第108回(R4)保健師国家試験 解説【午後31~35】

 

31 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律<精神保健福祉法>に規定されている内容で正しいのはどれか。2つ選べ。

1.市町村の役割に普及啓発がある。
2.精神通院医療費は公費で負担される。
3.医療保護入院は患者本人の同意が必要である。
4.緊急措置入院は精神保健指定医1人の診察が必要である。
5.発達障害者支援センターの設置について規定されている。

解答1・4

解説

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)とは?

①精神障害者の医療及び保護を行うこと、②障害者総合支援法とともに、精神障害者の社会復帰の促進、自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な援助を行うこと、③精神疾患の発生の予防や、国民の精神的健康の保持及び増進に努めることによって、精神障害者の福祉の増進及び国民の精神保健の向上を図ることを目的とした法律である。(参考:「精神保健福祉法について」厚生労働省HPより)

1.〇 正しい。市町村の役割に普及啓発がある。正しい知識の普及として、第46条「都道府県及び市町村は、精神障害についての正しい知識の普及のための広報活動等を通じて、精神障害者の社会復帰及びその自立と社会経済活動への参加に対する地域住民の関心と理解を深めるように努めなければならない」と定められている。
2.× 精神通院医療費は、「公費」ではなく「応能」負担される。精神通院医療は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第5条に規定する統合失調症、精神作用物質による急性中毒、その他の精神疾患(てんかんを含む。) を有する者で、通院による精神医療を継続的に要する病状にある者に対し、その通院医療に係る自立支援医療費の支給を行うものである。
3.× 医療保護入院は患者本人の同意が、「必要」ではなく「不要」である。医療保護入院は、患者本人の同意を必ずしも必要としない。精神保健指定医の診察:1人の診察。そのほか:家族等のうち、いずれかの者の同意。備考:入院後、退院後ともに10日以内に知事に届け出る。入院権限:精神科病院管理者である。
4.〇 正しい。緊急措置入院は精神保健指定医1人の診察が必要である。緊急措置入院は、患者本人の同意を必ずしも必要としない。精神保健指定医の診察:1人の診察。そのほか:自傷・他害のおそれが著しく、急を要する。備考:入院期間は72時間以内。指定医が1人しか確保できず時間的余裕がない場合、暫定的に適用される。入院権限:都道府県知事
5.× 発達障害者支援センターの設置について規定されているのは、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律<精神保健福祉法>」ではなく「発達障害者支援法」である。『発達障害者支援法』は、自閉症、アスペルガー症候群などの発達障害者に対する支援を規定したもので、①発達障害の早期発見、②発達支援を行うことについて、国・地方公共団体の責務等を定めている。

入院の形態

①任意入院:患者本人の同意:必要。精神保健指定医の診察:必要なし。そのほか:書面による本人意思の確認。備考:本人の申し出があれば退院可能。精神保健指定医が必要と認めれば、72時間以内の退院制限が可能。入院権限:精神科病院管理者。

②医療保護入院:患者本人の同意:必ずしも必要としない。精神保健指定医の診察:1人の診察。そのほか:家族等のうち、いずれかの者の同意。備考:入院後、退院後ともに10日以内に知事に届け出る。入院権限:精神科病院管理者

③応急入院:患者本人の同意:必ずしも必要としない。精神保健指定医の診察:1人の診察。そのほか:医療および保護の依頼があるが、家族等の同意が得られない。備考:入院期間は72時間以内。入院後直ちに知事に届け出る。知事指定の病院に限る。入院権限:精神科病院管理者

④措置入院:患者本人の同意:必ずしも必要としない。精神保健指定医の診察:2人以上の診察。そのほか:自傷・他害のおそれがある。備考:国立・都道府県立精神科病院または指定病院に限る。入院権限:都道府県知事

⑤緊急措置入院:患者本人の同意:必ずしも必要としない。精神保健指定医の診察:1人の診察そのほか:自傷・他害のおそれが著しく、急を要する。備考:入院期間は72時間以内。指定医が1人しか確保できず時間的余裕がない場合、暫定的に適用される。入院権限:都道府県知事

 

 

 




 

 

 

32 学校教育法で定められているのはどれか。2つ選べ。

1.食育の推進
2.学校保健の定義
3.健康診断の実施
4.学級閉鎖の実施基準
5.養護教諭の配置義務

解答3・5

解説

学校教育法とは?

学校教育法は、学校教育制度の基本について定めた法律である。学校における保健学習や安全学習について、学校教育法の教育基準に基づき行われている。

1.× 食育の推進は、『食育基本法』で定められている。『食育基本法』は、食育についての基本理念や食育の施策の基本、食育の実施が定められている。
2.× 学校保健の定義は、学校安全の定義とともに『文部科学省設置法』で定められている。学校保健とは、学校における保健教育及び健康管理をいう。文部科学省設置法は、文部科学省の設置と任務及びそれらに関する必要な事務などを定めた法律である。
3.〇 正しい。健康診断の実施は、『学校教育法』で定められている。就学時健康診断の実施は、『学校保健安全法』に定められている。ちなみに、実施義務があるのは、市町村の教育委員会である。
4.× 学級閉鎖の実施基準は、『学校保健安全法』に定められている。ただし、具体的な基準については、法令では定められていない。ちなみに、出席停止の基準は、学校保健安全法施行規則に定められている。
5.〇 正しい。養護教諭の配置義務は、『学校教育法』で定められている。小学校、中学被、義務教育学校、中等教育学校、特別支援学校では必置である。ちなみに、養護教諭は、主に保健室を職務の拠点としており、保健管理や保健教育、健康相談のほか、保健室経営計画の作成、備品の管理を行う。

養護教諭の主な職務

①保健管理:救急処置、健康診断(実施計画立案、準備、指導、評価)、感染症予防、経過観察・配慮を必要とする子どもの支援、環境管理。
②保健教育:授業への参画、保健指導(個別の児童・生徒と保護者への指導・助言、集団への指導)
③健康相談:心身の健康問題への対応・支援
④保健室経営:保健室経営計画の作成、備品の管理
⑤保健組織活動学校保健委員会 等
⑥学校保健計画・学校安全計画策定への参画

 

 

 

 

 

 

 

33 平成30年(2018年)の労働災害と業務上疾病の発生状況について正しいのはどれか。2つ選べ。

1.労働災害による死亡者数は2,000人以上である。
2.労働災害による死亡者数は平成29年(2017年)に比べ減少している。
3.労働災害の認定数は脳・心臓疾患よりも精神障害によるものが多い。
4.業務上疾病(休業4日以上)発生数は平成29年(2017年)に比べ減少している。
5.業務上疾病(休業4日以上)発生数の内訳では「作業様態に起因する疾病」が最も多い。

解答2・3

解説
1.× 労働災害による死亡者数は、「2,000人以上」ではなく「845人」である。(※下図参照)
2.〇 正しい。労働災害による死亡者数は平成29年(2017年)に比べ減少している。平成29年(2017年)は「978人」であり、一方で平成30年(令和元年:2018年)は「845人」であり減少している。(※下図参照)
3.〇 正しい。労働災害の認定数は、脳・心臓疾患よりも精神障害によるものが多い。令和2年度の脳・心臓疾患の労災認定数は「194件」であり、一方で精神障害の労災認定数は608件となっている。ちなみに、精神障害の労災認定数において、前年度比99件の増となり、うち未遂を含む自殺の件数は前年度比7件減の81件であった。(※「過労死等の労災補償状況」厚生労働省HPより)
4.× 業務上疾病(休業4日以上)発生数は、平成29年(2017年)に比べ「減少」ではなく「増加」している。平成29年(2017年)は8,310件であり、一方で令和3年(2020年)は15,038件であった。その要因の一つに新型コロナウイルス感染症があげられ、新型コロナウイルス感染症が原因であるものは6,041件と報告がある。ちなみに、令和3年の休業4日以上の死傷者数は、149,918人(前年比18,762人・14.3%増、29年比29,458人・24.5%増)と平成10年以降で最多となっている。(※参考:「日本の労働安全衛生をめぐる状況」全国労働安全衛生センター連絡会議HPより)
5.× 業務上疾病(休業4日以上)発生数の内訳では、「作業様態に起因する疾病」ではなく「負傷に起因する疾病(災害性腰痛を含む)」が最も多い。1位:負傷に起因する疾病(災害性腰痛を含む)が6533人と最も多く、2位:病原体による疾病(新型コロナウイルス感染症催患を含む)が6291人、3位:異常温度条件による疾病が1159人となっている。ちなみに、作業態様に起因する疾病は462人である。(※参考:「業務上疾病発生状況等調査結果」厚生労働省HPより)

(※参考:「令和2年労働災害発生状況の分析等」厚生労働省HPより)

 

 

 

 

 

 

 

34 地域健康危機管理ガイドラインにおける保健所の健康危機管理業務の4つの側面のうち、「健康危機による被害の回復」で行われる活動はどれか。2つ選べ。

1.防疫活動
2.手引書の作成
3.監視体制の改善
4.飲料水の安全確認
5.人材の資質の向上

解答3・4

解説

地域における健康危機管理について~地域健康危機管理ガイドライン~

厚生労働省は、平成6年に告示し平成12年に改正した「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」において、地方自治体が健康危機管理を適切に実施するための具体的な手引書を整備することを定めた。「地域健康危機管理ガイドライン」は、地方自治体がこの手引書を作成する際の参考となるように、地域における健康危機管理のあり方検討会がまとめたものである。

【健康危機管理の4つの側面】
保健所における健康危機管理の実際の業務は、対策の内容により、以下の4つの範疇に分けて整理することができる。すなわち、「健康危機の発生の未然防止」、「健康危機発生時に備えた準備」、「健康危機への対応」、「健康危機による被害の回復」であり、これらは健康危機管理業務の一連の流れとなる。

①健康危機発生の未然防止:管理基準の設定、監視業務等、健康危機の発生を未然に防止するための対策である。地域の状況を十分に把握し、保健所管轄区域において発生が予想される健康被害に応じた対策を講じることが重要である。

②健康危機発生時に備えた準備:健康危機がその時々の状況によって急速な進展をみることがあることから、保健所が迅速かつ効果的な対応を行うために、健康危機の発生に備えて事前に講じられる種々の対策である。これには、手引書の整備、健康危機発生時を想定した組織及び体制の確保、関係機関との連携の確保、人材の確保、訓練等による人材の資質の向上、施設、設備及び物資の確保、知見の集積等が含まれる。

③健康危機への対応:健康危機の発生時において、人的及び物的な被害の拡大を防止するために行う業務のことである。具体的には、対応体制の確定、情報の収集及び管理、被害者への保健医療サービスの提供の調整、防疫活動、住民に対する情報の提供等の被害の拡大防止のための普及啓発活動等のことである。また、被害発生地域以外からの救援を要請することも含まれる。

④健康危機による被害の回復:健康危機による被害の発生後に、住民の混乱している社会生活を健康危機発生前の状況に復旧させるための業務である。具体的には、飲料水、食品等の安全確認、被害者の心のケア等が含まれる。また、健康危機が沈静化した時点で、健康危機管理に関する事後評価を行うことも必要である。このとき、保健所による評価と、保健所の外部の専門家等による評価の双方を行うことが考えられる。実際に行われた管理又はその結果を分析及び評価することにより、管理基準の見直し、監視体制の改善等を実施し、被害が発生するリスクを減少させるための業務を行うことが可能となる。これらの評価を行うことにより、健康危機管理を行った組織等の健康危機管理の在り方についての見直しを行うことができる。さらに、健康危機管理の経過及びその評価結果を公表することにより、他の地域における健康危機管理のための重要な教訓ともなる。評価を行う際には、本ガイドラインにおける指摘事項を踏まえて評価することも考えられる。

(参考:「地域における健康危機管理について~地域健康危機管理ガイドライン~」厚生労働省HPより)

1.× 防疫活動は、「健康危機への対応」で行われる活動である。健康危機の発生時において、人的及び物的な被害の拡大を防止するために行う業務のことである。具体的には、対応体制の確定、情報の収集及び管理、被害者への保健医療サービスの提供の調整、防疫活動、住民に対する情報の提供等の被害の拡大防止のための普及啓発活動等のことである。また、被害発生地域以外からの救援を要請することも含まれる。
2.5.× 手引書の作成/人材の資質の向上は、「健康危機発生時に備えた準備」で行われる活動である。健康危機がその時々の状況によって急速な進展をみることがあることから、保健所が迅速かつ効果的な対応を行うために、健康危機の発生に備えて事前に講じられる種々の対策である。これには、手引書の整備、健康危機発生時を想定した組織及び体制の確保、関係機関との連携の確保、人材の確保、訓練等による人材の資質の向上、施設、設備及び物資の確保、知見の集積等が含まれる。
3~4.〇 正しい。監視体制の改善/飲料水の安全確認、「健康危機による被害の回復」で行われる活動である。健康危機による被害の発生後に、住民の混乱している社会生活を健康危機発生前の状況に復旧させるための業務である。具体的には、飲料水、食品等の安全確認、被害者の心のケア等が含まれる。また、健康危機が沈静化した時点で、健康危機管理に関する事後評価を行うことも必要である。このとき、保健所による評価と、保健所の外部の専門家等による評価の双方を行うことが考えられる。実際に行われた管理又はその結果を分析及び評価することにより、管理基準の見直し、監視体制の改善等を実施し、被害が発生するリスクを減少させるための業務を行うことが可能となる。これらの評価を行うことにより、健康危機管理を行った組織等の健康危機管理の在り方についての見直しを行うことができる。さらに、健康危機管理の経過及びその評価結果を公表することにより、他の地域における健康危機管理のための重要な教訓ともなる。評価を行う際には、本ガイドラインにおける指摘事項を踏まえて評価することも考えられる。

 

 

 




 

 

35 社員500名のA社の保健師による従業員への働きかけで、ヘルスプロモーションにおける「健康を支援する環境づくり」に該当するのはどれか。2つ選べ。

1.事業所の敷地内を禁煙にする。
2.社員食堂で減塩メニューを提供する。
3.歯科衛生士によるブラッシング指導を行う。
4.禁煙を促すリーフレットを喫煙者に配布する。
5.定期健康診査の有所見者に面接指導を実施する。

解答1・2

解説

ヘルスプロモーションとは?

ヘルスプロモーション(健康教育)は、「人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」と定義される。①健康な公共政策づくり、②健康を支援する環境づくり、③地域活動の強化、④個人技術の開発、⑤ヘルスサービスの方向転換などが挙げられる。保健部門だけの責任にとどまらず、人々のライフスタイルや生活の質(QOL)にかかわるものであり、個人の能力だけでなく環境の整備も含まれる。オタワ憲章(1986年)で提唱され、日本では、健康日本21(2000年)で基本理念に取り入れられている。

①健康的な公共政策づくり:健康は、人々の暮らしを支えている公共政策(道や諸施設、衛生上欠かせない上下水道の整備など)によって保証されるため、公共政策そのものを健康的なものにする必要がある。
②健康を支援する環境づくり:環境(ハード・ソフト面)を整備することで、住民一人ひとり健康づくりを支援する。
③地域活動の強化:住民組織を活性化することで健康づくりを地域での住民活動を強化するような働きかけを行う。
④個人技術の開発:住民一人ひとり、そして専門家が、健康づくりに取り組むために必要な技術を身につけられるような働きかけや取り組みを行う。
⑤ヘルスサービスの方向転換:これまで疾病対策として実施されてきた事業(ヘルスサービス)を、より積極的に健康づくりの場としてとらえ見直しを行う。

1~2.〇 正しい。事業所の敷地内を禁煙にする/社員食堂で減塩メニューを提供することは、ヘルスプロモーションにおける「健康を支援する環境づくり」に該当する。ICF(国際生活機能分類)では「環境因子」は「人々が生活し、人生を送っている物的な環境社会的環境人々の社会的な態度による環境を構成する因子のことである」と定義される。保健師に限らず、禁煙にしたり、減塩メニューを提供したりすることは職場環境づくりであるといえる。
3~5.× 歯科衛生士によるブラッシング指導を行う/禁煙を促すリーフレットを喫煙者に配布する/定期健康診査の有所見者に面接指導を実施することは、ヘルスプロモーションにおける「個人技術の開発」に該当する。個人技術の開発とは、住民一人ひとり、そして専門家が、健康づくりに取り組むために必要な技術を身につけられるような働きかけや取り組みを行うことをいう。

 

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