第108回(H31) 看護師国家試験 解説【午後81~85】

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81 Alzheimer(アルツハイマー)型認知症の患者にみられる実行機能障害はどれか。

1.シャツを前後反対に着る。
2.調理の手順がわからなくなる。
3.物音がすると食事を中断する。
4.鏡に映った自分の姿に話しかける。
5.歯ブラシで髪の毛をとかそうとする。

解答2

解説

Alzheimer型認知症とは?

アルツハイマー病とは、認知症の中で最も多く、病理学的に大脳の全般的な萎縮、組織学的に老人斑(アミロイドβの蓄積)・神経原線維変化の出現を特徴とする神経変性疾患である。特徴は、①初期から病識が欠如、②著明な人格崩壊、③性格変化、④記銘力低下、⑤記憶障害、⑥見当識障害、⑦語間代、⑧多幸、⑨抑うつ、⑩徘徊、⑩保続などもみられる。Alzheimer型認知症の患者では、現在でもできる動作を続けられるように支援する。ちなみに、休息をとることや記銘力を試すような質問は意味がない。

1.× シャツを前後反対に着る(服を着られない状態)は、着衣失行である。
2.〇 正しい。調理の手順がわからなくなるのは、Alzheimer(アルツハイマー)型認知症の患者にみられる実行機能障害(遂行機能障害)である。実行機能障害(遂行機能障害)とは、論理的・計画的な行動ができなくなることである。例えば、料理を作る、洗濯をするなどの段取りのことをいい、前頭葉の障害で出現する。
3.× 物音がすると食事を中断する(複数の外的刺激に対し注意力が維持できない状態)は、注意障害という。注意障害には、5つ種類があり、①持続性:注意を一定時間の状態に保つことが困難になる、②選択性:多数の刺激の中から必要な情報や物事に注意を向けられない、③転換(導)性:必要に応じて注意の方向性を切り替えることが困難になる、④配分性(多方向性):2つ以上の課題を同時に遂行したり、順序立てて行ったりすることが困難になる、⑤容量性(感度):ある情報に関する注意の閾値が適度に保つことが困難であることがあげられる。

4.× 鏡に映った自分の姿に話しかけるのは、失認の1つで、鏡像現象鏡現象という。鏡現象とは、鏡に映し出された自分の姿を、自分ではなく他人であると認識し、話しかけたり物を手渡そうとするなど、鏡像と積極的な交流を持つ現象を意味する。
5.× 歯ブラシで髪の毛をとかそうとする(物品を使用する動作や使用方法が障害される状態)は、観念失行という。観念失行とは、複合的な運動の障害であり、日常使用する物品が正当に使用できない失行のことである。優位半球頭頂葉(特に角回)を中心とする広範囲な障害で生じる。例えば、タバコに火をつける、お茶を入れる、歯磨きをするなどの手順が困難になる。

認知症の主な症状

①中核症状:神経細胞の障害で起こる症状
(例:記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、失語・失行など)

②周辺症状:中核症状+(環境要因や身体要因や心理要因)などの相互作用で起こる様々な症状
(例:徘徊、幻覚、異食、せん妄、妄想、不安など)

 

 

 

 

 

82 副交感神経を含む脳神経はどれか。2つ選べ。

1.嗅神経
2.視神経
3.動眼神経
4.三叉神経
5.迷走神経

解答3・5

解説

自律神経機能をもつ脳神経の覚え方

自律神経機能をもつ脳神経は「港区」
(み(Ⅲ)、な(Ⅶ)、と(Ⅹ)、く(Ⅸ)番の脳神経)と覚える。
Ⅲ:動眼神経(縮瞳)
Ⅶ:顔面神経(涙腺、唾液腺)
Ⅹ:迷走神経(消化管、心臓)
Ⅸ:舌咽神経(耳下腺)

1.× 嗅神経(Ⅰ)は、嗅覚情報(匂い)を感じる感覚神経として機能する。嗅覚は、鼻腔上部の嗅部の粘膜上皮(嗅上皮)の嗅細胞で受容される。嗅細胞の中枢性突起が嗅神経となり、篩骨篩板を通って嗅球に入る。嗅球から後方に向かって嗅索が走り、その線維は大部分外側嗅条を通って海馬旁回の嗅覚野に達する。つまり、①嗅細胞→②嗅神経→③嗅球→④嗅索→⑤嗅覚野(1次感覚野)に達する。
2.× 視神経(Ⅱ)は、視覚情報(視覚)を感じる感覚神経として機能する。視覚の伝導路は、視神経→視交叉→視索→外側膝状体→視放線→後頭葉(視覚野)である。
3.〇 正しい。動眼神経(Ⅲ)は、副交感神経を含む。動眼神経は、外側直筋と上斜筋以外の眼筋を支配する運動神経と、眼球内の瞳孔括約筋や毛様体筋を支配する副交感神経を含んでいる。したがって、縮瞳や近くに目の焦点を合わることにも働く。
4.× 三叉神経(Ⅴ)は、主に咀嚼筋の咀嚼運動と顔面の皮膚感覚を司る。運動神経と感覚神経を含む。咀嚼筋とは、下顎骨の運動(主に咀嚼運動)に関わる筋肉の総称である。咀嚼筋は一般的に、咬筋、側頭筋、外側翼突筋、内側翼突筋の4種類が挙げられる。咀嚼筋は、主にⅤ:三叉神経支配である。
5.〇 正しい。迷走神経(Ⅹ)は、副交感神経を含む。感覚神経・運動神経の一つである。嚥下運動や声帯の運動、耳介後方の感覚などに作用する。内臓(胃、小腸、大腸や心臓、血管など)に多く分布し、体内の環境をコントロールしている。刺激すると徐脈、咳、嘔吐などを生じる。強い痛みや精神的ショックなどが原因で、迷走神経が過剰に反応すると、心拍数や血圧の低下、失神などを引き起こす(迷走神経反射)。

 

 

 

 

83 糖尿病性腎症の食事療法で制限するのはどれか。2つ選べ。

1.脂質
2.塩分
3.蛋白質
4.炭水化物
5.ビタミン

解答2・3

解説

糖尿病性腎症とは?

糖尿病性腎症とは、糖尿病の合併症で、糖尿病によって高血糖状態が持続し、腎臓の内部に張り巡らされている細小血管が障害を受けることで発症する。悪化すると腎不全に移行し、血液透析などが必要となる。糖尿病性腎症の場合、徐々に病気が進行するため、できるだけ早期に発見し、適切な治療をすることが重要である。糖尿病性腎症が原因で透析を受けることになった人が、全透析患者のうち44.1%と最も多い割合を占めている。一般的な糖尿病の食事療法としては、標準体重と身体活動量により摂取エネルギー量を算出し、50~60%が糖質、蛋白質が20%までとし、残りは脂質とする。また、糖尿病腎症の治療には血糖・血圧コントロールが重要であり、腎症 3 期(顕性腎症)では、食塩制限に加えたんぱく質摂取量にも注意が必要である。これは、たんぱく質や塩分がさらに腎臓に対し負担をかけるためである。つまり、①エネルギー量の管理、②食塩量の制限、③タンパク質量の調整が必要となる。

1.4.× 脂質/炭水化物は制限しなくてよい蛋白質制限を行うときはエネルギー不足を補えるようにエネルギー量を管理する必要があるため、炭水化物と脂質で代替する。ただし、1 日 3 食で規則正しい食生活を行う。食べ過ぎは血糖上昇の要因になり、肥満につながることで血糖値が上がりやすい体質(インスリン抵抗性)になるため注意が必要である。
2~3.〇 正しい。塩分/蛋白質は、糖尿病性腎症の食事療法で制限する。なぜなら、たんぱく質や塩分がさらに腎臓に対し負担をかけるため。高血圧を招く食塩は、摂取6g/日未満である。浮腫の強い時は,食塩 3g/日まで減量が必要である。
5.× ビタミンは制限しなくてよい。腎障害の程度(慢性腎不全)によっては、カリウムリンの制限は必要となることがある。慢性腎不全とは、腎臓の濾過機能が数ヶ月〜数年をかけて徐々に低下していく病気である。その結果血液の酸性度が高くなり、貧血が起き、神経が傷つき、骨の組織が劣化し、動脈硬化のリスクが高くなる。その原因として最も多いのは糖尿病で、次に多いのは高血圧である。尿や血液、腹部超音波検査やCTなどの検査で腎臓機能に異常が見られ、その状態が3カ月以上続いている場合に診断される。慢性腎不全(CKD)に対する治療は、①生活習慣の改善、②食事療法が重要である。①生活習慣の改善:禁煙・大量飲酒の回避・定期的な運動・ワクチン接種による感染症の予防・癌スクリーニングなど。②食事療法:十分なエネルギー摂取量を確保しつつ、蛋白質・塩分・リンの制限。

 

 

 

 

 

 

84 アナフィラキシーショックで正しいのはどれか。2つ選べ。

1.徐脈になる。
2.重症例では死に至る。
3.気道粘膜の浮腫を生じる。
4.Ⅲ型アレルギー反応である。
5.副腎皮質ステロイドは禁忌である。

解答2・3

解説

アナフィラキシーショックとは?

ショックとは、体液の喪失、心臓機能の低下、血管系虚脱などにより組織への酸素供給が障害され、放置すれば進行性に全身の臓器還流障害から急速に死に至る重篤な病態である。頻度的に最も多いのは出血性ショックである。

アナフィラキシーショックとは、アレルギー反応で起こるショックのことである。主にⅠ型アレルギー反応の結果、血管拡張や血管透過性の亢進による血漿漏出が生じ、循環血液量の減少をきたすことで起こる。症状として、皮膚(かゆみ、全身の発疹・発赤、口唇や舌の腫れ)、呼吸器(咳、呼吸困難、喘鳴)、消化器(腹痛、吐き気・嘔吐)、循環器(頻脈、血圧低下)、神経(意識障害)などが生じる。

1.× 「徐脈」ではなく、頻脈になる。なぜなら、循環血液量の減少・血圧の低下がみられ、その代償的な作用が起こるため。重症例は、不整脈が起こる。
2.〇 正しい。重症例では死に至る。なぜなら、喉頭浮腫による気道閉塞、全身の循環不全などが起こるため。
3.〇 正しい。気道粘膜の浮腫を生じる。なぜなら、アレルギー反応により血管透過性の亢進が起こるため。
4.× 「Ⅲ型アレルギー反応」ではなく、Ⅰ型アレルギー反応である。Ⅰ型アレルギーとは、肥満細胞や好塩基球からの化学伝達物質の放出によって起こる即時型アレルギーで、アレルゲンに接触した数分後に、皮膚・粘膜症状が出現する。まれにアナフィラキシーショックとなり重篤化(血圧低下、呼吸困難、意識障害を伴う)することがある。
5.× 副腎皮質ステロイドは、「禁忌」ではなく適応である。【ステロイドの機序】ステロイドは細胞の中に入った後にグルココルチコイド受容体に結合する。ステロイドの結合したグルココルチコイド受容体は、細胞の核内へ移行し、炎症に関与する遺伝子の発現を調節すると言われている。 この結果として強力な抗炎症作用と免疫抑制作用が発揮される。一方、アナフィラキシーショックは、初期症状が改善した後に、再度アナフィラキシーの症状が出現することがある(二相性反応)。副腎皮質ステロイドはこの二相性反応に対する効果も期待できる。

細胞性免疫とは?

アレルギー反応の分類法としては、免疫反応による組織傷害の機序から分類したGellとCoombsの分類が使われることが多い。本分類はその反応に関与する抗体や細胞の違いにより分類されるが、現象的には皮膚反応出現にかかる時間と反応の性状により分けられる。Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ型は血清抗体が関与する体液性免疫(humoral immunity)、Ⅳ型は感作リンバ球による細胞性免疫(cellularimmunity)と大別される。

(※引用:「アレルギー総論」厚生労働省HPより)

 

 

 

 

85 前立腺肥大症で正しいのはどれか。2つ選べ。

1.進行すると水腎症となる。
2.外科治療は経尿道的前立腺切除術を行う。
3.直腸診で石の様な硬さの前立腺を触知する。
4.前立腺を縮小させるために男性ホルモン薬を用いる。
5.前立腺特異抗原(prostate specific antigen:PSA)値が100ng/mL以上となる。

解答1・2

解説

前立腺肥大症とは

前立腺肥大症は、前立腺移行領域が肥大する病気である。前立腺部の尿道が圧迫され排尿困難が生じる。発症には、男性ホルモンの作用亢進が関与している。病態改善には、男性ホルモン作用を抑制することが重要である。そのため、治療にはα1阻害薬や、抗アンドロゲン薬も用いられる。

1.〇 正しい。進行すると水腎症となる。水腎症とは、尿の体外への排泄が何らかの病態で妨げられた際に、排泄障害を起こした部位から腎臓までの間に尿が貯留し内圧が上昇、腎孟や尿管の拡張を生じる疾患である。尿の流れが一気に悪くなるため、痛みだけでなく、吐き気や高熱などを伴うことある。
2.〇 正しい。外科治療は、経尿道的前立腺切除術を行う。経尿道的前立腺切除術とは、前立腺肥大症の標準手術療法で、肥大した前立腺移行領域のみを内視鏡で切除する手術である。経尿道的前立腺切除術後に多い合併症は、①尿路感染症、②前立腺切除部位の再出血、③術後浮腫による尿閉である。
3.× 直腸診で石の様な硬さの前立腺を触知する場合は、「前立腺肥大症」ではなく前立腺癌を疑う。前立腺肥大症は、直腸診において直腸面に鶏卵大程度に突出し、弾性があり、表面がなめらかで左右対称に触知できるなどの特徴がある。一方、前立腺癌では硬結を触知し、進行すると全体に石のように硬く左右非対称に変形する。ちなみに、直腸診とは、直腸を診察する方法で、痔核や直腸がん、ポリープ、前立腺肥大などの診断に有効な方法である。診断方法は極めて簡単で、肛門に指を挿入して指診する。
4.× 前立腺を縮小させるために、「男性ホルモン薬」ではなく、抗男性ホルモン薬を用いる。なぜなら、前立腺肥大症の発症には、男性ホルモンの作用亢進が関与している。したがって、病態改善には、男性ホルモン作用を抑制することが重要である。そのため、治療にはα1阻害薬や、抗アンドロゲン薬も用いられる。
5.× 前立腺特異抗原値が、100ng/mL以上となる場合、「前立腺肥大症」ではなく前立腺癌を疑う。前立腺特異抗原とは、前立腺内や精液中に多く存在する糖タンパク質であり、前立腺癌の早期発見に有用な検査である。4ng/mL以下が正常範囲である。4.0~20ng/mL程度の場合、前立腺肥大症と早期前立腺癌の確率はほぼ半々である(グレーゾーン)。しかし、100ng/mL以上の高度上昇では、ほぼ全例が進行した前立腺癌と診断される。

 

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