第110回(R3) 看護師国家試験 解説【午前71~75】

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71 大規模災害発生後2か月が経過し、応急仮設住宅で生活を始めた被災地の住民に出現する可能性が高い健康問題はどれか。

1.慢性疾患の悪化
2.消化器感染症の発症
3.深部静脈血栓症の発症
4.急性ストレス障害の発症

解答1

解説

1.〇 正しい。慢性疾患の悪化は、今回の可能性が高い健康問題である。現在、大規模災害発生後2か月が経過していることから「災害復旧・復興期」に該当する。この時期は、①慢性疾患の増悪、②疲労による体調不良、③仮設住宅等への転居、④新しい環境での孤立に注意が必要となる。避難所から応急仮設住宅に生活の場が移行する慢性期では、独居・高齢化・高い有病率・心的苦痛・体調不良などが要因となり、慢性疾患が悪化する可能性が高い。活動内容としては、①巡回健康相談、②廃用症候群・閉じこもり・孤立死の予防・対策、③心的外傷後ストレス障害(PTSD)への対応、④新たなコミュニティづくりの支援、⑤職員の健康管理、⑥通常業務の再開を行う。
2.5.× 消化器感染症の発症/急性ストレス障害(ASD)は可能性が低い。なぜなら、災害から亜急性期(発災10日~2週間まで)に問題となりやすいため。衛生環境の悪化などにより、避難所などの集団生活の場でまん延しやすい。急性ストレス障害とは、交通事故・自然災害といった極めて強烈なストレスを原因として、その後、急性・一過性に解離症状(感情・感覚麻痺、健忘など)、PTSDと同様の再体験症状、回避症状などが出現し、著しい苦痛や社会的障害を生じている状態をいう。心的外傷後すぐに症状が出現し、持続期間は3日間~4週間である。
3.× 深部静脈血栓症の発症は可能性が低い。なぜなら、災害から亜急性期(発災10日~2週間まで)に問題となりやすいため。深部静脈血栓症は、ライフラインの途絶による脱水や車中泊による静脈うっ滞、余震の恐怖による交感神経刺激亢進に伴う血液凝固能亢進などにより生じる。深部静脈血栓症は、①長時間の座位など下肢屈曲姿勢、②運動不足、③水分摂取不足などの状況にある避難者でリスクが高い。

災害サイクルと保健活動

【超急性期:~24時間と急性期:~2,3日】
①災害状況:野外への避難、通信・交通・ライフラインの途絶、避難所生活開始。
②保健活動:救急対応(救護所の開設、必要な医療物品の準備)、地域の被害状況、ライフライン、衛生状態の把握、住民の安否確認と身元確認、避難行動要支援者の安否確認と移動、健康危機管理、避難所準備と周知、救護所や避難所の巡回健康相談と衛生管理および環境整備、職員の健康管理(急性期)。

【亜急性期:~2,3週間】
①災害状況:避難所生活の継続、水や食料の不足、衛生環境の悪化
②保健活動:巡回健康相談、食中毒や感染症等の二次的な健康障害の予防活動、生活用品の確保、エコノミークラス症候群(深部静脈血栓症・肺塞栓症)の合併症対策こころのケア対策の実施、派遣保健師配置やボランティアの活用、職員の健康管理、通常業務の調整。

 

 

 

 

 

 

72 国際連合〈UN〉で採択された2016年から2030年までの開発に関する世界的な取り組みはどれか。

1.持続可能な開発目標〈Sustainable Development Goals:SDGs〉
2.ミレニアム開発目標〈Millennium Development Goals:MDGs〉
3.プライマリヘルスケア
4.政府開発援助〈ODA〉

解答1

解説

1.〇 正しい。持続可能な開発目標〈Sustainable Development Goals:SDGs〉とは、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標である。17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っている。SDGsは発展途上国のみならず、先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり、日本としても積極的に取り組んでいる(参考:「SDGsとは?」外務省HPより)。
2.× ミレニアム開発目標〈Millennium Development Goals:MDGs〉とは、2000年に国連ミレニアム宣言をもとに、2015年を達成期限とした8つの目標を掲げた開発分野における国際社会共通の目標である。地球規模のさまざまな課題を解決するため策定された、世界共通の開発目標である。
3.× プライマリヘルスケアとは、アルマ・アタ宣言(1978年)で提唱されたものである。すべての人に健康を基本的な人権として認め、その達成の過程において住民の主体的な参加や自己決定権を保障する理念である。すべての人にとって健康を基本的な人権として認め、その達成の過程において住民の主体的な参加や自己決定権を保障する理念である。
4.× 政府開発援助とは、開発途上地域の開発を目的とする政府及び政府関係機関による国際協力活動のための公的資金のことである。主に開発途上国の経済発展や福祉の向上のために、先進工業国を中心とした政府や政府機関が他国に対して行う援助や出資のことである。

プライマリヘルスケアとは?

プライマリヘルスケアは、アルマ・アタ宣言(1978年)で提唱されたものである。地域住民が一次的に利用する保健医療サービスを指す。

提唱元:アルマ・アタ宣言(WHOとUNICEF)

概念:「すべての人々に健康を」を目標に、病気の治療よりも予防対策や健康管理に重点を置いた保健活動

【4つの原則】
①住民のニーズに基づくこと
②地域資源の有効活用
③住民参加
④農業・教育・通信・建設・水利等、多分野間の協調と統合

【8つの活動項目】
①健康教育(ヘルスプロモーション)
②食料の供給と栄養の改善
③安全な飲料水の供給と基本的な環境衛生
④母子保健サービス(家族計画を含む)
⑤主要な感染症の対策(予防接種)
⑥風土病の対策
⑦簡単な病気やけがの治療(プライマリケア)
⑧必須医薬品の供給

(※参考:「プライマリ・ヘルス・ケア」特定非営利活動法人シェア様HPより)

 

 

 

 

73 Aさん(52歳、男性)は、49歳から高血圧症で内服治療と食事や運動に関する生活指導を受けている。2か月間の予定で開発途上国に出張することになり、予防接種を受ける目的で渡航外来を受診した。Aさんから「渡航にあたって何か注意することはありますか」と質間があった。
 Aさんへの看護師の説明で適切なのはどれか。

1.「出張中は、減塩の必要はありません」
2.「出張先では有酸素運動は控えましょう」
3.「現地に到着してから健康診断を受診しましょう」
4.「持参する高血圧症の薬について、かかりつけ医に相談しましょう」

解答4

解説

本症例のポイント

・Aさん(52歳、男性)
・49歳から高血圧症で生活指導を受けている。
・予定:2か月間の開発途上国に出張
・予防接種を受ける目的で渡航外来を受診した。
・Aさんから「渡航にあたって何か注意することはありますか」と質間があった。
→Aさんは①生活指導を受けている、②2か月間の渡航する予定であることから、注意点を指導する必要がある。治療や薬剤のことについて、医師しかできないことがあるためチームアプローチで情報共有することが大切である。

1.× 出張中も減塩の必要がある。なぜなら、減塩は血圧を下げる効果が期待されるため。高血圧症の食事療法では、1日6g未満を目標とした減塩が基本となる。
2.× 出張先でも有酸素運動は続ける。なぜなら、有酸素運動は血圧を下げる効果が期待されるため。出張先でも無理のない範囲で有酸素運動を勧める。運動は定期的に行うことが目標となるため、出張中であっても継続するように促す。定期的に(できれば毎日30分以上)運動を行う。 または1回につき少なくとも10分以上持続し、合計して1日40分以上運動を実施することが推奨されている。
3.× 現地に到着してから健康診断を受診する必要はない。なぜなら、すでにAさんは高血圧症と診断され内服治療や生活指導を受けているため。健康診断とは、診察および各種の検査で健康状態を評価することで健康の維持や疾患の予防・早期発見に役立てるものである。健診、健康診査とも呼ばれる。スクリーニングのひとつ。
4.〇 正しい。「持参する高血圧症の薬について、かかりつけ医に相談しましょう」と説明する。なぜなら、2か月の長期滞在の出張先でも内服が継続できるようにするため。薬の中断や休薬は、病状を悪化させる。渡航先では同じ種類の薬剤が手に入らない可能性があるため、渡航前にかかりつけ医に相談し、持参する薬の種類や量について明記されている処方箋をもらったり予備を含めて処方を受けておく必要がある。

 

 

 

 

 

 

74 血液中のビリルビンの由来はどれか。

1.核酸
2.メラニン
3.アルブミン
4.グリコゲン
5.ヘモグロビン

解答5

解説

直接ビリルビン

正常人の血中ビリルビンの大部分は、網内系で老化赤血球の破壊によって遊離するヘモグロビンに由来する。ただし、10~20%はヘモグロビン以外のヘム蛋白、遊離ヘムから肝などで生成する分画と骨髄の無効造血などに由来する分画がある。これらのヘモグロビン由来以外のものをシャントビリルビンという。(※参考:「直接ビリルビン」岡山大学様HPより)

1.× 核酸とは、RNA(リボ核酸)とDNA(デオキシリボ核酸)の総称で、ヌクレオチド(塩基+糖+リン酸)により構成されている。ヌクレオチドがもつ塩基のうち、アデニンとグアニンはプリン塩基である。したがって、それらを含むヌクレオチドや核酸は、プリン体のひとつであり、プリン体は分解されると尿酸となる。
2.× メラニンは、肌や毛髪・瞳の色を構成する黒色の色素のことで紫外線から皮膚の細胞を守る働きがある。皮膚の基底層や毛髪の毛母細胞にあるメラノサイトで生成される。
3.× アルブミンは、肝臓で作られるたんぱく質で肝臓や栄養状態の指標となる。血清総蛋白の60%程度を占め肝臓で生成される。
4.× グリコゲンは、多糖類の一種で、エネルギーを貯蔵し人間の活動に欠かせないものである。普段は、肝臓や骨格筋等に蓄えられており、急激な運動を行う際のエネルギー源として、あるいは空腹時の血糖維持に利用される。
5.〇 正しい。ヘモグロビンは、血液中のビリルビンの由来である。つまり、ビリルビンはヘモグロビンの分解物である。血液中の成分の赤血球は古くなると分解され、このとき、赤血球の中にあるヘモグロビンも分解される。ビリルビンは、ヘモグロビンの構成物質であるヘムが代謝されて生じる。ちなみに、ヘモグロビンとは酸素分子と結合する性質を持ち、肺から全身へと酸素を運搬する役割を担っている。

 

 

 

 

75 抗原によって感作されたTリンパ球による細胞性免疫が主体となるのはどれか。

1.花粉症
2.蕁麻疹
3.ツベルクリン反応
4.アナフィラキシーショック
5.インフルエンザの予防接種

解答3

解説

細胞性免疫とは?

アレルギー反応の分類法としては、免疫反応による組織傷害の機序から分類したGellとCoombsの分類が使われることが多い。本分類はその反応に関与する抗体や細胞の違いにより分類されるが、現象的には皮膚反応出現にかかる時間と反応の性状により分けられる。Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ型は血清抗体が関与する体液性免疫(humoral immunity)、Ⅳ型は感作リンバ球による細胞性免疫(cellularimmunity)と大別される。

(※引用:「アレルギー総論」厚生労働省HPより)

1.× 花粉症は、Ⅰ型アレルギー疾患である。花粉症とは、植物の花粉が原因(アレルゲン)となって、くしゃみ・鼻水などのアレルギー症状を起こす病気である。花粉症は、スギやヒノキなど植物の花粉がアレルゲンとなり生じる。Ⅰ型アレルギーではマスト細胞や好塩基球のIgEによる液性免疫が重要な役割を果たす。
2.× 蕁麻疹は、Ⅰ型アレルギー疾患の反応によって生じる液性免疫が関与する。皮膚の一部が突然赤みや痒みを伴いながら盛り上がり、短時間で跡を残さず消えてしまう原因が特定しにくい皮膚の病気である。数十分で消退する紅斑・膨疹を特徴とする。
3.〇 正しい。ツベルクリン反応は、細胞性免疫が主体となる反応である。ツベルクリン反応は、Ⅳ型アレルギーの反応を利用した検査である。細胞性免疫を司るTリンパ球と抗原物質であるツベルクリンとの特異的結合によって発赤などが起こる反応である。結核菌から精製した抗原を皮内投与し、接種部位に出現する発赤・硬結の直径を48時間後に測定して、感染を診断する検査である。結核に罹患している患者では、結核菌の成分(抗原)で感作されたT細胞(Tリンパ球)がすでに体内に存在しているため、投与した抗原に反応してサイトカイン放出と細胞性免疫により、発赤・硬結が出現する。
4.× アナフィラキシーショックは、Ⅰ型アレルギーが関与している。アレルゲンなどの侵入により複数の臓器に全身性にアレルギー症状が引き起こされ、血圧低下や意識障害、呼吸困難などの生命に危機を与える過敏反応である。これにより血管透過性の亢進などが生じ、血圧低下や意識障害を伴う場合をアナフィラキシーショックという。
5.× 予防接種は、病気に対する免疫をつけるために抗原物質を投与することで得られる獲得免疫である。例として、インフルエンザの予防接種は、抗原の接種後、T細胞を介したB細胞からの抗体産生による液性免疫を利用している。

 

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