第105回(H28) 看護師国家試験 解説【午後86~90】

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86 Aさん(63歳、男性)は、胃癌にて胃亜全摘出術後3か月目に誤嚥性肺炎で緊急入院した。食物の通過や排便は問題なかったが、食事摂取量が少なく、術前より体重が10kg減少した。総義歯が外れやすく歯科を受診予定であった。
 Aさんの肺炎の原因として考えられるのはどれか。2つ選べ。

1.消化管内容物の逆流
2.義歯の不適合
3.消化吸収障害
4.吻合部狭窄
5.腸閉塞

解答1/2

解説

本症例のポイント

・Aさん(63歳、男性、胃癌にて胃亜全摘出術後)
・3か月目:誤嚥性肺炎で緊急入院。
・食物の通過、排便:問題なし。
・食事摂取量:少なく、術前より体重が10kg減少。
・総義歯が外れやすく歯科を受診予定。
→誤嚥性肺炎とは、口腔内常在菌が食物の誤嚥とともに肺の中へ流れ込んで生じる肺炎のことである。原因は、①嚥下機能自体の低下、②寝たきり状態などによるADL(日常生活活動)の低下、③食物がスムーズに食道へ進めない状態などで、口腔内に長時間食物が存在してしまう状況などが挙げられる。

1.〇 正しい。消化管内容物の逆流が、Aさんの肺炎の原因として考えられる。なぜなら、Aさんは、胃亜全摘出術を行っており、消化管内容物は逆流しやすい状態となっていることが考えられるため。胃亜全摘術とは、胃上部に存在する早期胃がんを対象としている手術であり、胃の入り口である噴門の機能が喪失するため、食べた物や消化液などが逆流して逆流性食道炎が起こりやすい。
2.〇 正しい。義歯の不適合が、Aさんの肺炎の原因として考えられる。なぜなら、義歯の不適合により、口腔内の細菌が定着しやすいため。また、咀嚼にも問題を生じ、そもそも食塊形成に時間がかかったり、噛み合わせの悪い部分に残渣がたまるなどしやすい。
3.× 消化吸収障害は考えにくい。なぜなら、本症例は、胃亜全摘出術後であるため。消化吸収障害とは、小腸からの栄養の消化吸収が障害された状態のことである。 全身の栄養状態が悪くなり、栄養失調を起こすことがあり、 下痢、体重減少、全身倦怠感、腹部膨満感、浮腫、貧血などの症状を引き起こす場合がある。
4.× 吻合部狭窄は考えにくい。なぜなら、食物の通過に問題がないため。吻合部狭窄とは、消化管のつなぎ目、消化管のむくみや癒着、ねじれなどが原因となって、つなぎ目 やその周囲の消化管が狭くなることをいう。
5.× 腸閉塞は考えにくい。なぜなら、排便に問題がないため。腸閉塞とは、小腸や大腸が何らかの原因で詰まってしまうことである。

腸閉塞とは?

 イレウス(腸閉塞)とは、何らかの原因により、腸管の通過が障害された状態である。主に、①機械的イレウス(腸閉塞とも呼び、腸内腔が機械的に閉塞されて起こる)、②機能的イレウス(腸管に分布する神経の障害により腸内容が停滞する)に大別される。

①機械的イレウスには、器質的異常を伴うものをいい、単純性イレウスと絞扼性(複雑性)イレウスに分類される。機械的イレウスは血流障害の有無によって、さらに単純性イレウスと複雑性イレウスに分類される。絞扼性(複雑性)イレウスは、腸間膜血行の停止により腸管壊死を伴うイレウスであり、急激に病状が悪化するため緊急に手術を要する。

②機能的イレウスとは、器質的な異常がなく、腸管の運動麻痺や痙攣により腸管の内容物が停滞することである。長期臥床、中枢神経疾患、腹膜炎、偽性腸閉塞が原因となることが多い。麻痺性イレウスと痙攣性イレウスに分けられる。

 

 

 

 

 

87 眼底検査が必要なのはどれか。2つ選べ。

1.中耳炎
2.糖尿病
3.麦粒腫
4.高血圧症
5.筋萎縮性側索硬化症<ALS>

解答2/4

解説

眼底検査とは?

眼底検査とは、瞳孔を特殊な目薬(散瞳薬)で開くことにより構造を詳しく観察することができる基本的な眼科検査のひとつである。眼底出血、網膜剥離、視神経炎、黄斑変性などの病気を見つけ治療につなげていく。

散瞳薬とは、瞳孔を散大させる働きを持つ薬のことである。眼底検査の前処置等で使用する。副作用として、視界が眩しくなる羞明や目のかすみが出現する。したがって、散瞳薬使用後は、自動車等の乗り物の運転は数時間できない。禁忌は、緑内障である(さらに眼圧が上昇するため)。散瞳薬の効果は、点眼後15~30分ほどで最も大きく、薬効は6時間ほど継続する。

1.× 中耳炎は、純音聴力検査が実施される。純音聴力検査とは、どのぐらい小さな音まで聞こえるかということを測定するものである。急性中耳炎とは、細菌やウイルスなどの病原体が鼻やのどから中耳へと耳管を通って侵入し、そこでも感染することで生じる病気である。症状は、中耳に膿が溜って腫れることで、ズキズキとした激しい耳の痛み、発熱、耳だれ(耳漏)、耳がつまった感じなどである。
2.〇 正しい。糖尿病は、眼底検査が必要である。なぜなら、糖尿病の合併症である糖尿病性網膜症を検査できるため。糖尿病網膜症とは、網膜の血管障害により生じ、進行すると視力低下をきたす。また、症状は不可逆性であり、進行した糖尿病網膜症は改善されない。わが国における失明原因の上位を占めている。
3.× 麦粒腫(※いわゆる「ものもらい」)において、眼底検査は不要である。なぜなら、眼瞼疾患であるため。つまり、皮膚にできるものである。
4.〇 正しい。高血圧症は、眼底検査が必要である。なぜなら、高血圧網膜症の早期発見に有用であるため。高血圧網膜症とは、高血圧が原因で網膜(眼の奥にあって光を感じ取る透明な構造物)に損傷が生じる病気である。全くといってよいほど自覚症状を伴わずに進行し、いったん視力障害が起きると回復はかなり困難である。眼底検査で早いうちに異常を発見できれば、視力障害の発生を未然に防ぐことできる。 
5.× 筋萎縮性側索硬化症<ALS>とは、主に中年以降に発症し、一次運動ニューロン(上位運動ニューロン)と二次運動ニューロン(下位運動ニューロン)が選択的にかつ進行性に変性・消失していく原因不明の疾患である。病勢の進展は比較的速く、人工呼吸器を用いなければ通常は2~5年で死亡することが多い。男女比は2:1で男性に多く、好発年齢は40~50歳である。眼球運動、膀胱直腸障害、感覚障害、褥瘡もみられにくい(4大陰性徴候)

”筋萎縮性側索硬化症とは?”

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、主に中年以降に発症し、一次運動ニューロン(上位運動ニューロン)と二次運動ニューロン(下位運動ニューロン)が選択的にかつ進行性に変性・消失していく原因不明の疾患である。病勢の進展は比較的速く、人工呼吸器を用いなければ通常は2~5年で死亡することが多い。男女比は2:1で男性に多く、好発年齢は40~50歳である。
【症状】3型に分けられる。①上肢型(普通型):上肢の筋萎縮と筋力低下が主体で、下肢は痙縮を示す。②球型(進行性球麻痺):球症状(言語障害、嚥下障害など)が主体、③下肢型(偽多発神経炎型):下肢から発症し、下肢の腱反射低下・消失が早期からみられ、二次運動ニューロンの障害が前面に出る。
【予後】症状の進行は比較的急速で、発症から死亡までの平均期間は約 3.5 年といわれている。個人差が非常に大きく、進行は球麻痺型が最も速いとされ、発症から3か月以内に死亡する例もある。近年のALS患者は人工呼吸器管理(非侵襲的陽圧換気など)の進歩によってかつてよりも生命予後が延長しており、長期生存例ではこれらの徴候もみられるようになってきている。ただし、根治療法や特効薬はなく、病気の進行に合わせて薬物療法やリハビリテーションなどの対症療法を行うのが現状である。全身に筋委縮・麻痺が進行するが、眼球運動、膀胱直腸障害、感覚障害、褥瘡もみられにくい(4大陰性徴候)。終末期には、眼球運動と眼瞼運動の2つを用いたコミュニケーション手段が利用される。

(※参考:「2 筋萎縮性側索硬化症」厚生労働省様HPより)

 

 

 

 

 

 

88 加齢に伴う心血管系の変化で正しいのはどれか。2つ選べ。

1.心拍数の増加
2.左室壁の肥厚
3.収縮期血圧の上昇
4.圧受容機能の亢進
5.刺激伝導系の細胞数の増加

解答2/3

解説

加齢に伴う循環器の変化

・心臓は左室肥大傾向があり、臓器重量は増加する。
・運動負荷時の心拍出量は、加齢に伴い低下する。
・収縮期血圧が上昇する(拡張期血圧は減少する)。
・動脈硬化が起こりやすくなり、虚血性心疾患が増加する。

1.× 心拍数は、「増加」ではなく減少する。なぜなら、加齢に伴い、心臓の機能が低下するため。
2.〇 正しい。左室壁の肥厚は、加齢に伴い起こる。なぜなら、動脈硬化が起こり、より強い心臓の拍出の力が必要になるため。
3.〇 正しい。収縮期血圧の上昇は、加齢に伴い起こる。なぜなら、動脈硬化が起こり、より強い心臓の拍出の力が必要になるため。
4.× 圧受容機能は、「亢進」ではなく低下する。なぜなら、圧受容機能は、血管壁の伸展によって調整されるが、血管壁は加齢に伴って伸展しにくくなるため。圧受容体とは、血圧の変動情報を心臓血管中枢に伝えるためのセンサーである。動脈内の血圧の情報は、頸動脈と大動脈弓にある圧受容体で検出され、延髄にある心臓血管中枢に伝達される。
5.× 刺激伝導系の細胞数は、「増加」ではなく減少する。したがって、加齢に伴い、洞不全症候群や房室ブロックを起こしやすくなる。

心臓の刺激伝導系とは?

心臓の刺激伝導系は、「洞結節(洞房結節)→右房→左房→房室結節→His束(房室束)→左脚・右脚→プルキンエ線維(Purkinje線維)→心室」となる。刺激伝導系を構成する細胞は特殊心筋と呼ばれ、心房・心室の壁を構成する一般の心筋細胞である固有心筋とは区別する。

(図引用:「看護師 イラスト集【フリー素材】」看護roo!様HPより)

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【22問】加齢の影響についての問題「まとめ・解説」

 

 

 

 

 

89 定期巡回・随時対応型訪問介護看護の説明で正しいのはどれか。2つ選べ。

1.介護予防サービスである。
2.24時間を通じて行われる。
3.地域密着型サービスである。
4.重症心身障害児を対象とする。
5.施設サービス計画の作成を行う。

解答2/3

解説

定期巡回・随時対応型訪問介護看護とは?

定期巡回・随時対応型訪問介護看護とは、訪問介護員または訪問看護師が要介護者の自宅を定期訪問し、介護・看護を提供する24時間対応の介護サービスである。一日に複数回訪問し、一回の訪問は10~20分程度で、短時間の身体介護(食事介助、清拭介助、排せつ介助など)を中心に行う。

1.× 「介護予防サービス」ではなく、地域密着型サービスである。地域密着型サービスとは、高齢者が住み慣れた地域でサービスを受けられるようにするものである。原則として、その市町村の被保険者しか利用できない。今後増加が見込まれる認知症高齢者や中重度の要介護高齢者等が、出来る限り住み慣れた地域で生活が継続できるように、市町村指定の事業者が地域住民に提供するサービスである。
2.〇 正しい。24時間を通じて行われる。随時対応型であるため、定期巡回・随時対応型訪問介護看護とは、訪問介護員または訪問看護師が要介護者の自宅を定期訪問し、介護・看護を提供する24時間対応の介護サービスである。一日に複数回訪問し、一回の訪問は10~20分程度で、短時間の身体介護(食事介助、清拭介助、排せつ介助など)を中心に行う。
3.〇 正しい。地域密着型サービスである。地域密着型サービスとは、高齢者が住み慣れた地域でサービスを受けられるようにするものである。原則として、その市町村の被保険者しか利用できない。今後増加が見込まれる認知症高齢者や中重度の要介護高齢者等が、出来る限り住み慣れた地域で生活が継続できるように、市町村指定の事業者が地域住民に提供するサービスである。定期巡回・随時対応型訪問介護看護は、日中・夜間を通じて、訪問介護と訪問看護が密接に連携し、定期巡回訪問と随時の対応を提供する。
4.× 対象は、「重症心身障害児」ではなく、介護保険の対象者向け(要介護1以上の認定を受けた介護保険被保険者)である。一回の訪問は10~20分程度で、短時間の身体介護(食事介助、清拭介助、排せつ介助など)を中心に行う。
5.× 「施設サービス計画」ではなく居宅サービス計画書の作成を行い、定期巡回・随時対応型訪問介護看護は利用できる。ちなみに、施設・居宅サービス計画の作成を行うのは、介護支援専門員(ケアマネージャー)が行う。定期巡回・随時対応型訪問介護看護は、居宅サービスのひとつで、居宅サービスとは、自宅に居ながら利用できる介護サービスのことである。 

地域密着型サービスとは?

地域密着型サービスとは、高齢者が住み慣れた地域でサービスを受けられるようにするものである。原則として、その市町村の被保険者しか利用できない。今後増加が見込まれる認知症高齢者や中重度の要介護高齢者等が、出来る限り住み慣れた地域で生活が継続できるように、市町村指定の事業者が地域住民に提供するサービスである。

【地域密着型サービス9種類】
①定期巡回・随時対応型訪問介護看護
②夜間対応型訪問介護
③認知症対応型通所介護
④小規模多機能居宅介護
⑤看護小規模多機能型居宅介護(複合型サービス)
⑥認知症対応型共同生活介護(グループホーム)
⑦地域密着型特定施設入居者生活介護
⑧地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
⑨地域密着型通所介護

 

 

 

 

 

90 車椅子で日常生活を送る在宅療養者の住宅改修で適切なのはどれか。2つ選べ。

1.床を畳に変える。
2.玄関を引き戸にする。
3.廊下と部屋との段差をなくす。
4.トイレに和式便器を設置する。
5.廊下の幅は車椅子の幅と同じにする。

解答2/3

解説

1.× 床を畳に変える必要はない。むしろ、車椅子を使うのであれば、畳より床(フローリング)のほうが走行しやすい。なぜなら、畳は平であるとは言えず、敷居を乗り越えての走行が必要となるため。
2.〇 正しい。玄関を引き戸にする。なぜなら、横にスライドする引き戸は、車椅子でも開閉しやすいため。
3.〇 正しい。廊下と部屋との段差をなくす。なぜなら、できるだけ段差は少ないほうが、車椅子移動でも引っ掛かりにくいため。
4.× トイレは、「和式便器」ではなく洋式便器を設置する。なぜなら、洋式便器のほうが重心移動が少なく移乗でき、安全に排尿・排便が行えるため。
5.× 廊下の幅は車椅子の幅と「同じ」にする必要はない。なぜなら、車椅子の幅と同じにすると車椅子がスムーズに通行できないため。一般的に、廊下幅は、120cmが望ましい。

車椅子の通行幅

数値:【建築物移動等円滑化基準】(建築物移動等円滑化誘導基準)
玄関出入口の幅:【80cm】(120cm)
居室などの出入口:【80cm】(90cm)
廊下幅:【120cm】(180cm)※車椅子同士のすれちがいには180cm
スロープ幅:【120cm】(150cm)
スロープ勾配:【1/12以下】(1/12以下、屋外は1/15)
通路の幅:【120cm】(180cm)
出入口の幅:【80cm】(90cm)
かごの奥行:【135cm】(135cm)
かごの幅(一定の建物の場合):【140cm】(160cm)
乗降ロビー:【150cm】(180cm)

(※参考:「バリアフリー法」国土交通省HPより)
(※参考:「主要寸法の基本的な考え方」国土交通省様HPより)

 

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