第106回(R5)助産師国家試験 解説【午前31~35】

この記事には広告を含む場合があります。

記事内で紹介する商品を購入することで、当サイトに売り上げの一部が還元されることがあります。

 

31 在胎30週2日、緊急帝王切開で出生した男児。新生児蘇生時に気管挿管と胃管挿入を行い、人工呼吸を継続しつつNICUに入院した。入院時の胸部エックス線写真を下図に示す。また胃液のマイクロバブルテストの結果はvery weakであった。
 この疾患について正しいのはどれか。

1.男児より女児に多い。
2.気管洗浄が治療に有効である。
3.肺のコンプライアンスが上昇する。
4.母親の糖尿病罹患が発症のリスク因子である。
5.出生前の母体への抗菌薬投与が発症予防に有効である。

解答

解説

本症例のポイント

・在胎30週2日:緊急帝王切開の男児。
・新生児蘇生時に気管挿管と胃管挿入を行い、人工呼吸を継続しつつNICUに入院した。
・入院時の胸部エックス線写真:すりガラス状陰影(気管支透亮像)
・胃液のマイクロバブルテスト:very weak(非常に弱い:0~2個/mm2)
→本症例は、新生児呼吸窮迫症候群が疑われる。呼吸窮迫症候群とは、早産児にみられる呼吸疾患で、サーファクタントという肺胞を覆う物質が産生されないか不足しているために、肺胞が拡張した状態を保てないことで起こる。早産児や妊娠中に母親が糖尿病にかかった新生児は、呼吸窮迫症候群を発症するリスクが高くなる。

→マイクロバブルテストとは、羊水や胃液を用いて何度か泡立てたあと、顕微鏡下でどの程度の泡が残っているかを確認する検査である。特発性呼吸窮迫症候群は、界面活性剤であるサーファクタントの不足を原因とした病気であるため、界面活性剤という意味では石けんと一緒であり、サーファクタントが不足すると泡立ちが悪くなることが確認される。

1.× 男児より女児に多いとはいえない。むしろ男女比は認められない。なぜなら、原因として、早産児や妊娠中に母親が糖尿病にかかった新生児が考えられているため。
2.× 気管洗浄が治療に有効であるとはいえない。新生児呼吸窮迫症候群の治療として、①サーファクタント気管内投与、②酸素投与、③機械的人工換気などがあげられる。一方、気管洗浄の目的は、気管支鏡を用いて、肺の一部に滅菌した生理食塩水を注入して回収し、回収した液(洗浄液) を解析することにより、びまん性肺疾患や肺感染症の診断や病態を明らかにするためのものである。
3.× 肺のコンプライアンスが「上昇」ではなく減少する。肺コンプライアンスとは、簡単に言うと肺や胸郭系などの伸びやすさを表す。肺が線維化して固くなる疾患では肺コンプライアンスは低下し、逆に肺の過膨張をきたす肺気腫等の疾患では上昇する。呼吸窮迫症候群の場合、サーファクタントという肺胞を覆う物質が産生されないか不足しているため、肺胞が拡張した状態を保てない状態をいう。
4.〇 正しい。母親の糖尿病罹患が発症のリスク因子である。「サーファクタントは在胎期間の比較的後期(34~36週)になるまで十分な量が産生されないため,呼吸窮迫症候群(RDS)のリスクは 未熟性が増すほど上昇する。その他の危険因子としては, 多胎妊娠, 母体糖尿病,白人男性などがある。リスクは,胎児発育不全, 妊娠高血圧腎症または子癇, 母体高血圧,長時間の破水,および母親のコルチコステロイドの使用に伴って低下する。まれに遺伝性の場合があり,サーファクタントタンパク質(SP-BおよびSP-C)ならびにATP結合カセット輸送体A3(ABCA3)の遺伝子変異によって引き起こされる」と記載されている(※引用:「新生児呼吸窮迫症候群」MSDマニュアルプロフェッショナル版より)。
5.× 出生前の母体への抗菌薬投与が発症予防に「有効」ではなく無効である。なぜなら、新生児呼吸窮迫症候群は、感染症とは関係が薄いため。ちなみに、抗菌薬とは、細菌を壊したり、増えるのを抑えたりする薬のことである。細菌による感染症の治療に使用される医薬品である。

 

 

 

 

 

32 胎児発育不全〈FGR〉の妊婦が正期産で正常分娩になった場合の妊娠および分娩の管理で、保険診療の対象はどれか。

1.分娩料
2.室料差額
3.正常新生児管理料
4.妊婦健康診査の費用
5.ノンストレステスト〈NST〉

解答

解説

胎児発育不全とは?

胎児発育不全とは、平均と比べて成⻑が遅くなっていることをいい、胎盤由来の妊娠合併症の代表的なものである。子宮内での胎児の発育が遅延あるいは停止したために在胎週数に相当した胎児の発育が見られない状態で、妊娠週数に対して胎児が明らかに小さい場合をいい、胎児発育曲線において「-1.5SD以下」の場合に診断される。

1.× 分娩料(正常分娩の場合)は自費である。妊娠・出産は病気でないため、健康保険は適用されないが、何らかのトラブルがあって、医療処置が必要になった場合は、健康保険が適用される。
2.× 室料差額は自費である。日本の公的医療保険において、診療の際に特別の設備を利用した場合に患者が負担する費用のことをいう。差額室料を要する病室を特別療養環境室といい、正式には「特別療養環境室料」といい、一般的には差額ベッド代の呼称も用いられる。 
3.× 正常新生児管理料(新生児管理保育料)は自費である。正常新生児管理料(新生児管理保育料)とは、新生児に係る管理・保育に要した費用をいい、新生児に 係る検査・薬剤・処置・手当に要した相当費用を含める。
4.× 妊婦健康診査の費用は自費である。妊娠・出産は正常な経過であれば、保険適用されず自費診療となる。妊婦検診の費用は、1回あたり平均で約5,000円である。
5.〇 正しい。ノンストレステスト〈NST〉が胎児発育不全〈FGR〉の妊婦が正期産で正常分娩になった場合の妊娠および分娩の管理で、保険診療の対象である。正常な場合は、自費診療となり、1回あたり平均で約2,000~3,000円程度である。ちなみに、ノンストレステストとは、分娩監視装置を用いて子宮収縮や胎児心拍、胎動の状態で調べ、胎児の健康状態を判定するものである。陣痛(子宮収縮)などのストレスがない状態で妊婦に行う検査である。胎児は、20~40分ごとに睡眠と覚醒を繰り返すため通常40~60分間計測を行う。

診療報酬点数

ノンストレステスト(一連につき)210点
(1) ノンストレステストは、以下に掲げる患者に対し行われた場合に算定する。
ア 40 歳以上の初産婦である患者
イ BMIが 35 以上の初産婦である患者
ウ 多胎妊娠の患者
エ 子宮内胎児発育不全の認められる患者
オ 子宮収縮抑制剤を使用中の患者
カ 妊娠高血圧症候群重症の患者
キ 常位胎盤早期剥離の患者
ク 前置胎盤(妊娠 22 週以降で出血等の症状を伴う場合に限る。)の患者
ケ 胎盤機能不全の患者
コ 羊水異常症の患者
サ 妊娠 30 週未満の切迫早産の患者で、子宮収縮、子宮出血、頸管の開大、短縮又は軟化のいずれかの切迫早産の兆候を示し、かつ、以下のいずれかを満たすもの
(イ) 前期破水を合併したもの
(ロ) 経腟超音波検査で子宮頸管長が 20 ㎜未満のもの
(ハ) 切迫早産の診断で他の医療機関から搬送されたもの
(ニ) 早産指数(tocolysis index)が3点以上のもの
シ 心疾患(治療中のものに限る。)の患者
ス 糖尿病(治療中のものに限る。)又は妊娠糖尿病(治療中のものに限る。)の患者
セ 甲状腺疾患(治療中のものに限る。)の患者
ソ 腎疾患(治療中のものに限る。)の患者
タ 膠原病(治療中のものに限る。)の患者
チ 特発性血小板減少性紫斑病(治療中のものに限る。)の患者
ツ 白血病(治療中のものに限る。)の患者
テ 血友病(治療中のものに限る。)の患者
ト 出血傾向(治療中のものに限る。)のある患者
ナ HIV陽性の患者
ニ Rh不適合の患者
ヌ 当該妊娠中に帝王切開術以外の開腹手術を行った患者又は行う予定のある患者
ただし、治療中のものとは、対象疾患について専門的治療が行われているものを指し、 単なる経過観察のために年に数回程度通院しているのみでは算定できない。
(2) ノンストレステストは入院中の患者に対して行った場合には1週間につき3回、入院中の患者以外の患者に対して行った場合には1週間につき1回に限り算定できる。なお、1 週間の計算は暦週による。

(令和4年版)

(※引用:「今日の臨床サポート」RELX様HPより)

 

 

 

 

 

33 助産師の異常死産児の届出義務を規定している法律はどれか。

1.刑法
2.戸籍法
3.母子保健法
4.母体保護法
5.保健師助産師看護師法

解答

解説

異常死産児とは?

異常死産児とは、病死・自然死以外の死亡死体で、事故、災害、中毒、自殺、他殺による死亡及びそれら後遺症による死亡や、病死と判断されてもその原因が不詳の場合、また手術中や診療・検査中の予期せぬ急死や乳幼児の突然の死亡も異状死体に含まれる。

異常死産児の届出には、①医師法(第21条)と保健師助産師看護師法(第41条)に義務として記載されている。①医師法第21条(異状死体の届出)により医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異常があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならないと定められている。②保健師助産師看護師法(第41条)助産師は、妊娠四月以上の死産児を検案して異常があると認めたときは、二十四時間以内に所轄警察署にその旨を届け出なければならない。

1.× 刑法とは、犯罪とそれに対する刑罰の関係を規定する法である。
2.× 戸籍法とは、各人の身分関係を明らかにするための戸籍の作成・手続などを定める日本の法律である。日本の住民の出生、死亡、婚姻、離婚などの法的な状況を記録する。
3.× 母子保健法とは、母性並びに乳児及び幼児の健康の保持及び増進を図るため、母子保健に関する原理を明らかにするとともに、母性並びに乳児及び幼児に対する保健指導、健康診査、医療その他の措置を講じ、もって国民保健の向上に寄与することを目的として制定された法律である。
4.× 母体保護法とは、不妊手術及び人工妊娠中絶に関する堕胎罪の例外事項を定めること等により、母親の生命健康を保護することを目的とした法律である。1948年7月13日に公布された。
5.〇 正しい。保健師助産師看護師法は、助産師の異常死産児の届出義務を規定している法律である。保健師助産師看護師法(第41条)のおいて、「助産師は、妊娠四月以上の死産児を検案して異常があると認めたときは、二十四時間以内に所轄警察署にその旨を届け出なければならない」と記載されている(※引用:「保健師助産師看護師法」厚生労働省HPより)。ちなみに、保健師助産師看護師法とは、保健師・助産師および看護師の資質を向上し、もって医療および公衆衛生の普及向上を図ることを目的とする日本の法律である。通称は保助看法。

 

 

 

 

 

34 日本人の食事摂取基準(2020年版)で妊娠後期の妊婦に付加量が設定されている栄養素はどれか。2つ選べ。

1.カルシウム
2.ナイアシン
3.ビタミンA
4.ビタミンC
5.ビタミンK

解答3・4

解説

(※図引用:「表 1 妊婦の食事摂取基準(再掲)」厚生労働省HPより)

1.× カルシウムは、妊娠によりカルシウム吸収率が上昇するため、一般の成人女性と同じで、妊娠期間中に特別な付加量が設定されていない
2.× ナイアシンとは、水溶性のビタミンで、ビタミンB群の1種で、ニコチン酸とニコチン酸アミドを総称して呼ばれる。エネルギー産生、糖質、脂質、タンパク質の代謝、肪酸やステロイドホルモンの生合成、DNAの修復や合成、アルコールの代謝など様々な機能に関わっている。
3.〇 正しい。ビタミンAが、日本人の食事摂取基準(2020年版)で妊娠後期の妊婦に付加量が設定されている栄養素である。ただし、ビタミンAの過剰摂取によって胎児の形態異常のリスクが高まるものとしても知られている。一般的に、ビタミンAは脂溶性ビタミンで、レチノール、レチナール、レチノイン酸の総称で、目や皮膚の粘膜を健康に保ち、抵抗力を強める役割があり、暗いところでの視力を保つ働きがある。妊娠3ヶ月までの過剰摂取により赤ちゃんの耳の形態異常が増える。 妊娠中の必要量は1日2000 IU(600μg)で、上限は1日 5000 IU(1500μg)である。
4.〇 正しい。ビタミンCが、日本人の食事摂取基準(2020年版)で妊娠後期の妊婦に付加量が設定されている栄養素である。ビタミンCは、皮膚や血管などからだの主要なタンパク質であるコラーゲンをつくるのに必要な栄養素である。妊娠中は110mg、授乳中は145mgの摂取が推奨されている。
5.× ビタミンKとは、数種類の凝固因子の産生に必要な補助因子である。そのため、ビタミン K が欠乏すると消化管出血だけでなく、重症例では頭蓋内出血などを合併し、死亡する場合もある。妊娠後期ではなく、授乳時に摂取する必要がある。なぜなら、ビタミン K は胎盤通過性が悪く、母乳中のビタミン K 含量が少ないことなどから、新生児は出生時からビタミン K が欠乏しやすく、哺乳条件によっては乳児期まで欠乏しやすい状態が持続するためである。

 

 

 

 

 

35 臍帯について正しいのはどれか。2つ選べ。

1.内胚葉由来である。
2.羊水分泌に関与する。
3.胎盤付着部位は側方が最も多い。
4.臍動脈と臍静脈は長さに差がない。
5.表面がWharton〈ワルトン〉膠様質で覆われている。

解答2・3

解説

臍帯とは?

臍帯とは、胎児と胎盤とをつなぐ、ひも状の器官。つまりへその緒である。胎児は受精卵から作られるが、胎児付属物(胎盤や臍帯、羊膜)も受精卵の一部から形成される。これらは、胎児が子宮内で母体から栄養や酸素を得て老廃物を母体血に引き渡すために必要な、いわば胎児の生命維持装置である。そのやり取りのために、胎盤、臍帯には母児の血液が多量に潅流しており、その異常の発生は胎児の生命だけでなく、母児の各種トラブルや後遺症と深く関連する。胎児だけでなく、妊娠中の胎児付属物に対する超音波診断も重要である。

(※図引用:「看護roo!看護師イラスト集」)

1.× 「内胚葉」ではなく、外胚葉(表面)、中胚葉(内部)由来である。
2.〇 正しい。羊水分泌に関与する。臍帯が付着し、卵膜におおわれている側が胎児側で羊水に接し、裏側が母体側で子宮内に接している。臍帯を覆う羊膜が、羊水を産生する。
3.〇 正しい。胎盤付着部位は側方が最も多い。臍帯の付着場所は、胎盤の中心から外側に向かって、中心付着(約20%)、側方付着(約75%)、辺縁付着(約5%)、卵膜付着(約0.05%)の4種類に分けられる。 卵膜付着では血管が損傷しやすい。
4.× 臍動脈と臍静脈は長さに差が「ある」。臍動脈の方がわずかに長い。臍動脈とは、胎児循環で胎児から胎盤に血液を送る血管のことである。したがって、胎児の体内で発生した二酸化炭素や老廃物を多く含む静脈血が流れる。一方、肺静脈とは、肺から心臓(左心房)に血液を送り出す血管である。肺動脈は、脱酸素化された血液を運ぶ唯一の動脈である。
5.× 表面は、「Wharton〈ワルトン〉膠様質(※読み:こうようしつ)」ではなく羊膜で覆われている。羊膜は卵膜の胎児側最内層を覆う半透明の薄い膜で、胎盤の胎児側および臍帯の外周も覆う。コラーゲンなどのタンパク質で構成されている。Wharton膠質は臍帯の血管を囲む結合組織である。臍帯の基質は膠様の水分に富んだ結合組織(白色半透明)のワルトン膠様質からなり、その中に2本の臍動脈と1本の臍静脈がある。

各胚葉に由来する器官

外胚葉:神経(脳・脊髄)・表皮(毛・爪)・感覚器(視・聴覚)
中胚葉:骨格(軟骨)・筋・循環器系(心臓・血管・リンパ)・泌尿生殖器(腎臓・精巣・子宮・卵巣)
内胚葉:消化器(胃・腸)・呼吸器(気管・肺)・尿路系(膀胱・尿道)

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)