。したがって、地区視診では、地区の「量的データ」ではなく「質的データ」を集計する。
3.〇 正しい。地区に出向いて自分で観察するのは、地区視診の説明である。地区視診(地区踏査)とは、実際に地域に出向き、①地域の環境や②人々の様子を観察することである。①住宅の状況(マンション・一軒家が多いなど)、②公共交通機関の状況(電車バスの本数など)、③人々の様子(若い世代・高齢者が多いなど)が把握できる。外に出ている人々の様子は把握できる。
4.× 計画的なインタビュー調査を行うことは、「④質問紙調査・インタビュー」による地域診断の情報収集である。フォーカス・グループ・インタビューや面接調査で、住民に直接聞き取り調査を行うことである。計画的なインタビュー調査は、目的に沿って事前に計画されるものであり、地区のありのままの実態を把握するために行う。ちなみに、フォーカス・グループ・インタビューとは少人数(5~6名程度)のグループを対象として座談会形式でインタビューを行い、幅広い情報を引き出そうとするグループ・ダイナミクスを利用した質的な情報把握の方法である。

データの区分(尺度の種類)

①量的データ

比例尺度:原点(0)からの等間隔盛付けができるもの。間隔尺度と違い、数値間の比にも意味がある。(例:年齢、身長、血圧)
間隔尺度:等間隔の目盛り付けができるもの。減点を持たず、0が絶対的な無を示さない。(例:気温、年号、知能指数)

②質的データ

順序尺度:順序付けができるもの。(例:成績、順位、MMT)
名義尺度:数値や名前を割り振ったものである。数値の順序、大きさに意味はない。(例:性別、血液型、学籍番号)

地域診断の情報収集

①既存資料:人口動態統計、国勢調査など。保健医療福祉計画、妊娠届、乳幼児健康診査の問診票など。

②地域保健活動からの情報:保険事業に参加し、住民の声を直接取り入れること。

③地区視診(地区踏査):実際に地域に出向き、地域の環境や人々の様子を観察することである。住宅の状況(マンション・一軒家が多いなど)、公共交通機関の状況(電車バスの本数など)、人々の様子(若い世代・高齢者が多いなど)が把握できる。外に出ている人々の様子は把握できる。

④質問紙調査・インタビュー:フォーカス・グループ・インタビューや面接調査で、住民に直接聞き取り調査を行うことである。ちなみに、フォーカス・グループ・インタビューとは少人数(5~6名程度)のグループを対象として座談会形式でインタビューを行い、幅広い情報を引き出そうとするグループ・ダイナミクスを利用した質的な情報把握の方法である。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)