6 Aさん(50歳、男性)は市の集団健康診査で空腹時血糖が140mg/dL、ヘモグロビンA1c<HbA1c>が6.8%であったことから、健康診査の結果相談会に来所した。保健師が話を聞くと、健康診査のときに医師から受診を勧められたものの、Aさんは「自覚症状がないから大丈夫」といい、まだ受診していなかった。保健師はAさんに、このまま放置した場合の身体への影響を科学的な根拠に基づいて説明した。
保健師の働きかけは、ヘルスビリーフモデルの主要な概念のどれか。
1.予防的行動に対する障害の認識
2.予防的行動の有益性の認識
3.疾病の重大性の認識
4.疾病の罹患性の認識
解答3
解説
(図引用:SGS(商工技能振興会)株式会社様HPより)
ヘルス・ビリーフ・モデルは、行動変容に至る過程に影響する構成要素を説明するモデル理論である。対象者がモデルのどの段階にいるのかを、発言や態度からアセスメントし、適切な支援につなげることができる。予防行動を行う負担と利益をはかりにかけ、合理的に判断を下す健康行動モデルである。
1.× 予防的行動に対する障害の認識(負担の認識)とは、「行動を起こすためには、こんな苦労がある」という感情を抱くことをいう。例えば、食生活を改善するために、早起きや自炊をするのは面倒くさいということである。
2.× 予防的行動の有益性の認識とは、「行動を起こしたら、良いことがある」という感情を抱くことをいう。例えば、食生活を改善すれば、いつまでも健康でいられるということである。
3.〇 正しい。設問の「保健師はAさんに、このまま放置した場合の身体への影響を科学的な根拠に基づいて説明した」ことは、疾病の重大性の認識であり、保健師の働きかけである。疾病の重大性の認識とは、その疾病に権患した場合に深刻な事態が生じる認識することである。保健師は、Aさんに高血糖を放置した場合の身体へ影響を説明している。
4.× 疾病の罹患性の認識とは、「病気に罹ってしまうかもしれない」という感情を抱くことをいう。例えば、このままの食生活を続けていると、糖尿病に罹るかもしれないということである。
7 プリシード・プロシードモデルの説明で正しいのはどれか。
1.地区活動の評価に活用できる。
2.最終目標は「健康の向上」である。
3.第1〜4段階が評価を行う段階である。
4.行動変容の段階に応じた働きかけを示したモデルである。
解答1
解説
プリシード・プロシードモデルとは、グリーン(Green LW)とクルーター(Kreuter MW)によって開発されたヘルスプロモーション活動を展開するためのモデルの1つである。プリシード・プロシードモデルの目的は、人々の生活の質の向上であり、目的を達成するためには行動と環境をより良く変化させる必要がある。さまざまな健康行動理論を戦略的に配置し、保健活動を計画・実施・評価していく統合モデルである。住民のニーズを把握し、設定したテーマに関して地域全体を包括的に診断するプリシード(第1~4段階)部分と、診断に従って実施と評価を行うプロシード(第5~8段階)部分からなる。
(参考:「PRECEDE-PROCEEDモデル」広島山口ヘルスプロモーション様HPより)
1.〇 正しい。地区活動の評価に活用できる。プリシード・プロシードモデルは、さまざまな健康行動理論を戦略的に配置し、保健活動を計画・実施・評価していく統合モデルである。住民のニーズを把握し、設定したテーマに関して地域全体を包括的に診断するプリシード(第1~4段階)部分と、診断に従って実施と評価を行うプロシード(第5~8段階)部分からなる。したがって、保健活動を効果的に計画・実施・評価していく統合モデルであり地区活動の評価に活用できる。
2.× 最終目標は、「健康の向上」ではなく「人々の生活の質の向上」である。
3.× 評価を行う段階であるのは、「第1〜4段階」ではなく「第6~8段階」である。住民のニーズを把握し、設定したテーマに関して地域全体を包括的に診断するプリシード(第1~4段階)部分と、診断に従って実施と評価を行うプロシード(第5~8段階)部分からなる。
4.× 行動変容の段階に応じた働きかけを示したモデルであるのは、行動変容ステージモデル(変化ステージ理論)である。変化ステージ理論(行動変容ステージモデル)とは、人の健康行動の変容や維持について示された理論である。プロチャスカ(Prochaska,J.O.)とディクレメンテ(Diclemente,C.C.)は、人の行動が変わりそれを維持するには5つのステージ、すなわち無関心期、関心期、準備期、実行期、維持期の各ステージを移動して行動変容を起こしていくと提唱した。
ヘルスプロモーション(健康教育)は、「人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」と定義される。①健康な公共政策づくり、②健康を支援する環境づくり、③地域活動の強化、④個人技術の開発、⑤ヘルスサービスの方向転換などが挙げられる。保健部門だけの責任にとどまらず、人々のライフスタイルや生活の質(QOL)にかかわるものであり、個人の能力だけでなく環境の整備も含まれる。オタワ憲章(1986年)で提唱され、日本では、健康日本21(2000年)で基本理念に取り入れられている。
①健康的な公共政策づくり:健康は、人々の暮らしを支えている公共政策(道や諸施設、衛生上欠かせない上下水道の整備など)によって保証されるため、公共政策そのものを健康的なものにする必要がある。
②健康を支援する環境づくり:環境(ハード・ソフト面)を整備することで、住民一人ひとり健康づくりを支援する。
③地域活動の強化:住民組織を活性化することで健康づくりを地域での住民活動を強化するような働きかけを行う。
④個人技術の開発:住民一人ひとり、そして専門家が、健康づくりに取り組むために必要な技術を身につけられるような働きかけや取り組みを行う。
⑤ヘルスサービスの方向転換:これまで疾病対策として実施されてきた事業(ヘルスサービス)を、より積極的に健康づくりの場としてとらえ見直しを行う。
変化ステージ理論(行動変容ステージモデル)とは、人の健康行動の変容や維持について示された理論である。1980年代前半に禁煙の研究から導かれたモデルであり、いろいろな健康(食事や運動、禁煙)に関する行動について幅広く研究と実践が進められた。行動変容ステージモデルでは、人が行動(生活習慣)を変える場合は、「無関心期」→「関心期」→「準備期」→「実行期」→「維持期」の5つのステージを通ると考えられている。
無関心期:行動変容を考えていない時期である。
関心期:行動変容を考えているが実行していない時期である。
準備期:すぐ始める意思がある時期もしくは独自の方法でも何かしら行っている時期である。
実行期:望ましい行動を起こした時期である。
維持期:6か月以上行動を継続している時期である。
8 地域包括ケアシステム構築のために行われる活動について正しいのはどれか。
1.地域の特性に応じて国が作り上げる。
2.既存のケアシステムの実態把握を行う。
3.入院を主体とするサービス体制を中心に整備する。
4.保健医療福祉部門ごとの体制に合わせて構築する。
解答2
解説
地域包括ケアシステムとは、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で生活を継続することができるよう、包括的な支援・サービス提供体制の構築を目指すものである。この地域包括ケアシステムが効果的に機能するために、「4つの助(自助・互助・共助・公助)」の考え方が連携し、課題解決に向け取り組んでいく必要がある。この中で「互助」とは、家族・友人・活動仲間など、個人的な関係性を持つ人間同士が助けあい、それぞれが抱える生活課題をお互いが解決し合う力のことである。
公助:生活保障制度や社会福祉制度による支援である。
自助:自分自身で自分を助けるということである。
共助:被保険者が保険料を支払い、相互の負担で成立する制度である。
互助:個人的な関係性をもっている人間同士が助け合うことである。費用負担が制度的に裏付けられていない。あくまで自発的な支えのこと。
1.× 地域の特性に応じて、国ではなく「市町村・都道府県」が作り上げる。地域包括ケアシステムとは、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で生活を継続することができるよう、包括的な支援・サービス提供体制の構築を目指すものである。
2.〇 正しい。既存のケアシステムの実態把握を行う。少子高齢化社会に向け、地域の身近な生活の場で、住まい、医療、予防、介護や生活支援が包括的に提供されるケア体制を構築する。地域ケアシステムの発展過程では、初期に住民の健康課題やニーズを把握することが必要である。
3.× 入院を主体とするサービス体制を中心に整備するものではない。地域包括ケアシステムとは、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で生活を継続することができるよう、包括的な支援・サービス提供体制の構築を目指すものである。
4.× 保健医療福祉部門ごとの体制に合わせて構築するものではない。その地域の実情や特性に合わせて、住民や専門職、関連組織、行政が協働で行うものである。この地域包括ケアシステムが効果的に機能するために、「4つの助(自助・互助・共助・公助)」の考え方が連携し、課題解決に向け取り組んでいく必要がある。この中で「互助」とは、家族・友人・活動仲間など、個人的な関係性を持つ人間同士が助けあい、それぞれが抱える生活課題をお互いが解決し合う力のことである。
9 地域にある組織とその特性の組合せで正しいのはどれか。
1.地縁組織:社会的使命の実現を目的として活動する。
2.特定非営利活動法人:収益を分配することを目的としない活動を行う。
3.セルフヘルプグループ:市町村から委嘱を受けて活動する。
4.健康課題別健康教室の修了者の会:地域の課題解決に向けた取り組みを行う。
解答2
解説
1.× 社会的使命の実現を目的として活動するのは、地縁組織ではなく「特定非営利活動法人(NPO法人)」である。地縁組織とは、自治会、町内会等広く地域社会全般の維持や形成を目的とした団体・組織のなかでも、地方自治法などに定められた要件を満たし、行政的手続きを経て法人格を得たものを指す。
2.〇 正しい。特定非営利活動法人(NPO法人)は、収益を分配することを目的としない活動を行う。収益を分配することを目的とせず、保健福祉などの社会貢献活動、社会的使命の実現を目的として活動する。ボランティアなどの非営利の社会貢献活動を行う組織である。
3.× 市町村から委嘱を受けて活動するのは、セルフヘルプグループではなく「母子保健推進員などの組織」である。母子保健推進員とは、地域の妊産婦さんやお子さんの健康を見守るサポーター役として、市長より委嘱をうけて活動している。①母子保健に関する知識の普及、②母性および乳幼児の保険に関する問題の把握および情報提供、③健康診査、保健指導等の勧奨などの役割を持つ。つまり、住民と行政をつなぐパイプの役割が大きい。ちなみに、セルフヘルプグループとは、同じ悩みや問題をもつ者同士が集まり語り合い、問題解決を目指す団体である。依存症や障害などの同じ課題をもつ当事者が課題を解決していく組織である。
4.× 健康課題別健康教室の修了者の会は、「地域の課題解決」ではなく「自身と同じ健康課題」に向けた取り組みを行う組織である。つまり、地域の課題解決とは必ずしも一致しない。
10 A市の保健医療福祉関係者で構成される会議において、医療機関と介護サービス事業者との連携ができていないという課題が出された。
課題への対応において優先度が高いのはどれか。
1.医療従事者を対象に在宅ケアの勉強会を企画する。
2.地域ケア会議で互いの意見が共有できるようにする。
3.介護サービス事業者を対象に医療の知識に関する研修会を開催する。
4.A市の医療機関に新しい医療連携のネットワークシステムを導入する。
解答2
解説
課題:「医療機関と介護サービス事業者との連携ができていない」
→なぜなのか?
1.× 医療従事者を対象に在宅ケアの勉強会を企画するより優先度が高いものが他にある。なぜなら、在宅ケアの勉強会を企画しても、連携が取れない原因が他の要因(介護サービス事業者)にあった場合は根本的な解決へとつながりにくいため。
2.〇 正しい。地域ケア会議で互いの意見が共有できるようにする。なぜなら、まずは課題の要因を明らかにするため。地域ケア会議で関係機関の取り組みや活動状況などの情報や意見を共有し、どのような点で連携できていないかを話し合う。
3.× 介護サービス事業者を対象に医療の知識に関する研修会を開催するより優先度が高いものが他にある。なぜなら、介護サービス事業者を対象に医療の知識に関する研修会を開催しても、連携が取れない原因が他の要因(医療機関)にあった場合は根本的な解決へとつながりにくいため。
4.× A市の医療機関に新しい医療連携のネットワークシステムを導入する優先度は低い。なぜなら、課題は「医療機関と介護サービス事業者との連携ができていない」ことであるため。新しい医療連携のネットワークシステムを導入できても、現時点で連携が取れていないうえ、さらに混乱を招く可能性が高い。