第109回(R2) 看護師国家試験 解説【午前91~95】

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次の文を読み91〜93の問いに答えよ。
 Aさん(60歳、男性、元建設業)は、妻(57歳)と2人暮らし。2年前に悪性胸膜中皮腫と診断され、化学療法を受けたが効果がみられず、外来通院していた。2週前から、胸痛、息苦しさ、倦怠感が増強したため、症状コントロール目的で入院した。
 バイタルサイン:体温36.0℃、呼吸数24/分、脈拍92/分、血圧126/88mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2 )86〜90%(room air)。
 身体所見:両側下肺野で呼吸音が減弱しており、軽度の副雑音が聴取される。
 血液所見:赤血球370万/μL、Hb 8.8g/dL、白血球6,700/μL、総蛋白5.2g/dL、アルブミン3.8g/dL、CRP 1.5mg/dL。
 動脈血液ガス分析(room air):pH7.31、動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)40Torr、動脈血酸素分圧(PaO2)63Torr。
 胸部エックス線写真:胸膜肥厚と肋骨横隔膜角の鈍化が認められる。肺虚脱なし。

91 Aさんの呼吸困難の原因で考えられるのはどれか。2つ選べ。

1.胸水
2.気胸
3.貧血
4.CO2ナルコーシス
5.呼吸性アルカローシス

解答1・3

解説

本症例のポイント

・Aさん(60歳、男性、元建設業、悪性胸膜中皮腫:2年前)
・2人暮らし:妻(57歳)
・2週前から:胸痛、息苦しさ、倦怠感が増強で入院した。
・バイタルサイン:体温36.0℃、呼吸数24/分、脈拍92/分、血圧126/88mmHg、SpO2:86〜90%。
・身体所見:両側下肺野で呼吸音が減弱、軽度の副雑音が聴取。
・血液所見:赤血球370万/μL、Hb 8.8g/dL、白血球6,700/μL、総蛋白5.2g/dL、アルブミン3.8g/dL、CRP 1.5mg/dL。
・動脈血液ガス分析:pH7.31PaCO2:40TorrPaO2:63Torr
・胸部エックス線写真:胸膜肥厚と肋骨横隔膜角の鈍化肺虚脱なし
→悪性胸膜中皮腫とは、胸膜(胸部にある膜)の中皮細胞(中間層の細胞)ががん化した状態を指す。悪性胸膜中皮腫は、アスベスト(石棉)の長期曝露によって引き起こされることが多いが、他にも遺伝子変異や環境因子、慢性的な感染などが考えられる。症状として、胸水、胸痛、呼吸器系の症状、疲れなどがあり、進行性に重症で、治療は困難であることが多い。早期発見と、アスベスト露出を減らすことが重要である。本症例の場合は、化学療法が無効であったことから、緩和ケアを最優先とする時期である。

1.〇 正しい。胸水がAさんの呼吸困難の原因で考えられる。なぜなら、両側下肺野で呼吸音が減弱胸部エックス線写真で肋骨横隔膜角の鈍化がみられるため。胸水によって引き起こされる症状は、①呼吸困難、②胸部に圧迫感や痛み、③咳嗽、喘鳴、④呼吸音が低下、⑤胸部に膨らみ、⑥疲れや発熱などがみられる。
2.× 気胸は考えにくい。なぜなら、本症例の胸部エックス線写真で、肺虚脱がないため。気胸とは、臓側胸膜または壁側胸膜に開いた穴から胸腔内に空気が流入することにより、肺が虚脱する疾患である。症状は、①突然の発症、②胸部の痛み、③呼吸困難などである。
3.〇 正しい。貧血がAさんの呼吸困難の原因で考えられる。なぜなら、本症例のHb(ヘモグロビン)は8.8g/dLと低値であるため。ちなみに、基準値は、男性14~18g/dL、女性12~16g/dLである。ヘモグロビンが肺から全身への酸素の運搬を担うため、貧血は呼吸困難の原因になる。
4.× CO2ナルコーシスは考えにくい。なぜなら、本症例の動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)は、40Torr(基準値:35~45Torr)であるため。CO2ナルコーシスとは、高CO2血症によって中枢神経系の異常をきたした状態である。CO2ナルコーシスは、主に慢性閉塞性肺疾患に起こりやすい。
5.× 呼吸性アルカローシスは考えにくい。なぜなら、本症例のpH7.31(基準値:7.35~7.45)であるため。また、PaCO2:40Torr(基準値:35~45Torr)、PaO2:63Torr(基準値:80〜100Torr)であるため、呼吸性アシドーシスと考えられる。

気胸とは?

【原発性自然気胸】
原発性自然気胸とは、肺疾患のない人に明らかな原因なく起こる気胸のこと。通常、肺のややもろくなった部分(ブラ)が破裂した際に発生する。特徴として、40歳未満で背が高い男性の喫煙者に最もよくみられる。ほとんどの人が完全に回復するが、最大で50%の人に再発がみられる。

【続発性自然気胸】
続発性自然気胸とは、基礎に肺疾患がある人に発生する気胸のこと。最も多いものは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)のある高齢者である。他にも、嚢胞性線維症、喘息、ランゲルハンス細胞組織球症、サルコイドーシス、肺膿瘍、結核、ニューモシスチス(Pneumocystis)肺炎など、その他の肺疾患の患者でもみられる。特徴として、基礎に肺疾患があるため、原発性自然気胸に比べて症状や治療成績は一般に悪くなる。再発率は、原発性自然気胸と同程度である。

 

 

 

 

 

次の文を読み91〜93の問いに答えよ。
 Aさん(60歳、男性、元建設業)は、妻(57歳)と2人暮らし。2年前に悪性胸膜中皮腫と診断され、化学療法を受けたが効果がみられず、外来通院していた。2週前から、胸痛、息苦しさ、倦怠感が増強したため、症状コントロール目的で入院した。
 バイタルサイン:体温36.0℃、呼吸数24/分、脈拍92/分、血圧126/88mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2 )86〜90%(room air)。
 身体所見:両側下肺野で呼吸音が減弱しており、軽度の副雑音が聴取される。
 血液所見:赤血球370万/μL、Hb 8.8g/dL、白血球6,700/μL、総蛋白5.2g/dL、アルブミン3.8g/dL、CRP 1.5 mg/dL。
 動脈血液ガス分析(room air):pH7.31、動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)40Torr、動脈血酸素分圧(PaO2)63Torr。
 胸部エックス線写真:胸膜肥厚と肋骨横隔膜角の鈍化が認められる。肺虚脱なし。

92 入院後、症状緩和のためモルヒネの内服と経鼻カニューレによる酸素療法2L/分が開始された。経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)は95%前後で維持されるようになったが、Aさんは夜間の息苦しさを訴えている。
 Aさんの呼吸困難を緩和するための体位で適切なのはどれか。

1.半腹臥位
2.右側臥位
3.左側臥位
4.セミファウラー位

解答4

解説

本症例のポイント

・入院後:症状緩和のためモルヒネの内服と経鼻カニューレによる酸素療法2L/分が開始。
・SpO2:95%前後で維持。
・夜間:息苦しさを訴えている。
→本症例の身体所見は、両側下肺野で呼吸音が減弱、軽度の副雑音が聴取されている。

1.× 半腹臥位(腹臥位と側臥位の中間の体位)は、本症例に効果を期待できない。なぜなら、本症例の身体所見は、両側下肺野で呼吸音が減弱、軽度の副雑音が聴取されているため。つまり、両側胸水貯留により肺が圧迫されている可能性が高い。半腹臥位の適応として、排痰ドレナージや膣や直腸の診察や処置などである。
2.× 右側臥位(右半身を下:ベッドにつけた体位)は、本症例に効果を期待できない。なぜなら、本症例の身体所見は、両側下肺野で呼吸音が減弱、軽度の副雑音が聴取されているため。つまり、両側胸水貯留により肺が圧迫されている可能性が高い。右側臥位の適応は、左胸水貯留時に、換気が正常である右肺の血流が増加し、換気血流の不均等が是正されることで酸素化の改善が期待できる。
3.× 左側臥位(左半身を下:ベッドにつけた体位)は、本症例に効果を期待できない。なぜなら、本症例の身体所見は、両側下肺野で呼吸音が減弱、軽度の副雑音が聴取されているため。つまり、両側胸水貯留により肺が圧迫されている可能性が高い。左側臥位の適応は、右胸水貯留時に、換気が正常である左肺の血流が増加し、換気血流の不均等が是正されることで酸素化の改善が期待できる。
4.〇 正しい。セミファウラー位(上半身を20~30度程度上げた半座位)は、Aさんの呼吸困難を緩和するための体位である。本症例は、両側胸水貯留により肺が圧迫されている。セミファウラー位にすることで横隔膜が下がり、肺が拡張しやすくなるため、呼吸困難を緩和できる。ちなみに、セミファーラー位はそもそも腹部を手術した後に腹部内に残っている血液や消化液などを体の外に出すことを促すために提案された。

 

 

 

 

 

次の文を読み91〜93の問いに答えよ。
 Aさん(60歳、男性、元建設業)は、妻(57歳)と2人暮らし。2年前に悪性胸膜中皮腫と診断され、化学療法を受けたが効果がみられず、外来通院していた。2週前から、胸痛、息苦しさ、倦怠感が増強したため、症状コントロール目的で入院した。
 バイタルサイン:体温36.0℃、呼吸数24/分、脈拍92/分、血圧126/88mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2 )86〜90%(room air)。
 身体所見:両側下肺野で呼吸音が減弱しており、軽度の副雑音が聴取される。
 血液所見:赤血球370万/μL、Hb 8.8g/dL、白血球6,700/μL、総蛋白5.2g/dL、アルブミン3.8g/dL、CRP 1.5 mg/dL。
 動脈血液ガス分析(room air):pH7.31、動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)40Torr、動脈血酸素分圧(PaO2)63Torr。
 胸部エックス線写真:胸膜肥厚と肋骨横隔膜角の鈍化が認められる。肺虚脱なし。

93 入院後2週、Aさんの身体状態は急激に悪化し、Aさんは「息が吸えない。苦しい。何とかしてくれ」と訴え、眉間にしわを寄せて口呼吸をしている。軽度の喘鳴がみられ、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)は88〜92%(経鼻カニューレによる酸素療法2L/分)である。また、頻繁に体位を変えて落ち着きがなく、つじつまが合わない訴えと場所の見当識障害もみられる。毎日面会に来ている妻は「どうなってしまったのでしょうか。苦しそうでかわいそう」と涙ぐみ、ベッドから離れたところで座っている。
 Aさんの妻への看護師の説明で適切なのはどれか。

1.「Aさんが場所を間違っても否定しないで下さい」
2.「口腔内吸引をするとAさんの呼吸が楽になります」
3.「タッチングをするとAさんの安心感につながります」
4.「Aさんの症状が落ち着くまで自宅で待機して下さい」

解答3

解説

本症例のポイント

・入院後2週:身体状態は急激悪化。
・Aさん「息が吸えない。苦しい。何とかしてくれ」と。
・眉間にしわを寄せて口呼吸をしている。
・軽度の喘鳴、SpO2:88〜92%(酸素療法2L/分)
・頻繁に体位を変え、落ち着きがなし。
・つじつまが合わない訴えと場所の見当識障害もみられる。
・妻「どうなってしまったのでしょうか。苦しそうでかわいそう」と涙ぐみ、ベッドから離れたところで座っている
→悪性胸膜中皮腫とは、胸膜(胸部にある膜)の中皮細胞(中間層の細胞)ががん化した状態を指す。悪性胸膜中皮腫は、アスベスト(石棉)の長期曝露によって引き起こされることが多いが、他にも遺伝子変異や環境因子、慢性的な感染などが考えられる。症状として、胸水、胸痛、呼吸器系の症状、疲れなどがあり、進行性に重症で、治療は困難であることが多い。早期発見と、アスベスト露出を減らすことが重要である。本症例の場合は、化学療法が無効であったことから、緩和ケアを最優先とする時期である。緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に同定し、適切な評価と治療によって、苦痛の予防と緩和を行うことで、QOL(Quality of Life:生活の質) を改善するアプローチである。

1.× 「Aさんが場所を間違っても否定しないで下さい」とAさんの妻への看護師の説明として伝える優先度は低い。なぜなら、Aさんは緩和ケアを最優先とする時期であるため。緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に同定し、適切な評価と治療によって、苦痛の予防と緩和を行うことで、QOL(Quality of Life:生活の質) を改善するアプローチである。
2.× 「口腔内吸引をするとAさんの呼吸が楽になります」とAさんの妻への看護師の説明として優先度は低い。なぜなら、Aさんは腫瘍胸水により呼吸困難を呈しているため。吸引とは、気道・気管内にカテーテルを挿入し、分泌物を除去することにより、呼吸困難感の軽減や肺胞でのガス交換を維持・改善する目的で行うケアである。
3.〇 正しい。「タッチングをするとAさんの安心感につながります」と説明する。緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に同定し、適切な評価と治療によって、苦痛の予防と緩和を行うことで、QOL(Quality of Life:生活の質) を改善するアプローチである。
4.× 「Aさんの症状が落ち着くまで自宅で待機して下さい」とAさんの妻へ伝える必要はない。なぜなら、Aさんの妻は毎日面会に来ているため。看取りに向けAさんと家族の時間を確保することが優先されると考える。

 

 

 

 

次の文を読み94〜96の問いに答えよ。
 Aさん(56歳、男性、会社員)は、デスクワークが多い仕事をしている。40歳時の会社の健康診断で2型糖尿病と診断され、紹介されたクリニックで血糖降下薬を処方されて内服を継続していた。50歳ころから視力の低下と持続性蛋白尿を指摘され、腎臓内科を受診し食事指導を受けた。しかし、仕事が忙しく食事指導の内容を守れていなかった。1年前から、足のしびれが出現するようになった。

94 Aさんの現在の状況のアセスメントで適切なのはどれか。

1.緑内障が疑われる。
2.運動療法が必要である。
3.糖尿病性神経障害が疑われる。
4.高蛋白質の食事摂取が必要である。

解答3

解説

本症例のポイント

・Aさん(56歳、男性、会社員:デスクワーク)
・40歳時:2型糖尿病(血糖降下薬を内服中)
・50歳から:視力低下持続性蛋白尿、食事指導。
・食事指導の内容を守れていなかった。
・1年前から:足のしびれが出現するようになった。
→本症例は、10年以上の糖尿病歴があり、視力の低下、持続性蛋白尿、足のしびれが出現しており、糖尿病の合併症が疑われる。ちなみに、1型糖尿病の原因として、自己免疫異常によるインスリン分泌細胞の破壊などがあげられる。一方、2型糖尿病の原因は生活習慣の乱れなどによるインスリンの分泌低下である。運動療法の目的を以下に挙げる。①末梢組織のインスリン感受性の改善(ぶどう糖の利用を増加させる)、②筋量増加、体脂肪・血中の中性脂肪の減少(HDLは増加する)、③摂取エネルギーの抑制、消費エネルギーの増加、④運動耐容能の増強などである。

1.× 「緑内障」より糖尿病網膜症の方が疑われる。緑内障とは、眼圧の上昇や視神経の脆弱性などにより視神経が障害され、視野障害をきたす疾患である。ちなみに、糖尿病網膜症とは、網膜の血管障害により生じ、進行すると視力低下をきたす。また、症状は不可逆性であり、進行した糖尿病網膜症は改善されない。わが国における失明原因の上位を占めている。
2.× 運動療法が「必要である」とはいいがたい。なぜなら、糖尿病の運動療法の禁忌に該当する恐れがあるため。Aさんには足のしびれ、視力の低下など認められており、もしそれが活動性の糖尿病網膜症、眼底出血の危険性がある場合も考えられる。
3.〇 正しい。糖尿病性神経障害が疑われる。なぜなら、本症例は足のしびれがあるため。
4.× 高蛋白質の食事摂取が「必要である」のではなく制限される。なぜなら、腎臓への負荷を軽減させるため。

糖尿病の運動療法の禁忌とは?

【運動療法の絶対的禁忌】
眼底出血あるいは出血の可能性の高い増殖網膜症・増殖前網膜症。
・レーザー光凝固後3~6カ月以内の網膜症。
顕性腎症後期以降の腎症(血清クレアチニン:男性2.5mg/dL以上、女性2.0mg/dL以上)。
・心筋梗塞など重篤な心血管系障害がある場合。
高度の糖尿病自律神経障害がある場合
・1型糖尿病でケトーシスがある場合。
代謝コントロールが極端に悪い場合(空腹時血糖値≧250mg/dLまたは尿ケトン体中等度以上陽性)。
・急性感染症を発症している場合。

(※参考:「糖尿病患者さんの運動指導の実際」糖尿病ネットワーク様HPより)

糖尿病性腎症とは?

糖尿病性腎症は糖尿病の合併症である。糖尿病性腎症の場合、徐々に病気が進行するため、できるだけ早期に発見し、適切な治療をすることが重要である。糖尿病性腎症が原因で透析を受けることになった人が、全透析患者のうち44.1%と最も多い割合を占めている。

 

 

 

 

 

次の文を読み94〜96の問いに答えよ。
 Aさん(56歳、男性、会社員)は、デスクワークが多い仕事をしている。40歳時の会社の健康診断で2型糖尿病と診断され、紹介されたクリニックで血糖降下薬を処方されて内服を継続していた。50歳ころから視力の低下と持続性蛋白尿を指摘され、腎臓内科を受診し食事指導を受けた。しかし、仕事が忙しく食事指導の内容を守れていなかった。1年前から、足のしびれが出現するようになった。

95 Aさんは、3か月前に末期腎不全の状態で腎代替療法(血液透析)が必要であると腎臓内科の医師から説明された。シャント造設のための入院を予定していたが、仕事が忙しく延期となっていた。1週前から感冒症状があり、体重増加、全身浮腫、全身倦怠感、呼吸苦が出現したため、緊急入院となった。透析用のカテーテルを挿入し、緊急血液透析を行った。
 入院時の身体所見:体重73kg(1週間で4kg増加)、血圧178/105mmHg。
 入院時の検査所見:Hb 9.5g/dL、血清尿素窒素72mg/dL、血清クレアチニン9.0mg/dL、血清カリウム6.8mEq/L、血清ナトリウム138.5mEq/L。
 緊急入院時のAさんの胸部エックス線写真を下図に示す。
 Aさんが緊急血液透析となった病態で正しいのはどれか。

1.貧血
2.心不全
3.低カリウム血症
4.低ナトリウム血症

解答2

解説

本症例のポイント

・3か月前:末期腎不全、腎代替療法(血液透析)を説明された。
・シャント造設のための入院を予定。
・1週前から:感冒症状、体重増加、全身浮腫、全身倦怠感、呼吸苦が出現。
・透析用のカテーテルを挿入、緊急血液透析を行った。
・身体所見:体重73kg(1週間で4kg増加)、血圧178/105mmHg。
・検査所見:Hb 9.5g/dL、血清尿素窒素72mg/dL、血清クレアチニン9.0mg/dL、血清カリウム6.8mEq/L、血清ナトリウム138.5mEq/L。
・緊急入院時の胸部エックス線写真:心臓が大きく心不全の徴候(心胸郭比が著明に拡大)。
→緊急血液透析とは、急性期に発症した腎不全に対して、速やかな血液浄化を行うために行われる透析のことである。急性腎不全の患者に対して、腎臓の機能を代替するために使用される。例えば、腎性高酸血症、腎性高塩血症、腎性アシドーシスなどである。緊急血液透析は、通常、重症患者の治療に使用され、入院治療が必要である。透析には、人工透析膜を使用して、血液中の毒素や代謝産物を取り除くことで、腎臓の機能を代替することができる。

1.× 貧血が緊急血液透析となった病態とは言い切れない。なぜなら、主に、腎機能障害による貧血に対する治療は、エリスロポエチン製剤を投与であるため。ただし、本症例のHb(ヘモグロビン)は9.5g/dLと低値(基準値:男性14~18g/dL、女性12~16g/dL)であるため、治療が必要と考えられる。
2.〇 正しい。心不全が、緊急血液透析となった病態である。なぜなら、本症例の胸部エックス線写真において心胸郭比が著明に拡大しており、呼吸苦などの症状から心不全が予想されるため。腎機能低下によって水分排泄能力が低下し、体内に水分が貯留した結果、循環血築量が増大し心臓に負担をかけ、うっ血性心不全が生じていると考えられる。したがって、透析療法によって水・尿毒素を除去することで心不全(容量依存性高血圧や肺水腫)が改善できる。
3.× そもそも本症例は低カリウム血症と判断できない。本症例の血清カリウム6.8mEq/L(基準値:3.5〜5.0mEq/L)であり、腎機能低下により高カリウム血症が生じている。ちなみに、症状として、悪心、嘔吐などの胃腸症状、しびれ感、知覚過敏、脱力感などの筋肉・神経症状、不整脈などが現れる。
4.× そもそも本症例は低ナトリウム血症と判断できない。血清ナトリウム138.5mEq/L。(基準値: 135~148mEq/L)であり、血清ナトリウム濃度は基準値内である。

 

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