第106回(H29) 看護師国家試験 解説【午前96~100】

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次の文を読み94〜96の問いに答えよ。
 Aさん(25歳、男性)は、オートバイの単独事故による交通外傷で救急病院に入院した。外傷部位は左上下肢で、左脛骨骨折に対しては長下肢ギプス固定をした。左前腕部は不全切断で、再接着術が行われた。

96 下肢は長下肢ギプスから膝蓋腱支持ギプスに変更され、左上肢は義肢が装着されて自宅へ退院することになった。
 Aさんに対する退院指導で適切なのはどれか。

1.外出を控えるように指導する。
2.左前腕部に意識を集中しないように説明する。
3.義肢を装着して動作訓練を計画的に進めるよう指導する。
4.受傷前と同じ日常生活動作<ADL>ができることを目標に指導する。

解答3

解説

本症例のポイント

・Aさん(25歳、男性)
・オートバイの単独事故による交通外傷で救急病院に入院。
・外傷部位:左上下肢、左脛骨骨折に対しては長下肢ギプス固定。
・左前腕部、不全切断で、再接着術。
【自宅へ退院】
・下肢:長下肢ギプスから膝蓋腱支持ギプスに変更、上肢:義肢が装着。

1.× 外出を控えるように指導する必要はない。なぜなら、外出を控えると活動量が減り、より身体機能の低下につながるため。逆に、義肢や装具のために引きこもりがちにならないようにする。
2.× 左前腕部に意識を集中しないように説明する必要はない。むしろ、技師の訓練にも有用であるため、左前腕部に意識を集中して義肢訓練する。
3.〇 正しい。義肢を装着して動作訓練を計画的に進めるよう指導する。なぜなら、退院後も計画的に訓練を行うことで、義肢に慣れ、自立して生活していくことが可能となり、結果的に身体面にも精神面にも重要な効果をもたらすため。
4.× 受傷前と同じ日常生活動作<ADL>ができることを目標に指導する必要はない。なぜなら、現在、下肢は、長下肢ギプスから膝蓋腱支持ギプスに変更、上肢は義肢が装着している状態で、「受傷前と同じADL(オートバイの運転)」は、高すぎる目標設定といえるため。

 

 

 

 

 

次の文を読み97〜99の問いに答えよ。
 Aさん(71歳、女性)は、要介護1で、ベッドからの立ち上がりや入浴などに一部介助を必要とするが、歩行器で室内を移動できる。失禁することがあるため失禁用のパッドを装着している。Aさんは介護老人保健施設の短期入所<ショートステイ>を利用している。入所した日の夕方から、水様便と嘔吐とがみられ、感染性胃腸炎が疑われてトイレ付きの個室に移動した。

97 感染症の拡大を予防する方法で適切なのはどれか。

1.使い捨ての食器に変える。
2.汚物の付着した衣類は焼却処分する。
3.排泄介助を行う看護師はガウンを装着する。
4.Aさんの手指を速乾性擦式の手指消毒薬で消毒する。
5.Aさんが触れた歩行器を80%エタノールで清拭する。

解答3

解説

本症例のポイント

・Aさん(71歳、女性、要介護1)
・一部介助(ベッドからの立ち上がりや入浴など)、歩行器で室内を移動できる。
・失禁することがあるため失禁用のパッドを装着している。
・Aさんは介護老人保健施設の短期入所<ショートステイ>を利用している。
・入所した日の夕方から、水様便と嘔吐とがみられ、感染性胃腸炎が疑われてトイレ付きの個室に移動した。
→感染性胃腸炎とは、細菌やウイルスなどの病原体による感染症である。病原体により異なるが、潜伏期間は1~3日程度である。ノロウイルスによる胃腸炎では、主な症状は吐き気、おう吐、下痢、発熱、腹痛であり、小児ではおう吐、成人では下痢が多い。ロタウイルスによる胃腸炎では、おう吐、下痢、発熱がみられ、乳児ではけいれんを起こすこともある。

【感染予防策】
感染予防策は、院内感染の防止策として推奨されている方法である。感染の有・無にかかわらず患者と医療スタッフすべてに適応される予防対策である。患者の血液や体液、分泌、排泄されるすべての湿性物質、粘膜、創傷の皮膚は感染のおそれがあるとみなして対応・行動する方法である。

1.× 使い捨ての食器に変える必要はない。なぜなら、感染源が食器であるとは断定できていないため。また、一般的に食器から感染拡大するとはなかなか考えにくく、使用した食器を消毒すれば感染予防となる。
2.× 汚物の付着した衣類は、焼却処分する必要はない。汚物の付着した衣類は、一般的な衣類と別々に対応する必要がある。例えば、ビニール袋に入れ、消毒した後に洗濯する方法をとることが一般的である。
3.〇 正しい。排泄介助を行う看護師はガウン(手袋)を装着する。なぜなら、排泄物からの感染拡大のリスクがあるため。ガウンは、接触感染予防に有用である。
4.× Aさんの手指を速乾性擦式の手指消毒薬で消毒する優先度は低い。なぜなら、手洗いは、流水での手洗いを行うのが基本であるため。速乾性擦式の手指消毒薬は補完的に用いる。
【手指衛生の5つのタイミング】
①患者に触れる前( 手指を介して伝播する病原微生物から患者を守るため)
②清潔/無菌操作の前( 患者の体内に微生物が侵入することを防ぐため)
③体液に曝露された可能性のある場合(患者の病原微生物から医療従事者を守るため)
④患者に触れた後(患者の病原微生物から医療従事者と医療環境を守るため)
⑤患者周辺の環境や物品に触れた後(患者の病原微生物から医療従事者と医療環境を守るため)
(※引用:「WHO手指衛生ガイドライン」矢野邦夫より)
5.× Aさんが触れた歩行器を、「80%エタノール」ではなく次亜塩素酸ナトリウムで清拭する。なぜなら、感染性胃腸炎を引き起こすノロウイルスにエタノールの消毒効果は期待できないため。次亜塩素酸ナトリウムとは、ノロウイルス感染症に罹患した患者の嘔吐物が床に飛び散っているこの処理に使用する消毒薬である。ノロウイルスの消毒には、通常のアルコール製剤や逆性石鹸は有効でないため、塩素系消毒剤(0.1%次亜塩素酸ナトリウム)を用いる。ただし、次亜塩素酸ナトリウムの注意点として、毒性が強く、吸い込んでしまったり、目に入ってしまった場合には呼吸器や粘膜へ損傷を与える危険を伴う。

ノロウイルスによる感染の特徴と対応

原因:①カキ等の二枚貝、②感染者の嘔吐物等への接触や飛沫による二次感染。
感染経路:経口感染、接触感染、飛沫感染、空気(飛沫核)感染
潜伏期間:1~2日
症状:悪心・嘔吐、水様性下痢腹痛、発熱等の急性胃腸炎。

予防・拡大防止
①感染源となる二枚貝等は、中心部まで十分に加熱(85~95℃以上、90秒以上)する。
②消毒には、通常のアルコール製剤や逆性石鹸は有効でないため、塩素系消毒剤(0.1%次亜塩素酸ナトリウム)を用いる。
③ノロウイルスは乾燥に強く、感染者の嘔吐物等が乾燥して空気中に飛散することで感染拡大するため完全に拭き取る。
④嘔吐物等の処理時には手袋、ガウンマスクを装着する

 

 

 

 

 

次の文を読み97〜99の問いに答えよ。
 Aさん(71歳、女性)は、要介護1で、ベッドからの立ち上がりや入浴などに一部介助を必要とするが、歩行器で室内を移動できる。失禁することがあるため失禁用のパッドを装着している。Aさんは介護老人保健施設の短期入所<ショートステイ>を利用している。入所した日の夕方から、水様便と嘔吐とがみられ、感染性胃腸炎が疑われてトイレ付きの個室に移動した。

98 Aさんは下痢と嘔吐の症状が続き、発症当日の夜から、集中力の低下と頻脈とがみられた。口渇はない。翌朝は症状が軽減したものの、午後になり見当識障害も現れた。
 Aさんに起きている状態として最も考えられるのはどれか。

1.脱水
2.硬膜下血腫
3.認知症の中核症状
4.隔離による拘禁症状

解答1

解説

本症例のポイント

・Aさん(71歳、女性、要介護1)
・水様便と嘔吐とがみられ、感染性胃腸炎が疑われる。
下痢と嘔吐の症状が続く。
・発症当日の夜:集中力の低下と頻脈とがみられ、口渇はない。
・翌朝:症状が軽減したものの、午後になり見当識障害も現れた。
→本症例は、脱水が疑われる。脱水とは、生体において体液量が減少した状態をいう。水やナトリウムの喪失が原因で起こる。この際、ナトリウムの喪失を伴わず水欠乏を起こす病態を高張性脱水(水欠乏性脱水)や一次脱水という。脱水症状とは、体内の水分が2%失われると、のどの渇きを感じ、運動能力が低下しはじめる。3%失われると、強いのどの渇き、ぼんやり、食欲不振などの症状がおこり、4~5%になると、疲労感や頭痛、めまいなどの脱水症状が現れる。10%以上になると、死にいたることもある。

1.〇 正しい。脱水がAさんに起きている状態として最も考えられる。なぜなら、現在も下痢や嘔吐が続き、集中力の低下や頻脈、見当識障害がみられているため。ちなみに、加齢に伴い、渇中枢の感受性の低下と血清浸透圧の低下が起こりやすいため、口渇はみられないことが多い。
2.× 硬膜下血腫とは考えにくい。なぜなら、硬膜下血腫では、頭部外傷が多いため。硬膜下血腫は、①急性と②慢性に大きく分類される。①急性硬膜下血腫とは、短時間のうちに硬膜と脳の間に血腫が形成された状態のことであり、頭部外傷としては重症に分類される。ほとんどが頭部外傷によるもので、児童虐待の死因として最も多い。一方、②慢性硬膜下血腫とは、軽度の外傷により軽微な出血が起こり、経時的に血腫が増大し、やがて症状が現れる。症状として、認知障害、頭痛、尿失禁、歩行障害、片麻痺などである。CT画像から、急性硬膜下血腫に特徴的な①三日月状の高吸収域、②左側脳室体部の圧排変形、③midlineの偏位がみられる。
3.× 認知症の中核症状とは考えにくい。なぜなら、認知症の中核症状と水様便や嘔吐は関係が薄いため。中核症状とは、認知症で、”脳の細胞が死ぬ”、”脳の働きが低下する”ことによって直接的に起こる認知機能障害のことをいう。
4.× 隔離による拘禁症状とは考えにくい。なぜなら、Aさんは拘禁されているとは言えないため。拘禁症状とは、強制的に自由を奪われた環境におかれた人(刑務所や拘置所などの拘束された状態)が示す症状で、妄想や爆発反応などがある。

認知症の主な症状

①中核症状:神経細胞の障害で起こる症状
(例:記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、失語・失行など)

②周辺症状:中核症状+(環境要因や身体要因や心理要因)などの相互作用で起こる様々な症状
(例:徘徊、幻覚、異食、せん妄、妄想、不安など)

 

 

 

 

次の文を読み97〜99の問いに答えよ。
 Aさん(71歳、女性)は、要介護1で、ベッドからの立ち上がりや入浴などに一部介助を必要とするが、歩行器で室内を移動できる。失禁することがあるため失禁用のパッドを装着している。Aさんは介護老人保健施設の短期入所<ショートステイ>を利用している。入所した日の夕方から、水様便と嘔吐とがみられ、感染性胃腸炎が疑われてトイレ付きの個室に移動した。

99 発症から2日目の午後、Aさんの仙骨部に直径2cm程度のステージⅠの褥瘡が出現した。嘔吐は消失したが下痢が続き、2〜5時間ごとにトイレを使用している。
 この時点の褥瘡に対する看護で最も優先されるのはどれか。

1.壊死組織の除去
2.エアマットレスの使用
3.撥水性の高いクリームの塗布
4.亜鉛入りの栄養補助食品の摂取

解答3

解説

本症例のポイント

・Aさん(71歳、女性、要介護1)
・水様便と嘔吐とがみられ、感染性胃腸炎が疑われる。
・翌朝:症状が軽減したものの、午後になり見当識障害も現れた。
・発症から2日目午後:仙骨部に直径2cm程度のステージⅠの褥瘡が出現した。
・嘔吐は消失したが下痢が続き、2〜5時間ごとにトイレを使用している。
→褥瘡とは、局所の持続的な圧迫により組織に虚血が生じて発生する皮膚の潰瘍あるいは皮下組織の損傷のことである。背臥位では、後頭骨や肩甲骨、肘頭、仙骨、踵部などの骨の突出している場所に好発する。予防法としては、最も負担がかかりやすい骨突出部を除圧し、面で支持することで一点に圧をかけることなく、圧の分散に努める。褥瘡予防マットやクッションなどを活用する。また、清潔を心がけ、体位変換を行う。

1.× 壊死組織の除去は優先度として低い。なぜなら、本症例は、ステージⅠの褥瘡(消退しない発赤)であるため。NPUAP(米国褥瘡諮問委員会)の分類で壊死組織を伴うことがあるステージⅢ~Ⅳで行う。
2.× エアマットレスの使用(耐圧分散寝具)は優先度として低い。なぜなら、エアマットレスの使用により起き上がりがしにくくなるため。本症例は下痢が続き、2〜5時間ごとにトイレを使用している。エアマットレスとは、空気の力で体圧を分散し、同じ部位に圧迫がかかるのを防ぐ。褥瘡予防・発生時に導入されることが多い。適応患者の身体機能特徴として、①自力で体位変換する能力がない場合、②体位変換能カがあっても痩せすぎて骨突出がある場合が当てはまる。
3.〇 正しい。撥水性の高いクリームの塗布は最も優先度として高い。なぜなら、本症例の皮膚は、褥瘡のなりやすい尿や便失禁による湿潤(皮膚のふやけた状態)となっていることが考えられる。したがって、湿潤から創面を保護するために撥水性性の高いクリームを塗布する必要がある。ちなみに、撥水性とは、水をはじく性質のことをいう。
4.× 亜鉛入りの栄養補助食品の摂取は優先度として低い。なぜなら、褥瘡の治癒を遅らせる原因として、亜鉛の欠乏が挙げられるため。本症例ではステージⅠの褥瘡(消退しない発赤)である。下痢症状が強く、便失禁による皮膚湿潤の影響が大きいことが推測されるため、スキンケアが優先される。

MEMO

褥瘡の深さの評価は、①米国褥瘡諮問委員会(NPUAP)と②日本褥瘡学会学術教育委員会(DESIGN)による分類がある。

①米国褥瘡諮問委員会(NPUAP)
DTI疑い(SDTI):深さ判定不明
ステージⅠ:消退しない発赤
ステージⅡ:部分欠損または水疱
ステージⅢ:全層組織損傷(脂肪層の露出)
ステージⅣ:全層組織欠損
判定不能:皮膚または組織の全層欠損・深さ判定不能
壊死組織で覆われている全層損傷

②日本褥瘡学会学術教育委員会(DESIGN)
d0:皮膚損傷・発赤なし
d1:持続する発赤
d2:真皮までの損傷
D3:皮下組織までの損傷
D4:皮下組織を超える損傷
D5:関節腔・体腔に至る損傷
U:深さ判定不能の場合

 

 

 

 

 

次の文を読み100〜102の問いに答えよ。
 A君(2か月、男児)は、1か月児健康診査で尿道下裂の疑いを指摘され、小児科を受診した。検査の結果、遠位型尿道下裂と診断された。主治医から母親に対し、体重の増加を待ち1歳前後で尿道形成術を行う必要性について説明があった。母親から看護師に対し「手術を受けるまでの間、どう過ごしたらよいですか」と質問があった。

100 看護師の説明で適切なのはどれか。

1.「尿量を計測してください」
2.「手術まで外来の受診はありません」
3.「予防接種の時期は主治医と相談してください」
4.「オムツを交換するたびに尿道口を消毒してください」

解答3

解説

本症例のポイント

・A君(2か月、男児、遠位型尿道下裂
・主治医から母親に対し、体重の増加を待ち1歳前後で尿道形成術を行う必要性について説明があった。
・母親から看護師に対し「手術を受けるまでの間、どう過ごしたらよいですか」と。
→尿道下裂とは、外尿道口が亀頭部先端になく亀頭部後面から会陰部にかけてさまざまな位置に開口する尿道の形成異常である。通常の男性は尿の出口(外尿道口)は亀頭部先端にあるが、男児の約 200~300人に1人の割合で、この外尿道口が亀頭部先端になく亀頭部後面から会陰部にかけて位置していることがある。

1.× 尿量の計測は不要である。なぜなら、尿道下裂は尿量への影響はないため。
2.× 手術まで外来の受診がないといえない。なぜなら、手術までにほかの病気にかかる可能性も考えられるため。また、一般的に受診は、看護師ではなく主治医が最終的に判断する。むしろ、手術に関して簡単な説明を前もってするため、手術前の外来受診は必要である。
3.〇 正しい。「予防接種の時期は主治医と相談してください」と伝える。なぜなら、予防接種は、通常推奨時期に接種するのが望ましいが、A君の場合、予防接種の副作用などを考慮すると、手術と一定の間隔をあける必要があるため。看護師の独断で決定することはできない。
4.× オムツを交換するたびに尿道口を消毒する必要はない。なぜなら、尿道下裂は、排尿部位が異なるだけで、感染が起こるリスクは増加していないため。一般的なおむつ交換の頻度でよく、尿道の短い女児でも消毒は必要ない。

 

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